自動運転と半導体業界、先行するモービルアイ、追うルネサス

次世代自動車向けに開発合戦進む


出典:モービルアイ社プレスリリース

自動運転やADAS(先進運転支援システム)において、目の役割を担うセンサー。最新の調査結果によると、自動車用センサーの世界市場規模は2023年に今の倍近い662億ドル(約7兆3000億円)に達するというデータもある。

盛り上がり続けるセンサー市場だが、その裏では主導権争いも激化している。各自動車メーカーがADAS(先進運転支援システム)搭載を本格化させた近年は、高度な画像解析技術を持つイスラエルのモービルアイが台頭し、大幅にシェアを拡大した。







一方、日本企業はどうか。半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、車載半導体でトップクラスのシェアを誇っているが、自動運転分野ではモービルアイに大きく水をあけられた印象もある。

今後、普及が見込まれるLiDAR(ライダー)とともにセンサー市場の主導権争いは再び激化・混沌としたものになっていくことが予想されるが、ルネサスをはじめ業界の構図はどのように変わるのか。業界の動向を探ってみた。

【参考】センサー市場の動向については「自動車用センサーの世界市場規模、2023年に7兆円超に LiDARやカメラの需要増か」も参照。

■先行するモービルアイ 第5世代、2020年に投入
センシング技術の高度化に早期に着手

高度なセンシング技術の必要性に早くから着目し、単眼カメラと膨大なデータをもとに独自の画像処理アルゴリズムを構築したモービルアイ。自動車メーカーが続々とADASの開発・実用化を進める時代とマッチし、独BMWや米GM、スウェーデンのボルボなど同社のシステムオンチップ「EyeQ」シリーズを採用するメーカーが相次いだ。

ただ、同社の画像解析技術はもともと単眼カメラを軸としており、自動運転技術の高度化に伴いカメラやレーダー、そしてLiDARといった複数のセンサーを混載するセンサーフュージョンに対しては、処理能力など疑問視する声もあった。自動運転レベル1~2のADASとレベル3以上の自動運転システムでは、センサー類に求められるハードルが格段に上がるためだ。

事実、自動運転レベル3を搭載した独アウディの「Audi A8」のセンサーソリューションがこのことを物語っている。A8は、LiDARをはじめミリ波レーダー、カメラセンサー、超音波センサー合わせて最大23個を搭載しており、センサーからの膨大な情報を統合的に分析して高度な周辺環境モデルを構築する「セントラルドライバーアシスタンスコントローラー(zFAS)」を採用している。

そしてこのzFASは、モービルアイの「EyeQ3」をはじめ、米NVIDIA(エヌビディア)のプロセッサ「Tegra K1」、独Infineon(インフィニオン)の「Aurix」、インテル傘下の米Altera(アルテラ)の「Cyclon V SoC」で構成されている。EyeQシリーズ単体では自動運転レベル3相当を実現するセンサー類に対応しきれていない所以と言えよう。

第4世代、そしてレベル4〜5に対応する第5世代へ

もちろん、この点はモービルアイも自覚しており、高度な自動運転の実現に向けた投資と開発を進め、第4世代となる最新の画像処理チップ「EyeQ4」は、自動運転レベル3に対応できる製品となった。第3世代の8倍となる1秒間に2.5兆回の演算が可能となるなど処理能力が飛躍的に増し、これまでの単眼カメラからサラウンド・カメラをはじめレーダー、LiDARのフルセットを処理することができるという。

現在開発中の第5世代は2020年に導入される予定で、自動運転レべル4~5をサポートするという。完全自動運転には高解像度カメラやレーダー、LiDARなど数十個のセンサーのフュージョン化が必要で、センサーフュージョンプロセスではすべてのセンサーのデータを同時に取得して処理する必要があるため、「EyeQ5」は毎秒15兆回の演算処理を目標に据え開発を進めているほか、他社に比べ低い消費電力で動作可能なものになるという。

■追うルネサス マイコンとSoCに強み
自動車向けが主力、売上の54%

2018年12月期におけるルネサスの半導体売上高の内訳は、自動車向けが3985億円で全体の54%を占めている。高品質・低消費電力を誇る世界シェアナンバーワンの車載マイコンやシステムオンチップが武器で、自動車のエンジンや車体などの制御向け、カーナビゲーションなどの車載情報機器向けが主力となっている。その一方、ADAS関連ではモービルアイに遅れをとっているのは否めない状況だ。

