トヨタ、まだ「空飛ぶ車」を諦めてなかった

Jobyと合弁設立、量産化見据えた動きか



出典:トヨタプレスリリース

大阪・関西万博が幕を閉じ、空飛ぶクルマ関連の話題が激減した。一部ではオワコン扱いされる中、トヨタが新たな動きを見せた。eVTOL(電動垂直離着陸機)生産に向け、パートナーシップを結ぶ米Joby Aviationと合弁を設立したのだ。

いまいち盛り上がりに欠ける空飛ぶクルマ事業だが、トヨタとJoby Aviationは、実用化に向け地道にプロジェクトを進めていたようだ。世間のムードとは裏腹に、まだ諦めていないのだ。


トヨタはエアモビリティにどのような勝ち筋を見出したのか。両社の動向に迫る。

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■トヨタとJoby Aviationの最新動向

生産能力増強へ合弁設立

発表によると、トヨタはJoby Aviationが開発するeVTOLの生産を担う合弁設立に合意した。Joby Aviationの先進的な技術開発力とトヨタがクルマづくりで培ってきたトヨタ生産方式という両社の強みを融合し、商用機の生産に取り組んでいくとしている。

合弁の名称は「Joby Toyota Aero Manufacturing Preparation Company」で、トヨタが51%、Joby Aviationが49%出資する。代表にはトヨタの鶴田洋介氏が就任した。鶴田氏は、トヨタ入社後海外事業部やMaaS事業部などを歴任してきた人物で、現在、エアロ・モビリティ事業部部長、Toyota Motor North America副社長、Toyota Connected North America取締役最高管理責任者を務めている。

まず生産体制の整備を行い、認証審査に用いる機体の試作や、生産性・品質・コストの改善等の生産準備、そして将来の需要拡大を見据えた生産能力の増強を推進していく方針としている。


後述するが、Joby Aviationの機体は型式認証一歩手前の段階まで達しているようで、米国ではニューヨークなどでデモフライトを実施している。日本でも、東京都の事業にJoby Aviationの機体が活用されている。

今回の合弁設立は、そう遠くない将来量産段階を迎えることを想定したものであることは間違いなさそうだ。

■空飛ぶクルマ業界の状況

期待度は高かったものの追い風は止んでしまった?

出典:トヨタプレスリリース

空飛ぶクルマは、陸上ではなく空中を活用した短中距離移動の新たな選択肢として注目を集めるエアモビリティだ。滑走路を必要としない垂直離着陸が可能で、基本的に電動モーターによって駆動し、4つ以上のローター(回転翼)を搭載したものが多い。

従来のヘリコプターに近い存在だが、ヘリコプターに比べ静音性に優れ、離着陸を行うポートも省スペースで済む利点があるため、都市間移動などへの導入を模索する動きが世界で活発化している。


一方、空中のモビリティは陸上のモビリティなどと比較し、非常にシビアな安全性が求められる。微々たるエラーが大惨事につながりかねないためだ。それゆえ、技術開発やルール整備などに手間取り、社会実装が計画よりも遅れがちとなる。

遅れが続き、実証などで思うような成果が上がらないと社会全体の温度が下がっていく。SNSなどでは皮肉屋の声が大きくなり、徐々に期待度が低下していくのだ。未来技術のため致し方ないところだが、世間の声は情勢に流されやすい。

大阪・関西万博も同様だ。当初は、商用展開の第一歩として、国内空飛ぶクルマ事業の重要なマイルストーンに位置付けられていたが、ふたを開けてみれば参画予定の4陣営中1陣営が撤退し、残る3陣営も乗車サービスの実施を諦め、デモフライトに留まった。

来場者から賛美の声も聞こえたものの、機運が高まったか?……と言えば、正直なところノーだろう。万博終了後、パタッと空飛ぶクルマ関連の話題がなくなったのが良い証拠だ。関係者は無理やり成果をアピールしがちだが、第三者目線では、機運が低下しているのは明白だろう。

万博の空飛ぶクルマ、全陣営が「デモ飛行」すら断念か

体力万全・マイペースのトヨタは動じず

とは言え、将来空飛ぶクルマが実用化されることもまず間違いない。開発が進められる限り、遅かれ早かれ空飛ぶクルマは完成し、世の中に新しい移動サービスを生み出すのだ。

そう考えると、逆に勝機を見出す開発事業者が現れてもおかしくない。機運の低下に伴って補助金や出資が減少し、追い風が弱まることで開発から撤退する動きが出るなど業界が停滞しても、地道に着々とプロジェクトを進める力さえあれば、相対的に浮上することが容易となるためだ。

