中国政府が「国外上場」支持、自動運転業界でIPOラッシュか

Pony.aiら有力スタートアップの動向に注目



米国での株式公開に二の足を踏んでいた中国スタートアップ勢に追い風が吹くかもしれない。中国政府が金融規制を緩和する方向にかじを切り直すようだ。証券取引にまで及ぶ国内企業への規制強化方針を一転し、米国をはじめとした国外市場への上場も支持する構えだ。


中国では有力スタートアップが次々と頭角を現し、株式公開のフェーズに至った企業も多い。その一方、米中間の貿易摩擦などを背景に米国市場への上場を保留する動きが支配的になりつつあった。

この記事では、中国政府の方針の推移とともに、同国スタートアップの動向に迫る。

■中国政府の動向
中国内のIT系企業らの米国上場に厳しい目

中国政府はこれまで、米中間の貿易摩擦やデータ流出懸念などを理由に、中国内のIT系企業らの米国上場に厳しい目を向けていた。その顕著な例がDidi Chuxing(滴滴出行)だ。

DiDiは2021年6月、ニューヨーク証券取引所に上場を果たしたが、間を置かず中国当局からセキュリティ法に基づく審査が入った。DiDiの配車アプリが個人情報の収集や利用の面で法律に違反していると判断したようだ。審査期間中はアプリの新規ユーザー登録を一時停止しなければならず、アプリストアからアプリが削除された。


各種報道によると、当局はその後DiDiに上場廃止を求めたという。DiDiの取締役会は2021年12月、ニューヨーク証券取引所から米国預託株式(ADS)を上場廃止するための手続きに入るとともに、香港証券取引所に上場することを承認したと発表した。当局の要請に従った格好だ。

こうした状況を踏まえてか、自動運転スタートアップの中には上場計画を一時凍結する動きが広がった。後述するが、Pony.aiなどが含まれる。

その後も中国政府は規制を強化する姿勢を貫き、2022年1月には利用者100万人を超えるIT系企業を対象に海外市場上場の際の審査を強化する改訂規則を発表した。

中国株は下落の一途、中国政府にも危機感

ただ、年初来中国株は下落の一途をたどった。ロイター通信によると、世界の主要株式において中国関連株はロシア関連株に次ぐワースト2のパフォーマンスという。当局の厳しい締め付けなどが海外投資家から敬遠されているのは間違いのない状況だ。


ロイター通信によると、米証券取引委員会は2022年3月、監査状況の検査受け入れ拒否を理由に上場廃止の可能性がある中国企業5社を名指しして公表した。こうした先行き不透明感を背景に中国株を手放す動きがさらに加速した。

底が見えない中国株の下落を受け、中国政府も危機感を募らせたようだ。劉鶴副首相ら出席のもと開催された国務院金融安定発展委員会では、市場の声を受け規制強化策を緩和する方向で意見がまとまり、上場廃止を示唆している米規制当局との連携にも言及したようだ。

ブルームバーグによると、国外市場への上場も支持する方針という。これが現在の状況だ。こうした方向で進めば、海外上場に二の足を踏んでいたスタートアップ勢も再び取り組みを加速させる可能性が考えられる。

■過去にはNIOやLi Auto、TuSimpleなどが上場

中国企業の米国上場は決して珍しいものではない。より広く資金を調達するためには、投資意欲の強い米国市場は欠かせないのだ。過去には、アリババ(ニューヨーク証券取引所)や百度(ナスダック市場)などが上場しており、アリババのIPO調達額250億ドル(約2兆5,000億円)は当時の歴代最高額を塗り替えた。

近々では、2018年にEV(電気自動車)メーカーのNIOがニューヨーク市場、2020年にLi Autoがナスダック市場、2021年に自動運転トラックの開発を手掛けるTuSimpleがナスダック市場、トラック配車サービスのフル・トラック・アライアンスがニューヨーク市場にそれぞれ上場を果たしている。

資金調達において魅力的な米市場に向けては、自動運転開発を手掛けるPony.aiもSPAC上場する意向が2021年7月までに報じられていた。JPモルガン幹部を最高財務責任者に招へいするなど着々と準備を進めていたが、同年8月に計画凍結が報じられた。

その後、2020年3月に資金調達シリーズDの最初のラウンドを完了したことを発表している。IPO凍結に伴う代替的な調達かは定かではないものの、大きな資金調達を要する段階に達していることは間違いない。2022年に改めてIPOにかじを切るのか、要注目だ。

【参考】Pony.aiについては「トヨタ出資の自動運転企業Pony.ai、企業価値が1兆円到達」も参照。

自動運転トラック開発を進めるPlusも、ニューヨーク市場にSPAC上場する計画を2021年5月に発表している。同年内の上場が予想されていたが、その後音沙汰がないことから、計画を凍結しているものと思われる。こちらも新たな動きに注目だ。

このほか、AIチップ開発を手掛けるHorizon RoboticsもIPOに関する報道が2021年にあった。中国自動車メーカーを中心に同社製チップの採用は広がっており、株式公開の下地は整っている印象だ。

■米市場への上場凍結終了か、中国企業6社がIPO準備

ロイター通信は2022年2月、中国企業6社がニューヨーク市場上場に向け書類を提出したと報じた。米市場への上場凍結が終了する可能性があるとしている。

世界の政治経済の動向は依然先行き不透明だが、米中間の株式市場において風向きが変わりつつあるのは事実だ。勢いを増す自動運転開発と社会実装に政治が水を差すことがないよう、グローバルな企業目線に立った政治判断を期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転・ADAS関連、中国自動車メーカーTOP10は?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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