同社は「変革プラン」として2013年10月から「構造改革による利益率の改善」と「事業の選択と集中による利益成長の実現」という2つの重点課題に取り組み、自動車向けに注力するなど集中投資を行ってきた。

2016年11月には中期成長戦略を策定し、自動車事業や産業・ブロードベース事業における各注力市場に経営資源を集中投下することとした。半導体売上については、同社対象市場の成長率の2倍以上の成長率を実現し、圧倒的なシェアを持つマイコン・SoCを基点に、成長機会の大きいエコカーと自動運転に投資を集中しさらなる成長を目指すこととしている。

最新の「R-Car Gen3」、膨大なデータ処理可能に

ADAS関連では、車載情報機器向けSoC「R-Car」シリーズに、ADASに求められるさまざまな機能を強化した「R-Car V2H」を開発し、2014年に発売した。ADASに求められる機能をワンチップに集積しながら低消費電力を実現したほか、画像認識コア「IMP-X4」で提供される画像認識ライブラリはオープンソース対応版も拡充しており、ユーザーのソフトウェア開発効率を飛躍的に向上させることを可能にした。

最新シリーズの「R-Car Gen3」は、Arm社の64ビットアーキテクチャCPUコアを採用しており、自動車に搭載された複数のセンサーからの膨大な量のデータを処理する性能を備えているという。

2017年4月には、自動運転時代に向けクラウドサービスからセンシング・車両制御までエンド・ツー・エンドのトータル・ソリューションを提供する新たなコンセプト「Renesas autonomy」を発表。その第一弾として、高性能画像認識向けSoC 「R-CarV3M」の発売も発表しており、同製品のスターターキットでは、ディープラーニングを取り入れた最先端のカメラアプリケーションを低消費電力かつ高性能で実現することが可能という。

このほか、画像認識やHMIなど高い専門性を持つプロフェッショナルなエンジニアのための新開発キット「Pro」や「Premier」などもラインナップしている。

国内外企業との協業を拡大

協業関係では、2017年5月にSUV・トラック分野で中国最大の自動車メーカー長城汽車股份有限公司と、中国における電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)といった新エネルギー車、自動運転車などの分野に向けた車載用半導体技術及びソリューションの共同開発に関する戦略的協業を発表している。

2017年10月には、トヨタ自動車とデンソーが開発中の自動運転車に、 車載情報・ADAS用SoC「R-Car」と車載制御用マイコン「RH850」を含む 自動運転車向けソリューションが採用されたことを発表。 周辺認知から走行判断、車体制御まで、トータルに半導体ソリューションを提供することとしている。

また同月、オーストラリアの「Australian Semiconductor Technology Company(ASTC)」とその子会社とともに、「R-Car V3M」をパソコン上に再現し、組み込みソフトウェアをパソコンのみで開発できる仮想環境「VLAB/IMP-TASimulator」を共同開発したことも発表している。

2017年12月には、リアルタイム3次元 LiDAR処理のパイオニアである仏Diboticsと、ADAS向けLiDARソリューションで協業したことを発表した。「R-Car」とDiboticsの各種LiDARセンサーに対応可能なSoC向けソフトウェア「SLAM on Chip」テクノロジーの組み合わせにより、従来必要とされていたIMU(慣性計測ユニット)とGPS(全地球測位システム)データを使用せず、LiDARのデータだけで3次元マッピングシステムが実現可能になるという。

このほか、2018年にパイオニアが開発した3D-LiDARがR-Carに対応したことなども発表されている。

高性能かつ低消費電力を実現したマイコンと業界において開発が手薄なSoCを主軸に、他社との協業を加速していく方針のようだ。

■開発レースの参戦者たち
NVIDIAは対モービルアイの急先鋒

半導体分野でモービルアイを脅かす急先鋒がエヌビディアだ。高速画像処理を可能とするGPUやAIチップ、AIプラットフォームなどを武器に、自動車メーカーらのADAS(先進運転支援システム)開発から完全自動運転開発までトータルでサポートする製品を展開している。

