【最新版】MaaSとは?基礎知識まとめと完成像を解説

国内MaaSレベルは?MaaSを構成するサービスは?



全国各地のMaaSなど新たなモビリティサービスの実証実験を支援する、国土交通省の「新モビリティサービス推進事業」がスタートし、MaaS構築に向けた取り組みが急加速している。実証の下、各地でMaaSサービスやMaaSアプリが産声を上げることになり、MaaSが身近な存在になり始める。


今回はMaaSについて一から理解を深めるため、MaaSの基礎知識から開発状況、完成系、課題に至るまで全てを網羅する形でまとめてみた。MaaSとは一体どのようなものであるのか?

【参考】新モビリティサービス推進事業については「いざMaaS元年へ!決定した19の先行モデル事業の詳細 自動運転やライドシェアの導入も」も参照。

■MaaSの基礎知識
語源

「Mobility as a Service」の略で、マースと読む。直訳すると「サービスとしてのモビリティ」で、移動のサービス化を意味する。ITS(Intelligent Transport Systems/高度道路交通システム)を活用した新たな交通政策を進めるフィンランド政府の取り組みの中で2014年ごろに生まれた概念とされている。

【参考】関連記事としては「MaaSの読み方は?」も参照。


概念

新しい考え方のため、流行しているかのようにさまざまな場面でMaaSという言葉が利用されており、現状定義にばらつきがみられるが、一般的には「あらゆる交通手段を統合し、ワンストップで予約・決済・利用できるようにする概念」を指す。


最終的には、都市計画と整合するなど交通政策に位置付けられるレベルまで統合される必要があるが、現段階では、プラットフォームを活用するなどしてさまざまな交通手段を結び付けていくことと考えていれば間違いはない。

例えば、電車やバスなどの公共交通機関をはじめ、タクシーやライドシェア、サイクルシェア、飛行機、船など、各移動サービスの予約や決済などが一つのプラットフォーム、いわば一つのアプリ上で行うことができるようにするイメージだ。

■MaaSのレベル

MaaSレベルは、サービスへの統合の程度に応じて各段階をレベル分けしたもの。国や研究者によって定義される内容・範囲が異なるが、今のところ、スウェーデンのチャルマース工科大学の研究者が発表したMaaSを5段階にレベル分けした定義が有名だ。以下、これに基づき、それぞれのレベルについて説明しよう。

レベル0:各移動主体が独立して運営する旧来のアナログ的なシステム

レベル0は「統合なし」で、それぞれの移動主体が独立したままサービスを提供する旧来のものを指す。

レベル1:情報がデジタル化され、複数の移動サービス情報をまとめて提供

レベル1は「情報の統合」で、利用者には料金や時間、距離など各移動主体に関するさまざまな情報が同一プラットフォーム上で提供される。出発地と到着地、日時などを打ち込むと、複数の移動手段を交えた交通案内を提供してくれる乗り換えサービスなどがこれに当たる。

乗換案内サービスを手掛けるジョルダン株式会社や、「NAVITIME」を運営する株式会社ナビタイムジャパンなどが、MaaSレベル1の代表例となる。

レベル2:予約・決済がシステム化

レベル2は「予約、決済の統合」で、同一プラットフォーム上で交通案内から発券や予約、支払いまでを行うことが可能になる。利用者は、スマートフォンなどのアプリケーションで目的地までのさまざまな移動手段を一括比較し、単一、もしくは複数の移動主体を組み合わせたまま予約や決済などができるようになる。

なお、予約や決済などをプラットフォーム化したタクシー配車アプリなどは、現状、他の移動サービスと連携していないため実質的にMaaSレベル0とする見方や、あくまで同一プラットフォーム内で予約・決済を統合しているためMaaSレベル2とする見方もあるようだ。

各移動サービスの「統合」にMaaSの本質があるという見地に立ち、ここではこれらのプラットフォームをMaaSレベル0として扱う。

レベル3:各移動サービスの料金なども体系化して統合

レベル3は「サービス提供の統合」だ。プラットフォーム上において、各移動サービスを一つの運営主体が提供しているかのようにサービスを受けることができるようになる。事業者間での提携などが進み、サービスの高度化にもつながる。

