米マイクロソフトは2020年1月19日までに今後の自動車業界向け戦略を発表し、自社のクラウドサービスやAI(人工知能)サービスを通じ、あらゆる規模の自動車関連企業がスマートモビリティプロバイダへと変革できるよう支援することを明確に述べた。
この戦略では3つの指針と支援を強化する5つの分野を掲げている。例えばその指針の一つとして「データの所有権は当社のお客様である自動車業界にある」と打ち出すなど、「データ」が鍵を握るコネクテッドカーや自動運転車に関して自社の立場をいち早く明確にしていることなどは特筆すべきことだろう。
記事の目次
■自動車業界に向けた3つの指針について
指針のまず1つ目。マイクロソフトは「自動車業界全体のパートナーとして事業を展開します」と宣言しており、その上で、自動車の製造や顧客向けのモビリティサービスを提供することはない、とも断言している。顧客企業と競合せず、あくまでサポートに徹するという考えとみられる。
2つ目の指針は冒頭でも触れたもので、「データの所有権は当社のお客様である自動車業界にあると考えている」としている。同社はデータから得る「インサイト(無意識の欲求)」が自動車業界の新たな収益につながると指摘したうえで、マイクロソフトがそのデータを収益化することは有り得ないと述べている。
3つ目としては、マイクロソフトは自動車関連企業がそれぞれ独自のブランドを強化して拡張していくことと、自動車業界との関係性を拡大できるようサポートする、としている。
■支援を強化する5つの分野について
マイクロソフトは「5つの分野」で企業が成功できるよう支援するとしている。その中の特にコネクテッドカーや自動運転に関する点に注目して説明していきたい。
一つ目は「コネクテッドカーソリューションの強化」
コネクテッドカー関連としては「Microsoft Connected Vehicle Platform (MCVP)」を活用した取り組みを強化する。MCVPは、クラウドやエッジコンピューティング、強固なパートナーネットワークを組み合わせたプラットフォームで、MCNPを活用することで自動車企業が独自のコネクテッドカーサービスを構築することができるという。
コネクテッドソリューションには、車内体験や自動運転、予測サービスなどが含まれている。パートナーネットワークに関しては代表的なパートナー企業として、独フォルクス・ワーゲン(VW)のほか、ルノー・日産・三菱自動車の3社アライアンスを挙げている。
なおドイツの自動車部品大手ZFは、マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」や開発者ツールなどを活用し、ソフトウェア提供企業へと転身することが見込まれているようだ。
二つ目は「自動運転機能開発の加速」
自動運転に関しては、クラウドやエッジコンピューティング、AIなどを含む包括的なサービスのほか、共同開発を可能にするオープンエコシステムを提供し、開発の加速を促したいとしている。
例えば、ドイツ自動車メーカー大手のアウディ(Audi)は「Microsoft Azure」を活用し、膨大なデータを使用したシミュレーションに取り組んでいるという。
またスタートアップ支援システム「Microsoft for Startups」を通じ、デリバリーやライドシェアなどの分野で新興企業が新たなビジネスチャンスをつかめるよう支援することについても触れている。
その他の3分野は?
そのほかの3分野については「スマートモビリティソリューションの制作を実現」「コネクテッドマーケティング、セールス、サービスソリューションの強化」「インテリジェントサプライチェーンの構築に向けたサービスの提供」としており、インテリジェントサプライチェーンについては、近代的な自動車製造には「デジタルサプライチェーン」が必要であると指摘している。
■【まとめ】戦いの主戦場は「ハードウェア」から「ソフトウェア」へ
米コンサルティング大手のマッキンゼー&カンパニーの予測によれば、自動車業界は今後も大きく成長し、2030年までに6兆6000億ドル(約730兆円)市場になると見込まれている。
そして今後コネクテッド化や自動運転化が進むにつれ、戦いの主戦場は「ハードウェア」から「ソフトウェア」と変わっていく。今までクルマは自動車業界だけのものだったが、こうしてIT企業やシステム企業もこの領域で闘えるようになっていくわけだ。
そんな中でマイクロソフトはどのような戦い方をしていくのか。今回の「3つの指針」と「5つの分野」がその参考となる。
【参考】関連記事としては「Microsoft(マイクロソフト)の自動運転戦略と取り組みまとめ Azureシェア拡大中」も参照。