スタートアップ勢にとっては苦しい展開かもしれないが、トヨタのような体力・資本力のある企業にとっては悪くない展開だ。聞こえは悪いかもしれないが、ライバルが苦しんでも自社は世間の盛り上がりとは関係なくマイペースで前進できるため、相対的に浮上する――ということだ。

陸上における自動車領域で世界の覇権を握ったトヨタが、空のモビリティ領域でどのようなビジネス展開を考えているのかは不明だが、豊田章男会長が掲げる「すべての人に移動の自由を」という理念のもと、想像も及ばないモビリティ社会を構想しているのかもしれない。

いずれにしろ、風向きに左右されない企業が業界を支えていることは非常に心強い。「自動車メーカー」ではなく「モビリティ企業」として、改めてトヨタが存在感を高めていくことになりそうだ。

■Joby Aviationの動向

万博に続き東京都の事業やWoven Cityで国内展開目指す

トヨタとJoby Aviationのつながりは、Joby Aviationが2018年に実施した資金調達BラウンドにToyota AI Ventures (現Toyota Ventures)や未来創生ファンドが参加したことに始まる。2020年のCラウンドでは、トヨタがリードインベスターを務めている。

その際、Joby Aviationと協業することに合意したことも発表された。自動車の開発・生産・アフターサービスで培った強みを生かし、設計、素材、電動化の技術開発に関わるとともに、トヨタ生産方式のノウハウを共有し、最終的に高い品質、信頼性、安全性、厳しいコスト基準を満たすeVTOLの量産化を実現するとしている。

2024年には追加出資を行い、累計投資額は8.94億ドル(約1,360億円)となった。同年、静岡県裾野市のトヨタ 東富士研究所で試験フライトも実施している。

2025年開催の大阪・関西万博では、ANAホールディングスとのパートナーシップのもとデモフライトを実施した。

また、東京都の「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」1期において、野村不動産を代表とするコンソーシアムに、ANAホールディングスやエアロトヨタ、SkyDriveなどとともに名を連ねている。2027年までの3か年で、都内での空飛ぶクルマの定着・発展を見据えた机上検討、実証飛行、プレ社会実装の推進を行い、商用運航の実現を目指していく計画だ。

2026年にはWoven Cityに参画し、空のモビリティエコシステム構築に向けた取り組みを行う予定としている。

【参考】関連記事「東京都、5年以内に「空飛ぶクルマ」商用化へ」も参照。

トヨタのAI都市は今どうなってる?Woven Cityに「豊田章男AI」誕生の1ヶ月を追う

米国内では2026年中にも初期運用開始か

米国では、ホワイトハウスが支援するeVTOL統合パイロットプログラムに採択され、米連邦航空局による型式認証取得に先立ち、アリゾナ州やフロリダ州、アイダホ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州など10州で早期に事業展開する機会を得たことを2026年3月に発表している。

すでに、サンフランシスコ湾を横断してゴールデンゲートブリッジを周回する電動エアタクシーの有人飛行や、ニューヨークにおけるポイント・ツー・ポイントのデモンストレーション飛行を成功させている。

2026年中に初期運用を開始する予定としており、米国では空飛ぶクルマ事業が大きく動き出す可能性がありそうだ。

こうした動きを受け、トヨタも量産化に向け生産面で本腰を入れたのかもしれない。

■【まとめ】未知数のモビリティサービス領域で真価を発揮

今のところ、トヨタとしては空飛ぶクルマの生産に関わる……といった面しか見えてこないが、それ自体には大きな商機はないように感じられる。Joby Aviationとの協業を通じて全般的な知見を蓄え、その先に眠る未知数のモビリティサービスを見据えた動き……と捉えたほうが良さそうだ。

おそらく、トヨタ自身もこの未知数のサービスのポテンシャルを図り切れていないように思われるが、だからこそ手を抜くことはできない。モビリティ企業としての真価をどのように発揮していくのか、今後の動向に要注目だ。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマ(Flying Car)とは?いつ実現?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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