「NVIDIA DRIVE」プラットフォームは、最大16個のカメラセンサーからのデータを同時に処理でき、AI自動運転車の開発に向けた信頼性の高いトレーニングライブラリ構築のために重要なデータを収集できる。「NVIDIA DGX」データセンターシステムは、安全なAI実装への最速手段を提供し、膨大な量のデータを使用して自動運転のためのディープラーニングモデルをシームレスにトレーニングできる。

アウディをはじめ独VWやダイムラー、スウェーデンのボルボなどパートナーシップを拡大しており、高度自動運転に向けた画像解析・処理分野でモービルアイの牙城を崩しにかかっている。

【参考】エヌビディアの戦略については「エヌビディア(NVIDIA)の自動運転戦略まとめ 半導体開発や提携の状況は?」も参照。

英アームも追い上げ、画像解析ではソニーなど日本勢も浮上か

半導体分野では、ソフトバンクグループ傘下の英半導体設計最大手アーム・ホールディングスも有力だ。2018年9月には、新たな「Arm Safety Readyプログラム」や世界初の自動運転対応プロセッサとなる「Arm Cortex-A76AE」、アプリケーション・プロセッサでは初となる安全性技術「Split-Lockテクノロジー」を同時に発表している。

このほか、米オン・セミコンダクターやオランダのNXPセミコンダクターズなど半導体を主力とするサプライヤーは世界各地に存在している。変わり種では、中国の電子商取引(EC)大手アリババ・グループが新たに半導体企業を立ち上げ、チップ生産を2019年から開始するという報道も流れている。

画像解析技術では、デジタルカメラ開発を手掛けるソニーやパナソニックの台頭なども考えられるだろう。

Valeoは量産車向けLiDARで「先手必勝」

仏自動車部品大手のヴァレオは、量産車アウディA8に世界初のLiDAR搭載を実現し、勢いに乗る。幕張メッセで2018年10月に開催された「CEATEC JAPAN 2018」で初公開した「ヴァレオXtraVue」技術も注目を集めており、車載のテレマティックスアンテナとLiDAR、コンピューター画像カメラシステムを組み合わせることで、視界に入らない領域も含め路上で何が起きているかをドライバーに知らせることを可能にしている。

自動運転のプロトタイプ車両も自作しており、総合サプライヤーならではの広範な技術力でLiDAR市場においても先手必勝を狙う。

【参考】ヴァレオの戦略については「ヴァレオ(Valeo)の自動運転戦略まとめ LiDAR製品や技術は?」も参照。

Velodyne LiDAR、低価格モデル開発も

自動運転分野におけるLiDAR開発にいち早く着手した米ベロダインライダー。同社製LiDARのハイエンドモデルがグーグルの自動運転試験車両に採用されるなど注目を集め、現在は低価格帯のエントリーモデルの開発や量産体制の構築を進めている。

量産車への搭載ではヴァレオに先を越されたが、LiDAR開発のパイオニアとして巻き返しを図る。

【参考】ベロダインライダーの戦略については「ベロダインライダー(Velodyne LiDAR)を徹底解説! 「自動運転の目」で世界大手」も参照。

スタートアップの参戦続々、独自技術の獲得争いも激化予想

大手サプライヤーの多くがLiDAR開発に力を入れており、日本国内では、デンソーやパイオニア、東芝、リコー、オムロンなども開発を進めている。

また、米LuminarやQuanergy Systems、TriLumina、Cepton Technologies、AEye、豪Barajaなど、独自技術を備えたスタートアップも続々と参戦しており、シェア獲得争いだけでなく、技術獲得争いなども激化しそうだ。

■「モービルアイvsエヌビディア」の様相濃く

現時点におけるモービルアイの最有力対抗馬はやはりエヌビディアで、モービルアイ社も隠すことなくライバル視しているようだ。モービルアイのバックに構えるインテル含め、パソコンなどで培ってきた技術が生かされており、しばらくは上位勢同士の争いとなりそうだ。ルネサスは他社の開発をアシストする方向性が強く、協業相手次第で急浮上することも考えられるだろう。

LiDAR分野は総合サプライヤーが量産化体制を整え、ヴァレオやベロダインと真っ向勝負する形になりそうだ。その過程で有力なスタートアップの買収や提携なども相次ぎ、激しい動きを見せる可能性もありそうだ。







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