自動運転に参入した大手ITハイテク企業10社、最新動向まとめ!

GAFAMやBATH、ビッグ・テックの動きは?



21世紀の世界経済をけん引するIT企業。米国ではグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトの「GAFAM」がビッグ・テックとして君臨する。一方、中国でも同様にバイドゥ(百度)、アリババ、テンセント、ファーウェイの「BATH」が高い存在感を発揮している。


これらのIT企業は、今後大きな成長が見込まれる自動運転分野をどのように分析し、どのように関わっているのか。各社の取り組みをまとめてみた。

■Google:IT業界における自動運転のパイオニア

グーグルは2009年に自動運転開発プロジェクトを立ち上げ、プロトタイプ車両の開発とともに自動運転車の公道走行が可能になるよう各州でロビー活動を展開するなど、他社に先駆けて自動運転実現に向けた活動に取り組んできた。

2015年には、テキサス州オースティンの公道でオリジナルのプロトタイプ「Firefly」で世界初の自動運転走行を実施した。2017年までに開発部門はグーグルから独立して法人化され、Waymo(ウェイモ)が誕生した。

当初、ベースとなる車両も自社開発するものと思われたが、2017年にFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と提携を結び、自動運転システム「Waymo Driver」用に設計されたクライスラーパシフィカをフリートに導入し、アリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーのパイロットプログラムに着手する。


2018年には世界初の商用自動運転タクシーサービス「Waymo One」を開始した。セーフティドライバーが同乗する実質レベル2~3の仕組みだが、2019年にはドライバーレスの車両も一部導入を開始している。

【参考】関連記事としては「自動運転タクシー、「念のため係員も」から「完全無人」へ」も参照。

Waymo Driverはミニバンからクラス8トラックまでさまざまな車両に導入可能で、2020年にはニューメキシコ州とテキサス州で自動運転トラックによるモノの輸送のパイロットプログラム「Waymo Via」を開始した。

提携関係では、スウェーデンのボルボカーズや日産・ルノー陣営などとパートナーシップを交わし、Waymo Driverの実装や各国における自動運転サービスの導入などに向け取り組んでいるようだ。


今後の焦点は、他エリアでのサービス展開だ。特に海外の場合、OEMとWaymoのどちらが主導権を握る形でサービス展開するかなど、ビジネス形態に注目だ。

また、グーグルとしてはAndroidで車載OSにおけるシェア拡大を狙っていくはずだ。すでにベースとなる「Android Automotive」をオープンソース展開しており、こちらも今後の開発動向に要注目だ。

【参考】Waymoの取り組みについては「Waymo Oneとは?世界初の自動運転タクシーサービス」も参照。

Apple:正体不明のアップルカーがすでに大きな話題に

極秘の自動運転開発プロジェクト「Titan(タイタン)」を水面下で進める米アップル。関係者筋の話としてさまざまな情報が流れているが、公式発表はほぼゼロだ。

ただ、自動運転の公道実証に必要な免許の存在や実証報告書、車両の目撃情報などから自動運転開発を進めていることは確実で、2019年にはスタートアップのDrive.aiの買収も報じられた。

2020年末ごろには「アップルカー」の製造をめぐる報道が過熱する。台湾や韓国メーカーなどの名前が次々と上がり、業界を巻き込む形で大きな話題となった。

ロイター通信の報道によると、アップルは2024年にも自動運転車の生産を開始するとしている。長らく秘密主義を引っ張り続けているが、どのタイミングで構想を正式発表するのか。また、他の自動運転サービスとは一線を画すアップルならではのサービス展開が図られるのか。注目度は高まる一方だ。

【参考】アップルの取り組みについては「Appleの”極秘”自動運転プロジェクト、判明情報を一挙まとめ」も参照。

■Microsoft:クラウドコンピューティングサービスに主軸

クラウドコンピューティングサービス「Microsoft Azure」を武器に、独アウディやダイムラー、フォルクスワーゲンなどの自動車メーカーとパートナーシップを結ぶマイクロソフト。車両エンジニアリングのあらゆる側面をシミュレート可能な「Azure ハイ パフォーマンス コンピューティング」や、位置情報対応のウェブアプリケーションやモバイル アプリケーションを作成できる「Azure Maps」など、同社が提供するソリューションの幅は年々広がっている。

