自動運転機能の開発が進む。車両が「いつでも」「どこでも」自動運転が可能になる自動運転レベル5の実用化はまだ先だが、特定エリアや特定条件下での自動運転機能は、すでに市場化がされている。
この記事では、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転機能の市場化状況を国別にまとめて解説する。ちなみに自動運転レベル2はADASを搭載した手動運転車に相当し、レベル3以上は自動運転車と分類されるのが一般的だ。
【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?定義や実用化状況は?」も参照。
<記事の更新情報>
・2024年8月18日:各国の動向を更新
・2022年5月2日:記事初稿を公開
記事の目次
■日本
まず日本の状況から解説していく。
自動運転レベル2
国内主要自動車メーカーは、いずれもレベル2を市場化済みだ。日産は長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の中で、プロパイロットを2026年度までに250万台以上販売することを目標に掲げ、2030年度までに運転支援技術をさらに進化させ、ほぼすべての新型車に高性能な次世代LiDAR技術を搭載することを目指すとしている。
一方、ホンダは全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360」を2030年までに先進国で全機種展開を図るとしている。
レベル2は、一般的に縦制御をアシストするアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)と横制御をアシストするレーンキープアシスト(LKAS)などの両方を備えていることを条件とする。各機能の性能にばらつきはあるものの、各社のADASパッケージの多くで標準搭載化が進んでおり、2020年代に大きく普及していく見込みだ。
自動運転レベル2(ハンズオフ)
ACCとLKASが高機能化し、比較的高精度かつ安定的に縦制御と横制御の両方を同時実行することが可能なシステムは、ハンズオフ運転を実現する。周囲の監視義務は従来と変わらないが、ハンドルから手を離してリラックスした状態で運転することができる。
ハンズオフを実現するレベル2は、高度レベル2やレベル2+、レベル2.5などと呼ばれ、従来のレベル2と区別して扱われることが多い。レベル2における完成形の1つと言えそうだ。
ハンズオフ機能は、国産車では日産の「ProPILOT2.0(プロパイロット 2.0)」に初実装され、2019年に販売開始した新型スカイラインに搭載された。プロパイロット 2.0はその後、アリアにも搭載されている。
スバルは「アイサイトX」に渋滞時ハンズオフアシスト機能を備え、2020年11月発売の新型レヴォーグに実装した。その後、WRX S4やレガシィアウトバックにも搭載車種を拡大している。
ホンダは、2021年3月発売の新型レジェンドに搭載した「Honda SENSING Elite(ホンダセンシング・エリート)」にハンズオフ機能付車線内運転支援機能を設定している。
トヨタは2021年4月、新型MIRAIとレクサスの新型「LS」に最新の高度運転支援技術「Toyota Teammate/Lexus Teammate」の新機能としてハンズオフが可能な「Advanced Drive」搭載車を設定した。
その後、2022年1月発売の新型ノア・ヴォクシーに「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」を設定するなど、ハンズオフ機能搭載車種を積極拡大し始めた印象だ。
【参考】ハンズオフ機能搭載車種については「「手放し運転」が可能な車種一覧(2022年最新版) ハンズオフ機能とは?」も参照。
自動運転レベル3
一定条件下で自動運転を可能にするレベル3は、ハンズオフに加えアイズオフ運転を実現する。システムからの運転交代要請(テイクオーバーリクエスト)に即座に応じる必要があるものの、システム稼働中に限りドライバーは運転操作から解放される。
国内では、ホンダがレベル3システムの型式指定を2020年11月に国土交通省から取得し、翌2021年3月に渋滞時に自動運転を可能にする「トラフィックジャムパイロット」を搭載した新型レジェンドを100台限定のリース形式で発売した。量産車としては世界初のレベル3実装車だ。
今のところ、ホンダに続く動きは国内メーカーから出ていない。ただ、ハンズオフ搭載車においてOTA(Over the Air)によるソフトウェアアップデートや高性能センサーの採用、高精度3次元地図の活用などレベル3に通じるシステムが構成されており、機が熟し次第レベル3実装に動くメーカーも出てきそうだ。
【参考】ホンダの新型レジェンドについては「ホンダの自動運転戦略 レベル3市販車「新型レジェンド」発売」も参照。
自動運転レベル4
オーナーカーにおけるレベル4は、今のところ国内メーカーからは具体的な話は出ていない。一方、自動運転バスに関してはすでに実用化が可能なレベルの車両が開発されており、例えばティアフォーのminibusが挙げられる。各自治体での実用化に向け、実証実験が行われ始めている。
■米国
続いて自動運転先進国とも呼ばれるアメリカの状況だ。
自動運転レベル2
GMやフォード、テスラなど、主だった自動車メーカーはレベル2を市場化済みだ。
自動運転レベル2(ハンズオフ)
GMは2017年、キャデラック「CT6セダン」にハンズオフを可能にする「Super Cruise(スーパークルーズ)」を導入した。発売時期から鑑みて、同車が世界初のハンズオフ搭載車両になるものと思われる。
ハンズオフ機能は、2021年7月時点で北米20万マイル(約32万キロ)の自動車専用道路において使用可能で、2022年に対象車種をシボレーやGMCなどに拡大し、2023年までに22車種へ導入する計画のようだ。
