Nuroの自動運転戦略(2023年最新版)

サービスの実用化に着手、めざましい躍進



出典:Nuro公式ブログ

自動運転配送サービスの展開に取り組む米スタートアップのNuro(ニューロ)。米当局の規制をクリアし、着実にパートナーの輪を広げてサービスの実用化に着手するなど、目覚ましい躍進を遂げている。

この記事ではそんなNuroのこれまでの取り組みを解説していこう。


<記事の更新情報>
・2023年5月14日:最新のNuroの動向について追記
・2021年7月26日:記事初稿を公開

■Nuroの概要
出典:Nuro公式ブログ

Nuroは2016年、現社長のデイブ・ファーガソン氏と現CEOを務めるジアジュン・ジウ氏を中心に米シリコンバレーで設立された。ファーガソン氏はカーネギーメロン大学出身で、スイス連邦工科大学を経て母校のロボティクス研究所へ。ロボット工学やコンピュータービジョン、機械学習な幅広い研究を行っていたようだ。

2007年に同大チームの一員として国防高等研究計画局(DARPA)主催の自動運転技術を競う大会「DARPAアーバンチャレンジ(DARPAグランドチャレンジ)」に出場し、優勝している。優勝チームには、Argo AI創業者のブライアン・サレスキー氏や、Aurora Innovation創業者のクリス・アームソン氏など、現在の自動運転業界をリードするメンバーが名を連ねている。

その後、インテルリサーチなどを経て2011年にグーグルに入社し、自動運転開発プロジェクトでコンピュータービジョンや機械学習などのチームを主導した。


一方、ジウ氏もグーグルの自動運転プロジェクトで主要なソフトウェアエンジニアとして活躍しており、2016年にグーグルを共に退社し、Nuroを創業した。

現在800人超の社員を抱える規模に膨れ上がり、シリコンバレー、スコッツデール、ヒューストンに拠点を構えている。

■2022年11月:従業員の20%をレイオフ

Nuroは2022年11月、全従業員の20%にあたる300人をレイオフすることを明らかにした。


先だってファーガソン氏が従業員宛に送信したメールでは、「過去12カ月で世界は大きく変わった。2021年後半は史上最も強力な資金調達環境の1つ。ディープテック企業には豊富な資金が供給され、ほぼ全ての企業が積極的に採用と拡大を行った」とこれまでの経緯を説明している。

その上で、「2022年は持続的なインフレ、差し迫った米国の景気後退などさまざまなマクロ経済上の課題をもたらした」とし、「会社の支出を徹底的に掘り下げ全面的に削減した。メンバーを解雇するのは最後の手段だが、残念ながら他の選択肢が尽きたためにそれが必要になった」としている。

これまでに推計21億ドル以上の資金調達を実施してきた同社は、貸借対照表にはまだ10億ドル以上あり、これを慎重に展開していく方針としている。

株式市場をはじめとした民間投資は2023年5月時点でまだ回復しておらず、今しばらく我慢の展開が続きそうだ。

【参考】Nuroのレイオフについては「ファンドが圧力?自動運転配送ロボの米Nuro、従業員を20%解雇」も参照。

■2022年9月:Uberと10年間のパートナーシップを発表

Nuroと配車サービス大手Uber Technologiesは2022年9月、食品配達にNuroの自動運転車を使用するための複数年にわたる提携を発表した。

食品デリバリーを主体としたUber Eatsのプラットフォームに自動運転車を導入し、無人配送を実現する試みだ。テキサス州ヒューストンとカリフォルニア州マウンテンビューで配達を開始し、その後ベイエリア全域にサービスエリアを拡大していく方針という。

Uber Eatsは世界各地の1万1,000以上の都市で82万5,000店もの加盟店と提携している。この手のデリバリーネットワークでは世界一だ。将来、Uberのネットワークに乗る形でNuroが海外進出することなども考えられそうだ。

【参考】Uberとの提携については「ついにUber Eatsが自動運転配送!配送車開発のNuroと契約」も参照。

■2022年4月:事業拡大に向けロセンザルスでオンロードテストに着手

Nuroは2022年4月、南カリフォルニアに位置するロサンゼルスでまもなく公道実証を開始すると発表した。

これまで、同州サンフランシスコのベイエリアやテキサス州ヒューストンでサービスを展開していたが、アリゾナ州フェニックスのほかロサンゼルスでも公道実証を開始し、事業を拡大していく構えだ。