2021年1月には米GM Cruiseへの投資を発表している。CruiseはAzureを活用して自動運転車の商用化を加速させるほか、GMもマイクロソフトを優先クラウドプロバイダーとするパートナーシップだ。

今のところクラウドコンピューティングによるコネクテッドサービスや自動運転開発のサポートに軸足を置いている印象だが、将来的には本家本元とも言えるOS事業で自動車業界に本格参入する可能性も考えられる。

【参考】マイクロソフトの取り組みについては「Microsoft「データの所有権はお客様」…自動車業界向け戦略発表、自動運転は?」も参照。

■Amazon:AWSの展開をはじめ宅配ロボットやロボタクシー事業も?

クラウドサービス「アマゾンウェブサービス (AWS)」で自動車メーカー各社の開発をサポートするほか、自社EC向けに宅配ロボット「Amazon Scout(アマゾン・スカウト)」を開発し、カリフォルニア州やワシントン州、ジョージア州、テネシー州などで公道実証を進めている。

AWSでは、ADASや自動運転の開発・展開を支援するサービス一式を提供しており、ほぼ無制限のストレージとコンピューティング性能、ディープラーニングフレームワークのサポートなどでアルゴリズムのトレーニングやテストを加速させることができる。

また、「AWS IoT Greengrass」では、機械学習推論機能を用いてエッジコンピューティングを実行し、車両内でのリアルタイム処理やクラウドへのデータ転送コストの低減を図ることができる。

2020年には、自動運転開発を手掛けるスタートアップ企業のZooxを傘下に収めた。Zooxは同年12月にオリジナルのロボタクシーを発表しており、遠くない将来、自動運転タクシーやシャトルサービスをローンチするものと思われる。こうしたサービスにアマゾンがどのように関わっていくかも注目だ。

【参考】Zooxのロボタクシーについては「最高時速120km!Amazon傘下Zoox、攻めの自動運転タクシー用車両をお披露目」も参照。

■バイドゥ(百度):「アポロ」を活用した自動運転車の量産も

自動運転開発のオープンプラットフォームプロジェクト「Project Apollo(阿波羅)=アポロ計画」で中国における自動運転開発をリードする百度。HDマップやシミュレーション、セキュリティ、OTAなどのソフトウェア、カメラやLiDAR、レーダーといったハードウェアのプラットフォームを網羅し、中国内をはじめ世界各国から開発企業が参画している。

金龍客車や第一汽車集団、自動配送ロボットを開発するNeolixなどがすでにアポロを活用した自動運転車の量産化体制を整えているほか、百度も浙江吉利控股集団とインテリジェントEVを生産する新会社を設立している。

自動運転タクシーも実用実証も順調に進んでおり、北京、成都、武漢、長沙など中国各都市で公道実証を行っている。北京では、2021年5月までにドライバーレスの有料サービスもスタートしている。

今後、アポロに参画するOEM各社らがどのようにプラットフォームを活用した自動運転システムを展開していくかにも注目が集まりそうだ。

【参考】百度の取り組みについては「百度の完全無人自動運転タクシー、「中国全土制覇」の現実味」も参照。

■アリババ:自動運転トラックや配送ロボットなど発表

社内でAI開発を手掛けるAlibaba AI Labsや先端技術の研究開発促進に向け2017年に開設したDAMO Academyなどで自動運転開発を進めており、これまでにレベル4相当の無人配送トラックの開発などを発表している。

DAMO Academyは2020年、自動運転開発に向け実環境と仮想環境を融合したハイブリッド方式の走行シミュレーションプラットフォームも発表している。

グループ内では、物流事業を手掛けるCainiaoが2018年に無人配送ロボット「G Plus(ジープラス)」の開発を発表したほか、2019年には成都市に20万平方メートル規模の自動運転パークを開設している。デジタルインフラ事業を手掛けるAlibaba Cloudも2020年9月、小型の配送ロボットを発表しており、Cainiaoのプラットフォームに導入する予定のようだ。

また、2020年11月には上海汽車集団(SAIC)などと新EVブランド「智己汽車」を設立しており、今後スマートカーの開発にも直接関わってくる見込みだ。

EC事業者としてアマゾンと比較されることが多いアリババだが、自動運転分野でもアマゾンとのライバル関係は続きそうだ。

■テンセント:スマートシティで存在感を発揮?

