自動運転バス、空飛ぶタクシー…未来のMaaSを担う次世代ビークルまとめ

ライドシェアも自動運転化、超小型モビリティも



さまざまな交通手段を統合し、ワンストップで予約・決済・利用できるようにする「MaaS(Mobility as a Service)」サービスの開発が熱を帯びている。全国各地のMaaSなど新たなモビリティサービスの実証実験を支援する「新モビリティサービス推進事業」も始まり、日本版MaaSの構築・実現に向けた取り組みは急加速している。


MaaSの実現においては、各交通サービスなどの「統合」に注目が集まりがちだが、その過程において並行して進められているのが「各交通機関の進化」だ。より進化した交通サービスが統合されることで、より完成度の高いMaaSが形成されることになる。

今回はこの「各交通機関の進化」にフォーカスし、MaaSを構成する将来の次世代モビリティを7分類し、紹介していく。

自動運転バス:自動運転に向いたモビリティ

短距離、中距離、長距離移動のすべてを担うバスは、車体は大きいものの基本的に一定の路線を走行するため、自動運転に向いたモビリティとしての側面も持つ。

実用化は、商業施設や空港敷地内など低速走行で安全を確保しやすい公道外で始まり、徐々に限定領域化の路線バスや送迎バスなどに拡大していくものと思われる。鉄道やタクシー、シェアサイクルなど他のモビリティとの相性も良く、MaaSにおいては必須の乗り物である。


開発・実証は、仏スタートアップのNavyaが手掛ける「NAVYA ARMA(ナビヤアルマ)」が先行している印象だ。ナビヤアルマの導入に積極的なソフトバンクによると、2019年6月時点で世界20カ国で116台が導入されており、国内でも延べ24カ所、2400人以上の乗車実績を持つという。

ソフトバンク傘下で自動運転開発を行うSBドライブは2019年6月、ナビヤアルマを使用したバス車両のナンバーを新たに取得し、公道実証を加速させる方針だ。

SBドライブはまた、中国インターネット検索大手の百度(バイドゥ)が開発を進める自動運転システム「Apollo(アポロ)」を搭載した自動運転バス「Apolong(アポロン)」の日本での活用にも取り組んでおり、自社開発した遠隔運行管理システム「Dispatcher」の普及をはじめとした自動運転バス分野の事業化を目指す方針のようだ。

【参考】SBドライブの取り組みについては「ハンドルのない自動運転バス、ソフトバンク子会社がナンバー取得 SBドライブ」も参照。


既存のバス事業者も開発に力を入れており、京阪バスは2019年3月に日本ユニシスと自動運転レベル3技術を搭載したバスの実証実験を行っている。また相鉄バスは2019年5月、日本で初めて自動運転バスを自社保有し、自動運転レベル4による営業運転を目指すことを発表しており、群馬大学などとともに開発を進めていく方針だ。

自動運転タクシー:ウェイモがいち早く商用サービス

限定的ながら実用化が始まった自動運転タクシー(ロボットタクシー)は、今まさに熱い開発競争が繰り広げられている。2018年12月に米Waymo(ウェイモ)が自動運転タクシーサービス「Waymo One」を開始しており、これに続けと言わんばかりに各社の実用化も秒読み段階に入っているようだ。

2019年中には、米ゼネラル・モーターズ(GM)、及び傘下のCruise Automation(クルーズ・オートメーション)が事業に着手する計画を打ち出しているほか、中国ネット検索最大手の百度(バイドゥ)も下半期に自動運転タクシー事業に着手することが報じられている。

実証実験では、米ライドシェア大手のLyft(リフト)が自動運転システムを開発する米Aptiv社と共同で開発した自動運転タクシーの実証を2018年5月から始めており、累計乗車回数は5万回を突破している。

独自動車大手ダイムラーと独自動車部品大手のボッシュは、米半導体大手エヌビディアと手を組み、2019年内に米シリコンバレーで無人の配車サービスを試験的に開始する予定だ。

2020年には、米EV(電気自動車)開発大手の米テスラが「Robotaxi(ロボタクシー)」事業を開始すると表明しており、車両リースによってマイカーをロボタクシーにすることができるビジネスモデル「TESLA NETWORK(テスラネットワーク)」なども計画中のようだ。

