中国政府、自動運転の国家安全基準を2027年7月施行へ 日本と世界標準争いが激化か

規格を任意から強制へと格上げ



中国が自動運転の強制国家標準づくりを本格化させている。中国の工業情報化部(MIIT)がまとめた「自動運転システム安全要求」は、これまで任意だった国家標準を強制規格へと格上げするものだ。ブラックボックスにあたるデータ記録システムの搭載義務などを企業に課す。世界に先駆けた強制規格として整備が進む。


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■中国政府が動かす自動運転の国家安全基準とは何か

中国政府が進める自動運転の国家安全基準は、正式には「智能網聯汽車 自動駕駛系統安全要求(自動運転システム安全要求)」という。策定を主論するのは工業情報化部(MIIT)だ。MIITはこの強制国家標準の意見募集稿を2026年2月12日に公開し、意見募集を同年4月13日に締め切った。対象は自動運転レベル3とレベル4のシステムで、自動駐車システムは除かれる。

最大のポイントは、任意だった規格を強制規格へと格上げする点にある。中国にはこれまで2024年9月に施行された推奨国家標準があったが、これは企業が従うかどうかを選べる任意の規格だった。新しい安全要求はこれを置き換える。強制規格となれば、適合しない製品は中国国内での製造・販売・輸入が認められなくなる。施行目標は2027年7月1日。既に認可を受けている車種には、施行日から13か月の移行期間が設けられる。

「ルールなき拡大」から「基準に裏打ちされた拡大」へ。中国の政策転換を象徴する動きと言える。

【自動運転ラボの視点】
注目すべきは、任意ガイドラインを強制規格へと格上げする方針だ。普及を急ぎつつ安全懸念が高まった今、中国は量の拡大から質の担保へと軸足を移そうとしている。世界標準を握る布石でもある。

【参考】関連記事としては「中国 自動運転の「独自ルール」策定へ 日本の国際規格と衝突か」も参照。


■ブラックボックス義務化と運転引き継ぎ要請への不応時の自動停止

安全要求の中身を見ていくと、二つの具体的な要件が目を引く。一つはブラックボックスにあたるデータ記録システムの搭載義務、もう一つはシステムからの運転引き継ぎ要請にドライバーが応じなかった場合の自動停止である。

データ記録システムは、航空機のフライトレコーダーに例えられる仕組みだ。自動運転データ記録システムDSSADと呼ばれ、走行中の重要なデータを記録する。事故が起きた際に状況を再現し、原因や責任の所在を検証できるようにする狙いがある。新しい安全要求は、このDSSADを、2026年1月に施行済みの強制国家標準GB 44497に準拠する形で搭載するよう求める。既存のデータ記録規格に紐づけて義務化する設計だ。

もう一つの自動停止は、自動運転レベル3のシステムの安全性を一段引き上げる要件だ。レベル3は特定の条件下でシステムが運転を担うが、システムから要請があればドライバーが運転を引き継ぐ必要がある。安全要求では、ドライバーがこの引き継ぎ要請に応じない場合でも、システムが自ら最小リスク操作MRMを実行しなければならないとする。車線を変更し、交通を妨げない場所まで車を移動させて安全に停止させる操作だ。専門家はこの要件について、レベル3をレベル4の能力に近づけるものだと指摘している。

■強制規格と運用抑制が同時進行する中国の二面性

安全要求の整備が進む一方で、中国は自動運転の運用に急ブレーキをかける動きも見せている。Bloombergが2026年4月29日に報じたところによると、中国は自動運転車の新規許可を停止した。きっかけは武漢で起きたトラブルだ。百度(バイドゥ)のロボタクシー「Apollo Go」が突然停止し、乗客が車内に取り残されて交通が混乱した。


これを受け、MIITを含む3つの政府機関がロボタクシーを展開する都市の当局者を集めて会合を開いた。規制当局は各自治体に対し、同様の事態を防ぐための総点検と安全監視の強化を求めたという。停止期間は明らかになっていない。

規格を強制化して産業の底上げを図る一方で、トラブルが起きれば運用そのものを止める。安全要求の策定と新規許可の停止は別個の動きだが、二つを並べて見ると、拡大を進めつつ安全への警戒も強めるという中国の二面性が浮かび上がる。自動運転タクシー市場をめぐる中国の舵取りは、アクセルとブレーキを同時に踏むような難しさを抱えている。

【参考】関連記事としては「中国政府、自動運転を「全てストップ」 百度が原因か」も参照。

■日本発ISO 23792と各極で分かれる標準づくりのアプローチ

中国が国内の強制規格づくりを急ぐ一方、日本は別のアプローチで標準形成に関わっている。国際標準化機構ISOが定める国際規格ISO 23792の主導だ。特定国の自国規格ではなく、各国が共通して参照できる国際規格である点が特徴と言える。

経済産業省は2026年4月3日、日本が主導してISO 23792-1とISO 23792-2が国際規格として発行されたと発表した。高速道路など自動車専用道路での自動運転レベル3を対象とする枠組みで、システムと人間のドライバーの間で運転を交代することを前提としている。

ここで注意したいのは、中国の安全要求と日本のISO 23792が同じ性質のものではない点だ。中国の安全要求は国内で従わなければならない強制法規である。一方のISOは各国が任意で採用する国際規格だ。日本は国内法で縛るのではなく、国際合意の枠組みづくりで存在感を示すという戦略を取っている。

欧州や米国の動きも一様ではない。欧州には一般安全規則GSR2があるが、その主眼は自動緊急ブレーキや車線維持支援といった運転支援機能の搭載義務化にある。自動運転レベル3・4そのものを包括的に規定する枠組みは、むしろ自動車専用道路でのレーン維持を扱う国連規則R157や各国法の組み合わせだ。

米国では連邦レベルの自動運転法案SELF DRIVE Actが長く議会で停滞しており、いまだ国家としての実体的な安全基準は成立していない。近年動いているのは、米運輸省道路交通安全局NHTSAによる既存の連邦自動車安全基準FMVSSの改正の方である。誰が世界ルールを作るのかという競争は、各極でアプローチが大きく分かれている。

■国家安全基準と世界標準争いが映す自動運転の主導権

中国の自動運転の国家安全基準は、単なる安全規制にとどまらない意味を持つ。強制規格による安全の底上げと、世界標準をめぐる主導権争いという二つの側面が重なっているからだ。

興味深いのは、中国の草案が国連のGTRや国連規則R157を参照している点だ。完全に独自路線を突き進むのではなく、国際的な枠組みを取り込みながら自国の強制規格に落とし込んでいる。中国独自ルールと国際規格の単純な対立構図では捉えきれない。一方で、その中身は「適切」「合理的」「十分」といった定性的な表現が多く、米国の連邦自動車安全基準のような客観的・定量的な基準とは性格が異なるという指摘もある。強制規格でありながら、運用には解釈の余地が大きく残る。

強制規格を整える中国、国際規格を主導する日本、運転支援の義務化と国連規則に依る欧州、基準づくりが途上の米国。世界標準争いは、自動運転タクシー市場やロボタクシー市場の覇権を左右する。

ゴールドマン・サックスの推計では、中国の路上を走るロボタクシーは2030年に50万台、2035年には190万台に達するとされる。巨大な市場を背景に、誰が自動運転の国家安全基準を世界標準へと押し上げるのか。2027年7月という施行目標を控え、競争はこれからが本番だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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