自動運転車の「安全基準」を徹底解説!国交省、ステッカーデザインも策定

高速道路は60キロ制限、作動状態記録装置は?



2020年4月1日の改正道路運送車両法の施行に伴い保安基準も改正され、自動運行装置に求められる安全基準や自動運転車に貼付するステッカーのデザインなどが発表された。

自動運行装置や作動状態記録装置などに求められる機能が具体化したことで、実用化に向けた開発の進展に期待が高まる。


今回の改正ではこのほか自動運転の実証実験などを対象とした基準緩和認定制度も拡大されており、移動サービスの実用化なども対象に含まれることとなった。自動運転を取り巻く法環境が、また一歩前進した格好だ。

以下、改正の要点を一つずつ解説していこう。

■保安基準などの改正の概要

保安基準においては、二輪自動車などを除く自動運行装置を備える自動車に関し、プログラムによる当該自動車の自動的な運行の安全性を確保できるものとして、機能や性能などに関し告示で定める基準に適合するものと定められた。

電気装置についても、サイバーセキュリティを確保できるものとして、性能に関し告示で定める基準に適合するものでなければならないこととし、また当該装置に組み込まれたプログラムなどを確実に改変できるものとして、機能及び性能に関し告示で定める基準に適合するものでなければならないものとしている。


今回の改正ではこのほか、走行環境条件の付与の手続きに関する規定や、型式指定の対象となる特定装置の種類への自動運行装置などの追加、自動運行装置などの保安基準適合性における審査手数料の額に関する規則などが新たに盛り込まれている。

具体的な告示内容については、以下、項目ごとに見ていこう。

■自動運行装置の要件
ドライバーモニタリングシステムやミニマム・リスク・マヌーバーが必須に

道路運送車両の保安基準の細目を定める告示では、自動運行装置について、走行環境条件内外での安全性能やドライバーモニタリング機能などに係る要件が規定された。

具体的には、以下の9項目が要件として挙げられている。


①自動運行装置の作動中、乗車人員及び他の交通の安全を妨げるおそれがないものであること。

②運転者の意志ある操作により作動及び停止を行うことができるものであること。

③自動運行装置の作動中、走行環境条件を満たさなくなる場合、運転者に対し運転操作を促す警報を発し、運転者が当該警報に従って運転操作を行わないときは車両を安全に停止するものであること。警報は、原則、走行環境条件を満たさなくなる前に十分な時間的余裕をもって発するものであること。

④他の交通又は障害物との衝突のおそれがある場合には、衝突を回避するかまたは衝突時の被害を最大限軽減するための制御を行うことができるものであること。

⑤走行環境条件を満たしていない場合または自動運行装置が正常に作動しないおそれがある場合に当該装置が作動しないこと。

⑥自動運行装置の作動状況を運転者が容易かつ確実に認知できるよう表示するものであること。

⑦自動運行装置の作動中、運転者が警報に従って運転操作を行うことができる状態にあるかどうかを常時監視し、運転者が当該状態にない場合には、その旨を運転者に警報するものであること。

⑧自動運行装置が正常に作動しないおそれがある場合、その旨を運転者に視覚的に警報するものであること。

⑨自動運行装置の機能について冗長性をもって設計されていること。

③は、システムからのテイクオーバーリクエスト(運転の委譲要求)に際し、余裕をもってドライバーに手動運転を促すアナウンスを行うこととともに、何らかの理由でドライバーが従わなかった場合、安全に車両を停止させるミニマム・リスク・マヌーバー(MRM)技術を必須とする内容になっている。

⑥では、自動運転機能が正常に作動しているかどうかを容易に見極められるヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)技術などが求められることになりそうだ。

⑦では、自動運転中にドライバーが油断し過ぎないよう監視するドライバーモニタリングシステム(DMS)を指している。

⑨では、自動運転が可能となる各種条件「ODD(運行設計領域)」の設定において、自動運転システムの技術レベルをしっかり考慮し、余裕を持った設定を行うことを規定している。

【参考】ドライバーモニタリングシステムについては「自動運転レベル3の「油断の罠」に挑む技術者たち」も参照。ODDについては「自動運転における「ODD」って何?「運行設計領域」のことで、言い換えれば「能力値」」も参照。

■高速道路等における低速自動運行装置を備える自動車の技術基準
最高速度は時速60キロに

高速道路などにおける低速自動運転の技術基準については、以下の6項目が規定されている。

①システムが作動する最高速度は時速60キロであること。

②センサーによる前方検知範囲は少なくとも46メートル以上であること。側方検知範囲は少なくとも自車の隣接車線の全幅を検知できるものであること。

③走行車線内での走行を維持し、かつ、いかなる車線表示も越えることがないこと。

④前方車両との車間距離は、急な割り込みなど一時的に遵守できない場合を除き、自車速度に応じた所定の距離以上であること。 例:6.7メートル(時速20キロの場合)、15.6メートル(同40キロの場合)

⑤運転者が警報に従って運転操作を行うことができる状態にあるかどうかを、運転者のまばたき、閉眼、顔・体の動きなどにより判断すること。

⑥実車試験により各機能要件を確認するとともに、シミュレーション試験により、走行環境条件内において、システムが周囲の交通状況に応じて適切な制御を行い、合理的に予見可能で防止可能な衝突を起こさないことを証明すること。