例えば、ある目的地に向かう際、どの交通手段を使っても一律料金が適用される場合や、月定額料金で一定区域内の移動サービスが乗り放題になるプラットフォームなどが挙げられる。民間におけるMaaSの完成はこのレベル3とされている。

レベル4:社会課題と結びつき、交通全般を最適化するシステムに

レベル4は「政策の統合」となり、国や自治体、事業者が、都市計画や政策レベルで交通の在り方について協調していく。国家プロジェクトの形で推進される最終形態だ。

例えば、渋滞が慢性化している都市部においては、パーソナルカーを減少させ、効率良く大勢の人が移動できる交通体系を確立させるため、乗り換え場の設置などインフラ面の整備も含め国策、施策として進めていく。

場合によっては、移動サービスだけでなく、駐車場やガソリンスタンドなど交通にまつわるすべてのサービスを統合することも考えられるだろう。

いまの日本は「レベル1」の段階

日本国内においては現在MaaSレベル1の段階にあり、時刻表やルートなどの情報のみが統合されている状況だ。予約・決済を行うことができるプラットフォームは、自社サービスのみに限定されている。

例えば、日本交通系のJapanTaxiやDeNAのMOV、ソニー系のみんなのタクシー、Uber、DiDiといったタクシー配車アプリは、それぞれが提携するタクシー事業者の予約・決済に限定される。

個人間カーシェアなども同様で、登録制でクレジットカード払いが基本ではあるが、プラットフォーム上で予約から決済までを完結できるシステムが構築されているものの、当然自社サービス内にとどまる。

先述したように、定義上、単一の移動サービスのプラットフォーム化はMaaSにあたるのか?という疑問があり、便宜上単一のものについてはMaaSレベル0相当とした。しかし、プラットフォーム化されることでキャッシュレス決済の導入など予約や決済機能がシステム化され、他の移動サービスとの連携も図りやすくなるため、MaaSにおいては基礎をなす要素といえるだろう。

なお、運営母体が異なる複数の移動サービスを統合したプラットフォームは、各地で実証が進められている段階で、本質的なMaaSレベル2はまもなく実現する見込みだ。

【参考】MaaSレベルについては「MaaSレベルとは? 0〜4の5段階に分類」も参照。

■MaaSの完成イメージと具体例
プラットフォームがMaaSの鍵を握る

近年、ライドシェアやカーシェアといった移動手段が人気を集め、クルマに対する概念が所有から共有・利用へとシフトし始めている。また、トヨタが2018年1月に米ラスベガスで開催された「CES 2018」で初公開したMaaS専用次世代EV(電気自動車)「e-Palette(イーパレット)」など、多用途を意識したコンセプトカーなども登場している。

ただ、これらの移動サービスやモデルはあくまでMaaSを構成する要素でしかない。これらが効果的につながり、結びつくことで一つの大きな移動サービス・交通サービスとなり、MaaSが成立するのだ。

これらを結び付ける肝となるのがプラットフォームだ。MaaSの完成には、まず各移動サービスがプラットフォームに対応する必要があり、予約・決済をインターネット上で完結できる仕組みを構築しなければならない。

例えば従来の電車は、ICカードの導入などでキャッシュレス決済への対応は進んでいるものの、指定席以外は基本予約が不必要なため、単体ではプラットフォーム化のメリットが乏しい。バスも同様で、日常的に使う地域の循環バスなどは基本予約を必要としないため、単体ではプラットフォーム化には向かない移動サービスとなる。

逆に、予約に近い「配車」機能に利便性が認められるタクシーでは、プラットフォーム化が著しく進んでいる。MaaSを意識したプラットフォーム化と言うより、利用者の利便性を追求したサービスとして進化した格好だ。

単体ではプラットフォーム化の必要性が薄い移動サービスや、単体で十分利便性を発揮できる移動サービスなどさまざまなサービスが存在するが、目的地まで複数の移動手段がある場合や乗り換えの必要がある場合など、各移動サービスがシームレスにつながれば利用者の効用はより高まり、各移動サービス事業者にも相乗効果が発生し始める。

