自動運転車は走行しながらさまざまな種類のデータを生成する。そしてそのデータ量も膨大なものとなる。そのため、データの効率的な収集や管理には、走行のための技術とは別の技術やソリューションが必要となる。
こうした点においてサポートを提供しているのが、自動運転を中心としたスマートモビリティに注力するマクニカだ。さらにデータの収集や管理の支援だけではなく、収集したデータを使った新たなマネタイズモデルの提案も行っており、自動運転技術を活用した移動サービスの収益化も強力に支援している。
今回は同社のイノベーション戦略事業本部モビリティソリューション事業部の課長である田中健一郎氏にインタビューし、マクニカが「自動運転×データ」の切り口でどのようなサポートが可能なのか、紐解いていく。
記事の目次
■データは「内界データ」と「外界データ」に分類される
Q まず自動運転技術やコネクテッド技術が搭載された自動車やバス、建機などで生成されるデータとしては、どのような種類のものが考えられるでしょうか。
データは2種類に大きく分けられます。「内界のデータ」と「外界のデータ」です。内界のデータは「自動車や建機などモビリティの中のデータ」という意味で、外界のデータは「センサーを使って得るモビリティの外のデータ」という意味です。
内界データは4種類に分類できます。「車両を維持管理するためのデータ」と「個人の属性データ」、「業務用車両の運転手・オペレーターのデータ」、「バスなどに乗る乗客の属性データ」です。
■内界データは「車両を維持管理するためのデータ」など4種類
Q 内界データは4種類に分類できるのですね。それぞれについて説明して頂けますでしょうか。
まず「車両を維持管理するためのデータ」は、「このクルマは来年にはサスペンションが壊れそうだ」というように、クルマの故障を予見してダウンタイム(編注:車両が使えない時間)なく車両を効率よく安全に使い続けられるようにするためのデータです。具体的には、「クルマに1日何時間乗っているか」「どのような環境での走行が多いか」といった稼働データや、センサーなどの車載機器のコンディションに関するデータなどのことです。
次に「個人の属性データ」は、クルマに乗る人の性別や年齢、毎日のルーティンなどに関するデータです。今後、自動運転レベルがレベル3、レベル4、レベル5と進んでいくにつれ、ハンズオフやアイズオフが実現します。それに伴い、自動車の中での個人の時間の使い方も変わってきますよね。運転しない時間に人は車内でどう過ごすのか、といった個人の属性データを収集し、ビジネスにつなげていくことを考えています。
【参考】自動運転レベルについては「自動運転レベルとは?定義や違いは?徹底まとめ」も参照。
「業務用車両の運転手・オペレーターのデータ」は、建機や農機、バスなどの運転手やオペレーターの作業時間や心拍数、顔色などのデータのことで、安全な業務の遂行や作業効率の改善につなげられるよう収集されます。こうしたデータを活用すれば、運転手が疲れていて危険を伴いそうな状況であれば、交代を促したり遠隔操作に切り替えたりすることが可能になります。
「バスなどに乗る乗客の属性データ」は、高校生やサラリーマンなどの各利用者層の時間帯別の乗車率などのことです。自動運転バスを導入したバス会社がこうしたデータを利用価値のある有意義なビッグデータとして活用・展開すれば、運賃以外の収益を得ることも可能になります。
■外界データは周囲環境に関するデータなど3種類
Q 内界データはクルマの安全な走行だけではなく、収益源にもなるということですね。では一方で「外界データ」にはどのような種類があり、どういった目的で収集されるのでしょうか。
センシングによって得られる外界データは3種類あります。1つ目は、クルマが安全に走行するために収集するデータです。2つ目は、建設現場のショベルカーなど、ほかの建機同士が連携するためのほかのモビリティのデータです。そして3つ目は周囲環境に関するデータです。
3つ目の周囲環境に関するデータは、例えば道路の不具合の状況や雑草の生え具合などのデータです。こうしたデータは自動運転バスが営業走行しながらでも取得することができる上、自治体や道路の管理団体にとっても有用です。自動運転用の地図の更新にも役立てることができます。
■周囲環境情報を活用した「BtoGビジネス」の展開も支援
Q 内界データは4種類、外界データは3種類に分類されることを説明いただきました。自動運転車ではこのようなさまざまなデータが扱われる中、貴社はどのようなアプローチでサポートを展開しているのでしょうか。
マクニカでは現在、外界データの3つ目である「周囲環境情報」に重きを置いています。具体的には、センシングから得たデータを価値ある情報に変換してアウトプットし、顧客にバリューを提供するという取り組みを進めています。
例えば、いま我々は高度経済成長期に整備された道路インフラを利用していますが、その多くがメンテナンスの時期を迎えており、これまでに高速道路のトンネルが崩れるといった事故も起きています。
こうしたことを防ぐため、弊社ではセンシングで得た周囲環境情報の変換や利活用を通じ、行政向けのBtoG(Business to Government)の視点で、公的に行われている道路のメンテナンスにも貢献したいと考えています。
Q 道路のメンテナンスなどへの利活用のために周囲環境情報を取得するには、用途に合ったセンサーをさまざまな製品の中から選び、自動運転バスに搭載する必要が出てきます。バス会社が自社でそうしたセンサーを選別し、なおかつデータを分析するのは難しいですが、こうした観点で貴社の強みはどういった点にあるでしょうか。
マクニカは国内外のさまざまな有力企業のLiDAR(編注:「自動運転の目」とも呼ばれる周辺検知センサー)や高性能カメラ、GPS(全地球測位システム)などを扱っているほか、分析のためのエッジAIコンピューティング(編注:車載側の機器に搭載したAIでデータ処理を行うこと)にも取り組んでいます。
また弊社はAIや機械学習のエッジ実装において重要なソリューションを提供する米NVIDIAの代理店であるとともに、それらを量産向けに組み込んだECU(電子制御ユニット)の提供も可能です。そのほか最近では、車載向けエッジAIコンピューティング端末や高精度なデータ基盤、クラウドでの可視化に強みを持つアプトポッド社とも協業しています。
弊社はこうしたネットワークを駆使し、お客様によって異なる色々な課題に対し、さまざまな角度から提案できることが強みであると考えています。
そしてセンサーやソリューション、技術をインテグレーションする体制やノウハウも持っていますので、データの利活用とその先にあるマネタイズ戦略を合わせ、ワンストップで顧客企業をサポートすることができます。
バス会社など公共交通事業者様にとっては、そういったマネタイズを自ら考えて推進していくのは、本業ではない分なかなか難しいので、弊社のような伴走型パートナーの存在はとても喜ばれています。
■マクニカのモビリティデータプラットフォーム(MMDP)とは?
