中国の自動運転タクシー事情(2023年最新版)

開発企業8社をピックアップ



自動運転技術を活用したサービスの代表格である自動運転タクシー。米Waymoが2018年にサービスインして以来、その開発の熱は世界に広がり続けている。


最も加熱しているのは中国だ。同国主要都市では開発各社がこぞってサービス実証を進めており、現在進行形でサービスの深化やエリア拡大を図っている。特に百度の動きはフットワークが軽く、最近では重慶で完全無人の自動運転タクシーを展開しはじめ、注目を集めている。

この記事では、中国で展開されている自動運転タクシーの取り組みを企業別に追っていく。

<記事の更新情報>
・2023年6月8日:Pony.aiの動向について追記
・2022年8月29日:中国の最新状況を追記
・2021年5月15日:記事初稿を公開

■百度:サービス提供エリア続々拡大、重慶でも
出典:百度プレスリリース

IT大手の百度(Baidu)は、オープンソフトウェアプラットフォームを活用した「Project Apollo(阿波羅)=アポロ計画」のもと、中国における自動運転開発のけん引役を担っている。


北京では、2018年6月に公道走行ライセンスを取得し、2020年8月に一般ユーザーを対象とした自動運転タクシーサービスを開始している。その後、セーフティドライバー不在の無人による自動運転車の公道実証許可も受け、2021年5月には首鋼園区で有料サービスにも着手している。

2022年7月には、経済技術開発区でドライバーレスによる有料サービスの試験運用を開始すると北京市が発表しており、百度とPony.aiがそれぞれ実証に臨むという。

このほか、湖南省長沙市で2019年6月に公道走行ライセンスを取得し同年9月にサービス実証を開始するなど、2022年7月までに公表されているだけで上海、広州、重慶、滄州、深センの7都市で自動運転タクシーを展開している。

最近では、2022年8月に重慶市と武漢市から許可を取得し、両市で無人の自動運転タクシーサービスを開始することも発表され、すでに試験営業が開始された。車内にはセーフティドライバーなども乗っておらず、タッチパネルで行き先を指定すると、あとは無人で目的地まで連れていってくれる形だ。ちなみに自動運転タクシーはリアルタイムで管制センターから監視されている。


以下は、日本テレビのニュース番組「news every.」で放送されたレポートの様子だ。自動運転ラボ主宰の下山哲平はこのレポートの中で、中国において自動運転開発が加速している理由について、リスクをいとわない中国政府のスタイルや、国側が民間企業を手厚く支援していることなどを挙げている。

百度は2030年までにサービスエリアを100都市まで拡大させる目標を掲げており、今後も走行環境が整ったエリアで順次サービスインしていくものと思われる。

また、同社はレベル4車両の生産コストを25万元(約500万円)に抑えることに成功したことも発表している。Geely(浙江吉利控股集団)との合弁Jidu Autoは2028年にロボットカーを年間80万台供給する目標を掲げており、増産とともにサービスエリアの拡大を図っていくのは既定路線となっているようだ。

▼Apollo公式サイト
https://developer.apollo.auto/

■AutoX:自動運転フリートが1,000台規模に
出典:AutoXプレスリリース

2016年設立のAutoXは、北京、上海、深セン、広州で自動運転タクシーサービスを提供している。

本拠を構える深センでは2017年に同市政府と戦略的提携を交わし、翌2018年に実証に着手している。2019年初頭に2地点間を結ぶ自動運転サービス「xUrban」を実現したほか、同市から正式な公道走行ライセンスを取得している。

同年12月にはセーフティドライバー不在の無人走行ライセンスを取得し、ドライバーレス走行の実証を本格化させた。翌2021年1月には無人タクシー用のオペレーティングセンターを建設し、ドライバーレス自動運転タクシーのサービスを開始している。

上海では、2019年8月に同市嘉定区と戦略的提携を交わし、65平方キロに及ぶ自動運転モデル地区を構築し、2020年にも100台規模のロボタクシーを試験運営する計画を発表している。フリートの規模は不明だが、2020年に一般利用者を対象としたサービスを開始している。北京でも、上海同様モデル地区で100台規模のロボタクシー運営を予定している。

広州では、2019年5月に公道走行来仙を取得し、同市や東風汽車のモビリティサービス会社などとのパートナーシップのもと、大規模商用ビジネスモデルの構築を検討していくこととしている。

