自動運転車 事故が起きても誰も守ってくれない事実

自動運転で事故を起こしたらどうなる?



同じ「自動運転車」でも、事故が起きたときに費用を払う人はまるで違う。運転支援にとどまる自動運転レベル2は当然ドライバーが責任を負い、責任がメーカー側へ移り始めるのは自動運転レベル3からだ。ところが世間ではレベル2の運転支援まで「自動運転車」と呼ばれる。この呼び方と制度のずれが、購入者に「車が守ってくれる」という誤解を生んでいる。


2026年6月19日午後8時ごろ、米テキサス州ケイティで米EV大手Teslaテスラ)のModel 3が住宅へ高速で突入し、自宅前室にいた76歳の女性が死亡した。運転者は運転支援機能の作動中だったと説明している。ただしテスラ側はこれを否定しており、米運輸省道路交通安全局NHTSAが特別事故調査を進めている段階だ。テスラの運転支援はレベル2であり、同社自身もそう位置づけている。作動の有無にかかわらず、責任はドライバーにある。

これはテスラに限った話ではない。レベル2はどの社の車でも運転支援であり、ドライバーが責任主体だからだ。問題は、そのレベル2までもが「自動運転車」と呼ばれ、レベル3以上でメーカー責任へ移る車と同じ言葉でくくられている点にある。その違いを知らずに買えば、自分が全責任を負う車だと気づかないまま乗ることになる。

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■自動運転車で事故が起きても、誰も守ってくれない

レベル2の運転支援でドライバーが責任を負うこと自体は、当たり前の話である。テスラの運転支援機能Autopilot(オートパイロット)や、監視付き運転支援ソフトFSD(Supervised)は、米自動車技術会SAEが定める自動運転レベル2に分類される。レベル2はあくまで運転支援であり、監視と操作の責任は常にドライバーにある。車が主体的に運転する存在ではない。だから事故の責任がドライバーにあるのは、テスラだからではない。レベル2はどの社の車でも運転支援であり、ドライバーが責任主体だからだ。

むしろテスラ自身は、看板を掛け替えている。かつてFSDはFull Self-Drivingの名で呼ばれていたが、完全自動運転という名称は誤解を招くという当局の指摘を受け、テスラは2024年以降「Supervised(監視付き)」という言葉を加えた。同社は自社システムをレベル2の部分的な自動化と位置づけ、ドライバーが常に運転へ集中する必要があると説明している。テスラはもはや、FSDを完全自動運転としてうたってはいない。


それでも「自動運転車」という言葉は独り歩きしたままだ。メーカーが監視付きだと明示しても、Full Self-Drivingという名前の響きは残る。世間が運転支援をまとめて自動運転と呼ぶ習慣も変わらない。この言葉のねじれこそが、購入者に「車が運転してくれるなら、事故も車が責任を取る」という誤解を生む。誰も守ってくれないのは、特定のメーカーが不親切だからではない。運転支援を自動運転と呼ぶ言葉のずれが、責任の所在を見えなくしているからだ。

今回のケイティの事故は、そのギャップを象徴している。運転者のマイケル・バトラー氏は運転支援機能の作動中だったと主張している。一方、テスラでAutopilotを統括する幹部は、運転者が住宅街でアクセルペダルを最大まで踏み込み、衝突時に時速73マイルに達し、衝突後もアクセルを踏み続けていたと反論した。どちらが正しいかは、車両のイベントデータレコーダーが解析されるまで確定しない。だが作動の有無がどう決着しようと、レベル2である以上「ドライバーが責任を負う」という枠組みは動かない。「自動運転車だから車が守ってくれる」という前提が、そもそもレベル2の車には当てはまらないのである。

【自動運転ラボの視点】
テスラはFSDに監視付きと明示し、完全自動運転とはうたっていない。それでも自動運転車という言葉は独り歩きする。責任構造はレベルで決まる。呼称と制度のずれこそ、購入者の誤解を生む温床である。

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■費用負担の境目はどうなっている?

