
自動運転の実用化に向けた歩みが、国と地域によってはっきり分かれ始めた。米国は規制を緩めて急拡大し、その裏で事故も報告されている。中国は世界最大規模を築きながら新規許可の停止に転じた。欧州は世界標準づくりを主導しつつ自国メーカーの開発が行き詰まり、日本は無人ロボタクシーの商用運行がいまだゼロのまま、運転手が乗る実証を積み上げる。速さも慎重さも、それぞれに事情がある。
2026年6月から7月にかけての1カ月で、米中欧日それぞれの立ち位置を映す5つの動きが相次いだ。4つの国と地域の現状を比較してみた。
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■米中欧日で「進む国・止まる国・遅い国」がくっきり分かれた
この1カ月で、自動運転をめぐる米中欧日の動きが出揃った。それぞれの国と地域においては、進み方の違いがくっきり浮かび上がる。
米国は規制を緩めて急拡大する「進む国」だ。Teslaが無人のロボタクシーを州から州へと広げている。ただし事故の報告も同時に増えており、速さと安全のせめぎ合いが続く。
中国は世界最大規模のロボタクシー市場を築きながら、安全上の事案が起きるたびに急ブレーキを踏む「止まる国」の顔を見せた。
欧州は自動運転車の国際的な安全基準づくりを主導する「ルールを作る地域」でありながら、自国を代表するメーカーの開発は行き詰まった。
そして日本は、無人ロボタクシーの商用運行がいまだゼロで、運転手が乗る自動運転レベル2の実証を都心で重ねる「遅いが着実な国」である。
速さと慎重さのどちらが正解とは限らない。米国の急拡大も中国の急停止も、裏返せば同じ課題を抱える。ルールを作る欧州、ロボタクシーがまだゼロの日本。差は戦略の差だと言える。
【参考】関連記事としては「自動運転レベル4の世界共通ルールが日本主導でついに決定」も参照。
■米国は規制緩和で急拡大、事故も同時に増える
米国の自動運転は、いま最も速く動いている。象徴がTesla(テスラ)だ。2026年7月3日、Teslaはフロリダ州マイアミでロボタクシーの運行を始めた。テキサス州、カリフォルニア州に次ぐ3州目であり、テキサス・カリフォルニア以外では初の無人ライドヘイリングとなる。マイアミでの乗車は初日から完全な無人運転で、前席にセーフティドライバーはいない。
背景には米国の規制環境の緩さがある。フロリダ州は安全と保険の要件を満たせば運転者なしの公道走行を認めており、国内でも自動運転に寛容な州の一つだ。Teslaは州から州へと地図を広げ続けている。
ただし、急拡大の裏で事故も報告されている。米道路交通安全局NHTSAに提出されたデータによると、2025年7月から2026年3月までにTeslaの自動運転システムが関わった事案は17件だった。うち13件は物損のみ、入院を要する軽傷は1件で、重大事故はゼロだった。しかも相当数は、停止中や低速のロボタクシーに他のドライバーが追突したもので、Tesla側の過失ではない。数字だけを取り出して「危険」と断じるのは正確ではない。
一方で、地図の拡大が車両数に追いついていないという指摘もある。マイアミの対象エリアは西マイアミ・デイド郡の一部にとどまり、同じ都市で先行するAlphabet傘下のWaymo(ウェイモ)の営業範囲の方が広い。派手な拡大の一方で、実際に走る車の密度はまだ限られる。これが米国の「進む国」の実像だ。
【参考】関連記事としては「テスラvsWaymoのロボタクシー マイアミで直接対決へ 勝者は?」も参照。
■中国は世界最大規模、それでも新規許可の停止に動いた
中国は、自動運転タクシー市場でもロボタクシー市場でも世界最大規模を誇る。BaiduのApollo Go(アポロゴー)をはじめ、多くの都市で無人のロボタクシーが日常的に走る。規模だけを見れば、米国を上回る勢いだ。
ところが2026年4月29日、その中国が新規の許可発行を止めた。きっかけは、武漢でApollo Goのロボタクシー数十台が突然停止し、乗客が車内に取り残されて交通が混乱した事案である。事態を重く見た当局は、中国工業情報化省を含む3つの省庁がロボタクシーや自動運転の実証を行う都市の担当者を集めて会合を開き、地方政府に全面的な自主点検と安全監視の強化を求めた。
ここで押さえておきたいのは、これが既存サービスの全面禁止ではなく、あくまで新規許可の一時停止だという点だ。世界最大規模だからこそ、一つの事案が社会に与える影響も大きい。だからこそ当局は素早く急ブレーキを踏む。規模の大きさと安全への警戒が背中合わせになっているのが、中国の「止まる国」の顔である。
なお中国では、2025年4月にも自動運転をめぐる規制強化があった。Xiaomi(シャオミ)の新型電気自動車が関わる死亡事故を受け、広告で「自動運転」などの表現を使うことを制限し、無線でのソフト更新にも事前承認を求めた。これは今回の新規許可停止とは別の出来事だが、安全事案のたびに規制を締める中国の姿勢は一貫している。
【参考】関連記事としては「中国政府、自動運転を「全てストップ」 百度が原因か」も参照。
■欧州は世界標準を主導、でも自国メーカーはつまずいた
欧州の強みは、車を作る力よりもルールを作る力にある。国連欧州経済委員会の自動車基準調和世界フォーラムWP29は、2026年6月、自動運転システムに関する新たな国際基準の採択で合意した。対象は特定条件下の自動運転を含む自動運転レベル3・4で、発効は2027年1月頃を予定する。この基準づくりでは日本が米国や欧州とともに専門家会議の共同議長を務め、議論を主導した。
