「自動運転×アメリカ」の最新動向を解説 メーカーやIT系の開発進捗は?

ウェイモの自動運転タクシーを商用化済み



自動車大国・米国。自動車製造業としてのかつての勢いは失ったかのように思われたが、自動運転の分野で再び輝きを取り戻しつつある。その背景には、自動車メーカーのみならずIT・テクノロジー系の巨大企業や無数に誕生するスタートアップの存在があり、米国にはそれぞれの企業活動が円滑に進む環境が整っているようだ。

自動運転における米国の優位性の源を探るべく、連邦政府をはじめ各企業の動向などを追ってみよう。

アメリカ政府の動き
スマートシティ・チャレンジ

米連邦運輸省は2015年12月、先進の自動車・ITS技術を集中的に実証する目的で新しい技術の応用アイディアを都市間で競うコンペ「スマートシティ・チャレンジ(Smart City Challenge)」の実施を発表。都市の自動化やコネクテッド、インテリジェントな路側通信インフラ、都市内物流、EV(電気自動車)戦略など都市交通問題の解決に向けた12の要素を提示し、中規模都市を対象にプロポーザルを集めた。

その結果、78の都市からアイデアが寄せられ、最終的にオハイオ州コロンバスが選定された。コロンバスの提案は、低所得者家庭における乳児の死亡率改善などを目指した交通システムの改善などユニバーサルモビリティデザインを主とした内容で、コネクテッド通信や交通データシステムなどを導入することで、緊急時に乳児の保護者が医療機関を瞬時に受信できるよう交通システムを改善することとしている。

また、市民の職場へのアクセス改善、センサーやマルチモーダルなアプリなどを活用した住民間の情報共有、渋滞や駐車場情報のリアルタイムな提供、EV(電気自動車)を活用した持続的な交通システムなども検討されている。

スマートシティ・チャレンジは後に対象を拡大することが発表され、政府や民間企業の出資のもと各市でさまざまな取り組みが進められている。

連邦政府の政策動向

運輸省道路交通安全局(NHTSA)は2016年9月、主に自動運転レベル3(条件付き運転自動化)以上を念頭においた自動運転車向けの政策「Federal Automated Vehicle Policy」を発表した。自動運転レベル2(部分運転自動化)以上に対し自動車メーカーなどに15項目に係るNHTSAへの情報提供を要請するほか、州政府の取り組みにも踏み込んだモデルポリシーの提示、現行法に係る規制緩和手続きを明示、将来の規制の在り方に係る論点を提示した。なお、この時から自動車技術者協議会(SAE)による自動運転レベルの定義を採用している。

2017年9月には、自動運転車の安全確保策を盛り込んだ連邦法「車両の進化における生命の安全確保と将来的な導入および調査に関する法律(SELF DRIVE Act)」が米国下院にて法案可決された。なお、上院においては「SELF DRIVE Act」に変更を加えた「AV START Act」を議論されているが、米Uberの自動運転車が起こした事故の影響などが派生し、成立には至っていない。

これまで自動運転車に係る規制は各州独自に法制化を進めてきたが、州ごとに要件が異なっていたことから米国統一ルールとして連邦法の制定が検討されており、「SELF DRIVE Act」には自動車安全基準の見直しやメーカーに安全性評価証明書の提出義務付け、州の権限などが盛り込まれている。

また、同月にはNHTSAが12項目の推奨ルールを規定した製造者向けのガイドラインの改訂版「自動運転システム2.0」を公表。安全に係るガイドラインを15項目から12項目へ変更し、対象を自動運転レベル3以上としたほか、各州政府が今後の立法に向けて検討すべき項目を示した。

自動運転システムを開発、テスト、展開する際に考慮すべき安全性に係る要素を示すことで、自動車企業などを支援することを目的としており、各州が法の草案を作成する際に参考にするべき安全に関する最良なプロセスを提示しているほか、各州の道路交通安全当局向けのプロセスも提示し、州政府への技術的な支援を行うこととしている。

2018年10月には、改訂版「3.0」を発表した。自動運転政策及びプログラム策定の指針となる6原則として①安全性の重視②技術中立性の維持③規制の見直し④一貫した規制・運用環境の奨励⑤自動化への積極対応⑥米国人が享受する自由の保護及び強化―を示している。

■アメリカの自動車メーカーの動き

米自動車業界はGM(ゼネラルモーターズ)とフォードを筆頭に、クライスラーやEV開発のテスラが自動運転開発競争でしのぎを削っている。

GM:クルーズ買収、自動運転タクシー事業を開始へ

自動運転技術を開発する有力スタートアップのクルーズを買収したGMは、2019年にも無人の自動運転タクシー事業を開始する予定で、2018年10月には自動運転技術を活用したモビリティの変革に向けホンダと協業を行うことを発表している。

フォード:レベル3を開発せず一気にレベル4実現へ

フォードはアルゴAIを買収し、自動運転レベル3(条件付き運転自動化)の開発を飛ばして自動運転レベル4(高度運転自動化)に焦点を当て、2021年までの実用化を目指す方針だ。

