トヨタのWoven City構想、自動運転レベル3解禁…2020年上半期、業界10大ニュースは?

貨客混載や無人配送ロボットにスポットライト



早いもので2020年も間もなく折り返しを迎えようとしている。2020年上半期は、予想だにしない新型コロナウイルスの世界的蔓延が世界経済に影を落とし、その影響は自動車業界・自動運転業界にも及んでいる。

しかし、自動運転分野においては新型コロナウイルスを機に技術の有用性を再認識する場面も少なからずあった。無人の配達ロボットが中国や米国の感染拡大エリアで活躍したことは、大いに注目を集めた。


下半期が復興期となることを祈りながら、2020年上半期のモビリティ業界で押さえておくべき10大ニュースを振り返っていこう。

トヨタがコネクテッドシティプロジェクト発表

年初からビッグニュースが業界を駆け巡った。トヨタがCES2020で「コネクティッド・シティ」プロジェクトを発表したのだ。

2020年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用し、さまざまな最新技術やサービスを導入・検証できる実証都市「Woven City」(ウーブン・シティ)を構築するというもので、独自プロジェクトの実証など、さまざまな企業や研究者らの参画を募っている。

ウーブン・シティでは、道路をスピードが速い車両専用の道や歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存する道、歩行者専用の道の3つに分類するほか、燃料電池発電も含め街のインフラをすべて地下に設置するなど、いくつかの構想案が示されている。2021年初頭の着工を予定している。


2020年3月には、スマートシティビジネスの事業化に向けNTTと業務資本提携を交わすことも発表された。実現すれば国内初の本格的なスマートシティとなるプロジェクトで、今後の動向に要注目だ。

■BOLDLYが茨城県境町で2020年度中に自動運転バスを実用化

BOLDLY(旧SBドライブ)は2020年1月、茨城県境町で定時・定路線の自動運転バスを実用化する計画を発表した。新型コロナウイルスの影響などで開始予定が半年延期されたものの、自治体による国内初の公道実用化となる見込みで、大きな注目が集まっている。

プロジェクトにはBOLDLYのほかマクニカが協力。両社を介して境町が仏Navya製「NAVYAARMA(ナビヤ アルマ)」を購入し、自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」やソフトウェア・メンテナンスの面などでサポートを受けながら運行する。

当初は2020年4月を目途に運行開始する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け半年の延期を決定している。これまでに、3台のARMAを日本に輸入したほか、走行予定ルートの3Dマップデータの収集・作成、セーフティドライバーの訓練・運転操作審査を終えており、社会実装に向けオンライン会議などを交えながら協議を進めている状況だ。

【参考】境町の自動運転バス実用化については「国内初の”定路線”自動運転バス、半年延期も準備着々 BOLDLYが進捗発表」も参照。

■SkyDriveが空飛ぶクルマの有人飛行試験をスタート

空飛ぶクルマの開発を進めるSkyDriveは2020年1月、国内初となる有人飛行試験を開始したことを発表した。実証を重ね、2020年夏にデモフライトを実施し、2023年の販売開始に繋げていく構えだ。

各社とも技術開発が進展している様子で、3月には、テトラ・アビエーションが開発する「空飛ぶクルマ」が、エア・モビリティの開発コンテストGoFlyで「プラット・アンド・ホイットニー・ディスラプター賞」を受賞したことも発表されている。

空の移動革命に向けた官民協議会がまとめた「空の移動革命に向けたロードマップ」によると、事業スタートの目標を2023年に定めている。安全を確保しやすい場所におけるモノの移動から徐々に実用化を進め、モノから人へ、地方から都市へと拡大していく方針だ。

ロードマップのもと、取り組みは今後も加速していく可能性が高く、2020年下半期の進捗にも期待したい。

【参考】SkyDriveの取り組みについては「ついに「空飛ぶクルマ」に人が乗った!SkyDriveが有人試験スタート」も参照。テトラ・アビエーションの取り組みについては「日の丸テトラの空飛ぶクルマ、GoFly決勝で「唯一の受賞者」!」も参照。

■JapanTaxiとDeNAがタクシー配車サービスなどを統合

日本交通ホールディングスとDeNAは2020年2月、両社が展開するタクシー配車アプリなどに関する事業を統合すると発表した。タクシー配車アプリ領域における競争激化を象徴する事業判断であり、将来のMaaS展開を見据えた戦略として今後の動向に注目が集まる。

