自動運転の課題(2024年最新版) 事故責任は誰に?ハッキング対策は?

国際的なルール作りも喫緊の課題に



今や人間の社会生活になくてはならない存在となった自動車。急速に発展を遂げる「自動運転技術」により、この自動車を取り巻く環境が大きく変わろうとしている。


多くのメリットがあるからこそ業界をあげての開発競争が進んでいるわけだが、まだ見ぬ不確定な未来に、漠然と不安を抱えている人も少なくない。この記事では最新情報をもとに、自動運転実現に向けて抱える課題について整理して説明する。

<記事の更新情報>
・2024年4月9日:関連記事を追加
・2023年10月10日:自動運転・ADAS関連の日本提案の国際標準化などについて追記
・2019年1月18日:記事初稿を公開

■課題①:事故責任は誰が負う? 速度超過の「違反者」は誰?

自動運転が浸透してもすぐに交通事故がすべて無くなるわけではない。そのため自動運転車が事故を起こしたとき、事故の責任を誰が負うのかが議論となる。

ドライバー(人)が運転する車と完全自動運転車が事故を起こした場合はどうなのか、完全自動運転車同士であっても自動車メーカーに責任があるのか、あるいはソフトウェアを提供した側なのか、といった議論が必ず表面化するため、一定のルールづくり、つまり法整備が喫緊の課題となる。


日本国内においても官民あげての議論の真っ只中だ。例えば、自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づく損害賠償責任の在り方について検討を重ねてきた国土交通省の「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」は、自動運転システム利用中の事故における自賠法の運行供用者責任について下記のように言及している。

「レベル0(一般車両)からレベル4(高度運転自動化)までの自動車が混在する当面の過渡期においては、自動運転においても自動車の所有者らに運行支配や運行利益を認めることができ、迅速な被害者救済のため従来の運行供用者責任を維持しつつ、保険会社などによる自動車メーカーなどに対する求償権行使の実効性確保のための仕組みを検討することが適当である」(出典:自動運転における損害賠償責任に関する研究会の報告|国土交通省

【参考】自動運転レベルの各レベルの詳しい定義などについては「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説」を参照。

このほかにも、自動運転車がスピード違反を犯した場合の罰則など、責任の所在を明確にすべきケースは多々ありそうだ。


▼自動運転における損害賠償責任に関する研究会
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000048.html

【参考】関連記事としては「自動運転の事故責任、誰が負う?」も参照。

■課題②:必要不可欠な国際的なルールづくりと合意

自動運転車が普及したあとは、多種多様なシステムを盛り込んだ自動運転車が国境を越えてさまざまな国で走行することになるため、国際的なルールづくりも必須となる。

SAE(米国自動車技術会)の自動運転のレベル分けが国際的な標準として定義されているように、より細かで多岐にわたる定義付けや分類、ジュネーブ道路交通条約やウィーン道路交通条約など交通に関する国家間の新たな合意が必要になりそうだ。

【参考】1949年に制定されたジュネーブ道路交通条約では「車両には運転者がいなければならない」「運転者は常に車両を適正に操縦しなければならない」「車両の運転者は常に車両の速度を制御しなければならない」などと定められている。また日本や米国は未加盟だが、2006年に改訂されたウィーン道路交通条約においても、「あらゆる走行中の車両には、運転者がいなければならない」と規定されている。詳しくは国土交通省の「ドライバーと自動運転システムの役割分担の考え方」も参照。

ちなみに日本は、国際的な自動運転システムの安全性評価やADASの衝突回避システム、トラック隊列走行などの議論をリードし、日本発の提案が国際標準となったケースが複数ある。

【参考】関連記事としては「自動運転、日本発の「安全性評価」枠組みが国際標準に」も参照。

■課題③:さまざまな外部情報の共有インフラの整備

自動運転とともに進展しているのが、コネクテッドカーに代表される自動車のIT化だ。自動運転車が直接観測した周囲の情報だけでなく、より広範囲の道路状況や他の車が取得した情報などさまざまなデータを外部から受けることで、自動運転の精度や効率性は飛躍的に高まる。

例えば、急な道路工事や交通事故、障害物など、こういった情報が瞬時に共有されることでより安全な運転が可能となる。そのための新たな基地局やネットワークの整備も必要となる。

■課題④:ハッキングや盗難対策から自動運転車をどう守るか

自動車のIT化が進めば、インターネットにつながったパソコンと同様に、自動運転車もサイバー攻撃の標的となる恐れがあり、故意に事故が引き起こされる懸念もある。また無人の完全自動運転車は、ハッキングによる車そのものの盗難への対策も講じる必要がある。

■課題⑤:AI(人工知能)の完成度

AI(人工知能)はさまざまな情報を解析し、瞬時に判断して安全に自動走行するためのまさに自動運転車の頭脳の部分である。自動運転に不安を抱いている人の多くは、このAIの精度に不安があるからではないだろうか。判断ミスが多ければ当然自動運転は成り立たず、100万回に1回のミスであってもそれが重大事故につながらないとは限らない。

■【まとめ】安全度の高い自動運転社会を迎えるために

以上、自動運転が抱える課題をあげた。このほかにも、軍事目的への悪用防止対策なども課題の1つであると言える。AIを含む先端技術の開発によって、安全度の高い自動運転社会を迎えるためには、より多くの技術者の知恵が今後も必要になってくることは間違えなさそうだ。

また直接の課題とは言えないかもしれないが、完全自動運転が浸透すれば、タクシーやバス、トラックなど輸送を担う運転手の仕事が減っていってしまうとも言われている。職業問題は自動運転に限った話ではないが、現実に起こり得る現象だ。また、運転そのものを楽しむドライブの醍醐味や味わいにも変化が起きるかもしれない。

(初稿公開日:2019年1月18日/最終更新日:2024年4月9日)

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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