自動運転ベンチャー、日本でのSPAC解禁で「上場ラッシュ」も

政府が検討開始、今後の議論の行方は?



成長戦略会議で発言する菅氏=出典:首相官邸

日本国内でもSPAC(特別買収目的会社)上場解禁に向けた検討が始まったようだ。菅政権は2021年6月の成長戦略会議で新たな成長戦略実行計画案を示し、この中でSPAC制度導入に向け検討を進めていく方針を打ち出した。

SPAC解禁で何が変わるのか。自動運転分野においてはどのような影響が生じるのか。この記事では、SPAC解禁に向けた動きとともに海外事例などを解説していく。







■SPACが日本で見送られてきた経緯と背景

SPACは世界各国の主要取引所で導入が広がっており、米国では2020年に前年比4~5倍規模となる248件の上場で計832億ドルが調達されている。2003年から2020年までの累積SPAC上場件数では、米国711件、次いで韓国197件、カナダ61件、英国52件、イタリア26件となっている。

SPACでは、買収時にスタートアップと投資家の双方が合意のもと価格を決めるため、互いに納得した価格で上場できる。IPOにおいては主幹事証券会社が公開価格を決めるため、場合によっては資金調達額が少なくなるが、SPACによってこうした現在の仕組みを解決する上で意味があるとする意見が大きい。

その一方、SPACに投資している投資家保護の観点が必須とする意見も多い。SPAC上場導入をめぐる議論は以前からあったが、この投資家保護がネックとなり、日本では長らく見送られてきた経緯がある。

このため、買収不成立の際の一般投資家への資金の返還など、投資家保護策の観点からSPACを導入した場合に必要となる制度整備について、米国などの規制当局の対応や市場動向、日本の国際競争力の強化の視点を踏まえながら検討するとしている。

現在、東京証券取引所などの国内市場では上場時の審査基準として「継続的な事業活動」などが定められているため、事業としての実態を持たないSPACが上場することは困難だ。スタートアップ育成に向け、今後どのように議論を進めていくのか要注目だ。

■そもそもSPACとは?

SPACは非上場企業の買収を目的とする特別目的会社で、創設直後に上場し、一般投資家から資金を調達する。

その後、買収候補となるスタートアップを選定して買収交渉を進めるが、株主総会で買収先を提案し、基本的に株主の承認を得ることが必要になる。買収案に反対する一般投資家などに対しては資金を返還するなど一定の投資家保護の仕組みが盛り込まれている。

交渉がまとまれば、機関投資家などから追加出資を受けつつスタートアップを買収する。特別目的会社がスタートアップの企業名や事業を引き継ぐことで、実質的にスタートアップが上場を果たす仕組みだ。

上場を目指すスタートアップは、SPACを介することで上場にかかる手間や期間を大幅に短縮することができるほか、買収金額という形で確実に資金を調達することができる。

■アメリカにおけるSPAC上場の事例と予定
LiDAR×SPAC

米国を中心にSPACを活用した上場が激増しているが、数多くのスタートアップが活躍する自動運転分野も例外ではない。

LiDAR関連では、米Velodyne LidarはSPACを活用して2020年9月に米ナスダックに上場し、米Luminar Technologiesも同年12月、イスラエルのInnoviz Technologyも2021年4月にそれぞれナスダック市場に上場している。

米Ousterと米Aevaは2021年3月にそれぞれニューヨーク証券取引所に上場した。米AEyeは、2021年第3四半期にナスダック市場に上場する予定だ。

自動運転の世界的な実用化の波と、自家用車における自動運転レベル2+やレベル3の実装が本格化し始めたことを受け、LiDAR実需も確実に伸びている。今後もLiDAR開発企業の上場が相次ぐ可能性は高い。

空飛ぶクルマ×SPAC

空飛ぶクルマ関連では、エアモビリティのプラットフォームサービスなどを手掛けるBLADE Urban Air Mobilityが2021年5月に米ナスダック市場で取引を開始している。eVTOL(電動垂直離着陸機)を開発する米Archer Aviationは2021年2月、米Joby Aviationは同年3月にニューヨーク証券取引所へのSPAC上場をそれぞれ発表している。

独Liliumも2021年3月、米ナスダック市場へSPAC上場する意向を発表した。独Volocopterも、新たな資金調達の選択肢としてSPACも視野に入れているようだ。

【参考】Joby Aviationについては「「空飛ぶクルマ」開発の米Joby Aviationが上場へ トヨタも出資」も参照。

EV×SPAC

EV関連では、2020年に米NikolaやFisker、Lordstown Motors、CanooなどがそれぞれSPAC経由で株式を公開している。2021年3月には、英Arrivalが米ナスダック市場にSPAC上場した。

コネクテッドカー×SPAC

コネクテッドカー向けのデータ収益化ビジネスを展開するイスラエルのOtonomoも2021年3月、米ナスダック市場上場に向けSPACと合意に達したことを発表している。

自動運転タクシーや自動配送車両の開発企業も?

自動運転システムの開発を手掛けるスタートアップは、サービスの本格化・定着を待っている感を受けるが、自動運転タクシーや自動運転配送車両の開発企業を筆頭に数年以内に上場ラッシュが始まる可能性が高い。

候補としては、米Argo AIやAurora Innovation、Nuro、中国のAutoXやPony.ai、WeRide、Momenta、Neolixなど、有力企業が目白押しだ。従来のIPOを採用する企業も多そうだが、大型上場案件として大きな注目を集めそうだ。

■日本国内の有力ベンチャーがSPAC上場する可能性も

日本国内では、オープンソースの自動運転OS「Autoware」で世界を舞台に活躍するティアフォーやロボットベンチャーのZMPを筆頭に、先進モビリティや群馬大学発ベンチャーの日本モビリティなど、自動運転システム開発企業が続々と台頭している。

電動車いすを中心としたパーソナルモビリティの開発を手掛けるWHILLや、東京大学発スタートアップのTRUST SMITHも急速に知名度を上げている印象だ。

AI関連では、ユニコーンのPreferred Networksやアセントロボティクス、AISing、コーピー、Idein、アラヤなどの存在感が大きい。ルート最適化サービスを手掛けるオプティマインドなどにも注目だ。

もし日本でSPAC上場が解禁されれば、こうした企業がSPAC上場する可能性は十分にありそうだ。

■SPACを4社設立したソフトバンクグループにも注目

ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を中心に投資事業が好調なソフトバンクグループの動向にも要注目だ。同グループは2021年に「SVFインベストメント・コープ」など4社のSPAC設立・上場を行っており、このうち1つはSVFが出資しているMapBoxと協議を進めていることが報じられている。

Nuroなど自動運転関連の投資先は多く、今後の動向に注目が集まるが、国内でもSPACが解禁されれば、スタートアップの受け皿として改めて国内投資にも目を向けることが考えられる。SPACにはこうした企業の存在が必要不可欠なのだ。

■【まとめ】SPAC解禁でどのような変化が起こるのか

国内SPAC解禁により、スタートアップをはじめとした各企業にどのような影響があり、そしてその行動にどのような変化をもたらすのか。

大手の傘下に入る企業、非上場で資金を賄う企業などさまざまだが、選択肢が増えることは望ましい。各社の動向とともに、SPAC解禁に向けた動きについても要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転ユニコーン、時価総額トップ10は!?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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