日本国内では、ロボットベンチャーのZMPとタクシー事業者の日の丸交通が2020年の実用化を目指し実証を進めている。

国内タクシー業界では現在、配車アプリ競争が激化しているが、こうしたアプリは自動運転タクシーにとって必須のものとなる。配車アプリがMaaSプラットフォームに組み込まれることで、ラストワンマイルを満たす最有力のモビリティサービスが誕生することになるのである。

【参考】自動運転タクシーについては「無人タクシー・ロボットタクシーの誕生はいつ? 自動運転技術を搭載」も参照。

■空飛ぶタクシー:技術次第で実用領域が格段に広がる

近未来を予感させる次世代モビリティの代表格と言えば、やはり空飛ぶタクシーだろう。技術次第で実用領域が格段に広がり、高層ビルから向かいの高層ビルへの移動といった超近距離から、離島への移動など長距離まで対応可できる可能性が高い。

開発は実証段階まで進んでおり、独政府や航空機メーカーの仏エアバスなどとフライングタクシーの実現を目指す「アーバン・エアモビリティ・プロジェクト」を立ち上げている独自動車メーカーのアウディは、2018年11月にプロトタイプとなる「Pop.Up Next(ポップ・アップ・ネクスト)」を初公開し、飛行デモや走行デモを行っている。

海外ではこのほか、航空機世界大手の米ボーイングやヘリコプター大手の米ベルヘリコプターなどの航空産業をはじめ、米カリフォルニア州を拠点とするJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)やKitty Hawk(キティホーク)、ドイツに本拠を構えるVolocopter(ボロコプター)といったスタートアップ勢、ライドシェア大手の米Uber(ウーバー)など、続々と空飛ぶモビリティ開発に参入している。

国内では、自動車・航空業界、スタートアップ関係の若手メンバーが中心となって立ち上げた有志団体CARTIVATOR(カーティベーター)と、実用化に向け開発や設計、製造、販売までを手掛ける株式会社SkyDrive(スカイドライブ)が開発の最先端にいる。

同社は2018年11月までに、千葉道場ドローン部2号投資事業有限責任組合(通称:Drone Fund 2号)から3億円の資金調達を実施したほか、2019年2月までに東京都による助成事業「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」に採択されるなど、着実に資金確保や事業環境の構築を進めている。

2018年に創業された東京大学発のスタートアップ「テトラ・アビエーション株式会社」も「1/1サイズ」の1人乗り型試作機の製作に乗り出すことも報じられている。米ボーイング主催の空飛ぶクルマの国際コンテスト「GoFly」で勝ち進んでおり、最終ステージ「飛行審査」に向け試作機の製作を進めるようだ。

空飛ぶクルマ・タクシーは2020年代はじめにも実用化される見込みで、安全性の確保をはじめ航空法などとの兼ね合いなど、急ピッチで環境整備が進められている状況だ。

【参考】空飛ぶタクシーについては「空飛ぶタクシーとは? 3つのタイプや世界の開発企業を紹介」も参照。

■自動運転鉄道:既存鉄道路線における研究開発が進む

長距離移動の大動脈となる鉄道も、自動運転の導入で少しずつ運行形態を変えていく可能性がある。現在は神戸新交通のポートアイランド線など専用走行路を走る自動運転鉄道が中心だが、JR東日本が自動列車運転装置(ATO)の開発に向けた試験走行山手線で行うなど、既存の鉄道路線における自動運転化の研究開発も進んでいる。

将来的には、採算性の低い地方都市の路線などで、従来の一両編成よりも柔軟に運行が可能な新たなモビリティとして生まれ変わる可能性もあるだろう。

【参考】自動運転鉄道については「「無人電車」が実現済みの路線まとめ 自動運転技術、早期から導入」も参照。

■自動運転ライドシェア:個人所有の自動運転車を活用

自動運転技術が実現すれば、ライドシェアも大きく中身を変えることになる。自動運転タクシーと自動運転ライドシェア(ライドヘイリング)の違いは、車両の所有者がタクシー事業者か個人所有かという点に集約される。

