完全自動運転を実現するためには、企業の垣根を越え共有すべきデータが存在する。公的に整備し提供されるデータをはじめ、各社が協調してデータベース化に取り組むべきものもある。
各種センサーが常時データを収集し、サーバーや交通インフラ、周囲の車両とデータをやり取りしながら走行する自動運転車は、いわば「データの固まり」となり、事前に整備されたデータと生成し続けるデータを突合させながら精密な走行を実現するのだ。
さまざまな情報・データが行き交う自動運転において、共有すべきデータにはどのようなものがあるのか。その中身に触れてみよう。
記事の目次
■企業の垣根をこえて共有されるべきデータ
道路の3次元データ
自動運転における自車位置の特定や、起伏などを含む細かな道路情報、マップに紐づけられた各種交通情報によって予測に基づいた安全走行を可能にする高精度3次元地図やダイナミックマップは、共有されるべきデータの代表格と言える。
高精度3次元地図は、路面情報や車線情報、3次元構造物など静的情報で構成されており、準天頂衛星を活用したセンチメートルレベルの高精度測位情報と協調することで高度な位置特定を可能にする。自動運転のほか、防災や社会インフラの維持管理など多方面での活用が見込まれているデジタルインフラだ。
高精度3次元地図は「協調領域」としてダイナミックマップ基盤株式会社が中心となって整備を進めており、全国の高速道路・自動車専用道路2万9205キロのイニシャル整備を2019年3月に完了し、すでに提供を開始している。
この高精度3次元地図をベースに、交通規制予定情報や道路工事予定情報、広域気象予報情報などの準静的情報、事故や渋滞情報、道路工事情報などの準動的情報、周辺車両や歩行者、信号情報といった動的情報をレイヤーしたものがダイナミックマップだ。刻々と変化する道路交通上のあらゆる情報を網羅したデータの集合体となる。
【参考】ダイナミックマップについては「【最新版】ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?」も参照。
準静的情報、準動的情報、動的情報は「競争領域」に位置付けられるが、各自動運転開発・運用企業が必要とするデータであり、共有されることが望ましい。これらのデータの主たる提供者は警察庁や国土交通省、気象庁など公的機関となるため、データの共有化がスムーズに行われる領域だ。
なお、一般道における高精度3次元地図は、人口密集地域など地域性なども考慮した上で整備を開始する方針で、省庁や自治体、民間企業のデータを利活用することで整備費用を抑制すし、ユーザーの負担額の低減を図っていく。当初予定では2020年4月に事業化に着手し、作成したサンプルデータを各自治体の実証実験に提供し、MaaSサービス実現に向けた協業なども図っていくとしている。
交通事故の過去の発生データ・最新の発生データ
交通事故によって発生中の通行止め情報などリアルタイムな交通情報は準動的情報としてダイナミックマップに含まれ、基本的に共有されることになるが、交通事故が頻発する地点など、過去のデータをもとにした事故情報も有用だ。
交通事故頻発地点の情報はカーナビなどにも導入されているが、見通しが悪いために発生する出合い頭の事故をはじめ、右折時の事故、わき見運転、スピードの出し過ぎなど、事故形態も含めたデータを共有することで、手動運転におけるドライバーは事故形態に応じて特段の注意を払うことができるが、自動運転においても同様で、こうした情報をもとにAIが危険個所を把握し、ドライバーと同様に注意を払うことが可能になる。
道路工事や道路空間を使ったイベント開催などのデータ
道路工事や道路空間を使用したイベントによる交通規制情報は、準静的情報としてダイナミックマップに含まれており、共有が望まれるデータとなる。
合わせて、通行規制による周辺の渋滞予測情報も共有できるとなお有用だ。現在発生中の渋滞情報は準動的情報となるが、道路環境によっては、事前に周辺道路の混雑具合も推定可能だ。特にイベントによる交通規制時は、通行止めとなる個所以外に渋滞する周辺道路も出てきやすい。
警察による交通規制情報以外に、こうした個別の情報も事前に共有することで、より円滑な走行を実現することができる。
路車間通信(V2I)データ
