Waymo最大のライバル!?ロシアYandex、自動運転の実力

公道走行1000万キロ突破 雪道でも自動運転可能に



出典:Yandex公式サイト

ロシアのIT大手Yandex(ヤンデックス)の自動運転車が大きな進化を遂げているようだ。累積公道走行距離が1,000万キロを突破するなど、先行する米国・中国勢に引けを取らない実績を誇っている。

日本ではあまり話題に上らないが、研究開発開始からわずか4年足らずでさまざまな条件を克服してきた開発スピードは圧巻だ。この記事では、Yandexの自動運転開発について解説していく。


■Yandexの概要
「ロシア版グーグル」とも呼ばれるYandex

Yandexは、前身となるArcadia 、CompTek 時代の1997年に検索エンジン「Яndex-Web」を発表し、2000年に現在の「Yandex」として登記された。

ロシア版グーグルといったイメージで、検索サイトをベースにコンテンツターゲット広告で利益を生み出すビジネススタイルで頭角を現し、以後ECサイト「Yandex.Market」やマップサービス「Yandex.Maps」、ビッグデータソリューションを提供する「Yandex DataFactory」など、さまざまなサービスを展開する東欧を代表するIT企業に成長している。

自動運転開発は2017年に着手、Uberと協業

モビリティ関連では、2011年にモバイル配車サービス「Yandex.Taxi」を開始したほか、2018年にはカーシェアリングサービス「Yandex.Drive」や飲食料品のデリバリーサービス「Yandex.Eats」も開始している。

Yandex.Taxiは2018年、ロシアをはじめとした東欧のUberと合弁「MLU」をオランダに設立し、事業を広域展開している。


自動運転分野の研究開発は2017年に着手しており、Yandex独自のマッピング技術やナビゲーション、コンピュータービジョン、オブジェクト認識テクノロジーを構築し、同年中にトヨタ・プリウスを改造した試作車両を公開している。

■自動運転開発に関する取り組み
開発翌年には自動運転タクシーの実証サービススタート

本格的な実証は2018年に始まった。モスクワ市内を自動運転で走行する動画や、モスクワからカザンまで約500マイル(約800キロ)を自動運転で移動する動画などをアップしている。カザンまでの走行はさまざまな道路や気象条件下でテストすることが目的で、11時間に及ぶ道のりのうち、99%を自動で走行したという。

同年中には、ロシアのイノポリスとスコルコボで自動運転による配車サービスも開始している。運転席無人で助手席にセーフティドライバーを乗せる形式で、イノポリスではあらかじめ計画されたルートを走行していたが、スコルコボでは通常のタクシーのようにサービス提供しているという。

ラスベガスとテルアビブを皮切りに海外進出

翌2019年には、米ラスベガスで技術見本市「CES 2019」期間中、公道デモライドを実施するなど国外での走行も開始した。ラスベガス(ネバダ州)とイスラエルのテルアビブで自動運転の走行免許を取得し、ユニバーサルでスケーラブルな自動運転車技術を開発するため自動運転プログラムを本格スタートし、同年末までに100台以上の車両を導入してより多くのデータを収集する計画を発表している。


2019年3月には、韓国の自動車部品メーカー・現代モービスと自動運転レベル4~5の自動運転車を共同開発するための覚書を交わした。現代と起亜モデルに基づいて自動運転車のプロトタイプを製作することを当面の目標としており、同年7月には現代のソナタ2020のプロトタイプを発表している。

同年10月には、自動運転車による公道走行距離が100万マイル(約160万キロ)を超えたと発表した。この時点で自動運転車両は50台に達し、9月の1カ月間だけで31万マイル(約50万キロ)走行したという。

LiDARを自社開発

同年12月、自社エンジニアが製作したオリジナルLiDARのプロトタイプのテストを開始したことを発表した。120度の視野角を持つソリッドステート式と360度をカバーするタイプの2種類の開発を進めており、最大200メートル先まで検知可能という。

また、プロトタイプの時点ですでに他社デバイスの半分のコストで製作可能としており、大量生産によって最終的には75%コストを下げられるという。なお、カメラについても独自開発を進めているとしている。

自動運転フリートは200台体制に

年が明け、「CES 2020」では再び自動運転タクシーのデモ走行を実施した。この1年間でどのようにテクノロジーが向上したかを示すことに焦点を当て、5マイルに及ぶデモルートを走行した。

約1カ月前からラスベガスで5,000マイル以上走行し、準備を進めたという。ネバダ州では初となる運転席にセーフティドライバーが乗らない状況でデモを実施し、100人以上の客を乗せたという。

