
「会長がいなくなっても、会長の判断を仰げる」。そんな未来を、トヨタは本気で作ろうとしている。
2026年4月22日、トヨタ自動車とWoven by Toyota(ウーブン・バイ・トヨタ)が発表したのは、豊田章男会長の意思決定とリーダーシップを学んだAkio Toyoda AI(豊田章男AI)だった。人の思考そのものをAIに引き継ぐ、前例の乏しい挑戦である。同時に世界最高水準の大規模AI基盤モデルWoven City AI Vision Engineと、開発拠点Inventor Garage(インベンターガレージ)の稼働も公表された。
あれから約1ヶ月半。約100人が暮らす実験都市Woven City(ウーブン・シティ)では今、何が起きているのか。会長の思考を学ぶAI、街を丸ごと理解する基盤モデル、空飛ぶクルマまで集う24社の開発拠点。3つの発表のその後を追う。
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■Woven Cityに「豊田章男AI」が誕生 会長の思考をAIが引き継ぐ
今回の発表で最も目を引くのが、Akio Toyoda AI(豊田章男AI)である。トヨタによれば、豊田章男会長のリーダーシップと意思決定の独自のアプローチを反映したAIモデルだという。会長が大切にしてきた判断の流儀を、AIという形に写し取る試みと言える。
豊田会長は、Woven Cityの開発に携わる「Master Weaver(マスターウィーバー)」として街づくりに関わってきた。その会長が近ごろ力を注いだのが、この豊田章男AIの開発だった。トヨタはこのAIを、グループ全体でのAI活用の促進と、目的を持った協働の後押しに役立てる狙いを掲げている。
人の思考をAIへ引き継ぐ。前例の乏しい挑戦だ。属人的だったリーダーシップを形にして残せれば、組織の意思決定のあり方そのものが変わりうる。会長が引退したあと、このAIが何をどこまで担うのか。学習に使ったデータや技術方式の詳細は公表されておらず、現時点では社内での活用が中心とみられる。それでも「会長の思考を学ぶAI」という発想は、自動運転やロボティクスを束ねるトヨタのAI戦略の象徴と言えるだろう。
人の判断をAIに写すという発想は大胆だ。会長個人の継承にとどめず、グループ全体の意思決定を底上げする狙いとみたい。自動運転を含むトヨタのAI戦略の本気度を映す一手と言える。
【参考】関連記事としては「トヨタのWoven Cityで「世界最高峰AI」が稼働。住民100人で何を実験している?」も参照。
■世界最高水準のVision Language Model「AI Vision Engine」とは
2つ目の柱が、Woven City AI Vision Engine(AI Vision Engine)だ。街が現実世界の状況をリアルタイムに理解し、応答するための大規模AI基盤モデルである。カメラ映像や人やモビリティの動き、空間の状態といった情報を組み合わせ、実世界で起きていることを言語化して捉える。
トヨタはこのモデルを、動画ベースのAI理解力を測るベンチマークにおいて世界最高水準のVision Language Modelと位置づける。AIは人の直感や能力を置き換えるのではなく、補完する。その思想が根底にある。現在はWoven City内で、Inventorの一社であるUCC上島珈琲との概念実証に使われている。コーヒー会社と街のAI基盤モデル。この意外な組み合わせ自体が、異業種を掛け合わせるWoven Cityらしさをよく表している。トヨタとWoven by Toyotaは、活用をWoven Cityの外へ広げる計画も示している。
なお、車載カメラや信号機の映像から人の行動を予測し運転を支援する仕組みは、AI Vision Engineを核とする統合安全システムの機能として展開される。街のインフラとしてのAIが、自動運転タクシーやロボタクシーの土台にもつながっていく。
【参考】関連記事としては「トヨタ Woven Cityは最新AIの統治下か?豊田章男会長がAI化も」も参照。
■開発拠点「Inventor Garage」稼働 Joby Aviationなど4社が参加し24社に
3つ目の柱が、開発拠点Inventor Garageの稼働だ。4月から運用を開始した。場所は、トヨタ自動車東日本の旧東富士工場のプレス工場跡地。50年以上にわたって車両生産を支えてきた場所が、新しい開発拠点として生まれ変わった。ものづくりの精神を受け継ぎつつ、過去と革新をつなぐ象徴という位置づけである。
ここで進むのが、試作から検証、実生活での実装までを一気通貫で回す開発だ。Inventorたちが試作するInventor Garage、専用の環境で検証するInventor Field、そして住民が実際に暮らす住宅エリア。この3段階のループを通じて、新しいモビリティの製品やサービスが構想から現実へと進んでいく。
この発表に合わせ、新たに4社がInventorに加わった。AIロボットの社会実装を進めるAI Robot Association(AIRoA)、業務用カラオケ大手の大一興商(DAIICHIKOSHO、カラオケDAM)、空飛ぶクルマのJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)、そしてトヨタファイナンシャルサービスである。これで参加企業は24社に達した。Joby Aviationは米カリフォルニア州サンタクルーズを拠点とするeVTOL(電動垂直離着陸機)の開発企業で、トヨタは2025年5月に2億5000万ドルを出資し、持株比率15.3%で筆頭株主となっている。将来は日本でトヨタがJobyの機体を運航する構想も示されている。
自動運転車やロボット, 街のインフラAIに、空飛ぶクルマが加わる。さらにカラオケや金融まで顔を並べる。異業種が同じ街に集う構図は、まさに人類の縮図と呼ぶにふさわしい。
空飛ぶクルマ、カラオケ、金融。脈絡のなさこそが狙いだ。多様な業種を掛け合わせ、想定外の価値を生む。それがトヨタの言う「掛け算」の本質であり、Woven Cityの独自性だと言える。
■約100人が暮らす実証都市Woven Cityで進む「掛け算」の実験
Woven Cityは2025年9月に正式に動き出した。住民は「Weaver(ウィーバー)」と呼ばれ、現在は約100人が住宅エリアで暮らしながら実証に参加している。中心はトヨタやWoven by Toyotaの関係者とその家族だ。
住みながら試す。この点が、他のスマートシティ実証と一線を画す。AIを机上で評価するのではなく、人が日々を送る環境のなかで磨いていく。Inventor Garageで試作し、Inventor Fieldで検証し、住宅エリアで実生活にかける。3つの環境を循環させることで、安全を保ちながら製品やサービスを現実に近づけていく。
住民数は段階的に増えていく計画だ。Phase1では最終的に約360人、街全体では将来およそ2000人を見込む。豊田章男AIもAI Vision Engineも、この生きた街のなかで鍛えられていく。会長の思考、街のインフラAI、そして異業種の掛け算。3つの要素が重なり合う実験都市は、いま拡大のフェーズへと入りつつある。
【参考】関連記事としては「トヨタ「Woven City」建設の進捗状況は?【Google Mapで確認】自動運転や空飛ぶクルマを試す街」も参照。
■「豊田章男AI」が示すトヨタのAI都市の現在地
豊田章男AIの誕生から約1ヶ月半。3つの発表を並べて見えてくるのは、Woven Cityが移動手段の枠を超えて、ヒト・モノ・情報・エネルギーを動かす街へと進化しつつある姿だ。
会長の思考の継承、街を支えるインフラAI、異業種の掛け算。この3層が、トヨタのAI都市の現在地を形づくっている。なかでも豊田章男AIは、技術の話にとどまらない問いを投げかける。人の判断をAIはどこまで引き継げるのか。その答えはまだ街のなかで実験の途上にある。
自動運転やロボタクシーの土台となる技術が、人が暮らす街で磨かれていく。次にこの街から何が飛び出すのか。続報を待ちたい。