■2022年1月:BYDが製造パートナーに

第3世代モデルの発表とあわせ、量産化に向けた製造パートナーとして中国EVメーカーのBYD(比亜迪)と提携を交わすことも明かされた。

BYDとNuroは共同で車両開発に取り組んでおり、BYDは車両の製造と初期車両テストを担当する。製造面では、BYDのカリフォルニア州ランカスター工場でブレードバッテリーや電気モーター、電子制御、ヒューマンマシンインタラクション用のディスプレイなどのハードウェアを組み立て、そこにNuroが自動運転システムや制御モジュール、センサーなどを統合していくという。その後Nuroのネバダ州の施設で最終チェックを行う流れだ。

Nuroと小売り各社らが取り組む配送サービスは、これまで限られた台数で行われていたものと思われるが、大量生産を可能にする下地が整ったことで、各サービスが今後一気に増強されていくことも考えられそうだ。

なお、Nuroのオリジナルモデルは、R1が2018年、R2が2020年に発表されており、2年スパンでモデルチェンジが図られている。次期モデルにも期待が寄せられるところだが、今モデルは名称を「Nuro」とし、量産化に向けた取り組みに本腰を入れていることから、社会実装を本格化させる可能性が高い。今後の動向に要注目だ。

【参考】BYDとの提携については「Nuroの自動運転配送ロボ、中国EV大手BYDが製造パートナーに」も参照。

Nuroの自動運転配送ロボ、中国EV大手BYDが製造パートナーに 

■2022年1月:第3世代「Nuro」発表

Nuroは2022年1月、第3世代となる新型モデル「Nuro」を発表した。実証用のプリウスベースのP1、P2、オリジナルモデルのR1、R2に次ぐ最新モデルだ。

NuroはR2同様一般的な乗用車よりも幅が約20%小さい小型車両・ロボットだ。道路における占有率を低く抑えることで自動車の障害となりにくく、また自転車や歩行者などと共存できるよう設計されている。

カスタマイズ可能なコンパートメントには、R2より約20%多い500ポンド(約226キログラム)の荷物を収納でき、加熱・冷却能力も有している。

最高時速は45マイル(約72キロメートル)で、ボット前面に歩行者向けの外向けエアバッグを備えている。万が一歩行者などと衝突した際、衝撃を弱めるための工夫だ。

このほか、救急車などの緊急車両を検知するマイクシステムも備えている。周囲に配置されたマイクでサイレンを聞き取り、三角測量で緊急車両の位置を特定して自車両を安全に路肩に寄せることができるという。

カメラやLiDARなどの車載センサーをクリーニングするメカニズムも備えている。雨滴などが付いても即座に除去し、センサーの検知能力を常に確保するという。

【参考】Nuroの第3世代モデルについては「自動配送ロボに「歩行者用エアバッグ」!米Nuroの発想力」も参照。

■2021年12月:米セブンイレブンとカリフォルニア州で配送

Nuroと米7-Eleven(セブンイレブン)は2021年12月、カリフォルニア州マウンテンビューでR2を活用した商品配送を開始すると発表した。

セブンイレブンの宅配サービス「7NOW」を活用し、対象エリアで注文時に自動配送を選択可能にする。当初はセーフティドライバー付きの自動運転プリウスを使用し、実証を経てR2の導入を進めていく方針だ。

日本同様、米国全域に店舗網を持つセブンイレブンとの提携は、爆発的なビジネス拡大の可能性が眠っている。まずはカリフォルニア州などの先行地域でどのような成果を出すことができるか、要注目だ。

【参考】Nuroと米セブンイレブンの取り組みについては「韓国と米国のセブンイレブン、自動配送ロボや自動運転車で無人配送に挑戦」も参照。

■2021年6月:FedExと提携、ロジスティクス分野にも進出

Nuroは2021年6月、自動配送によるラストワンマイル物流の推進に向け、物流大手の米FedEx(フェデックス)と提携したことを発表した。Nuroにとって6社目のパートナーで、小荷物配送事業への参入は初めてとなる。

両社は同年4月にヒューストンでパイロットプログラムに着手しており、マルチストップ配送やアポイントメントベースの配送など、公道を走る自動運転車の多様な使用事例を検証している。詳細は不明だが、複数段階の長期契約となっており、ロジスティクスの領域でどのように自動運転技術を活用可能か多方面から研究していく方針のようだ。