このプラットフォームの主導権争いが今後激化する可能性が高く、各地域において実証が活発化している。MaaSは一定のエリア内における交通・移動サービスの統合が主体となるため、各エリア内の移動サービス事業者が連携し、プラットフォームを構築していくスタンスが基本となるが、ある程度成熟すると、MaaS未導入地域に向けた汎用性の高いプラットフォームサービスが登場し、競合していく可能性が考えられる。

決済面では、近年「Apple Pay」や「Google Pay」などのスマホ決済をはじめ、ソフトバンク系決済サービス「PayPay」や「LINE Pay(ラインペイ)」、「楽天ペイ」など各社がサービスを提供しており、プラットフォームの中に容易に組み込むことができるため、この点ではハードルが低くなった印象だ。

MaaS具体例

一例として、羽田空港から神奈川県藤沢市の江の島まで行くルートを考えてみる。「ジョルダン」で同ルートを検索すると、羽田空港国内線ターミナルから京急空港線(私鉄)、京急本線(私鉄)、JR東海道本線、小田急江ノ島線(私鉄)を乗り継ぎ、最後は徒歩(19分)で江の島に到着する経路や、羽田空港国内線ターミナルから同様に東海道本線まで乗り継ぎ、藤沢駅から江ノ電バスに乗る経路などが提案される。徒歩の部分は、タクシーやサイクルシェアなどに置き換えて考えることもできるだろう。

利用者は、所要時間や総料金、乗り継ぎの手間などそれぞれが優先する要素によって経路を決定するが、私鉄やJR、バスなど、それぞれICカードや現金で決済する必要がある。予約を要する移動サービスがあれば、その手間も必要となる。

このケースにMaaSをあてはめると、まずジョルダンによる情報検索がMaaSレベル1に相当する。高度なMaaSレベル2では、複数の移動サービスにおける予約・決済までが同一プラットフォーム上で行うことができるようになり、予約・決済を1回の処理で行うことができるようになる。システムによっては、決済などを各移動サービスごとに行う必要があるかもしれないが、同一プラットフォーム上から手軽に行うことができる仕様になっているだろう。

MaaSレベル3では、羽田空港から江の島までが一つのエリアに含まれ、タクシーなどは距離に応じてオプション扱いとなる可能性もあるが、基本的にどの経路・移動サービスを利用しても定額で決済されることになる。経路内に存在する各移動サービスが一つの運営主体に統合されたようなイメージだ。

MaaSレベル4になると、羽田空港から江の島に至る交通課題を洗い出し、最有効な移動サービスを提供可能な交通体系や地域づくり、地域の課題を解決する方策などが盛り込まれることになるだろう。

■MaaSの完成系サービス
【フィンランド】Whim

MaaS発祥と言われる、北欧フィンランドのスタートアップ「MaaS Global」社が手掛けるプラットフォームサービス「Whim(ウィム)」。2016年6月に首都ヘルシンキで産声を上げた、MaaSレベル3を実現したプラットフォームだ。

自家用車の増加などにより交通渋滞や環境悪化などが顕在化していたヘルシンキでは、以前から交通問題解決に向け取り組む動きがあり、運輸通信省の支援の下、主要大学やタクシー協会、民間企業など100以上の団体・組織が参画する産官学コンソーシアム「ITSフィンランド」などがプロジェクトを始動させ、実証実験やビジネス化に関する検討を進めていた。

この中でMaaSの概念が生まれ、コンソーシアムのメンバーのSampo Hietanen氏が2015年にMaaS Global社の前身となる「MaaS Finland」社を設立したのがはじまりだ。

Whimには、その地域の公共交通機関をはじめタクシーや鉄道、カーシェアリング、ライドシェアリング、サイクルシェアといったあらゆる移動サービスが一元的に登録されており、アプリで目的地を設定すると、最適な移動手段や経路を自動で提案してくれる。もちろん、移動手段や経路を指定することも可能だ。

料金体系は、月額無料の「Whim To Go(ウィムトゥーゴー)」、月額数千円の「Whim urban(ウィムアーバン)」、月額数万円の「Whim Unlimited(ウィムアンリミテッド)」の3つの運賃体系をとっている。