このほか、粤港澳大湾区(広東省、香港、マカオ都市圏エリア)や武漢などでも公道走行ライセンスを取得しているようだ。

協業関係では、上海汽車や東風汽車から出資を受けているほか、EVメーカーのBYDとも戦略的提携を交わしている。2021年4月には、ホンダの中国法人本田技研科技とも自動運転技術の開発に向けパートナーシップを結んでいる。

同社の発表によると、自動運転フリートは1,000台超に達しており、世界最大級の規模を誇る。

▼AutoX公式サイト
https://www.autox.ai/ja/index.html

【参考】AutoXの取り組みについては「AutoXの自動運転タクシー、1,000台突破 「世界最多」との報道も」も参照。

■WeRide:広州拠点に自動運転タクシーサービスを展開
出典:WeRide公式サイト

2017年設立のWeRideは、グローバル本社を構える広州を拠点に自動運転タクシーサービスを展開している。

同社は広州の生物島で2018年に長期実証に着手し、2019年11月に144平方キロのエリアをカバーする自動運転タクシーのトライアルサービスを開始した。最初の約1カ月で8,396 件の注文を受け、総走行距離は4万1,140キロ、事故は0件だったという。

2020年6月には、アリババとの提携のもと同社の配車モバイルアプリ「Amap(AutoNavi)」を通じて自動運転タクシーを広く配車可能にした。

同年7月には、広州の一部道路で遠隔監視・操作による公道実証の許可を受け、完全無人化に向け5Gやコネクテッド技術を駆使した取り組みに着手している。

2021年1月には、走行エリアを広州市海珠区の道路に拡大する承認を得たと発表した。セーフティドライバーの有無に関わらず自動運転実証が可能としている。

自動運転タクシーに関しては今のところ広州が中心だが、同社は自動運転バスや物流用途の自動運転バン、自動運転清掃車などの開発も進めており、運行地域は鄭州や南京、武漢、安慶などにも及ぶ。今後、自動運転タクシーサービスも拡大していく可能性が高そうだ。

協業関係では、ルノー・日産・三菱アライアンスやGAC(広州汽車)などとパートナーシップを結んでいる。GACからは戦略的投資を受け、今後数年間で数万台のロボタクシーを構築していく計画としている。

▼WeRide公式サイト
https://www.weride.ai/

■Pony.ai:北京と広州南沙で有料サービス提供
出典:Pony.aiプレスリリース

2016年設立のPony.aiは2018年2月、広州市南沙で自動運転タクシーの走行実証に着手し、一般利用者を対象に約30平方キロメートルのエリアでサービスを開始した。同年7月までに1,000回以上のライドを提供したという。

同年末には、自動運転タクシー向けのソフトウェア「PonyPilot」を発表し、広州で自社の社員をはじめ一部住民も乗車可能なパイロットプログラムを開始している。

2022年4月には、広州南沙で自動運転企業として初めてタクシー企業として認定を受け、800平方キロメートルに及ぶエリアで自動運転車を活用した有料サービスに着手すると発表した。広州政府が従来のタクシーや配車プラットフォームと同様に自動運転サービスを正式に承認した格好だ。

同月には、GAC(広州汽車)とのパートナーシップのもと、GACの配車プラットフォーム「Ontime」上で有料サービスを開始することも発表している。

一方、北京では2018年6月に公道走行を可能にするT3ライセンスを百度とともに取得した。北京市が用意したテストコースで5,000キロ以上を走行し、39項目のテスト基準を10日間でクリアしたとしている。

同市では、2020年5月に乗客を乗せることができるライセンスを取得したほか、2021年10月にドライバーレスの無人走行を可能にする許可も得た。市内の約20平方キロメートルに及ぶエリアで公道実証を実施することが認められているという。同年11月には、セーフティドライバー付きの自動運転タクシーで有料サービスも開始している。

その後、2022年4月にドライバーレスでサービスを提供する許可を受け、運転席無人(助手席にオペレーターが同乗)のサービスも実施している。同年7月には、この運転席無人車両による有料サービス展開も可能になったようだ。

このほか、Pony.aiは上海や深センでも2021年中に走行ライセンスを取得し、公道実証やサービス実証に着手している。

協業関係では、GACのほかトヨタやヒョンデ、FAW(第一汽車)などともパートナーシップを結んでいる。2022年1月には、トヨタのシエナAutono-MaaS車両に自動運転システムを統合し、公道実証後2023年にも自動運転タクシーサービスに導入していく方針が明かされている。

