500km走れない?自動運転トラックT2がEV捨て「バイオディーゼル」に踏み切る

電気からバイオ燃料にスイッチ



EVトラックは500kmを走り切れないのか。大量の荷物を積んで長い距離を走る大型トラックの電動化には、航続距離と充電時間の壁がつきまとう。自動運転トラックを開発するT2が出した答えは、電気ではなくバイオ燃料だった。T2は石油業界大手の出光興産、商用車大手のいすゞ自動車との3社連携を2026年7月2日に発表し、トラック輸送の脱炭素に踏み切る。


舞台は関東と関西を結ぶ約500kmの高速道路である。この区間を走る自動運転トラックに、次世代バイオディーゼル燃料「出光リニューアブルディーゼル(IRD)」を2026年夏から試験導入する。500km級の長距離を、充電に頼らず既存のディーゼル車のまま脱炭素する。3社はその道を選んだ。

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■「500km走れない」EVトラックの壁 バイオディーゼルを選んだ理由

今回の連携で最も重要なのは、T2が長距離トラックの脱炭素の手段としてEVを選ばなかった点である。舞台となるのは関東と関西を結ぶ約500kmの高速道路だ。この距離を大量の荷物を積んで走り続けるとなると、大型トラックのEV化には航続距離と充電時間という高いい壁が立ちはだかる。バッテリーを大きくすれば車両重量が増え、積める荷物が減る。長い充電時間は運行スケジュールを圧迫する。

そこで選ばれたのが、次世代バイオディーゼル燃料IRDである。IRDは廃食油などを原料とし、原料調達から燃焼までの全体でCO2を80%以上削減できるとされる。しかも軽油からIRDへ切り替える際、車両やエンジン、給油設備を入れ替える必要がない。既存のディーゼルトラックにそのまま給油して走れる。500kmを止まらず走らせながら脱炭素も進める。この二つを両立させる現実解として、3社はバイオ燃料に踏み切った。

【自動運転ラボの視点】
長距離トラックのEV化は、航続距離と充電時間の壁が高い。既存のディーゼル車をそのまま脱炭素できるバイオ燃料は、自動運転の商用化を止めない現実解だ。T2の選択は、電動化一辺倒ではない物流の本音を映している。

【参考】関連記事としては「ロート製薬 T2の自動運転トラックで「関西〜関東間」の輸送実証」も参照。


■出光・T2・いすゞ、3社連携で自動運転トラックにIRDを給油する

3社の役割は明確だ。出光興産はIRDを供給し、運びやすい可搬式の燃料タンクを使った給油や、IRD専用の給油拠点の展開を検討する。T2は自らの自動運転トラックでIRDを実際に走らせて試す。いすゞ自動車は、ベースとなる大型トラック「ギガ」を提供し、軽油を使うときと同じ水準のメンテナンス体制を整える。

燃料、運行、車両、そして給油インフラ。脱炭素で走るトラックに必要な要素を、3社が分担して埋めていく構図である。とりわけ課題になるのが給油拠点だ。IRDはどこでも入れられるわけではない。だからこそ出光は、可搬式タンクや専用の給油拠点という形で、給油できる場所をどう増やすかに知恵を絞る。燃料そのものだけでなく、その燃料を届ける仕組みまで含めて設計しようとしている点に、この連携の狙いがある。

■なぜEVではなくバイオ燃料なのか

大型の商用車をそのまま電気で動かすことの難しさは、すでに現実の失敗として表れている。大阪メトロは2025年大阪・関西万博で使ったEVバスの路線転用を、安全性の確保が難しいとして断念した。使えなくなった車両は190台にのぼり、特別損失は67億円に達した。乗客を乗せて決まった路線を走るバスですら、電動化はこれほど重い代償を伴う。


トラックとバスは用途こそ違うが、大型の商用車を電動化する難しさという点で地続きだ。積載や航続、安全や運用コスト。乗用車と同じ感覚では電動化が進まない領域がある。IRDが「電気化や水素化が難しいと言われる大型車両」の脱炭素の手段として位置づけられているのは、この現実があるからだ。EVを唯一の正解とせず、いま走っているディーゼル車をそのまま低炭素化する。それが長距離トラックにとっての、もう一つの現実的な道になる。

■自動運転レベル4による幹線輸送の開始も見据える

T2が進めているのは、脱炭素だけではない。自動運転そのものの高度化も同時に走らせている。T2はすでに2025年7月から、関東〜関西の高速道路で自動運転レベル2のトラックによる商用運行を続けている。人がハンドルを握りつつシステムが運転を支える段階だ。そのうえで、2027年度以降に自動運転レベル4による幹線輸送の開始を見据える。決められた条件下で運転を完全にシステムに任せる段階である。

この二つの現実解を支えるのが拠点づくりだ。T2は無人と有人を切り替える拠点「トランスゲート」を神奈川県と兵庫県に整備した。関東と関西、500kmの両端に拠点を置くことで、長距離の幹線輸送を現実の運用に落とし込む。ドライバー不足という物流の課題は自動運転で、脱炭素という課題はバイオ燃料で解く。一台のトラックにその両方を担わせようとしている。もっとも、給油拠点の不足やコスト、燃料の性能や耐久性など、乗り越えるべき課題は残っている。

■500kmをバイオディーゼルで走る

関東と関西を結ぶ500kmを、自動運転トラックがバイオディーゼルで走る。T2と出光興産、いすゞ自動車の連携が示したのは、脱炭素の答えが一つではないという事実だ。EVや水素、バイオ燃料は競い合う関係ではなく、用途に応じて使い分けられる時代に入りつつある。長い距離を止まらず走る大型トラックでは、既存のエンジンをそのまま生かせるバイオ燃料が、当面の現実解になり得る。

EVでも500kmを走ること自体はできる。ただし、航続を伸ばすほどバッテリーは重くなり、充電には時間がかかり、積める荷物も削られる。長距離・大量輸送では、この課題が重くのしかかる。だからこそ、既存のディーゼル車にそのまま給油でき、走行距離の制約を受けにくいバイオ燃料IRDに注目が集まる。自動運転で人手不足に、バイオ燃料で脱炭素に。T2の一台は、長距離物流の行方を占う試金石になる。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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