日夜多くの自動車が走行する道路は、手動運転・自動運転を問わず、自動車が安全に走行するために必要不可欠な最重要インフラだ。道路整備が行き届いているからこそドライバーも自動運転車も安心して走行することができる。
しかし近年、高度経済成長期に相次いで建設された橋やトンネルなどの老朽化が顕在化しているほか、道路そのものの傷みも著しく、定期的な点検作業が必須の情勢となっている。
こうした作業は非常に多くの時間と労力を必要とするため人手が不足しがちだが、この領域は自動運転車にとって「十八番(おはこ)」とも言うべき得意分野だ。
この記事では、道路の点検や異常検出で自動運転車がどのように活躍するかを解説する。
記事の目次
■道路維持管理の現状
道路の保守点検や維持管理は、落下物の発見・撤去をはじめ、路面のひび割れやわだち掘れ、平坦性の調査、さらには道路照明灯やガードレールといった道路付属物の点検など、非常に広範に及ぶ。
こうした点検は、各道路を管理する国や自治体などが定期的に道路パトロールカーの巡回や調査員の派遣を行い、迅速に対応している。
道路の実延長は、高速自動車国道が約8,923キロ、一般国道が約5万5,698キロ、都道府県道が約12万9,721キロ、市町村道が約103万424キロで、合計122万4,766キロに及ぶ。
国土交通省によると、国が管理する国道の巡回は、1日当たり5万台以上の交通量がある道路は原則1日に1回、5,000台~5万台の道路が2日に1回、5,000台未満の道路が3日に1回、直轄高速道路は原則1日1回以上としている。
国道での異常や障害の発見は年間70万〜80万件
また、同省が調査した国道において、巡回により路面の異常や障害を発見・処理した件数は年間70万~80万件で推移している。2017年度は約78万件で、内訳は落下物の処理が約47万件、路面補修が約15万件、動物死骸の処理が約4万件、その他約12万件となっている。国道だけでも膨大な数に上ることがよく分かる。
同様に、東京都は都管理道路をおおむね3日で1周するよう巡回しており、路面の異常や障害などは年間5万5,000件以上発見しているという。内訳は落下物などが約58%を占め、舗装に関わるものは約16%となっている。
市町村道まで含めれば、その件数は飛躍的に増加することは言うまでもない。国土交通省の試算によると、国内のインフラメンテナンスの市場規模は約5兆円という。道路の維持管理のみの数字ではないが、社会インフラの維持管理がどれほどの規模を誇り、そしてどれだけの労力がつぎ込まれているかが垣間見える数字ではないだろうか。
■自動運転車による道路パトロール
道路の巡回点検で自動運転車が大活躍
道路の巡回点検だけに焦点をあてても、相当な労力が投入されている。高速道路や交通量の多い幹線などはちょっとした落下物や路面のくぼみが大事故につながる恐れがあるため、1日1回以上点検するケースが多い。
市町村道なども、直営や民間委託で道路パトロールを行っている。小規模な自治体では、自治体職員が業務の傍らパトロールを行うこともあるようだ。毎日ではないにしろ、管理する道路延長が非常に長いため、こちらも相当な労力となる。
こうした道路の巡回点検に、自動運転車が大活躍する。無人で走行可能なため労力・人件費を大幅に削減することができるのはもちろん、自動運転向けの車載センサーを目視可能な点検にそのまま役立てることができる。
自動運転車は、搭載したカメラやLiDARなどのセンサーで常時周囲の状況を観測し、そこに映し出されたものを識別しながら走行する。この機能をそのまま応用することで、目立つ落下物や道路の瑕疵などを発見し、リアルタイムでクラウドにデータを集め、状況に応じて対処することが可能になる。自動運転車が走行するエリアも、特定のルートに絞ることができるため実用化のハードルも低い。
将来的には、各センサーのさらなる高度化や専用ソフトウェアなどにより、落下物の種別特定や道路の小さな亀裂を発見できるようになるかもしれない。
また、非破壊検査に用いられるセンサーを搭載し、道路下の地盤の状況やトンネル内部の状況などを把握可能なシステムなども登場するかもしれない。
道路のひび割れやガードレールの点検、落下物の発見など、用途を細分化した上でそれぞれに最適なセンサーを搭載することで、道路管理におけるさまざまなニーズに対応することができそうだ。
測量分野ではLiDARが活躍
自動運転に必須となりつつあるLiDARだが、その開発の歴史は意外と古い。1960年代に研究開発が加速し、気象分野を中心に実用化が始まった。NASA(アメリカ航空宇宙局)も積極的に研究を行い、1971年に発射・帰還したアポロ15号では月面のマッピングに使用したという。観測や測量がLiDARの本質なのだ。