「Whim To Go」は、公共交通機関やタクシー、レンタカーなど、その都度利用料金を支払う。「Whim urban」は、公共交通機関に無料で乗ることができ、タクシーなどは別料金となる。ヘルシンキではタクシーは5キロメートルまで10ユーロ(約1300円)、レンタカーは1日49ユーロ(約6300円)で借りることができる。「Whim Unlimited」では、基本的にほぼ全ての乗り物が無料で利用可能となる。

Whimは、ヘルシンキのほか、2017年にベルギーのアントワープで試験サービスを開始し、以後英国ウェストミッドランズ州のバーミンガム、オランダのアムステルダム、シンガポールなど、現地の提携企業とともにサービス範囲を拡大している。

【参考】Whimについては「MaaSアプリ「Whim」とは? 仕組みやサービス内容を紹介」も参照。

また、同社に対し、トヨタフィナンシャルサービスやあいおいニッセイ同和損害保険、デンソーが2017年にそれぞれ出資しており、研究開発に役立てているほか、2019年4月には、三井不動産もまちづくりにおけるMaaS実用化に向けて協業することを発表し、両社で2019年内に首都圏において交通事業者などと連携した実証実験を開始するとともに、サービス化に向けた今後の取り組みを加速することとしている。

商業施設をはじめとした不動産などと連携した新型MaaSが実現する可能性は高そうだ。

【参考】三井不動産との協業については「三井不動産、「Whim」を展開するMaaS Globalに出資」も参照。

ドイツ】moovel

MaaSという概念が生まれる前の2012年、独自動車メーカーのダイムラーがマルチモーダルプラットフォームの「moovel」へ出資したのを皮切りにサービスを本格化させた。当初は予約・決済機能が備わっていなかったが、2015年に各種機能を備えたようだ。北米でも広くサービスを展開している。

Moovelでは、カーシェアリングのcar2goやタクシー配車のmytaxiなどダイムラーが子会社化したサービスをはじめ、鉄道や地下鉄、バス、レンタサイクルなどが利用可能なようだ。

2019年2月には、独自動車メーカーのBMWとダイムラーがモビリティサービスの領域で統合し、5つの合弁会社を設立すると発表した。これに伴い、moovelをはじめ両社が展開しているモビリティサービスは、さまざまな移動手段をつなぐマルチモーダル・オンデマンド・モビリティサービスを提供する「REACH NOW(リーチナウ)」に2019年内に統合される予定となっている。

【参考】リーチナウについては「欧州の双頭・BMWとダイムラーによる「リーチナウ」の可能性とは?」も参照。

【ドイツ】「DB Navigator」&「Qixxit」

ドイツ鉄道が提供するMaaSプラットフォームで、DB Navigatorは、ドイツ鉄道をはじめ、他の移動サービス事業者が運行する地下鉄や路面電車、バスなど、各地の運輸連合の乗車券を取り扱う方法で予約・決済まで対応している。

一方、経路検索サービスとしてスタートしたQixxitは、徐々に機能を拡張し、世界各国の空路を含め利用者が検索した経路における各移動サービス事業者の予約・決済サイトへ直接誘導する機能なども備わっているようだ。

■開発・実証中のMaaS
【日本】my route(トヨタ・西日本鉄道・JR九州)

トヨタ自動車と西日本鉄道が2018年11月から福岡県福岡市で実証を行っているマルチモーダルモビリティサービス。バス・鉄道・地下鉄などの公共交通をはじめ、タクシー、レンタカー、自転車、徒歩など、さまざまな移動手段を組み合わせてルートを検索し、必要に応じて予約・決済まで行うことができる。

実証実験において、トヨタはアプリと決済プラットフォームの開発・運営やレンタカーの情報提供を担い、西鉄は自社が運行するバスの位置情報や、西鉄グループが持つ店舗・イベント情報の提供を行うとともに、アプリ内限定で福岡市内フリー乗車券のデジタル版を初めて販売する。決済は、一部タクシーと西鉄バスのデジタルフリー乗車券の購入が可能なようだ。