アプリで呼び出し、「Start」ボタンタップで…

Pony.aiに関しては、以下の記事も参考にしてほしい。

日本の民放テレビ局でPony.aiが展開する自動運転タクシーが紹介されており、動画の内容からPony.aiの技術力を分析した。

Pony.aiの自動運転タクシーでは、車両の呼び出しや目的地の設定はアプリで行い、電話でタクシーを呼び出さなくても利用できる。そして乗車後は、後部座席に備えられたタブレットにおいて「Start Ride」ボタンをタップすると、その後、発進する。

Pony.ai副総裁は「2025年までに中国の全国で無人タクシーを導入したい」と強調している。

▼Pony.ai公式サイト
https://pony.ai/

【参考】Pony.aiの取り組みについては「トヨタ出資の中国Pony.ai、自動運転企業で初のタクシー営業証取得」も参照。

■Momenta:SAICと上海や蘇州でサービス提供
出典:Momenta公式サイト

2016年設立のMomentaは2018年10月に上海市からレベル4自動運転車の公道走行ライセンスを取得し、実証を本格化させた。

2020年3月には高精度3次元地図の作製・更新に向けトヨタと戦略的提携を交わしたと発表した。トヨタが開発を進めるマッピングプラットフォーム「AMP」向けにデータを提供し、商用化を促進する狙いだ。2021年3月には、資金調達CラウンドでトヨタやSAIC(上海汽車)、ボッシュなどから総額5億ドル(約550億円)を調達したことも発表している。同ラウンドには、最終的に米GMや独メルセデス・ベンツ、テンセントなども参加している。

自動運転タクシー関連では、江蘇省蘇州市の蘇州相城高速鉄道新都市と2018年にパートナーシップを結んで実証を重ね、2020年10月に自動運転タクシー「MomentaGO」のリリースを発表している。2022年にドライバーレスのサービスに着手する計画だ。

一方、SAICとのパートナーシップも順調だ。SAICのモビリティサービス企業SAIC Mobilityは2021年12月、Momentaの自動運転技術「Flywheel L4」を搭載したロボタクシー20台を上海に導入し、サービス提供を開始した。同月末には蘇州でもサービスインしている。

2022年6月までにフリートは計60台規模となっているようで、顧客アンケートによると98%がサービスに満足しており、80%が複数回乗車しているという。

Momentaはこのほか、EV(電気自動車)大手BYDと自動運転開発に向けた合弁「DiPi Intelligent Mobility」の設立を2021年12月に発表している。同社の攻勢はまだまだ続きそうだ。

▼Momenta公式サイト
https://www.momenta.cn/

【参考】Momentaの取り組みについては「トヨタ出資の中国Momenta、自動運転技術の「売り先」獲得か BYDと合弁事業」も参照。

■DiDi Autonomous Driving:当局の規制強化受け事業停滞か
出典:DiDi Autonomous Driving公式サイト

配車サービス大手のDidi Chuxing(滴滴出行)は2016年に自動運転開発部門を設置し、2019年にはDiDi Autonomous Drivingとして分社化するなど自動運転開発・サービス化に熱心な1社だ。

2019年に上海政府から走行ライセンスを受け、同市嘉定区でパイロットロボタクシーサービス実施に向け異なる30モデルのレベル4自動運転車を配備すると発表した。その後、2020年5月までに北京や蘇州でも走行ライセンスを取得し、上海では2020年6月にオンデマンドロボタクシーサービスを開始している。

2021年には、広州の花都区と戦略的パートナーシップを結び、自動運転技術と商用アプリケーションの研究開発を進める計画を明らかにしている。

また、自動運転実証フリートの開発に向けボルボ・カーズとパートナーシップを結んだほか、GAC(広州汽車)グループの子会社GAC Aion New Energy Automobileと自動運転EVの開発と量産に向け提携を交わすなど、大規模フリート化を見越した事業強化を図っている。

ただ、この1年は主だった動きを見せていない。その背景には、中国当局の影響があるのかもしれない。DiDiは2021年6月にニューヨーク証券取引所に上場したが、間を置かず中国当局からセキュリティ法に基づく審査が入り、アプリの新規ユーザー登録停止などを余儀なくされた。

その後当局はDiDiに対し上場廃止を求めたと報じられており、実際DiDiは2022年5月の株主総会で米国上場廃止が正式承認された。

事業の軌道修正を迫られたDiDiだが、今後どのような形で事業展開していくのか。有力な1社だけに、今後の動向を注視したい。

▼DiDi Autonomous Driving公式サイト
https://www.didiglobal.com/science/intelligent-driving