「低速自動運行装置」という前提が付されていることに違和感を覚えるところだ。自動運転レベル3を対象にしたものであれば、現状は時速60キロ以下でなければ事実上基準外ということになる。

参考までに、自動運転レベル3相当の技術といわれる独アウディの「Audi A8」に搭載された「Audi AIトラフィックジャムパイロット」では、「高速道路や中央分離帯のある片道2車線以上の道路で、時速60キロメートル以下の低速で交通が流れている場合」をODDとしている。

レベル3黎明期においては、高速道路における通常の高速走行は対象外ということになりそうだ。

■作動状態記録装置の技術基準
保存期間6カ月または2500回分に規定

作動状態記録装置の技術基準では、記録項目として以下の6項目が規定された。

①システムの作動状況が別の状況に変化した時刻

②システムによる引継ぎ要求が発せられた時刻

③システムがリスク最小化制御を開始した時刻

④システムの作動中に運転者がハンドル操作などによりオーバーライドを行った時刻

⑤運転者が対応可能でない状態となった時刻

⑥システムが故障のおそれのある状態となった時刻

保存期間は6カ月間または2500回分とされたほか、保存された記録は市販されている手段または電子通信インターフェースにより取得できることとし、記録が改ざんされないよう適切に保護されていることを要する。

作動状態記録装置の記録項目については、これまでの国際議論を踏まえ国際的に合意が得られているものについて規定したようだ。今後、国際的な議論の動向や技術開発の状況などを踏まえ検討を続け、国際基準が成立した際には、速やかに国内基準に導入することを予定している。

■サイバーセキュリティシステムの技術基準

サイバーセキュリティシステムの技術基準では、車両のシステム間及び外部システムとの相互関係を考慮し、車両のリスクアセスメント(リスクの特定・分析・評価)を行うとともに、リスクへの適切な対処・管理を行うことと、セキュリティ対策の有効性を検証するための適切かつ十分な試験を実施することを規定している。

関連して、サイバーセキュリティ業務管理システムの技術基準では、開発・生産・生産後の各段階を考慮したものであることと、リスク評価の実施や当該評価を最新状態に保つことなどにより、セキュリティが十分に確保されるものであることとしている。

■プログラム等改変システムの技術基準

プログラムのアップデートなど改変するシステムについては、危険な改変や無効なプログラムの改変を防止できるよう確実性・整合性を確保するとともに、型式に関連するプログラムなどのバージョン(識別番号)は、車載式故障診断装置の読み取り部分(OBDポート)などの電子通信インターフェースを使用して容易に読み出すことができ、また、不正な変更から保護されていることを求めている。

また、OTA技術を活用するなど無線によってプログラムなどの改変を行う機能を有する場合には、上記要件に加え、下記3点も満たす必要があるとしている。

①失敗または中断した場合に、車両を改変前の状態に復元または安全な状態にできるものであること

②車両が無線改変に必要な電力を有している場合にのみ、無線改変を実行できるものであること

③改変の目的、内容、所要時間、成否などの情報が使用者らに通知されるものであること

■その他の告示:実証以外にも基準緩和拡大へ

保安基準の細目を定める告示のほか、自動運行装置に係る保安基準の一部について、代替策を講じることで当該基準を適用除外とする措置を講じることと、自動運転の実証実験に係る自動車についての基準緩和認定制度について、事業化の際など実証実験以外の場合にも適用できることとした。

基準緩和については、道路運送車両の保安基準第55条第1項、第56条第1項及び第57条第1項で規定されているが、無人移動サービスの実用化などにおいても緩和措置を受けられるよう一部を改正した。

■自動運転車ステッカーの掲示
出典:国土交通省

自動運転車であることを示すステッカーを、車体後部に貼付することをメーカーに要請することとしており、ステッカーデザインも公表された。自動運転車の周囲を走行する車両などに注意を促すための措置だ。

六角形の枠の中に自動車と思われるマークと「AUTOMATED DRIVE」の文字を落とし込んだデザインとなっている。以前、自動運転ラボが独自に予想・作成したデザインとは、似ても似つかないものとなった。

ただ、このデザインでは誰もが「自動運転車」と直感できる描画ではないと感じる。このデザインが広く認知されるまでは相当な期間が必要と思われるため、デザインそのものに対する議論の余地がありそうだ。

【参考】自動運転車のステッカーについては「こんな「自動運転車ステッカー」は嫌だ 国の検討デザインは?」も参照。

■【まとめ】レベル3の市販化や自動運転移動サービスの実用化が加速

概ね予想通りの内容と言えるが、時速60キロを上限とした低速自動運行装置の規定により、事実上自動運転レベル3はこの上限を守る形になると思われる。市販化される自動運転技術が実際にどれほどの安全水準を誇り、どの程度世の中に受け入れられるか――といった観点から、経過措置ともとれる数値だ。

いずれにしろ、一定の保安基準が出揃ったことで、レベル3の市販化に向けた動きが加速する可能性が高い。また、基準緩和を移動サービスの実用化などに拡大したことも大きく、2020年度における取り組みにもいっそう熱が入りそうだ。

国際基準に左右される部分もあるが、日進月歩で技術が進展する過程においては、細目は臨機応変に改正していくほかない。高速道路における自動運転から「低速」が抜かれる日はいつになるのか。技術の発展に期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。


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