実証期間は当初2019年3月末までを予定していたが8月末まで延長され、その後2019年11月からはJR九州も参画し、サービス提供エリアを北九州市にも拡大してサービスが実施されている。

【参考】関連記事としては「トヨタのMaaSサービス「my route」を徹底解説」も参照。

【日本】JR東日本

JR東日本は2018年7月に発表した10カ年計画の中期経営ビジョン「変革2027」の中で、アプリや配車サービス、交通ICカード「Suica」などの多面的な活用・連携を通じて、移動のための情報・購入・決済をオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を推進していく方針を明らかにしている。

現在、鉄道各社や自治体などとの連携の下、国内外観光客が駅や空港からバスやタクシー、AI型オンデマンド交通などの2次交通をスマートフォンなどで検索・予約・決済し、目的地までシームレスに移動できる2次交通統合型サービス「観光型MaaS」の提供や、新しい交通手段の開発などに取り組んでいる。

2019年4月から東京急行電鉄とともに「静岡デスティネーションキャンペーン」に合わせて観光型MaaSの実証実験を伊豆エリアで開始するほか、小田急電鉄ともMaaS分野での連携について検討を開始することを発表している。

また、2017年9月に同社が中心となって立ち上げた「モビリティ変革コンソーシアム」においても、Suica認証による交通事業者・デマンド交通・商業施設の連携に関するMaaS実証が行われている。

【日本】小田急MaaS

小田急電鉄はJR東日本との取り組みのほか、ヴァル研究所、タイムズ24、ドコモ・バイクシェア、WHILLの4社と連携し、多様な交通・生活サービスなどを統合したアプリなどを含む「小田急MaaS」の実現に向け、システム開発やデータ連携、サービスの検討などを進めている。

計画では、ヴァル研究所の検索エンジンとアプリを連携し、小田急グループの鉄道やバスなどの交通データのほか、タイムズ24のカーシェアリングサービスのデータ表示、ドコモ・バイクシェアのサイクルポートのデータ表示を可能にするほか、公共交通機関を降りた後のラストワンマイルの移動手段として、WHILLのパーソナルモビリティとの連携も行う予定。2019年末までに箱根エリアなどで実証実験を行うこととしている。

また、国土交通省が公募していた新モビリティサービス推進事業にも神奈川県における郊外・観光一体型MaaS実証実験が選定され、神奈川県、川崎市、箱根町とともに、MaaSアプリの構築・提供を通したサービスの効果や需要に関する実証をはじめ、他地域のMaaSとの連携に向けた取り組みなどを進めていく予定だ。

【参考】小田急の取り組みについては「JR東日本と小田急、MaaS分野で連携検討 独自開発アプリなど連動か」も参照。

【日本】setowa(JR西日本)

西日本旅客鉄道(JR西日本)は2019年10月末から観光型MaaSアプリ「setowa(せとわ)」を配信している。観光客が瀬戸内エリアでの旅行する際に便利なように設計されているアプリだ。広島県東部を中心とするエリアで利用でき、2020年3月31日まで利用可能なことが発表されている。

このsetowaアプリでは、新幹線や鉄道、船舶、バス、タクシー、レンタサイクル、カーシェアなどを、アプリをインストールしたスマートフォンで一元的に検索・予約・決済できることが特徴だ。まさにさまざまな交通機関を統合するMaaSの概念を具現化したアプリだ。

発表によれば、JRや路線バス、船舶などが乗り放題となるプランと、現地の観光施設入館券がセットになっているフリーパスやデジタルチケットなども提供されるようだ。

【日本】WILLERSアプリ(WILLER)

高速バス大手として知られるWILLERも観光MaaSアプリ「WILLERSアプリ」を2019年10月末にリリースした。目的は地方の観光地における二次交通不足の課題を解決することで、交通機関とアクティビティの両方を対象にしている。

具体的には、行きたい観光地や体験したいアクティビティを決めたら、出発地からその目的地に行くまでの鉄道やバス、タクシー、レンタカーなどをWILLERSアプリ上で検索・予約・決済でき、旅行の準備をスピーディーに終えることに貢献する。

