トヨタのWoven Cityで「世界最高峰AI」が稼働。住民100人で何を実験している?

豊田章男会長もInventorとして実験中



トヨタが発表したWoven City計画=出典:トヨタプレスリリース

静岡県裾野市の富士山麓に建設されたトヨタの実験都市「Woven City(ウーブン シティ)」に、今いったい何人の人間が住んでいるか知っているだろうか。答えは約100人だ。その100人の日常の移動・行動・生活パターンが、トヨタが「世界トップクラス」と称するAIのリアルな学習データになっている。

2026年4月22日、トヨタとWoven by Toyota(WbyT)が発表したのはそのAIの正体だ。「AI Vision Engine(AIビジョンエンジン)」と名付けられたビジョン言語モデル(VLM)は、信号機・カメラ・車両・歩行者のデータをリアルタイムで統合し、事故が起きる前にリスクを検知・予測して街全体に共有する。つまり100人の住民が何気なく歩いたり車に乗ったりするその瞬間が、AIが「危険とは何か」を学ぶ教材になっているわけだ。


さらに同日には、空飛ぶクルマの最有力企業・Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)を含む4社の新たな参入と、約2.4万平方メートルの開発拠点「Inventor Garage(インベンターガレージ)」の稼働開始が発表された。自動運転・ロボット・AIと空飛ぶクルマが一つの街で同時に実験される、そんな光景が現実になりつつある。先行住民100人の世界で進む壮大な実験の全容を追う。

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■100人の「実生活」がデータに

Woven City AI Vision Engine(AIビジョンエンジン)は、WbyTが独自に開発した大規模AIファンデーションモデルだ。カメラ映像・モビリティシステムのデータ・ユーザー入力という3種類の情報源をリアルタイムで統合し、パターンを識別してリスクを検知・予測し、接続されたシステム全体で協調した対応を可能にする。トヨタは「世界のトップクラスに位置するビジョン言語モデル(VLM)の一つ」と発表している。

ビジョン言語モデル(VLM)とは、画像・映像などの視覚情報と言語情報を組み合わせて処理できるAIモデルの総称だ。「この映像の中の何が危険か」「歩行者はどこに向かおうとしているか」といった問いに対して、視覚情報と知識を組み合わせてリアルタイムで回答できる。自動運転や監視カメラの高度化だけでなく、製造・医療・インフラ管理など幅広い分野への応用が期待されている。

UCC Japanとの実証

AI Vision Engineは現在、Woven CityのInventor(入居企業)の一つであるUCC Japan(UCC上島珈琲)との概念実証(PoC)に使われている。詳細は明らかにされていないが、コーヒーの配送や自動サービスに関連するロボティクスとAI安全システムを組み合わせた実証とみられる。トヨタとWbyTはこの技術をWoven City内だけでなく、将来的に外部への展開も予定していると発表した。


Integrated ANZEN Systemとは

AI Vision Engineを核にして構築されたのが「Woven City Integrated ANZEN System(統合安全システム)」だ。AIビジョンエンジンに加え、人間の行動を予測する「Behavior AI(行動AI)」と車両の走行を最適化する「Drive Sync Assist(ドライブシンクアシスト)」を組み合わせ、歩行者・車両・インフラのすべてに対してリアルタイムで安全を確保する仕組みだ。

車両カメラや信号機のカメラデータを解析することで動きを把握し、行動を予測したうえでその情報を歩行者やドライバーに提供する。事故が起きてから対処するのではなく、起きる前に予測して防ぐ、この「反応型から予防型への転換」がシステムの核心となる。

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■Inventor Garageが稼働

4月22日に稼働を開始した「Inventor Garage(インベンターガレージ)」は、Woven City内に設置された約2.4万平方メートルの開発・検証拠点だ。トヨタ自動車東日本の東富士工場に使われていた旧プレス加工施設(スタンピング施設)を活用した施設で、50年以上にわたり乗用車生産を支えてきた拠点を次世代技術の開発拠点として再生した。ものづくりの精神(モノづくり)を受け継ぎながら、革新と伝統の橋渡しを象徴する施設でもある。

出典:woven.toyota公式サイト

Inventor Garageが担う役割は「アイデアのプロトタイプ化から、Woven Cityの居住者(ウィーバー)による実際の生活環境での検証まで」を一気通貫でサポートすることだ。コンセプト創出・試作・検証という3段階のサイクルを都市内で完結させることで、「街のリアルなデータで製品を磨く」というWoven Cityならではの開発スタイルを実現する。トヨタ自動車東日本とトヨタのエンジニアも随時プロセスに関与する体制だ。