【参考】フォードの戦略については「フォードの自動運転戦略まとめ 開発状況は?実現はいつから?」も参照。

FCA:ウェイモやBMWと協力して自動運転開発

クライスラーを傘下に収めるFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)は、米グーグル系Waymo(ウェイモ)、BMW連合などとの協力体制のもと自動運転開発を行っており、自動運転レベル3を2020~21年、自動運転レベル4を2023~25年に実現する計画を打ち出している。ウェイモが開発した自動運転システムを自社販売するFCA車に導入する協議も進めており、実現すれば大規模な自動運転システム流通の先駆けとなる可能性が高い。

【参考】クライスラーの戦略については「FCAの自動運転戦略まとめ ウェイモとの協業の行方は? 開発状況は?」も参照。

テスラ:AI技術を含めて自社開発、レベル3は「完成済み」

テスラの自動運転開発は自社開発が主体で、AI(人工知能)開発なども加速している。自動運転システムはソフトウェアのアップロードにより徐々に進化させていく方式を採用しており、自動運転レベル3相当のシステムはすでに完成済みと言われている。IT系やスタートアップのような経営手法でたびたび話題となっているが、現在は生産体制の充実を図っており、正真正銘の自動車メーカーとなれるか正念場を迎えている印象だ。

【参考】テスラの戦略については「テスラの自動運転技術と開発史まとめ イーロン・マスク氏の狙いは」も参照。

■アメリカのIT系企業の動き

IT系では、世界の自動運転開発競争に火をつけたと言われるグーグル系の自動運転開発企業ウェイモが頭一つ抜き出ている。

ウェイモ:自動運転タクシーの商用サービスを開始

ウェイモは2018年12月には自動運転タクシーの有料商用サービス「ウェイモワン」を開始している。ウェイモワンには自動運転レベル4以上の技術が搭載されているとみられるが、安全のため運転席には人が同乗しながら運行しているようだ。

【参考】ウェイモの自動運転タクシーについては「グーグル系ウェイモの自動運転タクシー、米アリゾナ州で商用サービス開始」も参照。

アップル:自動運転関連の特許を多数取得

独VW(フォルクスワーゲン)と提携を結ぶアップルは、カリフォルニア州における走行試験車両の許認可台数を年々増加しており、2018年9月には70台とメーカー別で3位の水準まで押し上げている。自動運転関連の特許も数多く取得しているようで、自動運転分野においてもサブ的なサービスにとどまらない独自の開発を進めているようだ。

【参考】アップルの自動運転関連の特許については「米アップル、自動運転での隊列走行で電力共有できる技術で特許取得」も参照。

マイクロソフト:クラウドサービスなどの「黒子」に徹す?

アップル同様VWと提携関係にあるマイクロソフトは、プラットフォーム開発やクラウドサービスなどコネクテッド関連に力を入れているようだ。ホンダなどと手を組むアマゾンはクラウドサービスに軸足を置いているほか、同社の音声アシスタントシステム「Alexa(アレクサ)」の車両への搭載も進めていく構えだ。

インテル:イスラエル企業のモービルアイを買収、自動運転部門に

このほか、半導体メーカーのインテルは、高度なカメラ解析技術を持つイスラエルのモービルアイ社を破格の推定153億ドル(約1兆7500億円)で2017年に買収した。自動運転に搭載されるコンピューターの開発に向け、先行する米NVIDIAに対抗するべく本腰を入れている。

■アメリカのスタートアップ界隈の動き

米国ではシリコンバレーを中心に次々とスタートアップが生まれ育つ環境が整っており、巨額の資金調達や買収・提携といった話題に事欠かない状況が続いている。

ZooxやDrive.ai、Aurora Innovation、Apex.AIといった自動運転の本丸ともいえるソフトウェアを開発するスタートアップや、Luminar TechnologiesやAeva、AEye、Cepton Technologies、Quanergy SystemsなどLiDARをはじめとするセンサー開発を手掛けるスタートアップが目立つ。

クルーズやアルゴAIのように、自動車メーカーによる自動運転開発の中枢部に達するスタートアップも今後続々と登場する可能性も高い。かつてIT産業の進展とともに大きく飛躍したGAMFAのように、自動運転産業の進展とともに将来世界に名をとどろかすような企業がすでに誕生しているかもしれない。

■世界から開発企業や資金が集まる環境が強み

各州が強い権限を持つ連邦制の米国では、連邦政府が大まかな指針を策定し、各州が実務レベルに沿った独自の法規制を定めるのが通常だ。このため、カリフォルニア州などのように自動運転の公道走行に関する実務ルールを独自に定め、世界各国の開発企業が集まる環境を整えやすいのが米国の強みだ。

また、自動車メーカー単独では開発が困難と言われる自動運転分野において、新たな発想で業界参入を果たすスタートアップに潤沢な資金が集まりやすい環境も大きな武器と言えるだろう。

現時点では先行するウェイモをGMが追いかけ、フォードは堅実に自動運転レベル4の開発を進めているような構図となっているが、想像もつかない開発能力を備えた一つのスタートアップの登場で状況が一変する可能性を秘めているのが自動運転の分野だ。

ウェイモの自動運転タクシーがついに実用化されたが、開発競争のゴールはまだまだ先にある。今後、企業間競争や国際間競争は熾烈なものになっていくと思われ、先頭集団を形成する米国や米企業からはますます目を離せなくなりそうだ。

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