Q 前述の周囲環境情報などの外界データを活用しようとすると、道路の例1つとっても、「補修が必要な状態なのか」といった「判断」をAIができるようにしておくことが求められ、エッジ側もしくはクラウド側でのAIによるデータ処理が必要になってきます。つまり道路のデータを収集するだけでは不十分です。こうした課題を解決するためのソリューションはありますか?
マクニカではこのたび、マクニカモビリティデータプラットフォーム(MMDP)と呼ぶモビリティデータの利活用を実現するデータプラットフォームをリリースしました。この仕組みを利用することで、エッジでの高精度・高速・高品質なデータ収集、さらに高速・低遅延でクラウドに伝送することを可能とします。
またマクニカにはAI専門部隊がおり、「Re:Alize(リアライズ)」というAIソリューションを提供しています。Re:Alizeでは、クラウド上にアップロードされたデータをAIで分析してクラウド上に可視化しますが、AIによるデータ処理の実行はユースケースに応じてエッジでもクラウドでも選択が可能になっています。
上記はマクニカモビリティデータプラットフォームの全体像ですが、この中でRe:Alizeの図が「∞」の形になっているのは、同じルートを走行する自動運転バスなどで収集され続けるセンシングデータから学習を繰り返し、AIモデルがアップデートされ続けていくことを意味しています。AIは一度学習したものを実装して終わりではなく、利用環境への最適化や精度改善などを通じてAIを進化させながら使い続けて頂く仕組みが重要です。
Q さまざまなモビリティがエッジにある中で、MMDPとして想定しているユースケースはどのようなものがありますか?
モビリティを活用した取り組みでは、道路インフラの外界データ・業務用車両の内界データを活用したスマートメンテナンス、車両周辺にいる人や物体をリアルタイムに検知する接触予防、フリートマネジメントなど、お客様自身で新たなモビリティサービス(MaaS)を立ち上げるプラットフォームとしての利用を想定しています。
MMDPを活用することで、モビリティ、建設、物流、農業、ロボティクスなど、様々な分野におけるモビリティデータ・AIを軸とした革新的で拡張性の高いDX化に大きく寄与していきます。
■モビリティやロボットの無人走行を最短で即日実装可能
Q 少し話は戻りますが、車両から収集するデータは道路メンテナンスなどに活用できることをご説明いただきました。このような活用アイデアはほかにもありますか?
例えば、車両から収集したデータで特定エリアを対象としたデジタルマップを作れば、その特定エリアにおける無人走行(自動運転)が実現でき、人が担当してきたさまざまな業務が自動化されることで、人的コストの削減が可能になります。
マクニカでは、デジタルマップの作成から、モビリティやロボットにこのデジタルマップを適用するまでの一連の流れを、最短で対応できます。例えば弊社では、実際に午前中にマップ作成のための作業をし、午後にはそのマップを自動運転車両に実装し、実験を行いました。今後自動運転車両のみならずロボットへの応用を行います。
自動運転のための3次元地図の作製では、日本の自動車メーカーが出資するダイナミックマップ基盤(DMP)が知られていますが、弊社はクローズドな特定エリアにおける無人走行の実現に照準を合わせており、ビジネスの土俵が異なります。
ちなみに、クローズドな特定エリアにおいてであっても、デジタルマップは常に更新され続けなければならないことから、デジタルマップの更新を含めて無人走行を継続的に支援するためのサブスクリプションサービスを提供する予定です。
■取材を終えて
マクニカはデータ収集や管理のために最適なセンサーやソリューションを提供するだけではなく、同社のクライアントにはデータを収集する側の事業者とデータを活用したい側の事業者の双方がおり、この両者の最適なマッチングを実現できる立場でもある。
そして単に両者をつなげるだけではなく、Re:Alizeを通じて収集したデータを価値ある形式に変換し、データを収集する側のマネタイズにも貢献できることもマクニカの強みであると言えるのではないか。
インタビューでは田中氏が「マクニカは自動運転の領域に加え、MaaSなどの領域でも複数の事業者をつなぐ『潤滑油的な存在』でありたいと考えています」と語った言葉は、特に印象に残った。
国外で提供している支援サービスを海外で展開することも視野に入れているマクニカ。同社の今後の展開から引き続き目が離せない。
>>第1回:自動運転の「頼りになる相談役」!開発から実装まで
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>>第5回:自動運転、認識技術とSLAMを用いた自己位置推定方法とは?