【参考】関連記事としては「トヨタWoven City、年収1600万で「潜入」する?」も参照。

■新たに4社が参入、空飛ぶクルマが「実験都市」に加わる

今回の発表でInventorとしての参加が発表されたのは4社だ。AI Robot Association(AIRoA)、大一興商(カラオケ機器「DAM」を手がけるメーカー)、Joby Aviation、そしてトヨタファイナンシャルサービスだ。これでWoven CityのInventor総数は24社になった。

Joby Aviationとは

Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)は、米カリフォルニア州サンタクルーズに本社を置く eVTOL(電動垂直離着陸機)の開発企業だ。トヨタは5億ドルの戦略的投資を約束しており、2025年5月には第1弾の2.5億ドルを実行してJobyの筆頭株主(持株比率15.3%)となっている。

2026年4月27日には、ニューヨーク市初となるeVTOL地点間実証飛行としてJFK空港からマンハッタンの複数ヘリポートへのデモンストレーション飛行を完了した。FAA型式証明プロセスではStage 4(適合性検査フェーズ)を2026年3月に完了しており、残るStage 5(最終型式証明)を経て2026年後半の米国商業運航開始を目指している。

Joby AviationがWoven Cityにインベンターとして加わることで、自動運転車・ロボット・インフラAIと空飛ぶクルマが統合された「統合モビリティ都市」としての実験が可能になる。Woven Cityがインフラ側として整備するAI Vision Engineや統合安全システムが、空からの移動手段との接続においてどう機能するかは今後の注目ポイントだ。

カラオケが実験都市に入る理由

やや意外に見えるのが大一興商(だいいちこうしょう)の参加だ。カラオケシステム「DAM(ダム)」を手がける同社がWoven Cityに入るのは、住民の「生活の質・エンタテインメント体験」という観点での実験を担うためと見られる。Woven Cityが目指すのは交通と自動運転だけでなく「人がより豊かに生活できる都市」の実現であり、こうした生活密着型の企業の参加がその志向を体現している。

【参考】関連記事としては「トヨタWoven City、上空を「空飛ぶクルマ」に開放か」も参照。

■100人が住む「実験都市」で何が行われているのか

Woven Cityが他の研究施設やスマートシティプロジェクトと一線を画すのは、「実際に人が住んでいる」という点だ。現在約100人の居住者(ウィーバー)がWoven City内で生活しており、彼らの日常の移動・行動・生活パターンがそのまま実験データとなる。フェーズ1では最終的に約300〜360人の居住を計画しており、段階的に拡充していく方針だ。

出典:woven.toyota公式サイト

住民のデータを倫理的に取り扱いながら都市全体のAIを改善するという仕組みを実現するために、「Woven City Infra HubおよびData Fabric(インフラハブ・データファブリック)」というデータ統合・プライバシー保護の基盤も整備されている。AI Vision EngineをはじめとするAIシステムが収集・処理するデータは、居住者の同意と厳格なプライバシー管理のもとに扱われる設計となっている。

■豊田章男会長もInventorとして「実験」している

Woven Cityの象徴的な側面の一つが、トヨタの豊田章男会長が「マスターウィーバー」としてInventorコミュニティに加わっていることだ。最新の取り組みとして、豊田会長のリーダーシップスタイルと意思決定プロセスを反映したAIモデル「Akio Toyoda AI」の開発にも関与している。このAIはトヨタグループ内でのAI活用の促進と目的志向の協業支援を目的としている。経営トップ自身が自社の実験都市のInventorとして製品開発に携わるというスタイルは、Woven Cityが単なるショールームではなく本気の実験場であることを示している。

■「100人の実験」が世界の移動インフラを変えるか

Woven Cityが実現しようとしているのは、個別の製品や技術の開発にとどまらない。AIが都市全体の「神経系」となり、移動・安全・生活のすべてをシームレスにつなぐ統合モビリティ都市のモデルを、100人の実生活を通じて証明しようとしている。

AI Vision Engineが予測した危険情報がWoven City全体に共有され、車・歩行者・そして空を飛ぶJoby AviationのeVTOLさえもがリアルタイムで協調して動く、そのビジョンはまだ実現途上だが、2025年9月のオープンからわずか7カ月でAI Vision EngineとInventor Garageが稼働し始めたことはその着実な前進だ。

約100人という現在の規模は「実験」としての密度を持ちながら、フェーズ1完成時の300〜360人、将来的には数千人・数万人への拡張に向けた知見を積み上げる重要なフェーズにある。Woven Cityで証明された技術・仕組みがどのように社会に広がっていくのか、引き続き注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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