空飛ぶクルマ、「利用したくない」が過半数超え

年次調査、想定需要が落ち込み



出典:MS&ADインターリスク総研プレスリリース

実用化・商用化に向けた開発に熱が入る空飛ぶクルマだが、その人気は低空飛行となっているようだ。MS&ADインターリスク総研の最新の調査によると、過半数となる50.7%が「利用したくない」と回答したそうだ。年次調査の結果を見ると、利用希望の割合は徐々に下がっている。

ここにきて想定需要が落ち込むのは、開発事業者にとって痛手ではないだろうか。同調査結果とともに、空飛ぶクルマの社会受容性や最新動向に迫る。


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■MS&ADインターリスク総研による調査概要

認知度は高まっているものの利用希望者は減少傾向に

MS&ADインターリスク総研は、空飛ぶクルマに対する消費者の意識や社会受容性を把握するため2020年から5回アンケート調査を実施している。

最新調査は2026年2月に実施したもので、東京都・大阪府在住者800人、長野県・大分県在住者800人、山梨県・石川県在住者800人、上記以外の在住者400人の計2,400人を対象にWebアンケート方式で調査した。

▼「空飛ぶクルマの社会受容性等に関する調査(第5回)」について|MS&ADインターリスク総研
https://www.irric.co.jp/topics/press/2026/0727.html

「空飛ぶクルマという言葉を聞いたことがあるか」との問いに対しては、78%が「聞いたことがある」と回答した。2020年の調査時(64.1%)から徐々に知名度は向上しているが、前回調査(2025年2月)からは7%上昇している。大阪・関西万博が認知度向上に貢献した可能性がありそうだ。


出典:MS&ADインターリスク総研プレスリリース

問題はここからだ。「空飛ぶクルマは実現すると思うか」との問いに対しては、42.5%が「実現すると思う」、28.0%が「実現すると思わない」、29.6%が「わからない」とそれぞれ回答した。

2020年の調査では、「実現すると思う」が57.8%、「実現すると思わない」が17.8%となっており、年を重ねるごとに実現性への疑問が高まる傾向にあるのだ。

空飛ぶクルマの認知度が高まる一方、開発各社の取り組みも目耳に入りやすくなり、その進捗を踏まえ「やっぱり難しいんじゃない?」といった印象が強まっているのかもしれない。

出典:MS&ADインターリスク総研プレスリリース

「空飛ぶクルマが実現したら利用したいか」との問いも同様の傾向を見せている。「利用したい」が49.3%、「利用したくない」が50.7%となり、調査開始以来、初めて「利用したくない」が過半を超えた。


2020年の調査では、「利用したい」が54.3%、「利用したくない」が45.7%で、翌2021年の調査では「利用したい」が59%まで上がったがその後は下落し、ついに逆転に至った。

こちらも、空飛ぶクルマというものがどういった形状でどのように飛ぶのかが具体化されたイメージとなり、開発が遅れていることなども相まって「思っていたものと違う」「ちょっと怖い」といった印象に変わってきている可能性が考えられる。

出典:MS&ADインターリスク総研プレスリリース

利用者サイドの温度が冷え始めている?

空飛ぶクルマは、当初計画においては大阪・関西万博で商用運航を開始する予定だった。商用運航と言っても、実証サービス的意味合いのものだが、それでも世界に「空飛ぶクルマ実用化」を発信する絶好の舞台となるはずだった。

万博には、ANAホールディングス×米Joby Aviation、日本航空(Soracle)×独Volocopter、丸紅×英Vertical Aerospace、SkyDriveの4陣営が参加し、会場内外を結ぶポイント間の商用運航を計画していたが、2024年になって商用化は諦め、デモフライトに切り替えた。

日本航空は、パートナーをVolocopterから米Archer Aviationに切り替えるなど模索を続けたが、デモフライトすら諦め、展示のみとなった。

万博でデモフライトを観覧し、未来への期待感を抱いた人も当然いるだろうが、その「すご味」を感じられず、率直に「こんなものか」と思ってしまった人もいるだろう。

なかなか実用化されないため、技術面に不安がある――と受け取る人も少なくないはずだ。技術面の不安は、安全性への不安に直結する。空のモビリティは、陸上モビリティに比べ有事の際の危険性は爆上がりする。こうした点も背景にあるのではないだろうか。