車両と交通インフラ間でやり取りされる路車間通信(V2I)による情報も、必然的に共有されるデータとなる。現行のVICSを発展したイメージで、交差点における信号情報をはじめ周辺車両や自転車、歩行者の動態などのデータを逐次自動車とやり取りする。
基本的にダイナミックマップに含まれるデータとなりそうだが、マップに紐づけられない情報などさまざまなデータの派生も想定される。
【参考】関連記事としては「自動運転とデータ通信…V2IやV2V、5Gなどの基礎解説」も参照。
自動運転システムの誤検知データ
自動運転車特有の情報としては、誤検知や誤作動情報などの共有が重要性を増しそうだ。道路上の特定個所において、例えば白線を読み込めないケースや、街路樹がセンサーの邪魔をするケース、西日がきつい場所と時間帯、誤検知しやすい道路脇の構造物など、センサーが正確に作動しなかった場所や時間、内容に関するデータを共有することで、危険個所を共有するとともに自動運転システムの改善すべきポイントが浮き彫りになる。
各社の自動運転システムの改善・向上につなげるためにも、こうしたインシデントに関するデータも共有されてしかるべきだろう。
サイバーセキュリティ情報
パソコンにおけるコンピュータウイルス情報と同様、自動運転車におけるウイルス情報やセキュリティホール(脆弱性)などの情報も当然共有すべき情報となる。
安全確保に向け最低限満たすべき水準は国際的に標準化されることになるが、万が一自動運転車が乗っ取られた場合、人命に直結する事案も想定されるため、最高水準のセキュリティを各社が確保する必要がある。
最新のウイルス情報や新たに判明したセキュリティホールの情報などを各社が共有し、しっかりと対策していく必要があるだろう。
プローブ情報をはじめとした車両が収集するデータ
走行する車両から得られる位置情報や交通情報などのプローブ情報も、ビッグデータ化し共有することでよりスマートな道路交通環境の構築に役立てることができる。こうした取り組みは、VICSを担う道路交通情報通信システムセンターなどがすでに取り組んでおり、渋滞の解消やルート最適化などへの効果に期待が持たれるところだ。
より多くの情報を収集することができる自動運転車においては、こうした車両が収集するデータは非常に有益で、おいそれと第三者に手渡してはならないデータも当然含まれる。
代表的な例として、車載カメラやLiDARなどで収集した膨大な量に及ぶ画像データが挙げられる。開発各社が競うようにデータを収集し、道路情報の構築やAIの精度向上を図っているのだ。
こうしたデータは各社の武器となり得るものだが、近年では共有を図る動きも出ている。米グーグル系ウェイモは2019年8月、同社が公道走行で取得したデータセットを研究者向けに無料開放すると発表した。
【参考】ウェイモの取り組みについては「グーグル系ウェイモ、自動運転走行のデータセットを開放」も参照。
無料開放することによってプラットフォーマーとしての地位を確立し、将来的な覇権を念頭に置いている可能性もありそうだが、こうした取り組みが世界全体の自動運転開発の進展に寄与することは間違いない。
世界全体の道路交通を網羅し、かつ自動運転の精度を上げるためには無数とも言えるデータを生成し続ける必要がある。こうしたデータの共有が、将来的にスタンダードなものになる可能性は十分考えられるだろう。
■【まとめ】データ共有化の課題は仕組みづくりにあり
ダイナミックマップに象徴されるように、明確に共有すべきデータの整備・提供方法は確立されているが、自動運転の実現に向け共有すべきデータは多方面に及び、各社が単独で収集や整備を行っている領域もまだまだ多い。
データそのものに大きな価値があるため無償提供には抵抗があるかもしれないが、業界全体の最適化を考慮すれば共有化に向けた仕組みづくりを構築すべきなのは言うまでもないことだ。
ダイナミックマップのように有償形式でも共有化を図ることは可能なため、課題は仕組みづくりにありそうだ。国や業界団体らが音頭を取る形で標準化を進め、協力体制を構築することで、自動運転開発の速度を格段に引き上げることが可能になる。
競争領域のデータを協調領域に置き換え、業界全体の底上げをどのように図っていくか。こうした観点に重きを置いた取り組みが今後のスタンダードとなりそうだ。
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