同じ「自動運転車」でも、事故の費用を誰が負担するかは自動運転レベルで大きく分かれる。境目になるのが、レベル2とレベル3の違いである。

レベル2は運転支援であり、ドライバーが常に監視する義務を負う。テスラのほか、GMのスーパークルーズ、フォードのブルークルーズもここに含まれる。いずれも作動中でも責任はドライバーにある。これに対しレベル3は、一定条件下でシステムが運転を担い、ドライバーが前方から目を離すことも認められる。責任の所在がドライバーからシステム側へ移る、最初の段階だ。

この線引きが、そのまま「事故ったら誰が払うか」を左右する。自動運転レベルは単なる技術の段階を示す数字ではない。責任を誰が負うかを決める境界線でもある。だからこそ、車を選ぶときにその車がレベル2なのかレベル3なのかを知ることが、自分の身を守る第一歩になる。

■メルセデス、BYD、テスラ 3社で対応が異なる

責任の分かれ目を、具体的な3社で見ていく。独自動車大手Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)、中国EV最大手BYD(ビーワイディー)、そしてテスラである。同じ自動運転をうたう車でも、対応は大きく異なる。

メルセデスの自動運転システムDRIVE PILOT(ドライブパイロット)は、SAEレベル3の型式認可を世界で初めて取得したシステムだ。同社は、ドライブパイロットの作動中に起きた事故について法的責任を負う姿勢を示している。ただし無条件ではない。ドライバーが認可されていないエリアや悪天候下で作動させた場合など、正しく使っていなければ責任を分担する余地が残る。あくまで「システムを適正に使っている限り」という前提付きである。

BYDは2026年5月28日、運転支援システムGod’s Eye(ゴッドアイ)をめぐり、独自の補償を打ち出した。中国国内で、都市部の自動運転支援機能NOA(ナビゲート・オン・オートパイロット)を規約どおりに適正使用している最中に、法的責任のある事故が起きた場合、車両が負うべき直接的な経済損失をBYDが補償するという内容だ。修理費、第三者への物損、人身の損害までを含み、補償に上限は設けず、翌年の保険料にも影響しないとしている。

ただしこれは中国限定の1年間の保証であり、God’s Eye自体は依然としてレベル2の運転支援である。「規約に沿った適正使用」が条件となるため、実際に支払われるかはBYDが適正使用をどう判断するかに左右される。全事故を無条件でBYDが肩代わりするわけではない。

そしてテスラは、レベル2の枠組みを崩さない。作動中であってもドライバーが責任を負うという立場を規約で明示し続けている。同じ「自動運転車」という言葉でくくられても、メルセデスは条件付きでメーカーが、BYDは中国限定で条件付きに自社が、テスラはドライバーが払う。払う人はまったく違う。

【参考】関連記事としては「中国BYD 自動運転の事故は全額負担すると発表」も参照。

■ブレーキペダルが消える時代に「誰も守ってくれない車」のリスク

責任の所在が曖昧なまま、ドライバーが介入する手段そのものが減っていく動きも始まっている。米国の自動車安全基準FMVSSをめぐる規制改正だ。

NHTSAは2026年6月末、完全自動運転車から手動ブレーキ制御の搭載義務を撤廃する規則改正案を公表した。意見公募は2026年7月27日が締め切りとされる。対象は、人間が運転するようには設計されていない車両に限られる。ステアリングやペダルなど手動の運転インターフェースを残す車には、従来の基準がそのまま全面適用される。つまり今回の緩和は、テスラの完全自動運転車Cybercab(サイバーキャブ)や、Amazon傘下のZoox(ズークス)が開発する専用車のような、そもそもドライバーが乗らない車を想定したものだ。ブレーキ性能や停止距離の基準自体は維持される。

ここで注意すべきは、一般に販売されるレベル2の車にはこの緩和が及ばない点だ。手動操作を残す車には従来どおりペダルもステアリングも求められる。とはいえ、自動運転車からペダルが消えていく流れが規制の側から後押しされ始めたことの意味は大きい。運転を車に委ねる度合いが高まる一方で、責任はドライバーに残る。操作できる余地が減れば、責任と操作可能性の乖離はいっそう広がる。守ってくれる主体が制度上はっきりしないまま、人が介入する手段だけが先に細っていく。ここに「誰も守ってくれない自動運転車」というリスクの核心がある。

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■「自動運転車」を買う前に確かめること

自動運転車で事故が起きたとき、守ってくれるのは車そのものではない。車の自動運転レベルと、その背後にある制度である。今回の死亡事故が突きつけたのは、まさにこの一点だった。

買う前に確かめるべきことははっきりしている。その車がレベル2なのかレベル3なのか。メーカーが事故の責任を引き受けるのか、それとも自分が全責任を負うのか。メルセデスのように条件付きでメーカーが負う車もあれば、テスラのようにドライバーに責任を残す車もある。BYDのように自社補償を掲げる例も出てきたが、地域や条件が限られる。同じ言葉でくくられた車の中身は、これほど違う。

自動運転をめぐる制度は、いままさに過渡期にある。ブレーキペダルの搭載義務さえ問い直される時代に入った。「自動運転車」という便利な言葉の裏には、誰も守ってくれない空白が残されている。その空白を理解したうえで運転支援と向き合うことが、いまの自動運転車と付き合う唯一の備えだと言える。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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