こうした利用意向は将来需要に直結するが、現状いまいち盛り上がっていないようだ。開発各社は、このような状況下でも多額の資金をつぎ込んで開発する意味はあるのだろうか。

次に、事業者サイドのアンケート調査を見ていこう。

万博の空飛ぶクルマ、全陣営が「デモ飛行」すら断念か

■事業者目線によるアンケート調査の概要

万博事業者は社会受容性向上を意識

利用者サイドの温度が下がりつつあることが分かった。では、国や事業者サイドはどのように受け止めているのだろうか。

国土交通省航空局が2026年3月に公表した「大阪・関西万博会期中における空飛ぶクルマ実証に関する振り返りアンケート」結果を見ていこう。万博会期中、空飛ぶクルマのデモフライトや展示を継続して実施した事業者(運航事業者、機体メーカー、ポート運営者)を対象に、成果や課題、制度面における改善点、社会実装に向けた提案などをうかがうことを目的に実施したものだ。

出典:国土交通省

主な成果としては、以下が挙げられた。

  • ①社会受容性向上への寄与を実感
  • ②安全運航体制と業務プロセスの改善
  • ③実運航を通じた知見の獲得

①では、飛行実証や展示を通じ、多くの来場者と直接コミュニケーションを図る機会を創出でき、空飛ぶクルマに対する理解の深化と社会受容性の向上に寄与した。また、来場者からは空飛ぶクルマへの高い関心と期待が示され、将来的な利用への期待感の醸成や、関係者の取り組みを後押しする契機となったとしている。

②関連では、運航体制や関係機関との調整、各種手続きなどに関する実務的な知見の蓄積、組織内の安全意識の向上を確認したほか、機体運用やFATOなどの運用手順、地上インフラの仕様・レイアウト、運航フローに関する具体的な知見を獲得したとしている。

③については、飛行実証およびポート運営を通じ、気象変化や運航遅延への対応、情報共有の在り方について確認する機会となり、機体運航や運営体制に関する実務的な知見を獲得したという。

社会受容性に関しては、ポジティブ面だけを拾い集めているような印象を受ける。事業者の回答は以下の通りだ。

  • 空飛ぶクルマの魅力を広く発信し、社会受容性の向上に対して微力ながら貢献できたと考える。
  • 5,500人の参加者と直接のコミュニケーションを通じた社会受容性の向上。
  • 予想以上に大きな反響があり、エアモビリティが日本でも受け入れられるのではないかという自信につながった。
  • 社会受容性および今後への期待。搭乗したいといった期待感まで引き上げられたほか、必要な社内外関係者の認知や実現にむけたモチベーションの寄与に貢献した。
  • 実際にご覧いただくことで、社会受容性の向上にも大いに貢献できたと考える。
  • 空飛ぶクルマの飛行を実現して社会受容性を高めることができ、将来的に当該エリアで空飛ぶクルマ事業を実施する後押しとなった

企業として、ポジティブな反応を糧とするのは当然とも言える行為だ。もちろん、アンケート総体としてはポジティブ・ネガティブ両論を併記したうえで課題も取り上げるべきだが、万博の取り組みにおける社会受容性の特性上、ネガティブ意見を抽出しても中身のない課題しか出てこないのも事実だろう。

少なからず、関係各社の開発意欲は衰えていないことがわかる。

▼国土交通省航空局発表の万博アンケート結果
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/012_02_01.pdf

イメージの具体化がカギ?

なお、少し古いがSkyDrive、大林組、関西電力、近鉄グループホールディングス、東京海上日動火災保険が2021年10月に実施した「空飛ぶクルマによるエアタクシー事業性調査」にも触れておこう。ドローンによる海上飛行の見学や展示の来場者などを対象としたアンケートだ。

「空飛ぶクルマを知っているか?」との問いに対し、「知っている」が29.6%、「聞いたことがある」が50%、「全く知らない」が20.4%――という結果を得た。

「展示している空飛ぶクルマに乗ってみたいと思うか?」という問いでは、「是非乗ってみたい」が65.8%、「できれば乗ってみたい」が29.1%、「あまり乗りたくない」が5.1%――となった。

乗りたい理由としては、「眺めがよさそう」が65.7%で最多となり、「渋滞のない生活」54.7%、「移動時間の短縮」52%と続いている。乗りたくない理由としては、「機体」「自動操縦」「衝突」といった安全性全般に対する不安が大きかったという。

