「無人トラック」企業がナスダック上場 株価急騰で自動運転バブル状態

企業価値は13.5億ドル



スウェーデンの電動・自律走行トラック企業Einride(アインライド)が、ナスダック上場の初日に株価を一時2倍超まで急騰させた。値動きが急すぎたため、取引は一時停止された。無人走行、自動運転トラックへの市場の熱狂が、再び表面化した格好だ。


上場は2026年6月10日。米国の特別買収目的会社SPACであるLegato Merger Corp. IIIとの合併によるもので、普通株はティッカーENRD grading で取引が始まった。合併時の企業価値は約13.5億ドル。顧客にAmazon、PepsiCo、Heineken、Carlsbergといった有名企業を並べる一方で、会社はまだ赤字の段階にある。それでも投資家は殺到した。

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■ナスダック上場初日に株価は一時2倍、「自動運転バブル」状態に

Einrideのナスダック上場は、初日から異様な熱気に包まれた。普通株はティッカーENRD、ワラントはENRDWで6月10日に取引を開始。株価は一時74%超から100%超まで急騰した。値動きがあまりに急だったため、ナスダックのリミットアップ・リミットダウン制度が作動し、取引は途中で一時停止された。

ただし熱狂は一方向ではなかった。同じ初日のうちに初値比で25%下落する局面もあり、上場後はむしろ調整が続いている。瞬間的な急騰と、その後の冷却。両方を見なければ実像はつかめない。

赤字段階の企業に資金が殺到し、株価が乱高下する。この構図は、かつて自動運転ブームで何度も繰り返された。市場が再び「自動運転バブル」とも呼べる状態に入りつつある。そう見る向きは少なくない。


上場初日には、経営陣がニューヨーク・タイムズスクエアでナスダックのオープニングベルを鳴らす演出も行われた。祝祭ムードと過熱感が同居した一日だった。

【自動運転ラボの視点】
赤字段階の企業に資金が殺到する構図は、かつての自動運転ブームを思わせる。だが顧客にAmazonらが並ぶ点は実需の裏付けでもある。熱狂と実態を切り分けて見たい。

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■上場の正体はSPAC合併。企業価値13.5億ドルへの「値下げ」も

派手な株価急騰の裏で、見落とせない事実がある。Einrideの上場は、通常の新規株式公開IPOではない。空箱会社とも呼ばれる特別買収目的会社SPAC、Legato Merger Corp. IIIとの合併、いわゆるde-SPACによる上場である。

SPACは、先に上場した資金の器が後から実体のある企業を合併し、その企業を実質的に上場させる仕組みだ。通常のIPOより早く公開市場にたどり着ける一方、評価額が変動しやすい。Einrideの場合、合併の発表は2025年11月。2026年6月4日に株主が承認し、6月10日の取引開始につながった。

注目すべきは評価額の推移である。当初2025年11月の発表時点では企業価値を18億ドルと見込んでいた。ところが最終的な合併時の企業価値は約13.5億ドルへ。およそ25%引き下げられての上場だった。株価急騰の華やかさと、評価額の静かな値下げ。熱狂と慎重さが同時に表れている。

資金調達は順調だった。調達総額は約3.33億ドル。このうち公開株への私募投資PIPEが1.13億ドルを占め、当初目標の1億ドルを上回る応募を集めた。出資者にはスウェーデンのEQT Ventures、さらに欧州最大の日本系ベンチャーキャピタルであるNordicNinjaも名を連ねる。日本マネーも、この自動運転トラック企業を支えている。

■Amazon、PepsiCo、Carlsberg。有名企業が並ぶ顧客リストの中身

市場の熱狂を支えるのは、Einrideの顧客リストである。Amazon、PepsiCo、Heineken、Carlsberg、DP World、GE Appliances、Mars。世界的な大企業がずらりと並ぶ。顧客数は30社規模、7カ国で稼働している。これだけの実需の裏付けは、純粋な技術系スタートアップにはなかなか見られない。

とりわけ象徴的なのがAmazonとの取引だ。2026年4月、Einrideは米国5拠点でAmazon向けに電動トラック75台を配備すると発表した。年間およそ300万マイルの輸送をカバーする計画である。

ただし、ここは誤解されやすい。Amazon向けに走るのは、運転席のない自律走行車ではない。ドライバーが乗る通常の電動トラックである。Einrideは車両を保有・管理し、自社のAI運用ソフトSagaで配車や充電を最適化する。あくまで電動化の支援であって、無人トラックを走らせているわけではない。

Einrideが運用する電動トラックは、ヨーロッパ、北米、UAEで合わせて約200台。有名企業の物流現場で、すでに日常的に荷物を運んでいる。

■赤字でも市場が熱狂した理由。自律トラック「eBot」と日本の2024年問題

Einrideはまだ黒字化していない。2025年通期の売上はSEK約4.6億、前年比で約18%増えたとはいえ、純損失はSEK 17.2億にのぼる。明確な赤字段階である。それでも市場が熱狂したのはなぜか。

鍵は将来の数字にある。署名済みの契約に基づく年間経常収益ARRは約9,200ドル。さらに顧客との共同事業計画を含めた潜在的なARRは8億ドルを超える。市場が見ているのは、足元の売上ではなく、この先に広がる需要の地図だ。

もうひとつの期待が、運転席のない自律走行トラック「eBot」である。キャブレス、つまり運転台そのものを持たない設計で、空間をすべて荷台に使える。ただし配備はまだ限定的だ。たとえば米オハイオ州では、物流会社EASE Logisticsと組んで2台のパイロット運行を計画する段階にある。実用化はこれからというのが実態である。

この物語が日本と無縁ではない理由が、いわゆる2024年問題だ。トラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用され、輸送力の不足が深刻になっている。人手に頼らない自動運転トラックへの関心は、日本でも確実に高まっている。Einrideに日本系ベンチャーキャピタルが出資している事実も、その文脈で読める。

■株価急騰が映す「自動運転バブル」の現在地

Einrideの株価急騰は、自動運転トラック市場の現在地を映す鏡である。過去にも、自動運転企業がSPACを通じて公開市場に乗り込む例は相次いだ。Auroraは2021年に約130億ドルの評価で上場し、Kodiakも2025年に同じ道を選んだ。一方で、Embarkの事業停止やTuSimpleの混乱など、熱狂のあとに訪れた厳しい現実も記憶に新しい。

Einrideが純粋な自動運転企業と異なるのは、既存の電動トラック事業の上に自律技術を載せる二段構えにある点だ。まず電動フリートで実需と売上をつくり、その基盤の上で自律走行を広げていく。バブルと切って捨てにくいのは、この実需の裏付けがあるためだ。

もっとも、署名済みARR約9,200ドルに対し、run-rateの実売上は約4,900万ドルにとどまる。契約上の期待と、実際に動いている収益との間には、なお大きな開きがある。この乖離をどこまで埋められるか。株価急騰の熱が冷めたあとに問われるのは、その一点だろう。

自動運転バブルなのか、それとも実需に支えられた成長の入り口なのか。Einrideのナスダック上場は、その答えを市場が日々値付けし続ける舞台の幕開けでもある。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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