【最新版】ソフトバンク・ビジョン・ファンドとは? 自動運転やライドシェア領域での投資状況は?

総額10兆円超、イノベーション企業へ積極投資



出典:ソフトバンク公式ウェブサイト

ソフトバンクグループが2017年にスタートした「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」。2018年度の第2四半期ですでに巨額の営業利益を生み出しているが、同社の狙いは目先の利益ではない。あくまで将来に向けた投資だ。

今回は、同社の成長戦略の柱ともいうべき投資事業の中身を紐解き、ソフトバンクグループの未来の姿を描いてみよう。


  1. ビジョンファンドの営業利益、ソフトバンク本体超えの6324億円
  2. 衝撃…トヨタとソフトバンクが自動運転・MaaSで”日本連合”
  3. ソフトバンク、純利益56倍に爆伸 2018年4~6月期連結決算発表
  4. 孫正義の事業観(1)「馬鹿な国」発言はポジショントークか
■ソフトバンク・ビジョン・ファンドの概要

ファンドを通じた投資やファンドの投資先企業との提携を通じ、自社のグローバル成長戦略を加速させることを目的として、2016年10月にSVFの設立が発表された。次世代のイノベーションを引き起こす可能性のある企業やプラットフォーム・ビジネスに対し、大規模かつ長期的な投資を行うことを目指している。

2017年5月に初回クロージングが完了し、ソフトバンクのほかサウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)、アラブ首長国連邦アブダビ首長国のムバダラ開発公社、米アップル、米Qualcomm Incorporated(クアルコム)、台湾のFoxconn Technology Group(フォックスコン)、シャープ株式会社がリミテッド・パートナーに名を連ね、10兆円規模の出資が約束された。このうち、ソフトバンクは281億ドル(約3兆1800億円)を出資している。

投資対象は主にテクノロジー分野としており、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)をはじめ、ロボティクス、モバイルアプリケーションやコンピューティング、通信インフラ・通信事業、クラウドテクノロジー、金融テクノロジーなど広範囲のテクノロジー分野において、上場・非上場、保有株式割合の多寡を問わず、新興テクノロジー企業から大企業まで投資を行っていくこととしている。

運営はソフトバンクの英国100%子会社「SB Investment Advisers(SBIA)」が行っている。投資期間は最終クロージングから5年後まで、存続期間は同12年後までとしている。また、ソフトバンクとムバダラ開発公社が出資する姉妹ファンド「デルタ・ファンド」(出資額計60億ドル=約680億円)も設立されており、こちらもSBIAが運営している。


2018年9月30日時点で投資先は計38社にのぼり、2018年4〜9月期の連結決算(国際会計基準)におけるファンドのセグメント利益は、「Flipkart」の売却完了に伴う投資の実現益1467億円、NVIDIAやOYOなど投資先の公正価値上昇に伴う株式評価益5038億円の計上などにより6324億円に達した。

株式評価益なども寄与して前年同期比で3.4倍に伸びたことになり、ソフトバンク本体の営業利益4469億円を上回った。全体の営業利益は前年同期比62%増の1兆4207億円、売上高は6%増の4兆6538億円となっている。

■自動運転やライドシェア領域における投資状況

自動運転をはじめとしたモビリティ分野への力の入れようは、トヨタ自動車との協業が如実に物語っている。2018年10月4日に発表したトヨタとの戦略的提携・共同出資による新会社「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」の設立記者会見の一幕で、ソフトバンクグループの孫正義会長はモビリティAI革命をけん引するとしており、自動運転やライドシェア、画像認識・処理、IoTなど各分野の投資先を成長・連携させていく群戦略を公言している。

以下、SVFをはじめ、ソフトバンクグループや子会社によるものも含め、モビリティ関連の投資先を紹介する。

半導体分野:NVIDIAとarmに出資 自動車分野で圧倒的なシェア

自動運転分野において、センサー画像の処理を行う半導体GPU開発では群を抜く存在になりつつあるエヌビディア。同社が開発したAIプラットフォーム「DRIVE」が自動車メーカー大手の独ダイムラーや自動車部品大手の独ボッシュといった企業に採用されるなど、その勢いは留まることを知らない。同社への投資額は明らかになっていないが、ファンドの資金調達のクローズの際にエヌビディアの株式を所有していることを発表しており、一部報道によると時価40億ドル(約4500億円)相当という。

また、2016年に3.3兆円の巨額買収で話題となったCPU開発大手の英Arm(アーム)もSVFの投資先に名を連ねている。同社のアプリケーションプロセッサは、車載情報機器でシェア85%、ADAS(先進運転支援システム)で65%を超えているという。