2019年7月の発表時点では、WILLERSアプリが利用可能なのは「ひがし北海道エリア」と「京都丹後鉄道沿線エリア」。基本的には個人旅行者を対象として展開されており、今後も利用可能エリアが続々と日本国内の各地で広がっていきそうだ。

【日本】ジョルダン

乗換案内サービスを手掛けるMaaSレベル1のジョルダンも、本格的なMaaSサービスの提供に向け大きく動き出している。

2018年7月に設立を発表した子会社「J MaaS 株式会社」では、交通・観光・ICTなどの事業者向けにMaaSインフラを提供することを計画しており、多くの企業や団体の参画を募っている。

2019年1月には、公共交通チケットサービスを提供している英Masabi社と日本における総代理店契約を締結し、経路検索をはじめチケット購入・乗車をスマートフォンだけで完結させる「モバイルチケットサービス」を2019年から本格的に提供開始する。将来的には交通事業者との連携を拡大し、2020年までに複数の交通機関への導入を見据えているようだ。

アメリカ】オハイオ州コロンバス

米連邦運輸省が2015年に実施した、先進の自動車・ITS技術を集中的に実証する目的で新しい技術の応用アイディアを都市間で競うコンペ「スマートシティ・チャレンジ(Smart City Challenge)」で選定されたコロンバスの提案は、ある意味でMaaSレベル4の要素を含んでいる。

低所得者家庭における乳児の死亡率改善などを目指した交通システムの改善などユニバーサルモビリティデザインを主とした内容で、コネクテッド通信や交通データシステムなどを導入することで、緊急時に乳児の保護者が医療機関を瞬時に受信できるよう交通システムを改善することとしている。

また、市民の職場へのアクセス改善、センサーやマルチモーダルなアプリなどを活用した住民間の情報共有、渋滞や駐車場情報のリアルタイムな提供、EVを活用した持続的な交通システムなども検討されている。各移動サービスが主体となっているわけではないが、政策との融合という意味でレベル4の要素を備えている。

【アメリカ】カリフォルニア州サンフランシスコ

サンフランシスコのParkmerced 社が、賃貸住宅にMaaSのサブスクリプション機能を導入した「Car-Free Living」という取り組みを行っている。物価が高いサンフランシスコにおいて、自動車保有コストを下げる狙いがあるようだ。

賃貸住宅の住居者に月100ドル(約1万1000円)分のポイントを付与し、ポイントの範囲内において、Uber Poolの配車サービスとサンフランシスコの公共交通系ICカードの移動が可能になる仕組みだ。

【シンガポール】mobilityX

シンガポール最大の鉄道会社SMRTの子会社mobilityXが、公共交通からタクシーやカーシェアリングを含めた交通デジタル・プラットフォームを構築し、サブスクリプション型サービスを試験的に導入している。

同社には2018年10月までに豊田通商が出資することも発表されており、シンガポール国内のほか、周辺諸国などにおいてもMaaSサービスを展開していく予定としている。

シンガポールにおいては、国策としてスマートシティ構想が進められており、新しいモビリティ前提の都市開発が7地区で進行しているという。鉄道や自動運転バス、デマンド型交通サービスなどをMaaSの概念で結び付けたニュータウンが、2022年にも2カ所オープンする予定だ。

■MaaSを構成するサービスの種類
公共交通系

公共交通としては、鉄道やバス、タクシー、航空、船舶などが挙げられる。全国を大動脈のように網羅する鉄道をはじめ、毛細血管のように各地域を細かに網羅するタクシーまで出揃っている。

都市部においては、渋滞抑制効果とともにいかに効率よくシームレスに乗客を移動させるかが重要な要素となる。一方、過疎地などでは、移動の足を持たない住民のライフラインとしての役割が大きく、公共交通そのものを維持することが重要だ。

つまり、過疎地におけるMaaSの役割の一つが、効率的な移動サービスの構築によるコスト削減だ。赤字前提の運営を余儀なくされているバスなど、デマンド化をはじめ各移動サービスが最大限効率を高めるための手段となる。