自動車分野への活用は1990年代に始まり、ADAS(先進運転支援システム)から自動運転を見据えた開発の本格化とともに2000年代に入ってから車載LiDARの研究も本格化した。対象物との距離をリアルタイムで3次元計測する技術が自動運転の精度を高めることから、カメラなどのセンサーと併用するセンサーフュージョン化が進展中だ。
また、高精度3次元地図の作製でも本領を発揮している。LiDAR搭載車両が走行する周囲の建物や道路形状、道路付属物、地形など、立体的なデジタル地図を容易に作製することが可能だ。この機能はまさにLiDAR本来の測量機能を応用したもので、原点に立ち返れば、移動体測量システムとして大活躍することは間違いない。
【参考】関連記事としては「LiDARとは?自動運転の目となるセンサー、レベル3実用化で市場急拡大」も参照。
LiDARとは?自動運転の目となるセンサー、レベル3実用化で市場急拡大 https://t.co/3BTMshFm2E @jidountenlab
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 10, 2020
■特殊用途向け自動運転車の構築
特殊用途向け自動運転車の構築には専門知識が必須
用途に沿ったさまざまなセンサーを搭載することで、道路や道路周辺の点検や測量といったさまざまなタスクを自動運転車が行うことが可能になる。無人化の恩恵は大きく、かつ各種情報をデータとしてリアルタイム収集・蓄積することも可能となるため、この分野に向けた自動運転開発が今後加速する可能性は高そうだ。
現実的には、落下物の情報収集や道路の瑕疵の発見、道路上の区画線の点検、ガードレールや道路標識の点検、法面の状況、路肩、路側の状況、橋梁やトンネルの状況など、定期巡回を必要とするタスクは多岐に渡るため、自動運転の実用化初期においては各タスクに特化した最適なセンサーを選択し、特殊用途向けの自動運転車を構築する必要がある。
こうした自動運転車の構築が容易でないことは想像に難くない。自動運転車は、ベースとなる自動車に各種センサーやGPUなどのハードウェアと、自動運転OSを中心とするソフトウェアを組み込んで構築していくが、その選択肢は幅広く、各要素技術も日進月歩で進化している。
センサーやソフトウェアなどをどのように選択し、移動体である自動運転車にどのように搭載するか、また自動運転車をどのように運行するかなど、専門的な知見が不可欠となるのだ。
マクニカが開発と実用化を強力にバックアップ
自動運転実証車両の開発支援を手掛ける技術商社のマクニカは、こうした分野の強い味方だ。半導体分野で培ってきた高い技術力と商品開拓力を武器に、あらゆるニーズに柔軟に対応する。
例えば特殊用途に向けた自動運転車の開発では、「舗装の点検」といった同じ目的を持った顧客でも、自動運転で使用したい車両やセンサーは異なり、特にカメラやLiDARなどのセンサーに関しては、どのような部分を特に点検したいかによって、ニーズは細かく違ってくる。
マクニカはこうした点について、「商社としての立場も活かし、最先端のテクノロジーを持つスタートアップや要素技術を持つパートナー企業、我々が培ってきた自動運転の知見を組み合わせて、ユーザーオリエンテッドのソリューション、お客様がなされたいことに対する最適なソリューションを提供しています」としている。
また、マクニカでは新たに発表したモビリティ向けデータ活用プラットフォーム「MMDP」(Macnica Mobility Data Platform)、さらにAIソリューション「Re:Alize」を組み合わせ、収集したデータの活用についてもソリューションを提案している。
■【まとめ】新たな社会課題解決へ、自動運転技術をフル活用
安全運転で道路交通を安全なものに変えていくことが期待される自動運転車だが、安全走行を支える道路の点検といった別の角度からも安全性を高める存在になり得るかもしれない。
自動運転技術は人やモノの移動に向けた開発が中心となっているが、こうした分野への応用にも大きな期待が持たれる。社会課題の解決に貢献できるほか、大きな需要が見込めるのも魅力的だ。
開発・実用化を加速するマクニカとともに、新境地のパイオニアを目指してみてはいかがだろうか。
>>第1回:自動運転の「頼りになる相談役」!開発から実装まで
>>第2回:自動運転を実現するためのプロセスとキーテクノロジーは?
>>第3回:実証実験用の自動運転車の構築からビジネス設計支援まで!
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