スズキと自動運転(2022年最新版) 取り組みを解説

自動運転領域でトヨタと連携



軽自動車を主力に自動車業界で大きなシェアを誇るスズキ。近年はトヨタをはじめとする業界の連携を促進し、来たるべきCASE時代に向けた戦略を進めている印象だ。


この記事では2022年6月時点の情報をもとに、自動運転をはじめとするCASEに関するスズキの取り組みを解説していく。

【参考】関連記事としては「CASEとは?意味は?」も参照。

■スズキのADAS「SUZUKI Safety Support」
普通自動車に劣らないADASを搭載
出典:スズキ公式サイト

スズキは、ADAS「SUZUKI Safety Support(スズキ セーフティ サポート)」で予防安全・衝突安全性を高めている。

ブレーキサポートシステムは、単眼カメラとレーザーレーダーによるデュアルセンサーや、2つのカメラを使用するデュアルカメラで歩行者やクルマを検知するサポートシステムと、ミリ波レーダー、またはレーザーレーダーがクルマを検知する各種ブレーキサポートをラインアップしており、衝突回避や衝突時の被害軽減を図る。


アクセル・ブレーキ関連では、設定した速度や適切な車間距離を保ちながら先行車に追従することが可能なアダプティブクルーズコントロールをはじめ、誤発進抑制機能、後退時ブレーキサポートなども備える。

ステアリング制御では、車線をはみ出しそうになった際に車両を戻す力をステアリングに与える車線逸脱抑制機能や、車線の中央付近を維持するようステアリング操作を支援する車線維持支援機能などが用意されている。

このほか、車線変更時の側方確認をサポートするブラインドスポットモニター、バック時の安全確認をサポートするリヤクロストラフィックアラート、標識検知をサポートする標識認識機能、見やすい情報表示で安全運転をサポートするヘッドアップディスプレイ、見えない場所の視界をサポートする全方位モニター用カメラなどの各種機能で安全性を高めている。

2020年8月には、後付けが可能な急発進等抑制装置「ふみまちがい時加速抑制システム」も発売した。2012~2014年ごろに販売したワゴンR FX・FXリミテッドに取り付け可能で、前後のバンパーに装着する計4基の超音波センサーが意図しない急加速を防止する。


■自動運転関連の取り組み
自動運転モビリティコンセプトカー「HANARE」発表
出典:スズキプレスリリース

スズキは東京モーターショー2019で自動運転モビリティコンセプトカー「HANARE(ハナレ)」を披露した。親しみのある「家の離れ」をイメージしたモバイルルーム型で、多彩なシートアレンジによってさまざまなプライベート空間として利用できる。

前後対象のデザインで、各駆動輪の内部にインホイールモーターを配置することで前後左右の自由な移動を実現し、駐車場や狭い場所でも自在に移動することを可能にしている。

トヨタの「e-Palette(イー・パレット)」などと同様のボックスタイプだが、全長3,900×全幅1,800×全高1,900ミリと小型なのが特徴だ。自動運転の社会実装初期は、こうした小型タイプの方が安全を確保しやすいのは言うまでもない。

パーソナル用途に限らず、自動運転シャトルやタクシーなどの移動サービス用途でこうしたプラットフォームの導入が促進される可能性も考えられそうだ。

なお、東京モーターショー2019ではHANAREのほか、自動追従機能を備えたパートナーロボットのコンセプトモデル「MITRA(ミトラ)」も出展された。使用者をセンサーで認識して自動追従することが可能で、買い物や散歩時における荷物の運搬など、幅広い使用を想定しているという。

自動運転領域でもトヨタとの関係を深化

スズキは2019年、トヨタと長期的な提携関係の構築・推進を目指し資本提携に合意したと発表した。自動運転分野を含めた新たなフィールドでの協力を推進していく構えだ。

両社は2016年に業務提携に向けた検討を開始し、これまでにトヨタの電動化技術とスズキの小型車技術を持ち寄ることで商品補完を進めることなどを公表していた。今回、自動車産業が大きな変革期を迎えるにあたり、新たな課題を克服して持続的成長を実現するため、自動運転分野を含めた新たなフィールドでの協力を進めていくとしている。