■2021年3月:Chipotleから出資、配送パートナーにも

米国や欧州などでレストランチェーンを展開するChipotle(チポトレ)は2021年3月、Nuroの資金調達Cラウンドに参加したことを発表した。

合わせて戦略的パートナーシップを結んでいる。デジタルエコシステムの拡大を図るChipotleの事業に自動運転テクノロジーを活用していく内容のようだ。

■2021年3月:トヨタ系Woven Capitalからの出資が明らかに

トヨタグループで先進技術の研究開発を手掛けるウーブン・プラネット・ホールディングスは2021年3月、投資ファンド「Woven Capital(ウーブン・キャピタル)」の第1号案件としてNuroに出資すると発表した。Nuroの資金調達Cラウンドの一部になるという。

ウーブンはNuroについて「自動運転を用いた地域配送の分野におけるリーダー。最先端技術および米大手ブランドとの強固なパートナーシップによって、日常の買い物体験をより安全かつ効率的で、新しい革新的なものに変えようとしている」と評価し、Nuroのビジネスは、ウーブンが目指す「Safe Mobility for All」にも合致していることから投資を決定したとしている。

【参考】ウーブン・キャピタルからの投資については「トヨタのWoven Capital、第1号投資案件はNuro!自動配送ロボット開発の米スタートアップ」も参照。

■2020年12月:スタートアップのIkeを買収

Nuroは2020年12月、自動運転トラックの開発を手掛けるIke(アイク)を買収すると発表した。新たな専門知識のもと開発体制を強化し、自社技術で実現可能なアプリケーションの範囲を拡大していく方針だ。

Nuro創業者のファーガソン氏とIke創業メンバーのユル・バンデンバーグ氏は学生来の知人で、Ikeが創業した2018年に早々にパートナーシップを結び、技術のライセンス供与などを行っていた。

この買収により、ミドルマイルを担う自動運転トラック分野への進出なども考えられそうだ。

■2020年12月:カリフォルニア州で自動運転商用許可を取得

Nuroは2020年12月、カリフォルニア州車両管理局から自動運転車の商業展開を可能にする許可を取得したと発表した。許可対象には、自動運転仕様のプリウスをはじめ、R2も含まれる。

この1年間でR2の規制免除や公道走行ライセンスの取得、そして商用許可を得ることとなり、自動運転サービス実用化に向け充実した1年となったようだ。

【参考】カリフォルニア州における商用許可については「自動運転車での商用デリバリー、米Nuroがカリフォルニアで認可を初取得!」も参照。

■2020年5月:コロナ禍でコンタクトレス配送を実現

新型コロナウイルスが蔓延する中、Nuroは米薬局チェーン大手のCVS Pharmacyとの提携を発表し、コンタクトレス(非接触)が望まれる中、無人配送車両を活用して処方箋や日用品などを配送する取り組みをヒューストンでスタートした。

また、Nuroはコロナ対策への支援として、アリーナやイベントホールを応急措置として改装した患者収容施設や治療施設などにR2を導入し、必要物資の運搬などを行ったという。

こうしたコンタクトレスの流れはNuroのビジネスを加速させているようで、海外メディアの報道によると、Nuroのビジネスは短期間で300%拡大したようだ。

【参考】CVS Pharmacyとの提携については「自動運転、進む医療領域での活用!米Nuroが処方薬の配送開始」も参照。

■2020年4月:カリフォルニア州で無人走行許可取得

Nuroは2020年4月、カリフォルニア州車両管理局(DMV)からドライバーレスでの公道走行を認める許可を受けたことを発表した。同州ではWaymoに次ぐ許可だ。

この許可により、NuroはR2の公道走行が可能になった。公道実証を加速させ、州全体でサービスできるよう取り組みを加速していく方針だ。

▼自動運転車両走行テスト許可取得企業一覧|米カリフォルニア州車両管理局(DMV)
https://www.dmv.ca.gov/portal/vehicle-industry-services/autonomous-vehicles/autonomous-vehicle-testing-permit-holders/

■2020年2月:R2が道路交通安全局から規制免除を取得

Nuroは2020年2月、R2が米国運輸省(DOT)と米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)から保安基準に関わる規制免除を受けたと発表した。

従来の基準では、乗用車やトラックなどを前提に車両に搭載すべき装備品などが規定されているが、無人走行前提のR2は、アクセルなどの運転装備をはじめ、ミラーやフロントガラスなども備えておらず、保安基準外となっていた。このため、NuroはR2の規制免除を申請していた。

その結果、NHTSAらはR2の安全性や機動性を認め、例外として規制を免除する決定を発出した。

なお、R2はLiDARと360度カメラ、赤外線カメラ、短距離・長距離レーダー、超音波ソナー、緊急車両の音声検出センサーなどを備え、安全性を確保している。ボディサイズは全長2.74×車幅1.10×車高1.86メートルで、重量は1,100キロ。最高時速25マイル(約40キロ)で、22.38立方フィート(約630リットル)の容量に最大190キロの荷物を載せることができる。