2020年6月には、現代モービスと共同開発した第4世代となる自動運転車を発表した。各種センサーの構成が変更されたほか、Yandexの無人運転制御技術との連携を深めるため車両の電子制御ユニットが変更されたという。

既存のフリートにさらに100台追加し、ロシア国内や新たに走行許可が下りた米ミシガン州アナーバーなどの長期実証に導入されている。

自動運転開発部門をスピンアウト、走行距離は1,000万キロ超に

同年9月には、自動運転開発部門をスピンアウトし、Uberとの合弁「Yandex Self Driving Group」を設立したことを発表した。これまでの累積投資額6,500万ドルに加え1億5,000万ドルを新規投資し、事業を強化していく構えだ。

2021年3月には、自動運転による走行距離が600万マイル(1,000万キロ)を超えたと発表した。その多くはモスクワ市内での走行という。自動運転車両の増加に伴い、飛躍的に実走行距離を伸ばしているようだ。

自動運転動画も公開

自動運転の様子を収めた動画もYouTubeで公開している。2020年8月には、交通量の多いモスクワ市内を35分に渡って走行した動画(4分33秒)をアップしている。百聞は一見に如かず。以下の動画から、同社の自動運転技術の粋に触れてみよう。

■自動配送ロボットの開発
配送向けロボット「Yandex.Rover」発表

Yandexは自動走行ロボットの開発も行っており、2019年11月に配送向けの小型ロボット「Yandex.Rover」を発表した。スーツケースを横に寝かせたような箱型6輪仕様のモデルで、最大20キロの荷物を輸送できるという。

本社敷地内で実証走行を重ねた後、Yandex.Eatsプラットフォームを介した食品配達やYandex.Lavkaからの食料品注文などに対応し無人デリバリーサービスにつなげていくほか、倉庫やデータセンターでもロボットを使用して施設内で貨物を輸送することができるとしている。

2020年4月には、スコルコボで書類や小包などを輸送する実用実証を開始した。新型コロナウイルスの影響で非接触配送の注目が高まったこともあり、同年末には本格的なサービスとしてモスクワやイノポリスでYandex.Eatsアプリを使った食料品の無人配送もスタートしている。

2021年2月には累計1,500回、4月には6,000回を超える配送を完了したという。

■自動運転開発における特筆点
各国で積極的に実証

Yandexは、ロシア国内をはじめ各国で積極的に実証を行っている。その背景には、国によって異なる道路構造物や交通ルール、交通環境、気象条件など幅広い状況に対応可能な自動運転システムの構築がある。

例えば信号機は、多くの国が赤、黄、緑(青)を採用しているが、そのレイアウトは国によって異なり、さらに赤でも左折(右折)可能としている国もある。走行車線も左走行、右走行では大きく異なる。道路標識に至っては千差万別だ。

こうした違いにしっかり対応可能な汎用性の高い自動運転システムを構築することで、グローバルなビジネス展開を視野に入れているのだ。

さまざまな気象条件も克服

Yandexの自動運転システムの優れている点は、気象条件に表れている。ロシアならではの「雪」への対応だ。雪は道路を埋め尽くし、大きな凹凸を創り出す。道路標識を覆い隠すこともある。また、降雪時はセンシングにも大きな影響を及ぼす。レーザービームなどが雪片に遮られることでオブジェクトに到達せず、LiDARなどのセンシングを中断せざるを得ないのだ。

Yandexは開発当初から雪対策を模索しており、自動運転のニューラルネットワークにノイズを最小限に抑えて周囲の世界の3D画像を作製する方法を学習させている。降雪量の多い地域で実証を重ねた結果、大雪の中でも周囲の物体を検出し、正しい車線にとどまりながら走行したり、横断歩道を認識したりすることができるようになったという。

一方、イスラエルでは逆に高温下でテストする機会が多かったという。熱を持った機器のパフォーマンスの低下や動作の中断・停止などを防ぐため、車内外の両方にカスタム冷却システムを構築するなど、高温環境に適応できるハードウェアとセンサーをセットアップしたという。

こうしたさまざまな環境の克服が、将来のレベル5につながっていくのだ。

■【まとめ】Waymoのライバルに急浮上も

グーグルのような事業戦略に、配車サービスや自動配送ロボットサービスなどを柔軟に取り入れている印象で、絶対的な目新しさはないものの、その開発力・技術力の高さは本物だ。

公表されている開発パートナーはUberと現代モービスなど少ないが、これも伸びしろだ。近い将来、パートナーシップの拡大とともに本格的なサービス展開を図り、グーグル系Waymoのライバルに急浮上する可能性も十分考えられる。今後の動向に要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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