自動運転エンジニア、「高卒者が40%」の謎

テストドライバーもカウント?



厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「job tag(ジョブタグ)」によると、自動運転開発エンジニアが働く現場には、体感として高卒者が40%いるという。


「本当に??」と感じてしまう数字だ。自動運転開発エンジニアは、高度な専門知識を有する精鋭集団――といったイメージが頭に浮かぶ。テストドライバーも含まれているのだろうか。

job tagの情報を交えつつ、自動運転開発の現場の実像に迫ってみよう。

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■job tag「自動運転開発エンジニア(自動車)」の内容

高卒40%、大卒56.7%?

job tagは、「ジョブ」(職業、仕事)、「タスク」(仕事の内容を細かく分解したもの、作業)、「スキル」(仕事をするのに必要な技術・技能)などの観点から職業情報を可視化し、求職者らの就職活動や企業の採用活動を支援する職業情報提供サイトだ。厚労省が運営を行っている。

職種「自動運転開発エンジニア(自動車)」を見ると、「どんな仕事?」「就業するには?」「労働条件の特徴」「しごと能力プロフィール」「類似する職業」などの各項目が用意されており、「就業するには?」の小項目として「学歴」の欄がある。内訳は以下の通りだ。


  • 高卒未満 0.0%
  • 高卒 40.0%
  • 専門学校卒 16.7%
  • 短大卒 10.0%
  • 高専卒 10.0%
  • 大卒 56.7%
  • 修士課程卒(修士と同等の専門職学位を含む) 23.3%
  • 博士課程卒 10.0%
出典:厚生労働省

この職業で実際に働いている人が「こんな学歴の人が多い」と感じている様子を数値化したもので、複数回答可能なため合計すると100%を超えている。実測値ではないのだ。

それにしても――だ。実測値ではないことを踏まえても、高卒が40%というのは意外な数字だ。専門性の高い自動運転開発は、高度な研究に情熱を注いできた精鋭集団が行っているイメージが強い。

大卒は当然、大学院で専門性を高めた博士号クラスや、民間で研究に打ち込んできたエンジニアらが専念している印象だが、現場は違うのだろうか。

就業形態については、正規職員・従業員93.3%、パート、派遣社員、契約社員・期間従業員がそれぞれ6.7%とされている。期間従業員が自動運転開発を担っているのか?という疑問も拭えないところだ。


▼自動運転開発エンジニア(自動車)(job tag公式サイト)
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/528

謎の要因は大手メーカーにあり?

その謎に迫るべく「労働条件の特徴」に目を向けて見ると、そこには以下の内容が記載されていた。

勤務先は自動車完成車メーカーかティア1サプライヤーであり、就業する地域は自動車メーカーが集中する関東、中部に多い。開発拠点が複数ある場合は転勤もある。スタートアップ企業が自動運転の社会実証実験を行っている場合もある。

就業者数はどこまでを自動運転開発エンジニアとするかにもより、就業者人数の統計調査等もないが、大きな完成車メーカーでは1社で数千名規模のエンジニアがおり、ティア1サプライヤーにもそれぞれ数百名規模のエンジニアが居る。現状では男性の割合が多い。

就業者は30代から50代が中心であるが、年齢層は幅広い。雇用形態は多くは正社員であるが、派遣の技術者や協力会社の技術者が出向し、開発に参加することもある。

また、「就業するには?」の項目には、以下の内容が記されている。

就業・入職にあたっては、特に学歴や資格は必要とされないが、新卒で入職する場合、工学、理学などを専攻していた大学院修士課程修了者が多い。中途採用のケースでは、自社にない技術を持っている家電メーカーや通信会社からが多く、同業の自動車メーカー、ティア1サプライヤーからの転職者もいる。

新卒の場合、完成車メーカーやティア1サプライヤーの開発エンジニアとして採用され、数カ月~半年程度の研修を経て、同期入社のエンジニアの中から自動運転の開発部門に配属される。中途採用の場合は即戦力が求められる。経験を重ねより大きな開発が任されるようになり、一つの開発プロジェクトを任されるようになる。

設計ソフト、シミュレーション・ソフト、AI開発ソフトなどを使いこなすことが求められるが、これらのスキルは入社後、研修と実際の仕事の中で身につける。海外サプライヤーとの共同作業も多く、英語力が必要となる。中国語やドイツ語のドキュメントが開発に必要になることもある。

おそらく、自動車メーカーやティア1サプライヤーなどの「自動運転開発部門」の範囲に謎が隠されているのではないだろうか。

例えばトヨタグループの場合、最先端の自動運転開発はウーブン・バイ・トヨタが中心となって進めているものと思われるが、トヨタ本社をはじめとする各社も開発に取り組んでいる。

自動運転開発は、自動運転システムそのものの開発に留まらない。自動運転車向けの素材や構造、プラットフォーム開発なども含まれる。ADAS開発も含むと考えれば、その業務に携わるエンジニアは膨大な数に上る。

量産車にADASソリューションを搭載するため個別最適化を図り、統合していく部署や、ADASの各部品を取り付ける業務なども「自動運転開発エンジニア」に含まれているのかもしれない。

トヨタであれば、製造・生産面などのエンジニアも含めると一定数の高卒の新卒者や中途採用者も在籍している。配属されている部署は非常に多岐に及ぶと推察されるが、自動運転に少しでも関連していれば、その部署も「自動運転開発エンジニア」に分類されている可能性がある。

母数が圧倒的に多いため、専門性の高いスタートアップを加味しても全体の数字が引きずられているのではないだろうか。

自動運転開発スタートアップにおいても、純粋なエンジニアのみならずテストドライバーなどもエンジニアとしてカウントされる――といったことも考えられる。画像のラベリング作業など、比較的ルーチンワークに近い作業を担う人材もエンジニアに含まれるのであれば、その幅は大きく広がる。

現実問題、自動運転開発に携わるエンジニアの裾野は広い

厚労省がどのような調査手法でデータを収集・分類しているのかは不明だが、自動運転の開発現場は、AIエンジニアなどゼロから1を生み出すような業務に臨んでいるエンジニアばかりではない――と言うのも事実だ。

1を2にする者、2をブラッシュアップする者、それを実装技術に変えていく者など、さまざまなタイプのエンジニアが必要となる。

その上で、自動運転技術の開発に直接携わっている者と、関連技術・関連業務に携わっている者……などと拡大していけば、高卒エンジニアも多く活躍していることは間違いないだろう。

また、学歴に関わらず、業務を通じて知見を蓄え続け、どのような現場でも応用力を発揮し即戦力として活躍できるベテランエンジニアも数多い。中途採用のベテランは、学歴ではなく前職の内容や保有技術で評価される。

自動運転開発の裾野が広がり、実用化技術として普遍性を高め始めた昨今においては、さまざまなエンジニアが活躍する場面も多岐に渡り増加していく。

飛び抜けた才覚がなくとも、地道に技術・知見を高めていれば活躍の場は必ず訪れる。自動運転市場のさらなる拡大に期待しよう。

■【まとめ】エンジニアが活躍する場面はまだまだ多く残されている

詰まるところ、重要なのは学歴ではなく、保有技術と向上心だ。自分の武器を認識し、しっかり磨いていけば必ず活躍の場は訪れる。

今後市場が拡大し続けるだろう自動運転分野では、エンジニアが活躍する場面はまだまだ多く残されている。どのような技術が必要とされるかをしっかりと見定め、研鑽あるのみだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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