ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)による投資事業が好調なソフトバンクグループが、中東マネーに揺れている。SVFへの主要出資者であり、SVFの第2弾ファンドでもメインパトロンとなる予定だったサウジアラビアがジャーナリスト殺人事件で混乱を極めており、情勢が不透明感を増しているためだ。
自動運転分野をはじめとする多くのイノベーション企業への出資により成果を出し、ソフトバンクグループの中核事業に急成長したSVF。第2弾への期待感も大きいだけに、今後のメインパトロンの行方にも多くの注目が寄せられている。ソフトバンクグループや投資先への影響も懸念される問題であり、事件の早期真相解明が求められる。
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- ビジョンファンドの営業利益、ソフトバンク本体超えの6324億円
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記事の目次
■グループの核事業に急成長したSVFと第2弾構想
ファンドを通じた投資やファンドの投資先企業との提携を通じ、ソフトバンクグループのグローバル成長戦略を加速させることを目的に、2016年10月にSVFの設立が発表された。2017年5月に初回クロージングが完了し、ソフトバンクのほかサウジアラビアの政府系ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)、アラブ首長国連邦アブダビ首長国のムバダラ開発公社、米アップル、米Qualcomm Incorporated(クアルコム)、台湾のFoxconn Technology Group(フォックスコン)、シャープ株式会社がリミテッド・パートナーに名を連ね、世界最大クラスとなる10兆円規模の出資が約束された。
2018年9月30日時点で投資先は計38社にのぼり、ソフトバンクグループの2018年4〜9月期の連結決算(国際会計基準)におけるファンドのセグメント利益は、インドの電子商取引大手Flipkartの売却完了に伴う投資の実現益1467億円、米半導体大手NVIDIAやインド発の新興格安ホテル運営会社OYOなど投資先の公正価値上昇に伴う株式評価益5038億円の計上などにより6324億円に達した。
株式評価益なども寄与して前年同期比で3.4倍に伸びたことになり、ソフトバンク本体の営業利益4469億円を上回った。全体の営業利益は前年同期比62%増の1兆4207億円、売上高は6%増の4兆6538億円となっている。
2018年秋には、ソフトバンクグループの孫正義会長が第2弾のファンド設立構想を明かしている。設立時期や投資先などについては明らかにされていない。
【参考】ソフトバンクグループの決算については「ビジョンファンドの営業利益、ソフトバンク本体超えの6324億円 ライドシェアや自動運転領域にも積極姿勢」も参照。
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— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 5, 2018
■皇太子の記者殺人関与疑惑でSVF第2弾に懸念
SVFのリミテッド・パートナーの中で、特に巨額を出資しているのがPIFだ。正式な額は開示されていないが、5年間で最大450億ドル(約4.7兆円)を出資することで覚書が交わされている。
PIFはサウジアラビア経済にとって戦略的に重要なプロジェクトの資金援助を目的に1971年に設立され、同国政府が保有する優良大企業株式の保有・運用などを行ってきた政府系ファンド。同国財務省が管轄していたが、2015年に当時副皇太子だったムハンマド・ビン・サルマーン氏(現・皇太子)が指揮する「The Council of Economic and Development Affairs(経済・開発問題協議会/CEDA)」に移管された。
ソフトバンクの第2弾ファンド構想に対し、ムハンマド皇太子は第1弾と同規模となる450億ドルを出資する意向を示していた。
そんな中、トルコのサウジアラビア総領事館で、サウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏が死亡する事件が2018年10月2日に発生した。カショギ氏はサウジアラビア政府に批判的な立場をとっていたとされており、トルコ政府当局はカショギ氏が総領事館内で殺害された可能性を指摘していたが、サウジアラビア政府は当初これを否定していた。
しかし、トルコ政府当局による捜査が進むにつれ防犯カメラの映像やさまざまな証言などが明らかになり、サウジアラビア政府は一転してカショギ氏が総領事館内で殺害されたことを認めたものの、ムハンマド皇太子の関与などについては一貫して否定している。
一方、米中央情報局(CIA)はこの事件に関し、サウジアラビア政府の関与とともにムハンマド皇太子の命令があったとする報告を行っている。
事件の真相は明らかにされていないが、渦中の人物であるムハンマド皇太子がPIFを率いていることから、SVFへの出資を懸念する声が各所から挙がっている。
■第2弾ファンドの新たなパトロンは一体誰になるのか
孫会長は、ソフトバンクグループが2018年11月5日に開いた2018年4〜9月期の決算会見でこの事件に関して言及し、事件の真相究明・早期解決を求めるとともにサウジアラビアの資金を預かって運用している責任などを持ち出し、SVF事業の継続に向けた思いを黙示している。
仮にPIFからの出資を断念することになった場合、SVFの新たなパトロンはどうするのか。サウジアラビア同様巨額のオイルマネーを持つアラブ首長国連邦のような存在か、あるいはソフトバンクグループ同様イノベーションに高い関心を示すグーグルやアマゾン、アップルなどのテクノロジー企業と歩調を共にするのか、はたまた仮想通貨に代表されるような巨額投資マネーがひしめく市場が動きを見せるのか。
通信子会社ソフトバンクの新規株式公開(IPO)のような形で自己資金集めに走る可能性や、出資者の増加でまかなう可能性などもゼロではない。
事業の軸足を投資に移すソフトバンクグループにとってSVF事業は欠かせないものとなっており、メインパートナーの動向はグループ内外から広く注目を寄せられる重要案件となっている。
■イノベーションの実現に欠かせない巨大ファンド
自動運転をはじめとするイノベーションが激しい分野では、多くのスタートアップや革新企業が活躍している。その活動を支えているのがSVFのように巨額マネーを中長期的視点に立って投資し続けるファンドや投資家の存在だ。
米電気自動車(EV)大手テスラや米ライドシェア大手のウーバーなども、多くの出資者による巨額マネーで支えられているのが現実だ。バブルだなんだと揶揄されようが、「砂上の楼閣」を「本物の楼閣」に変えるのはこういったマネーだ。
中長期的に開発費用を投じる必要がある自動運転やMaaS(Mobility as a Service)分野でイノベーションを生むためには、なくてはならない存在なのだ。
【参考】SVFについては「ソフトバンク・ビジョン・ファンドとは? 自動運転やライドシェア領域での投資状況は?」も参照。
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— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 9, 2018