このため、ライドシェア導入を拒む要因として問題視されている「ドライバーの質」が問われることはなくなり、車両の適正管理を義務化することで導入障壁は格段に下がる。

テスラのロボタクシー構想のように、リース形式でオーナー所有の車両をタクシーに活用する事業が成功すれば、車両購入費用(リース料)の負担軽減にもつながるため、高額な自動運転車の個人所有に弾みがつく可能性もある。

【参考】テスラのロボタクシーについては「ロボットタクシーとは?自動運転技術で無人化、テスラなど参入」も参照。

■超小型モビリティ:ラストワンマイルでの活用も期待

一般的な自動車よりコンパクトで小回りが利き、EV仕様で環境性能にも優れた超小型モビリティにおける自動運転化も開発が進んでいる。

国土交通省は、超小型モビリティに関して長さ、幅、高さがそれぞれ軽自動車の規格内で、乗車定員2人以下、定格出力8キロワット以下などの規格を定めており、規格を満たすものに対し一部の基準を緩和し公道走行を許可している。

この超小型モビリティにおける自動運転車の代表例として、ゴルフカートを改造したものが挙げられる。4人乗りや出力オーバーは規格外となるが、要件を満たしやすく改造しやすい素材として注目されており、国内でもヤマハ発動機などが開発に力を入れている。

また、トヨタ車体が製品化している超小型EV「コムス」なども一例に挙げることができる。ZMPはこのコムスをベースに制御コントローラーや自動操舵システム、自動ブレーキシステムを搭載した「RoboCar MV2」を次世代モビリティ・EV開発用プラットフォームとして提供している。

観光地内や遊園地内など、低速走行における少人数移動需要が見込める場所や、道幅が狭い住宅地などにおけるラストワンマイルにも活用できる可能性がありそうだ。

【参考】ヤマハ発動機の取り組みについては「ヤマハ発動機、燃料電池搭載の電動小型低速車で公道実証 MaaSサービスでの活躍期待」も参照。

■パーソナルモビリティ:海外では電動キックボードの普及も

明確な定義があるわけではないが、超小型モビリティよりもさらに手軽に利用可能なモビリティとして、「パーソナルモビリティ」が挙げられる。

セグウェイや電動キックボード、電動自転車など、すでに商品化されている移動媒体をシェアリングなどの方法でプラットフォームサービス化することで、ラストワンマイルを担うMaaSに組み込むことができる。

海外では、電動キックボード・キックスケーターのシェアリングサービスをカリフォルニア州サンフランシスコで事業展開するスタートアップBirdなど、すでに実用化は始まっている。

国内でも、ドイツのスタートアップWind Mobilityの日本法人や株式会社Luup、株式会社mobby rideなどが相次いで開発・実証を始めており、今後の動向に注目が集まる。

これらのモビリティは、ハンドルやブレーキ操作などの制御は基本手動だが、自由度は全モビリティの中でもトップクラスだ。また、こうした手軽なモビリティにおいても、より安全かつ便利に利用可能な新たなモビリティの開発は進められている。

電動車いすの開発を進めるスタートアップのWHILLは、歩道領域を想定して開発した「WHILL自動運転システム」をCES2019で発表するなど、パーソナルモビリティの自動運転化にも取り組んでいる。

同社は、小田急電鉄などがMaaS構築を目指すプロジェクト「小田急MaaS」にも携わっており、誰もが移動可能な社会構築に力を注いでる。

■【まとめ】MaaS開発の進展とともに、新たなモビリティの登場に期待

鉄道やタクシー、バスなど、単体でも自動運転化のメリットが大きいモビリティは大手各社からスタートアップまで幅広い事業者が開発競争を繰り広げている分野だ。

一方、超小型モビリティやパーソナルモビリティは、シェアビジネスに組み込むなどプラットフォーム化を進める動きと、モビリティそのものの新規開発に取り組む動きに大きく分けられるが、新たなモビリティ開発は意外と競合が少なく、アイデア次第で急浮上し、MaaSの一角を担う存在に急成長を遂げる可能性も高そうだ。

今後、徐々に形作られていくMaaSの輪とともに、新たなモビリティの登場にも期待したい。


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