国内最大のアプリ「JapanTaxi」を展開するJapanTaxiは、統合に合わせる形で4月に社名を「Mobility Technologies」に変更し、モビリティの発展をテクノロジーで牽引していく構えだ。DeNAのタクシー配車アプリ「MOVやAIを活用した事故削減サービス「DRIVE CHART」などは当面の間そのままサービス提供する予定としている。

タクシー事業者の中でいち早く最新テクノロジーに注目し、導入を積極的に進めている日本交通だが、近年、DiDiやUberといった海外系配車プラットフォーマーやソニー系のみんなのタクシーなどの新規参入が相次ぎ、競争が一気に激化した。

近い将来、タクシー配車に留まらずさまざまな交通サービスを結び付けたMaaS事業の展開が求められる可能性が高く、今回の統合は先々を見据えた戦略として評価を高めそうだ。

【参考】JapanTaxiとDeNAの事業統合については「JapanTaxiとDeNAの配車アプリ事業、統合へ 自動運転技術の導入も視野」も参照。

■自動運転関連求人が2万件の大台を突破

自動運転ラボが定期的にまとめている主要6転職サイトにおける2020年2月末時点の自動運転関連求人数が、調査開始以来初めて2万件の大台に乗った。新型コロナウイルスの影響が表面化してきた3月末の調査では数字を落としたものの、依然として活況が続いている様子だ。

2月末時点の求人数は2万2582件で、前月比8カ月連続の増となった。前年同月比では80.2%と大きな増加を示している。

一方、3月末時点の求人数は前月比19.3%減の1万8211件と落ち込んだものの、前年同月比では30.6%増と依然として高い水準を示している。

世界で拡大の一途をたどっていた新型コロナウイルスも、一部地域で沈静化・収束が始まっており、自粛・様子見を続けていた各国の企業も徐々に経済活動を再開し始めている。油断は厳禁だが、世界経済の回復に向け、自動運転分野の活気が波及していくことに期待したい。

【参考】自動運転関連求人については「自動運転関連求人、新型コロナ下でも前年同月比30.6%増!2020年3月末時点」も参照。

■日本でついに自動運転レベル3が解禁

2020年4月、改正道路交通法及び道路運送車両法が施行され、法的に自動運転レベル3が解禁された。世界各国でも同様の動きが広がる見込みで、量産車向けの自動運転技術の実装に弾みが付きそうだ。

両方の改正で自動運行装置や作動状態記録装置に求められる保安基準なども具体化され、運転者の状態を監視するドライバーモニタリングシステムや有事の際に車両を安全に停止させるミニマム・リスク・マヌーバーなどの導入も義務付けられた。

レベル3の量産車は、独アウディ「A8」のほか、ホンダが2020年内の販売に意欲を示している。各基準が具体化したことで、今後、自動車メーカー各社の動向も表面化してくるものと思われる。

米フォードやスウェーデンのボルカ・カーズのようにレベル3に消極的なメーカーもあるが、乗用車向けに自動運転技術を実装する試金石となるだけに、フラッグシップモデルへの搭載など実用化に向けた動きが徐々に加速するものと思われる。

【参考】自動運転レベル3解禁については「ついに幕開け!自動運転、解禁日は「4月1日」」も参照。改正道路運送車両法・保安基準については「自動運転車の「安全基準」を徹底解説!国交省、ステッカーデザインも策定」も参照。

■中国で自動運転タクシー実用化に向けた取り組みが加速

自動運転タクシーの社会実装に向けた取り組みが活発化している。中国の百度が2020年4月、湖南省長沙市で一般向けの自動運転タクシーの提供を開始すると発表したほか、スタートアップのAutoXもアリババ傘下の高徳打車と事業提携し、上海市で自動運転タクシーの無料体験の募集を開始したようだ。

自動運転タクシーのパイオニアである米ウェイモは5月時点でタクシーサービスの中止を続けているが、自動運転の実証実験は再開した模様だ。

中国勢を中心にウェイモを猛追する動きが鮮明になっており、百度とAutoXのほか、Pony.aiやDiDiらも実用実証を本格化させている。中国内における競争が過熱することで社会実装が格段に加速する可能性があり、各社の動向から目が離せない状況が続きそうだ。