また、将来的には、バスやタクシーなどが自動運転化されることで人件費の削減やデマンド化の促進などを図ることも可能になり、結果としてMaaSプラットフォームの完成度も高まることになるだろう。

シェア・レンタル系

シェア系では、カーシェアとライドシェア、相乗りサービス、シェアサイクルなどが主力となる。カーシェアは、パーク24系列のタイムズ24が運営する国内最大のカーシェアサービス「タイムズカープラス」をはじめ、自動車リース、レンタカーでおなじみのオリックス自動車株式会社による「オリックスカーシェア」、2019年内にサービスを本格化させるトヨタ自動車の「トヨタシェア」、三井不動産リアルティ株式会社が運営する「カレコ・カーシェアリングクラブ」、名鉄協商株式会社が運営する「カリテコ」、ISホールディングス傘下の株式会社アース・カーが運営する「アースカー」、日産自動車が2018年1月に開始した「NISSAN e-シェアモビ」などが代表的だ。

また、自家用車を使わない時に、貸したいオーナーと乗りたいドライバーをマッチングする個人間カーシェアも業績を伸ばしており、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)が提供する「Anyca」をはじめ、インターネット関連事業を手掛ける株式会社trunkが運営する「CaFoRe」、NTTドコモが運営する「dカーシェア」、中古車買取・販売大手の株式会社IDOMが2019年初夏にサービス開始予定の「GO2GO」などがある。

また、相乗りサービスでは、株式会社nottecoの「notteco」、株式会社Azitの「CREW」、株式会社 ZERO TO ONEの「nori-na」が有名だ。このほか、社用車を従業員とシェアするサービスの開発に取り組む株式会社しぇあくるなども存在する。

有償ライドシェア業者は国内に存在しないが、米国のUberやLyft、中国のDiDi、東南アジアのGrabなど、世界各地で新興企業が多く活躍している。

サイクルシェア(レンタサイクル)では、ソフトバンク傘下のオープンストリート社が運営する「HELLO CYCLING」、NTTドコモ傘下のドコモ・バイクシェア社の「ドコモ・バイクシェア」が大きく展開している。このほか、メルカリのグループ会社ソウゾウの「メルチャリ」をはじめ、地域限定サービスを展開している会社も多く存在する。

レンタカーでは、トヨタレンタカーや日産レンタカー、ニッポンレンタカー、オリックスレンタカー、タイムズカーレンタル、Jネットレンタカー、バジェット・レンタカー、駅レンタカー東日本などをはじめ、地方限定の会社や格安レンタカー会社などすそ野は広い。

運転、交通関連サービス

関連サービスでは、運転代行なども交通サービスに数えることができる。また、駐車場予約アプリ「akippa」(akippa株式会社)や、駐車場シェアリングサービス「Smart Parking」(株式会社シード)、駐輪場シェアリングサービス「Charippa(ちゃりっぱ)」(Charippa)といった、既存の駐車場や空きスペースを移動サービスに結び付けるサービスも増加傾向にある。タイムズ24も駐車場シェアリングサービス「B(予約制駐車場)」を行っている。

このほか、電動車いすなどのパーソナルモビリティや、空飛ぶクルマなど新たな移動サービスが参入する可能性も高い。ソフト面におけるサービス同様、ハード面においても新たなサービスの開発は進められているのだ。

他の業態のサービス

MaaSプラットフォームに、異業種を交える取り組みも今後増加しそうだ。国土交通省の新モビリティサービス推進事業に選定された事業の中では、茨城県つくば市や筑波大学などが民間と連携し、顔認証やアプリを活用するキャンパスMaaSや医療MaaSの実証実験に取り組む。

また、島根県大田市などは、過疎地型Rural MaaS実証実験として、特産品の製造販売や健康増進プログラムなどと連携した事業計画を立てている。

このほか、観光地型として福島県会津若松市など8事業が選定されており、多様化する観光ニーズへの対応やアプリで決済可能な観光施設のデジタルチケット化、飲食店やホテルなどのクーポンの発行、情報発信など、さまざまな取り組みが進められる予定だ。