画像認識・処理分野:米スタートアップ2社へ投資 日本市場に展開中

AI安全運転支援デバイスを開発する米Nauto(ナウト)は、2017年7月、ソフトバンクグループがリードするシリーズBラウンドで1億5900万ドル(約180億円)を調達したと発表。2018年7月にはオリックス自動車と業務提携し、AI搭載型通信ドライブレコーダーを日本国内の法人向けに提供開始している。

2018年7月には、多眼カメラを開発する米スタートアップのLight(ライト)が、SVFから1億2100万ドル(約135億円)の調達が発表された。同社の製品である16眼搭載カメラ「L16」も輸入製品販売サイト「ヴェルテ」を通じて日本での取り扱いが始まっている。

自動運転技術開発分野:GM Cruise Automationへ2400億円出資

米ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転開発部門クルーズ・オートメーションは2018年5月、SVFから総額22億5000万ドル(約2400億円)の出資を受けることを発表している(ソフトバンクの資料上は、ソフトバンクグループからの出資となっている)。

GMがクルーズの上場を検討しているといった報道も流れており、実現すればソフトバンク側にも巨額の投資収益がもたらされそうだ。

【参考】Cruise Automationへの投資については「自動運転部門でソフトバンク巨額利益か 出資先GMクルーズ上場も」も参照。GM・Cruise Automationの戦略については「GMと子会社クルーズの自動運転戦略を解説&まとめ 実現はいつ?」も参照。

物流分野:中国のトラック配車アプリ大手に出資

中国の貨物トラックマッチングプラットフォーマー「Full Truck Alliance」は2018年4月、SVFと米グーグルの持ち株会社アルファベットによる投資ファンドなどから計19億ドル(約2150億円)の出資を受けることを発表した。

荷主とトラック運転手を結び付ける中国最大のマッチングプラットフォームで、290万人のトラック運転手が同社サービスを利用しており、同社のマーケットシェアは90%以上に上るという。

ライドシェア分野:UberやDiDiなど有力事業者へ軒並み出資

米Uber(ウーバー)の株式をソフトバンクグループ子会社が保有しており、将来的にSVFへ紹介する可能性があるという。中国のDiDi(ディディチューシン)にはデルタファンドとソフトバンクグループ子会社がそれぞれ投資している。

また、インドのOla(オラ)、シンガポールのGrab(グラブ)にはソフトバンクグループと関連会社がそれぞれ投資しており、4社とも主要株主の座についている。

このほか、位置情報や地図サービスを手掛ける米スタートアップのMapbox(マップボックス)や、AIを活用した自律走行システム開発を手掛ける米Brain Corporation(ブレイン) インターネット専業保険を手掛ける中国のZhongAn Online P&C Insurance(衆安)、中古車販売プラットフォーマーの独Auto1 Group GmbH(アウトアインス・グループ)、カーシェア事業を手掛ける米Getaround(ゲッタラウンド)など、モビリティ関連では広範囲に投資を行っている。

これら多岐に及ぶ事業者をソフトバンクを介して結び付けることで、それぞれの分野でトップを目指しながら付加価値や新たなサービス・ビジネスの創出につなげていく方針だ。

■ソフトバンク・ビジョン・ファンドの第2弾

ソフトバンク・ビジョン・ファンドについては第2弾の組成についても話題になっているが、2018年下旬のサウジアラビアに関係するジャーナリスト殺人事件で、ややその先行きに関して不透明感が増している。

ビジョン・ファンドの第1弾でも主要な出資者だったサウジアラビアの政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」は第2弾ファンドでも主要な資金の出し手になる見通しだったが、PIFを率いる同国のムハンマド皇太子がジャーナリスト殺人事件に関与しているという報道が流れた。こうした混乱の中、PIFが第2弾ファンドのパトロンになり得ないのではないか、という声があがっている。

第2弾ファンドの設立時期などについては2018年12月現在、まだ明らかにされていない。

■世界で最も刺激的な企業群に

SVFの設立は、ソフトバンクの成長戦略である「群戦略」の実現に大きな力となっているようだ。孫会長は群戦略について「それぞれの技術分野で進化の先頭を走る企業に、多くの場合筆頭株主として20~30%の株式を持ち、共に大きく成長していくという組織体のあり方」と語っている。

これまでにない大規模かつ長期的な投資によって、情報革命の次のステージで主役となる可能性を秘めたテクノロジーやビジネスを支援し、世界で最も刺激的な企業群の立ち上げを目指していく構えのようだ。


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