モビリティサービス開発における「伴走型トータルソリューションプロバイダー」という側面を強くしている技術商社マクニカ。日本や世界のさまざまな企業と協業関係を築き、自動運転技術の研究開発や実証実験、次世代モビリティサービスの社会実装などにおけるあらゆる課題に対し、最適なソリューションを選別・提供できることが強みだ。
自動運転の「頼りになる相談役」的な存在になりつつあるマクニカ。特集「マクニカのスマートモビリティへの挑戦〜共に創る、伴に走る~」の第1回目は、イノベーション戦略事業本部モビリティソリューション事業部の大竹勉氏(プロダクトマーケティング第1部長)に、モビリティ領域で事業を本格化した理由やマクニカの強みなどについて聞いた。
記事の目次
■「ソーシング」「エンジニアリング」「コンサルティング」の強みを生かす
Q 御社は近年、自動運転領域で事業を本格化している印象があります。この領域で事業を始めた背景などについて教えて下さい。
弊社は半導体商社としてスタートした企業で、NECさんや日立さんなどの電機メーカーが主な顧客でしたが、自動車が電子化すると言われるようになり、この10年ほどはOEMやティアワン(1次サプライヤー)など自動車関係の顧客との関係性も強くなってきました。特に半導体大手のNVIDIAさんとも付き合いが長く、弊社は日本で2社ある代理店のうちの1社でもあります。そこからも自動運転やAIの話が入ってくるようになりました。
そんな背景もあり、2016〜2017年ごろから自動運転領域で取り組みを始め、「エレクトロニクスで社会に貢献する」という社是のもと、「移動」における安全確保や交通課題の解決に貢献していこうと考えました。
弊社は、技術商社として国内外あらゆる技術・製品をリサーチする「ソーシング」のほか、「エンジニアリング」や「コンサルティング」に強みを持っています。世界規模で技術革新が進む自動運転は、まさにこうした弊社の強みが生きる領域だと考えております。
Q 御社が自動運転技術を中心とした「スマートモビリティ」へ取り組みの幅を広げる中、具体的に取り組んだ最近のプロジェクトはありますか?
羽田空港近くの複合施設「羽田イノベーションシティ」で取り組まれた自律走行低速電動カートによるスマートシティ実証では、エンジニアリングだけではなく、運行支援も担当しました。
茨城県境町での自律走行バスの導入においては、自律走行バス「ARMA」の輸入を担当したほか、法定点検や車検の対応、自律走行システムのメンテナンス、ハードウェアとソフトウェアの技術サポートなどが弊社の主な役割です。
ちなみに2020年は新型コロナウイルスの感染拡大が日本国内でも深刻化しましたが、車両構築を含めて参加・支援した実証実験の回数は2桁に上りました。
特に2020年はより社会実装に近いレベルの実証案
Q そのほかに今後控えているプロジェクトはありますか?
まだ公表できないですが、参画予定の大きなプロジェクトも多いです。
単に実証実験における足りないピースを埋めるための存在として参画するというのではなく、課題となるあらゆるものを必要な技術やアセットを組み合わせてエンジニアリングするといった、PMO的な立ち位置で支援することが弊社の強みですので、そういう伴走型のプロジェクトの引き合いを多くいただいています。
■より具体的なユースケースに適した実証車両を構築・提供
Q 自動運転の研究開発から社会実装までをワンストップでサポートできることが御社の強みかと思いますが、具体的にはどのようなサービス・支援を顧客に対して提供していますか?