飲食店や宿泊施設、観光施設などとの連携は地域活性化につながる有効手段であり、MaaSの浸透・発展とともに今後増加することは間違いないだろう。

また、医療連携やサンフランシスコの不動産連携など、アイデア次第でさまざまな相乗効果を見込むことが可能で、異業種からの参入にも注目が集まるところだ。

■MaaSの実現に向けたハードル
連携面

MaaS構築における一番の課題が、各移動サービス事業者の連携だ。競合する同業系他社と手をつなぐことや、自社情報の一部をオープンデータ化することに躊躇する企業も中には存在するだろう。初期段階では、自社へのメリットを見出しにくく、様子見する可能性も考えられる。

第1段階として同一プラットフォーム上でサービスを提供し(MaaSレベル2)、第2段階としてサービスそのものの統合を図っていく(MaaSレベル3)過程で、誰が旗振り役を担い、各段階においてどのような負担やメリットが発生するのか。国や地方自治体に求められる役割は何か。

さまざまな観点からアプロ―チし、参入・協調しやすい環境づくりを進める必要がありそうだ。

費用面

MaaS構築において、当然のことだが費用となる自己負担は発生する。予約や決済システムを一から刷新しなければならない場合も出てくるだろう。IT化が進んでいない地方の中小零細事業者にとっては非常に大きな投資となり、社員教育も必要になるだろう。

こういった側面は、IT系の企業にとっては大きなビジネスチャンスにつながる。プラットフォームの構築とともに各事業者のIT化支援がそのままビジネスとなるからだ。将来的な利益を見越し、MaaSシステムをリースする形や各事業者の負担が少なくなるよう利用数(料金)に応じて課金する方式なども考えられる。

また、社会課題を解決する側面から考えれば、MaaSの開発に国や自治体の補助・助成がつく可能性は高い。国土交通省の新モビリティサービス推進事業においても、一部経費に補助金が交付されている。

キャッシュレス化同様、国が推し進めている事業分野であることから、新モビリティサービス推進事業以外でも政府の厚い支援が行われる可能性は十分考えられそうだ。

責任面

国内の交通関連事業においては、各事業ごとに事業法が設けられ、さまざまな規制がしかれているのが現状だが、MaaSが高度化するにつれ、利用者保護など安全確保に向けた責任や事故の際の責任などの境界線があいまいになってくる可能性が高い。

将来的には未知の移動サービスが加わる可能性も高く、各事業法で対応できないケースもいろいろと出てくるものと思われる。

フィンランドでは、各移動サービスやデジタルサービスが一つの法律で規定される予定という。こうした先進事例を参考に、法整備面においても並行して検討を進めていく必要がありそうだ。

料金面

MaaSの高度化するうえで避けて通れないのが、一体的な料金体系の構築だ。各移動サービスが独立した料金体系を維持し、決済だけを同一プラットフォームで行うMaaSレベル2から先に進むためには、Whimのように料金をパッケージ化する必要が生じる。また、需給に応じて料金を変動するダイナミックプライシングなどの導入も検討すべき料金サービスになり得るだろう。

国内においては、制度上、タクシー料金に代表されるように料金体系を自由に設定・変更できない場合が多い。責任面と同様、規制でがんじがらめの旅客運送において、どのようにハードルを下げるのかも大きな課題となりそうだ。

■【まとめ】モビリティの未来を担うMaaS 実証でスピーディに進化中

モビリティ分野において、世界の潮流ともいえるMaaS開発。自動車業界をはじめ、あらゆる移動サービスの将来はMaaSと結びついていくことになる。

国内では産声を上げたばかりだが、官民連携のもと実証が進められることによりあらゆる課題が抽出され、スピーディに進化を遂げていくものと思われる。

そう遠くない将来、移動の概念を大きく変えるMaaSが市民権を得ることになりそうだが、スマートフォンの操作といったデジタル化になじみにくい高齢者層などにも対応したシステムの構築も欠かすことのできない重要な課題として浮上してくるのは間違いない。

MaaSのアナログ的な利用方法の可能性も含め、誰もがサービスを享受できるシステムの完成を望みたい。

【参考】関連記事としては「MaaS到来で劇的に変わる5つのこと」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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