対するフォードは、2020年10月に「Co-Pilot 360」の一部としてハンズオフ機能「Active Drive Assist」を2021年第3四半期にピックアップトラック「2021F-150」とEVマスタング「Mach-E」へOTAアップデートによって搭載開始すると発表している。対象は北米の道路10万マイル(約16万キロ)としている。
米国勢ではこのほか、新興EVメーカーRivianがハンズオフ機能を備えた「Rivian Driver+」を全車標準搭載しているようだ。
自動運転レベル3
レベル3については、米国の自動車メーカーで展開できている企業はない。テスラはソフトウェアアップデートによって将来的に自動運転を実現する「Full Self-Driving(FSD)」の開発を進めているが、現状は自動運転レベル2の水準となる。
一方、ドイツ勢のメルセデスが自動運転レベル3の有料オプションを搭載可能な車両をアメリカ国内ですでに展開している。
【参考】関連記事としては「「米国初」の自動運転レベル3、メルセデス濃厚」も参照。
自動運転レベル4
GMのメアリー・バーラCEOは2021年5月の決算説明会の席で、傘下Cruiseの技術を活用し、10年以内にオーナーカー向けの自動運転車の販売を実現する意向を示している。ただ、まだオーナーカーの自動運転レベル4はアメリカでも展開されていない。
一方、自動運転レベル4の機能を搭載した自動運転タクシーはGoogle系Waymoなどによってすでに商用展開されている。Cruiseの自動運転タクシーはトラブルが多いが、Waymoと同様、レベル4の技術を搭載したことで脚光を浴びた。
【参考】関連記事としては「アメリカの自動運転最新事情」も参照。
■欧州圏
続いて欧州圏の状況を解説していこう。
自動運転レベル2
欧州自動車メーカーも軒並みレベル2は市場化済みだ。
自動運転レベル2(ハンズオフ)
ハンズオフ機能はBMWが特に力を入れており、3シリーズをはじめ4シリーズ、5シリーズ、7シリーズ、8シリーズ、X5、X5、X6、X6、X7など、対象車種は世界随一となっている。
フォルクスワーゲングループでは、ソフトウェア開発を手掛ける子会社Cariadが、都市部や郊外、高速道路走行に向けたハンズオフ機能の搭載を2023年にも開始する計画を発表している。
自動運転レベル3
メルセデス・ベンツはレベル3システム「DRIVE PILOT」の国際認証を取得済みで、ドイツやアメリカで有料オプションとして展開をスタートした。オーナーカーにレベル3を搭載した企業は、ホンダに続いてメルセデスが2社目だ。
それに続いたのがBMW。BMWは2023年11月、自動運転レベル3機能を搭載した車種を2024年3月からリリースすることを発表。世界で3社目のレベル3展開メーカーの座を確保した。
自動運転レベル4
オーナーカーのレベル4は欧州でもまだ実現されていない。
【参考】関連記事としては「自動運転、欧州(ヨーロッパ)法律動向」も参照。
■中国
中国は国が強力に自動運転技術の実用化を後押ししている。
自動運転レベル2
中国でも、主だった自動車メーカーはレベル3を市場化済みだ。
自動運転レベル2(ハンズオフ)
ハンズオフ機能を明確に表示している中国自動車メーカーも今のところ見当たらない状況だ。ただ、新興EV勢のNIOやXpengなどはレベル3をにおわせる開発を進めており、ハンズオフを飛び越え次の段階を目指している可能性がありそうだ。
自動運転レベル3
中国では過去、吉利汽車がレベル3の量産モデルを2021年に中国内で発売すると発表しているほか、長安汽車も早ければ2020年内にレベル3の量産体制を進めることが複数のメディアに報じられるなど、比較的早くレベル3量産化計画を明かしていたが、今のところ実現していないのが実情だ。
中国政府によるゴーサインを待っている可能性も考えられる。同政府は「中国製造2025」や「自動運転技術に関するロードマップ」、「自動車産業の中長期発展計画」、「知能自動車創新発展戦略」など各種戦略で自動運転実用化を促進しており、2025年までにレベル2、レベル3の新車搭載率を50%まで引き上げる目標を掲げているようだ。
自動運転レベル4
オーナーカーにおけるレベル4は、イスラエルのモービルアイと手を組む浙江吉利控股集団(Geely)が、プレミアムEVブランド「Zeekr(ジークロ)」にレベル4を搭載し、2024年にも中国で発売する計画を明かしている。
高速道路限定などODD(運行設計領域)は明かされていないが、モービルアイの自動運転システム「Mobileye Drive」を統合することでレベル4を実現する方針で、計画通り進めば、世界初の自家用レベル4となる見込みだ。
【参考】Geelyとモービルアイの取り組みについては「自動運転で未知の領域!「市販車×レベル4」にMobileyeが乗り出す」も参照。
なお、中国自動車技術者協会と中国自動車製造業者協会らが自動車産業イノベーションに向け結成した団体は、2025年にレベル4の実装を開始し、2030年に新車搭載率30%を目指すとしている。
【参考】関連記事としては「レベル4自動運転車、「量産」は中国の独壇場か 百度も大量製造へ」も参照。
■【まとめ】オーナーカーはレベル3、バスはレベル4が主戦場
まとめると、レベル3はホンダに追随する動きがすでに始まり、限定的ながら競争がスタートした。レベル4はバスへの搭載が主戦場となっている。各社・各国の今後の動向に引き続き注目したい。
(初稿公開日:2022年5月2日/最終更新日:2024年8月18日)
【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?定義・呼称・基準は?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)