自動運転の世界ルール 実は「守っている」か確認する仕組みがない説

金銭で縛る日本と海外の違い



自動運転の世界共通ルールは整った。しかしそれが守られているかを外から確認し、破った者に実効的な制裁を科す仕組みは、走行の現場にほとんど備わっていない。ルールの成立と、その執行の間には大きな溝がある。


国連の自動車基準調和世界フォーラムWP29が2026年6月24日、自動運転レベル4を含む完全自動運転の世界共通ルールを採択した。一方で米テキサス州はレベル4を事業者の自己申告で認可し、米カリフォルニア州は7月1日施行の新制度でも、違反した自動運転車に交通反則切符を切れず事業者自身の報告に頼る。世界のルールはできたが、遵守を検証し執行する現場は自己申告と自主報告に大きく依存している。

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■自動運転の世界ルール、守られているか確認する仕組みがない事実

世界共通ルールができた。しかし、それが守られているかを確認する仕組みは、まだどこにもそろっていない。

自動運転レベル4を含む完全自動運転を対象とする初の世界共通ルールがWP29で採択した。約50〜60カ国での適用が見込まれ、日本は作業部会GRVAの副議長として議論を主導した。発効は2027年1月が見込まれている。ルールづくりの主役に日本がいた意義は大きい。

規則の核心は、細かい数値を各社に押し付けることではない。「有能で注意深い人間ドライバーと同等以上」という性能の考え方を軸に据え、安全性を証拠で立証させるセーフティケースという手法を採る。さらに市場に出した後も継続して性能を監視し、報告させる枠組みを備える。


だが枠組みは枠組みにすぎない。実際に道路を走る車が本当にルールを守っているか。それを誰がどう確認し、破ったときに何が起きるのか。その運用は各国の執行に委ねられている。国際ルールの成立と、現場での執行。この二つの間に溝がある。

【自動運転ラボの視点】
制度が完成することと、それが現場で実効的に機能することは別物である。世界ルールの真価は、条文の出来ではなく運用段階でこそ問われる。確認と執行の仕組みづくりが次の焦点だと言える。

【参考】関連記事としては「自動運転レベル4の世界共通ルールが日本主導でついに決定」も参照。

自動運転レベル4の世界共通ルールが日本主導でついに決定


■テキサス州ではレベル4を「自己申告」で名乗れる

確認する仕組みの弱さは、まず車が世に出る入口から始まっている。米テキサス州がその典型だ。

テキサス州の商業用自動運転規制法SB2807は、レベル4以上の商業運行を手がける事業者に対し、自らレベル4への準拠を申告させて認可する仕組みを採る。第三者による独立した検証は前提とされていない。米EV大手Teslaテスラ)は2026年5月28日、この制度のもとで自社のロボタクシーソフトをレベル4と自己申告し、商業運行の認可を得た。判断の根拠となる資料は公開されていない。

これはテスラだけの裏技ではない。制度そのものが自己申告を前提としており、Amazon傘下のZoox(ズークス)も、Google系の自動運転開発企業Waymo(ウェイモ)も、同じ枠組みで登録している。交通法の順守や記録装置の搭載、故障時に安全に停止する能力の証明といった条件は課されるものの、肝心のレベル判定は事業者の申告に委ねられる。入口の時点で、確認は事業者頼みなのである。

テスラ ついに自動運転レベル4認定へ 自己申告制度の隙をついたか

■カリフォルニア州では「違反」しても切符が切れない

入口が事業者頼みなら、出口はどうか。違反を犯した車をどう取り締まるのか。ここにこそ、確認する仕組みの最大の穴がある。舞台は米カリフォルニア州だ。

2026年7月1日、カリフォルニア州で新たな自動運転車規則が施行された。ところがこの新制度でも、警察は違反した自動運転車に反則切符を切ることができない。赤信号無視や横断歩道で歩行者に道を譲らないといった違反があっても、警察が出せるのは「不遵守通知(Notice of AV Noncompliance)」という書面だけである。人間の運転者なら反則金つきの切符を科される場面でも、無人の車には通知が届くにとどまる。