■Deeproute.ai:深センで無料配車サービス
出典:Deeproute.aiプレスリリース

2019年設立のDeeproute.aiは、自家用車の自動運転化までを見据えた低コストの自動運転ソリューション開発を進めており、現在深センや武漢、杭州などの中核都市で公道実証や試験運用を実施している。

協業関連では2020年8月、Geely(吉利汽車)グループの配車サービス部門と共同で2022年に杭州で開催予定のアジア競技大会(2023年に延期)で自動運転サービスを提供すると発表している。2021年に試乗サービスを実施し、大会期間中には数百台規模まで拡大する計画という。

2020年10月には、東風汽車が開始した自動運転パイロットプロジェクトに参加することも発表している。多くの企業の協力のもと、武漢開発区などを舞台に中国内最大の自動運転フリートを構築する計画で、パイロットプロジェクトでは2022年までに200台以上の車両を配備するという。配備される車両の約半分は、「東風風神 E70」をベースにDeeproute.aiが自動運転化するという。

自動運転タクシー関連では、2021年7月に深セン中心街の福田区で無料配車サービスの一般公開を開始した。20台の自動運転フリートを配備し、運用区間は100近くの駅をカバーする総延長200キロ超に及ぶ。2022年2月までに4万回近くのライドを完了し、96%のユーザーから5つ星評価を獲得したという。

自動運転ソリューション関連では、コストを1万ドル未満に抑えたレベル4システム「DeepRoute-Driver2.0」を2021年12月に発表した。2~5基のソリッドステートLiDARや8基のカメラ、独自の推論エンジンと統合したコンピューティングプラットフォームなどで構成するソリューションで、最大200メートル先まで検知できる。

大量生産可能な自動車メーカー向けには将来3,000ドルで提供可能になるとしており、ロボタクシーをはじめ、2025年以降には消費者への販売も見据えているようだ。

2020年1月開催のオートモーティブワールドでは、マクニカの協力のもとレベル4のフルスタックソリューションを展示するなど、日本市場を見据えた動きも見せている。低価格のレベル4ソリューションの世界展開に要注目だ。

▼Deeproute.ai
https://www.deeproute.ai/en/index

【参考】Deeproute.aiの取り組みについては「自動運転機能のコストを38万円に アリババ出資のDeepRoute.ai」も参照。

■Xpeng Motors:自動運転タクシーの試験運用に着手か
出典:Xpeng公式サイト

新興EVメーカーのXpeng Motorsも自動運転タクシー分野への参入をほのめかしている。同社CEOの何小鹏氏が2021年第3四半期の決算報告の場で「ナビゲーションガイドパイロット(NGP)で達成した進歩は、ロボタクシー技術などのモビリティソリューションを将来的に探求する当社の能力に大きな自信を与える」としている。

各種報道によると、同社は2022年2月までに自動運転開発を手掛ける新会社「Guangzhou Pengxu Autonomous Driving Technology」を設立した。2022年後半にも自動運転タクシー事業に参入する見込みで、広州で試験運用を開始する計画のようだ。

勢いに乗る新興EVメーカーとして「テスラキラー」の異名を持つ同社だが、自動運転開発においてもテスラと競合していくのか。注目の1社だ。

▼Xpeng Motors公式サイト
https://heyxpeng.com/

【参考】Xpengの取り組みについては「まるでテスラ!中国Xpeng、EVも売って自動運転タクシーも展開へ」も参照。

■【まとめ】サービス高度化に向けた取り組みが加速

百度を筆頭に各社がさまざまな戦略のもとビジネス化を図っている印象だ。今後、新たな開発プレーヤーが参入する可能性も高く、競争はますます激化の一途をたどることになりそうだ。

また、自動車メーカーや配車プラットフォーマーといった協業先の動向も気になるところだ。Geelyが百度やDeeproute.ai、GACがWeRideやPony.ai、DiDiと関係を持つように、単純に車体を供給する立ち位置からどのように脱却し、新たなビジネス化を図っていくのか。また、配車プラットフォーマーはどのように各社のサービスを統合していくのかなど、まだまだ大きなうねりは続く見込みだ。

今のところ自動運転開発企業同士の競争が主体だが、今後は業界を巻き込む形でサービス高度化に向けた取り組みが進んでいきそうだ。

(初稿公開日:2021年5月15日/最終更新日:2023年6月8日)

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事