基準の中身も踏み込んでいる。大筋合意された原案は、自転車や歩行者がいる交通環境で、熟練し注意深い人間のドライバーと少なくとも同等の運転性能を自動運転システムに求める。さらに事故原因や製造物責任を明確にするため走行データの保存を義務付け、サイバーセキュリティの要件も課す。世界の自動運転規制が初めて共通の土台を持つことになる。
ところが、標準を主導する欧州の足元では、モノづくりの苦戦が表面化した。独フォルクスワーゲンが、部品大手Boschとの自動運転開発の提携を解消する方針だと独紙Bildが報じたのだ。両社が2022年に設立した協業体制「Automated Driving Alliance」が対象で、投じた資金は約15億ユーロ、日本円で約2,700億円にのぼる。開発した技術が競争力を欠くとの社内評価が背景にあるとされる。
ただし、この提携解消はあくまで報道段階であり、フォルクスワーゲンもBoschも正式には認めていない。巨費を投じても成果が出なければ撤退する。ルールは主導しても量産では苦しむ。欧州の二面性がここに表れている。
【参考】関連記事としては「フォルクスワーゲン 約2,700億円投じた自動運転提携が破綻へ」も参照。
■日本は慎重・着実、無人ロボタクシーはまだゼロ
日本の現在地を語るうえで、まず押さえておくべき事実がある。米中では街なかを無人のロボタクシーが走る光景が日常になりつつあるが、日本ではその商用運行がまだ一度も実現していない。日本経済新聞は2026年7月14日、世界30都市でロボタクシーの商用運行が始まる一方、日本はゼロだと報じた。欧州初の商用サービスでさえ、2026年4月にクロアチアの首都ザグレブで始まっている。新車販売台数が日本の60分の1以下の国に、先を越された形だ。
商用運行だけの話ではない。実証実験のレベルでも、公開情報を追う限り、日本国内で運転手を乗せない完全無人のロボタクシーが公道を走った例は確認できない。動きがないわけではない。米Google系の自動運転開発企業Waymo(ウェイモ)は2025年4月から日本交通と組んで東京都心でデータ収集を進めている。日産自動車も英AI企業Wayve(ウェイブ)、米Uber Technologiesと組み、2026年後半から都内で試験運行を始める計画だ。ただしいずれも、いきなり無人の車両が客を乗せて走るわけではなく、段階を踏んだ導入が前提となっている。
計画が頓挫した例もある。ホンダは米GM傘下のCruise(クルーズ)と組み、2026年初頭に東京都内でロボタクシーサービスを始める予定だった。しかしCruise側の車両開発中止によって、この計画は白紙に戻っている。日本の都市部は路上駐車の多い狭い道を歩行者や二輪車、バスが入り乱れて走る特異な環境であり、走行車線も米中とは逆だ。海外で育った自動運転AIをそのまま持ち込むのが難しいという事情もある。
では日本は何をしているのか。その答えを示すのが、東京の都営バスによる実証だ。東京都交通局は2026年6月21日から29日にかけて、既存のバス路線の一部を使った大型バスの実証実験を行った。区間は新木場駅前と日本科学未来館を結ぶ急行05系統の一部で、片道約30分、1日4往復を無料で運んだ。中身は自動運転レベル2である。運転手が乗車し、状況に応じて手動で運転する形だ。無人で客を運ぶTeslaやApollo Goとは、技術の段階が二つ違う。
日本でバスがタクシーに先行するのには理由がある。バスは走るルートがあらかじめ決まっているぶん、どこへでも走るタクシーより実現の難度が低い。実際、福井県永平寺町では自動運転レベル4の移動サービスがすでに始まっている。加えてバス運転手の不足は深刻で、有効求人倍率は全職業平均のおよそ2倍という売り手市場が続く。路線の減便や廃止を防ぐ切り札として、省人化の技術が切実に求められている。だからこそ日本は、ロボタクシーの無人化を急ぐより先に、決まったルートで安全な運行データを積み上げる道を選んだ。米中と比べれば確かに遅い。しかし、その遅さは着実さの裏返しでもある。
【参考】関連記事としては「小池都知事 都内の自動運転バス導入拡大に意欲」も参照。
■まとめ:「進む国・止まる国・遅い国」の先に日本が選ぶ道
こうして米中欧日を並べると、自動運転の現在地がはっきり見えてくる。米国は規制を緩めて突き進む「進む国」、中国は世界最大規模ゆえに安全事案で急停止する「止まる国」、欧州はルールを作りながら量産で苦しむ地域、そして日本は無人ロボタクシーの商用運行がいまだゼロの「遅い国」だ。
ここで大事なのは、どの進め方が正解とは限らないということだ。米国の速さは事故という代償と隣り合わせで、中国の規模は一つの事案で急ブレーキを迫られる。速ければよいわけでも、慎重ならよいわけでもない。スピードと安全は、どこかで必ずトレードオフになる。
その中で日本の「遅いが着実」という立ち位置は、弱みにも強みにもなりうる。ロボタクシーの商用運行がゼロという事実は、素直に読めば出遅れである。一方で日本は国際基準づくりで主導的な役割を果たし、国内では運転手不足という切実な動機を抱えている。ルールを作る力と、社会に実装する必要性の両方を持つ国は多くない。「進む国・止まる国・遅い国」という構図の先で、日本が慎重さを強みに変えられるかどうか。そこに、日本の自動運転の行方がかかっている。