通知を受けた事業者は、受領から72時間以内、重大な事案なら24時間以内にカリフォルニア州車両管理局DMVへ報告する義務を負う。違反の事実確認と申告を、違反した当事者である事業者自身に委ねる構造だ。反復や重大な違反があれば許可の停止や取り消しはあり得るが、一件ごとの違反に金銭的な制裁が及ぶわけではない。運送業界の労働組合Teamsters(チームスターズ)は、警察に企業を罰金や切符で処分する権限を与えず通知しか出せないこの制度を、州の後退だと批判した。

そもそもなぜ切符が切れないのか。カリフォルニアの交通法は「運転者」を取り締まりの対象と定めてきた。運転席に人がいない無人車には、この運転者規定が及ばない。長らく自動運転車は交通違反の切符を免れてきたのである。報道を機にこの抜け穴を埋めようとAB1777が成立し、不遵守通知という新たな手続きが生まれた。しかし穴埋めの後も、執行の手段は通知と事業者の自主報告にとどまっている。

公平のために付け加えれば、カリフォルニアの監視が甘いわけではない。同州は許可の取得にあたり、第三者評価を伴う構造化された安全性の立証、いわゆるセーフティケースの提出を義務づけており、米国内では規制が厳しい部類に入る。入口の審査はむしろ強化されている。それでも、いざ路上で違反が起きたとき、その場で現認して制裁につなげる回路は欠けたままだ。入口を固めても、出口が通知どまりでは、守っているかを確認して守らせる力にはなりにくい。

■日本は「未達なら返金」で縛る

遵守をどう担保するか。その答えは一つではない。米国が自己申告と自主報告に委ねるのに対し、日本はまったく違う場所に担保を置いている。お金である。

日本の自動運転社会実装推進事業は、国土交通省による補助金だ。令和8年度以降、交付を受けた事業がレベル4実装の目標に達しなかった場合、補助金の一部返還を求める仕組みを導入した。返還率は事業区分により異なり、2024年度以前から採択されている事業は5分の2、2025年度からの継続と新規採択の事業は5分の1が目安となる。

背景には財務省の指摘がある。予算執行調査などを通じて、実証が実装に結びついていない事例が数多く見られると問題視され、返金要件の導入につながった。政府目標では2025年度に50カ所程度の実装が掲げられていたが、実際にレベル4サービスを実装できた地域はわずか9カ所にとどまる。目標と現実の開きが、金銭ペナルティという担保を呼び込んだ。

米国が「性能や遵守の確認を事業者に委ねる」設計なら、日本は「結果が出なければ金を返させる」設計だ。どちらが優れているという話ではない。遵守をどこで担保するか、その置き所が国によって割れている。ここに、今回の掛け合わせが照らし出すものがある。

【参考】関連記事としては「自動運転の補助金、異例の「未達成なら返還」義務」も参照。

自動運転の補助金、異例の「未達成なら返還」義務

■まとめ:世界ルールを「守らせる仕組み」をどう作るか

世界共通ルールの成立は、間違いなく前進である。だがルールは、遵守を検証する目と、破ったときの実効的な制裁がそろって初めて機能する。世界ルールはできた。問題は、守っているかを確認し、守らせる仕組みの方だ。

入口を自己申告に委ねるテキサス。出口を自主報告に委ねるカリフォルニア。結果に金銭で縛る日本。担保の置き所は、これほどまでに国ごとに割れている。共通のルールができても、それを守らせる強制力をどこに、どう置くかは、まだ世界でそろっていない。

発効が見込まれる2027年1月以降、各国はこの世界ルールを自国の法律へと落とし込んでいく。そのとき、確認と執行の仕組みをどう組み込むか。世界ルールが絵に描いた餅で終わるか、実効あるものになるか。次の勝負どころは、ルールの中身ではなく、それを守らせる仕組みの設計にある。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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