【参考】R2の規制免除については「米Nuroの低速自動運転デリバリー専用車に、初の公道走行許可」も参照。

■2019年12月:Walmartと提携、ヒューストンで無人配送へ

Nuroは2019年12月、米スーパーマーケット大手のWalmart(ウォルマート)との提携を発表した。同社の配達網に自動運転技術を導入していく狙いで、ヒューストンでパイロットプラグロムを開始する予定としている。

■2019年6月:Domino’s Pizzaと無人配送実現に向け提携

Nuroは2019年6月、無人配送サービスの実現に向け宅配ピザ大手のDomino’s Pizza(ドミノ・ピザ)と提携すると発表した。同年後半に新型となる「R2」を導入し、ヒューストンでサービスを開始する計画としている。

注文者がオンラインで注文した際、Nuroの車両が使用可能であれば選択でき、PINコードでドアロックを解除して商品を受け取ることができる。アプリで車両の追跡も可能だ。

どのタイミングで実際にサービスインしたかは不明だが、2021年4月に両社は改めて「R2」による無人配送を開始したと発表している。

基本的には、プリウスを活用して周辺のマッピングや走行実証を進め、安全を確保してからR2を導入する流れとなるようだ。

■2019年2月:ビジョン・ファンドが9.4億ドルを出資

Nuroは2019年2月、資金調達Bラウンドでソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)から9億4,000万ドル(約1,000億円)の投資を受けたことが各メディアで報じられた。

SVFは2020年11月の総額5億ドル(約550億円)のCラウンドにも参加しており、Nuroの筆頭株主となっている模様だ。

■2018年6月:Krogerと提携、配送実証へ

Nuroと米スーパーマーケット大手のKroger(クローガー)は2018年6月、自動運転車を活用した食料品配送に向けパートナーシップを締結したと発表した。

同年8月には、第1弾となるパイロットプログラムをアリゾナ州スコッツデールで開始した。当初はトヨタ・プリウスを改造した自動運転車を使用し、セーフティドライバー同乗のもとサービスを提供していた。配送料金は5.95ドル(約700円)と設定している。

配送回数が1,000回に達した同年12月には、プリウスのフリートにR1を加え、無人配送にも着手している。当初は、無人のR1を乗用車で追跡して監視し、安全確保しながら実証を進めていたようだ。

2019年4月には、アリゾナ州に加えテキサス州ヒューストンにもサービスを拡大するなど、無人配送の確立に向けた両社の取り組みは着々と前進しているようだ。

■2018年1月:オリジナルの自動運転初号機「R1」発表

Nuroは2018年1月、自社開発した自動運転車の第1弾「R1」を発表した。車両重量680キロで、ボディサイズは高さ1.8メートルを確保しているが、車幅は1メートル強ほどと小柄で、軽自動車を一回り、二回り小さくしたサイズ感。最高速度は時速40キロほどとなっている。

配送向けの自動運転車は、歩道を走行する自動走行ロボットと自動運転タクシーなどを活用した乗用車タイプの開発が主流だが、その間を取るような形で実用性を高めた印象だ。

モノの配送に特化しているため運転席はもとより座席などを備えておらず、車内空間を有効活用できる。小柄なため駐停車時も邪魔になりにくく、小回りが利くのも売りとなる。何より、わざと小さくすることで車外の歩行者の安全性を確保する狙いがあるようだ。

■2017年6月:資金調達Aラウンドで9200万ドル調達

Nuroは創業間もない2016年に中国で最初の資金調達を行い、100万元(約1,700万円)を獲得した後、2017年6月までに米国で資金調達Aラウンドを完了し、計9,200万ドル(約100億円)を調達した。

■【まとめ】新型モデル「Nuro」の量産化と実用化に注目

市場の状況が好転すれば、足元を見つつも再び攻勢に出る可能性が強く、まずは自社名を冠した新型モデル「Nuro」の量産化と実用化に注目したい。

また、Nuro同様の車道走行可能な小型モデルは、中国NeolixやWhale Dynamicなども台頭し始めており、今後同種のモデル開発に力を入れる企業が続々と現れても不思議ではない。早期に本格実用化を果たし、存在感を確固たるものに変えていきたいところだ。

▼Nuro公式サイト
https://www.nuro.ai/
▼Nuro公式ブログ
https://medium.com/nuro

(初稿公開日:2021年7月26日/最終更新日:2023年5月14日)

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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