中国 自動運転の「独自ルール」策定へ 日本の国際規格と衝突か

ガイドラインを任意から義務へ



世界の自動運転産業で、静かな「規格戦争」が始まった。中国が自国の強制的な安全基準を制定しようとし、日本はISO(国際標準化機構)の議長国として国際規格の策定を主導する。どちらの「ルール」が世界標準になるかは、自動運転産業の覇権を左右する問題だ。


中国の工業情報化部(MIIT)が2026年2月12日、「智能網聯汽車 自動駕駛系統安全要求(インテリジェント・コネクテッドビークルの自動運転システム安全要件)」と題した国家強制基準の草案を公開した。レベル3レベル4の自動運転システムを包括的に対象とする規制で、2027年7月1日の施行を目指している。

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■自動運転の独自ルール策定に動く中国

MIIT草案の正式名称は「智能網聯汽車 自動駕駛系統安全要求」。日本語で「インテリジェント・コネクテッドビークルの自動運転システム安全要件」と訳される。2026年2月12日に公開され、パブリックコメントの受付期間は4月13日まで設定された。施行目標は2027年7月1日。

対象はSAEレベル3(特定条件下でシステムが完全に運転を担う)とレベル4(地理的・条件的な限定内では完全無人)の自動運転システムだ。中国ではすでに2024年にブラックボックス(DSSAD)に関する強制基準(GB 44497-2024)が施行されているが、今回の草案はレベル3・4の自動運転システム全体の安全要件を定める包括的な規制として新たな位置づけとなる。これまで任意だった2024年のガイドラインを義務化し、システム全体に適用するという点が最大の特徴だ。

【参考】関連記事としては、「中国政府、自動運転を「全てストップ」 百度が原因か」を参照


草案に含まれる主な要件

草案の主な要件を整理しよう。まずDMS(ドライバー監視システム)の義務化だ。ドライバーの注意状態をリアルタイムで監視し、不注意や居眠りを検知する機能が必須となる。さらに自律退避操作(minimal risk manoeuvre)の要件として、異常発生時にシステムが人間の介入なしで安全な状態に自律的に移行することが求められる。加えてDSSAD(自動運転データ記録システム)の要件も統合的に組み込まれており、事故発生時の原因分析に必要なデータの記録・保存が義務付けられる。

これは日本や欧州でいう「自動運転レベル3安全基準」に相当するものだ。中国が独自の強制基準を定めることで、中国市場に参入する外資メーカーもこの基準への準拠が求められる。

【自動運転ラボの視点】
特に注目したいのは、2024年の任意ガイドラインを「強制」に格上げするという方針。自動運転技術の普及を急ぎつつも、安全への懸念が高まった今、中国政府が「ルールなき拡大」から「基準に裏打ちされた拡大」へとギアを入れ替えようとしていることが伝わってくる。

■百度の「武漢100台一斉停止」が引き金に

規制の動きが加速した直接の引き金は、2026年3月31日夜に武漢で起きたBaiduのロボタクシー「Apollo Go(アポロ・ゴー)」の大規模停止事故だ。100台超の自動運転タクシーが同時に路上で立ち往生し、夕方ラッシュの武漢市内で大規模な渋滞が発生した。

Baidu Apollo Goは武漢だけで1,000台以上が稼働する中国最大のロボタクシー事業者で、国内累計乗車回数は2026年2月時点で2,000万回超に達していた。その「巨人」が突然止まったのだ。衝撃は大きかった。


3省合同会議と新規ロボタクシー許可の停止

事故を受け、MIIT(工業情化部)・公安部・交通運輸部の3省が4月中に合同会議を開き、ロボタクシーを展開する都市や自動運転の実証実験を行っている都市の当局者を招集した。その後、Bloombergが報じたのが、ロボタクシーの新規導入・新規テスト開始・新都市進出という3つのカテゴリにわたる新規許可の停止だ。

「なぜ中国はそこまで素早く動けるのか」と思う読者もいるだろう。答えは政府の意思決定のスピードにある。技術基準の策定から許可停止まで、わずか1カ月以内に複数の省が連携して動いた。世界の自動運転ロボタクシー市場のリーダーたちが既得権を守ることに時間をかける西側諸国とは、規制の反応速度が根本的に異なる。

■日本主導のISO 23792が2026年3月に発行。「規格戦争」の主役

一方の日本はどう動いているか。2026年3月、自動車専用道路での自動運転システムに関する国際規格「ISO 23792-1:2026」と「ISO 23792-2:2026」が日本主導で発行された。日本が国際議長を務めるISO/TC 204(高度道路交通システム)/WG 14(走行制御)に、日本から提案して策定した。

ISO 23792が定める「モーターウェイ・ショーファー・システム(MCS)」とは

この規格の核心はMCS(Motorway Chauffeur System)という概念だ。高速道路専用の自動運転システムで、システムと人間のドライバー間の運転交代を前提としたレベル3対応の規格となっている。

ISO 23792-1がシステム全体のフレームワークと基本要件(単一車線内自動運転)を定め、ISO 23792-2が任意車線変更の要件と試験法を定める。日本は2021年にホンダ レジェンドで世界初のレベル3市販車を投入した実績を持ち、その経験が規格策定に活かされている。また国連のUNCECE(欧州経済委員会)では日本主導でUN R157(ALKS:自動レーン維持システム)が2021年に発行されており、国際的な自動運転規格の策定で日本は一定の存在感を示してきた。

■中国規格とISO規格はどう違うのか

MIITの草案編制説明書には「2025年3月から6月にかけて、国連の自動運転システム安全要件グローバル技術法規(ADS GTR)を継続的に追跡した」と明記されている。中国側も国際規格を参照しながら基準を策定しているのだ。

さらに既存の中国強制基準を見ると、GB 44495-2024(情報セキュリティ)はUN R155を、GB 44496-2024(ソフトウェアアップデート)はUN R156をそれぞれ参照して策定された。「完全な独自路線」ではなく、国際規格との整合性を意識しながら中国独自の強制基準として制度化するというアプローチだ。

とはいえ、どちらの体系がデファクトスタンダードになるかは市場規模で決まる面がある。中国は世界最大の自動車市場であり、ロボタクシーの走行台数でも世界トップクラスだ。中国の強制基準が事実上の「世界標準」になる可能性は十分にある。そこにISOとUNCECEという国際的な枠組みで対抗しようとするのが日本・欧州の戦略だと言える。

■日本の自動車産業にとって何を意味するのか

この規格競争は、日本の自動車メーカーにとって直接的な経営課題だ。中国の強制基準が2027年7月に施行されれば、トヨタ日産・ホンダは中国市場でのレベル3・4車両についてMIIT基準への準拠が必要になる。一方でISO 23792への準拠を前提にした開発を進めれば、欧州・日本市場では優位に立てる。

「どちらにも対応する」のは開発コストの増加を意味し、「どちらかを選ぶ」のは市場の一方を捨てることになりかねない。さらに2026年6月のUNCECE WP29(世界車両法規調和フォーラム)ではUN R157の拡張議論が予定されており、国際的な自動運転規格の枠組みはさらに複雑化する見込みだ。

中国は規制でロボタクシー事業を一時停止させながら、同時により強固な安全基準を整備しようとしている。日本はISO規格の議長国として国際標準化を主導しようとしている。この2つの動きが交差する2027年が、世界の自動運転産業の「規格の行方」を決める年になる幕開けかもしれない。引き続き、その動向を注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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