■新型コロナを機に貨客混載の取り組み加速

新型コロナウイルスの影響で、タクシーがフードデリバリーを担う取り組みが日本各地で広がっている。時限措置として規制が緩和されたことが背景にあるが、将来に向け貨客混載を実証する機会としても注目が集まるところだ。

こうした動きを受け、自動運転ラボを運営するストロボは2020年5月、タクシー事業者や交通事業者を対象に「貨物配送・料理宅配関連事業進出支援・コンサルティングサービス」を開始すると発表した。

モノの輸送に着目した新規事業戦略立案をはじめ、新規事業に関する戦略パートナーの選定やアライアンス推進、新たなEC・宅配ビジネスにおけるUI/UX開発、PR・ブランディング・デジタルマーケティング支援などを手掛けるという。

貨客混載は、自動運転技術が社会実装される将来においても有用だ。支出に占める割合が大きい人件費を大幅に抑えることで料金が低下し、人の移動もモノの輸送も大きく需要を増すことが想定される。その際、フレキシブルに両方の需要を満たすことができる車両がスタンダード化していく可能性が高いからだ。

自動運転タクシーの開発を手掛けるPony.aiは、新型コロナウイルスを機に休止中の車両を配送サービスに活用する取り組みに着手したが、今後、こうした取り組みの波及にも注目したいところだ。

■新型コロナウイルス対策で際立つ自動運転のメリット

新型コロナウイルスが蔓延する中、世界各地で自動運転技術をコロナ対策に活用する動きが活発化している。無人で移動が可能という「非接触」のメリットを生かし、宅配や医療関係物資の輸送に配送ロボットを導入する動きや、消毒液の散布などに応用する動きが広がっているのだ。

東京都も2020年5月、新型コロナウイルスの軽症者らを受け入れる宿泊療養施設において、AI清掃ロボットなどを試行的に導入することを発表している。

一方、自動運転警備ロボ「PATORO(パトロ)」の開発を手掛けるZMPは、オプション機能として消毒液散布機能を追加するなど需要を見越した改良にいち早く着手している。

海外勢では、配送ロボットの開発を手掛ける中国のNeolix(新石器)や米Starship Technologiesなどもロボット導入の需要が大幅に増しているようだ。

新型コロナウイルスを機に注目を集める自動運転ロボット。社会受容性の観点からも、理解を得やすい今だからこそ積極的に実証を進め、社会実装に向けた取り組みを加速するのも重要と言えそうだ。

■2020年3月期決算続々 コロナの影響は2021年3月期に……

2019年度の業績を示す2020年3月期決算。5月12日発表のトヨタは、純利益が前期比10.3%増の2兆761億8300万円と堅調な伸びを見せた一方、新型コロナウイルスの影響が懸念される2021年3月期予想では、営業収益を同79.5%減の5000億円と見込むなど、多大な影響を懸念している状況だ。

一方、同日発表となったホンダは、所有者に帰属する当期利益が4557億4600万円となり、前期比25.3%の減益となった。四輪事業における減少や為替換算による減少が影響したようだ。2021年3月期の連結業績予想については、算定困難のため未定とした。

2020年3月期における新型コロナウイルスの影響は年度末ということもあり限定的なものに留まっているが、先行き不透明な情勢から2021年3月期への影響が懸念されるところだ。

本業の悪化が自動運転をはじめとした次世代に向けた研究開発に響く可能性も大きいが、トヨタは2021年3月期の研究開発費を前年とほぼ同水準の1兆1000億円と見込むなど、強気の姿勢も示している。

自動車メーカーにとっては、本業あっての自動運転開発だ。早期の生産再開や停滞ムードの払しょくによる需要回復を望みたい。

■【まとめ】経済復興に向け自動運転技術の進展に期待

ニュースの各所に新型コロナウイルスが登場することとなったが、それは致し方のないことだ。業績への影響や取り組みの延期など、負の影響も大きなものがあるが、新型コロナウイルスをきっかけに配送ロボットや貨客混載の取り組みに注目が集まるなど、将来につながる面も少なからずあるのだ。

世界経済の停滞が懸念される中、状況を打開するには未来に向けしっかりと歩みを進めることが肝要だ。自動運転業界の盛り上がりや技術の進展が、今後の経済復興・活性化に寄与することに期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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