自動運転分野ではあまり表に出てこないテンセントだが、独BMWと自動運転開発を支援するコンピューティングセンターを中国国内に開設するなど、縁の下で自動車メーカー各社の開発を支えている印象だ。韓国ヒュンダイとも2019年に自動運転ソフトウェアの共同開発に合意したことが報じられている。

自動運転技術の自社開発ではライバルである百度に水をあけられた格好だが、深センの臨海地で200万平方メートルのスマートシティ「WeCity未来城市」を建設する構想に挑んでおり、自動運転やMaaSを1つのコンテンツとした大掛かりなプロジェクトで存在感を改めて発揮する可能性がありそうだ。

【参考】テンセントのスマートシティ構想については「「島」ごと自動運転特区に?そうすれば実験場にもショーケースにもなる」も参照。

■華為技術(ファーウェイ):2025年までに自動運転技術を実現

通信大手の華為技術(ファーウェイ)は、5Gをはじめとした通信技術の開発で自動車メーカーとの協業を進め、遠隔操作や車車間・路車間通信などの技術で自動運転分野に参入した。

その後、IoTプラットフォームやAIクラウドサービス、ソフトウェアとハードウェアを統合したコントロールユニット、車載OS、LiDARなどさまざまなソリューションを開発し、自動運転分野への事業シフトを強めている印象だ。

一部報道で2025年までに自動運転技術の実現を目指す方針が報じられており、OEMとの協業など今後の動向に要注目だ。

【参考】ファーウェイの取り組みについては「ファーウェイ「2025年に自動運転技術を確立」 車両はファブレス生産の可能性大」も参照。

■京東集団(JD.com):スマートロジスティクスで存在感発揮

「BATH」以外では、EC大手の京東集団も自動運転開発に積極的だ。同社は自社物流網の整備に早くから力を入れており、ロジスティクス全体の最適化を図る過程でレベル4相当の大型トラックや小型の自動配送ロボットなどを開発している。

2018年には中国長沙市などで同国初の無人配送車スマート配送ステーションを設立した。こうしたスマート物流ソリューションを提供するサービスにも着手しており、今後スマートロジスティクスの分野で存在感を高めそうだ。

■Yandex:200台規模の自動運転フリート構築、海外進出も視野に

米中以外では、ロシアのIT大手Yandexも自動運転開発に力を入れている1社だ。2017年に自動運転分野の研究開発に着手し、2018年にはモスクワやイノポリス、スコルコボなどで本格実証を開始している。米ラスベガスやイスラエルのテルアビブでも走行免許を取得し、さまざまな環境に対応可能な自動運転開発を進めている。

韓国ヒュンダイとの提携のもと200台規模の自動運転フリートを構築しているほか、配送向けの小型ロボット「Yandex.Rover」なども発表している。

【参考】Yandexの取り組みについては「Waymo最大のライバル!?ロシアYandex、自動運転の実力」も参照。

■Facebookは…?

ビッグ・テックの中で唯一自動運転分野に参入していないのがFacebookだ。SNSを主力とする同社は自動運転を畑違いと見ているのだろうか。

新たなプラットフォームサービスやコネクテッドサービス、あるいは言語・音声認識、広告配信などの領域で活躍できそうに思われるが、今のところその気はないようだ。

■【まとめ】ビッグ・テック間の競争が自動運転開発を加速させる

ほぼ全てのビッグ・テックが自動運転分野に参入し、年々存在感を高めている印象だ。ファブレス方式で自動車メーカーと協業する場面が多いが、近い将来主導権争いが本格化し、開発陣営・グループの統廃合が進むことが想定される。

絶対的なライバル関係にあるビッグ・テック同士の覇権をめぐる競争の結末は見当もつかないが、競争の過程で自動運転技術の高度化がいっそう加速する可能性が高い。将来、業界地図はどのように変わるのか。各社の動向に今から注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事