まずは「ハードウェア作り」です。自動運転の実証実験を実施する際には、実証環境や運行条件に適合した車両が必要になります。いわゆるパッケージ化された「自動運転車両」もあり、単に「走らせること」が目的であればその車両を使っても良いですが、より具体的なユースケースを想定して社会実装を目指す場合、オーダーメイドの実証車両が必要になります。
ユースケースとしては例えば、「狭いエリアを走るので、◯人乗りの小さなバスで走らせたい」「安価なLiDARを搭載してコストを極限まで下げ、過疎エリアにおいても採算がとれるような車両スペックで実施したい」といったものがあり、我々はお客様の要望するスペックに応じた実証用車両を用意し、ソフトウェアの実装や改造まで手掛けています。
また、必要な要素やスペックをお客様が具体的にイメージしやすいよう、「レファレンス」という位置づけでマクニカー(macnicar)を用意しています。このmacnicarにデモカーとして乗っていただくことで、顧客側から「こうしたことはこんな車でもできるのか?」「もっとこういう風に動作させることはできるのか?」といったニーズを引き出すことができます。
月に1〜2回ほど行っているMacnicarの試乗会では、今年だけで自動運転の実証実験に興味を持つ企業や自治体・官公庁の方などすでに延べ200人以上の業界関係者に乗って頂いており、「コンサルティング」の良い場になっています。そして最終的にお客様にはニーズに合わせてカスタマイズした車両を納品しています。
自動運転車の目や耳になるセンサーに関しては、センシングデバイスの選定・構成に関するコンサルティングや収集データの解析サービスなどを提供しています。そのほか、車両メンテナンスや社会実装のお手伝いもしています。
実用化に向けて実証実験を行う場合、複数台で運行していくことを見据える必要があり、実際に運行開始した場合の車両メンテナンスなどの「地に足のついた」議論も必要になってきます。
いずれ自動運転車が当たり前のように販売されるようになれば、そういったアフターサービスについて困ることは少なくなるかと思いますが、今の段階ではその役割を担う存在がいないケースが多いため、まさにそういったサービス網をソーシングして提供するといったことも、マクニカの重要な役割です。
■数ある運行管理システムの中から最適なソフトウェアを提案
Q ここまで車両そのものやセンサーについての話をメインに聞いてきましたが、自動運転を活用したモビリティサービスを運行するためには、ソフトウェアやアプリケーション、データの利活用なども重要なテーマになってきます。ソフトウェア領域やデータ領域においての御社の強みを教えて下さい。
自動運転技術を活用したモビリティサービスを実用化させていくうえで重要なソフトウェアの1つが「運行管理システム」です。こうした運行管理システムにはさまざまな選択肢があり、
また、弊社ではお客様が操作しやすいソフトウェアを紹介することを重視していますが、技術的なサポートを必要とされるお客様に対しては、弊社のエンジニアによる開発支援も行っています。
続いてデータの利活用についてですが、実証車両から取得したデータの使い道はお客様によってさまざまで、その使い道に合わせたサポートを行っております。
データに関してはさまざまな相談を受けます。例えばあるOEMメーカー様からは、自動駐車を実現するために、ありとあらゆるタイプの駐車場データや、あらゆる時間、あらゆる天候下の駐車場データがほしいといった相談を受けたこともあります。自動駐車のAI(人工知能)を強化するための「教師データ」としてのニーズですね。
このようなデータなど、弊社では幅広いデータの収集・活用のお手伝いが可能です。
Q 自動運転の社会実装の場としていま最も注目されているのが「スマートシティ」です。今後、民間の私有地内なども含めたさまざまな規模のスマートシティにおいて、御社はどのようなプロジェクトを担っていく想定ですか?
現在、スマートシティ内で「自動運転レベル4」(高度運転自動化)を実現するという動きが目立ち始めており、レベル4の実現に向けた車両インテグレーションはもちろんのこと、移動サービスの社会実装に向けた運行管理システムの提案も前述のように行っていきます。
さらにスマートシティはさまざまな取り組みの「実験場」となっていくので、道路の不具合を探す小型ロボットの導入や自律走行型ロボットによる警備なども積極的に試されていくことになるでしょう。弊社はこうしたスマートシティで実現されようとしているさまざまなサービス・仕組みに対しても、最適なソリューションを提供していきます。
■世界のさまざまな国・地域の企業と関係強化、「でていく」支援も
Q 国内外あらゆる技術・製品をリサーチする「ソーシング」に御社の強みがあり、海外のさまざまな企業とお付き合いがあるかと思いますが、現在関係を強化している国・地域はどこですか?
やはりアメリカのシリコンバレーの比率は高いですね。東海岸も多いです。そのほか、AIに強いカナダやセンシングやセキュリティに強いイスラエル、ものづくりの台湾、東南アジアなど、広範囲にわたります。またドイツやフランスなど、主要なOEMがある国はおさえています。
さらに、LiDARや自動運転のアルゴリズムのフルスタックのソフトウェアは中国の製品も優秀です。弊社は中国の自動運転スタートアップのDeepRoute.ai社(※編集部注:2019年設立、2022年のロボタクシー運用を目指している)ともお付き合いしています。周辺車両の数秒後を予測するDeepRoute.ai社のアルゴリズムは素晴らしいです。
そして、こうした海外企業の技術を日本企業に紹介するという役割だけではなく、日本企業の優れた技術を海外の企業に紹介することにも力を入れています。日本国内には世界レベルの技術を有するベンチャー企業や大手企業も多数存在しており、こうした企業が世界に「出ていく」こともサポートさせていただいております。
■【まとめ】「頼りになる相談役」としてのマクニカの存在感
顧客のニーズに合った実証車両や運行管理システムなどを提案できるマクニカ。インタビューを通じ、国内外のさまざまな企業とつながりを持つマクニカだからこそのことだと感じた。
自動運転技術を活用したモビリティサービスの開発に取り組む企業や、社会実装に向けて動き出す自治体も増える中、自動運転の「頼りになる相談役」としてのマクニカの存在感は今後さらに高まっていきそうだ。
>>第1回:自動運転の「頼りになる相談役」!開発から実装まで
>>第2回:自動運転を実現するためのプロセスとキーテクノロジーは?
>>第3回:実証実験用の自動運転車の構築からビジネス設計支援まで!
>>第5回:自動運転、認識技術とSLAMを用いた自己位置推定方法とは?