「空飛ぶクルマのサービスを利用するにあたり、それぞれどのくらい重視するか?」との問いでは、「安全性の徹底」95.5%、「利用しやすい料金」86.8%、「ユーザビリティ」77.2%――となった。

やはり安全性は最重視されるようだ。運賃も気になるところだろう。空飛ぶクルマによるモビリティサービスは、遊覧飛行やエアタクシーなどが想定されるが、いまだに具体的な利用形態をイメージしづらく、運賃水準も不明だ。

離発着場となるバーティポートがどのような場所に設置され、どのような手順で利用できるのか。万が一の際、フェールセーフがどのように働いて安全に着陸するのか……など、認知度ではなく本質的な理解度が成熟しなければ、社会受容性は向上しない。

イメージの具体化が必要なフェーズに差し掛かっていると言えそうだ。

空飛ぶクルマ、大阪人は「利便性」より「眺め」重視 アンケートで判明

■空飛ぶクルマの動向

2027~2028年に一部地域で商用運航目指す

イメージが具体化されない空飛ぶクルマだが、商用フェーズはまもなく訪れる。国の「空の移動革命に向けたロードマップ」最新版では、2027~2028年に一部地域で商用運航を開始するとしている。

2030年代前半には、新たな交通管理、遠隔操縦による旅客輸送の導入、運航規模の拡大に対応する交通管理(AAMコリドーなど)に向けた国の制度・体制整備、遠隔操縦での旅客輸送の実現のための国の制度整備、AAMの高密度な運航をサポートする運航管理システムの官民での開発を行う。

AAMは「アドバンスト・エアー・モビリティ」の頭文字で、実質的に「=空飛ぶクルマ」だ。

2030年代後半には、自動・自律運航の一部実現を図る。空飛ぶクルマの自動運転化に向け、国の制度整備・官民での技術開発を推進していく。

そして2040年代以降、日常生活における自由な空の移動が当たり前の社会の実現を目指す計画だ。

予定通りであれば、2027年にも一部で商用運航が始まる見込みだ。ずれ込みそうな気がしなくもないが、少なからず目に見える形で飛行実証が増加し、サービスの具体化も進むはずだ。エアモビリティがどのようなものか、どのようなサービスが提供されるのか……といったものがイメージしやすくなることは間違いなさそうだ。

東京都が実用化の先陣を切る?

空飛ぶクルマ実装プロジェクトを展開する東京都は、2025年度〜2027年度を第1期とし、事業者と都が連携する官民共同事業によって商用運航の実現を目指すプレ社会実装に位置付けている。

2028年度〜2029年度の第2期では、事業者による商用運航などが開始されていることを想定し、その拡大に向けた支援を実施する。一部市街地でサービスが実装されているイメージだ。2030年度以降に商用運航の拡大を目指す。

【参考】関連記事「東京都、5年以内に「空飛ぶクルマ」商用化へ」も参照。

東京都、5年以内に「空飛ぶクルマ」商用化へ

大阪メトロは大阪港バーティポートで搭乗体験などを継続実施中

大阪では、万博終了後も大阪港バーティポートで、空飛ぶクルマの体験イベントが継続開催されている。大阪メトロが手掛ける「空クルラボ」では、SkyDrive やSoracle、ANA、トヨタなどの協力のもと、SkyDriveの「SD-05(3人乗り)」や「SD-03(1人乗り)」への搭乗体験、VR飛行体験などを予約制で実施している。

飛行体験ではなくあくまで搭乗体験だが、こうした継続的な取り組みも社会受容性向上に大きく貢献しそうだ。

■【まとめ】開発サイドの熱は下がっていない

利用者サイドの熱が下がりかけているのはおそらく事実で、これ以上進捗遅延を重ねると……といった状況だ。実証飛行などもそれほど目につかず、進展具合が一般目線で感じられないのだ。

商用化予定の2027年~2028年までそれほど時間はないが、今後大きく変わっていくのか。開発サイドの熱は下がっていない。焦りはあるかもしれないが、自社事業を信じて前に進むだけだ。利用者サイドの熱が今一度高まるようなポジティブな取り組みに期待したい。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマ(Flying Car)とは?いつ実現?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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