■CASE領域における取り組み
SkyDriveと空飛ぶクルマ事業・技術連携に関する協定締結

スズキは2022年3月、空飛ぶクルマの開発を進めるSkyDriveと空飛ぶクルマの事業化を目指し連携協定を締結したと発表した。

機体開発及び要素技術の研究開発、製造・量産体制および計画、スズキの四輪・二輪・マリンに空飛ぶクルマを加えた新しいモビリティの具体化、インドを中心とした本件対象の海外市場開拓――を視野に、事業・技術連携について検討を進めていく方針だ。

コネクテッドサービス開始、5社共同開発も
出典:スズキ公式サイト

スズキは2021年12月、コネクテッドサービス「スズキコネクト」を開始すると発表した。オペレーターサービスやスマートフォン連携でさまざまなサービスを提供していく構えだ。

24時間365日つながるオペレーターサービスとして、万が一の事故の際に役立つヘルプネットや、警告灯の点灯、パンク、バッテリー上がりなどのトラブル解消をオペレーターがサポートする「スズキトラブルサポート」を提供する。

また、スズキコネクトアプリでは、エアコン操作やドアロック、駐車位置確認、運転履歴確認などの各種操作・確認をスマートフォンで離れた場所から行うことができる。

コネクテッドサービスをめぐっては、同年4月にトヨタ、スバル、マツダ、ダイハツとともに5社で次世代車載通信機の技術仕様を共同開発し、通信システムの共通化を推進することに合意している。

トヨタが開発した車載通信機技術をベースに、各社が保有する技術を盛り込みながらクルマからネットワーク、車載通信機センターまでの接続仕様を共通化した次世代コネクテッドカー向けのシステムを構築するとしている。

車両から車載通信機センター間の接続仕様を共通化することで開発効率化・加速化を実現し、各社のアプリケーションやサービス面における開発余力を高め、サービスを充実させていく狙いだ。

カーシェア実証やMONETとの提携でモビリティサービス領域にも注力

モビリティサービス関連では、2019年にスマートバリューと丸紅とともに郊外型カーシェアリングサービスの実証実験を実施することを発表している。

スマートバリューのシェアリングプラットフォーム「Kuruma Base」を活用し、スズキのコンパクトカーを使用したカーシェアリングサービスを実施する内容で、カーシェアに関するノウハウや知見の蓄積や潜在顧客の発掘など、将来事業展開におけるカーシェアリングサービスの検証を進めていくとしている。

【参考】カーシェア実証については「スズキ、郊外型カーシェアサービスの実証実験を豊中市で1年間実施」も参照。

また同年、スズキはいすゞ、スバル、ダイハツ、マツダとともにMONET Technologiesとそれぞれ資本・業務提携に関する契約を締結している。

この提携により、各社の車両やモビリティサービスから得られるデータをMONETのプラットフォームに連携できるようになる。自動運転社会に向けた高度なMaaSプラットフォームの構築を促進する狙いで、MONETは各社が保有するデータと自動車産業における各社の知見やネットワークを生かし、社会課題の解決や新たな価値創造を可能にする革新的なモビリティサービスの実現と普及に取り組んでいくとしている。

軽商用事業におけるCASE普及に向けCJPに参画

スズキとダイハツは2021年7月、軽商用事業におけるCASE普及に向け商用事業プロジェクト「Commercial Japan Partnership(CJP)」に参画すると発表した。

CJPは、トヨタといすゞ、日野が商用事業におけるCASE対応を加速するため同年4月に設立した新会社Commercial Japan Partnership Technologiesを母体に事業展開を行っている。

今回の協業で、スズキとダイハツは物流の大動脈となるトラック物流から毛細血管となる軽商用車までつながるコネクテッド基盤構築による物流効率化を図るとともに、先進安全技術の商用車~軽自動車までの普及拡大、サスティナブルな普及を目指す良品廉価な軽自動車の電動化に向けた技術協力などを進めていくこととしている。

2輪4社が交換式バッテリーシステム標準化の検討に着手

バッテリー関連では2019年、ホンダと川崎重工業、ヤマハ発動機と4社で国内における電動二輪車の普及を目的に「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を設立すると発表している。

普及に向け、課題となる航続距離の延長や充電時間の短縮、車両やインフラコストなどに対し、共通利用を目的とした交換式バッテリーやバッテリー交換システムの標準化の検討を進め、技術的シナジーやスケールメリットを創出することを目指す。

2020年には、日本自動車工業会の二輪EV普及検討会が大阪府や大阪大学と実施した交換式バッテリー電動二輪車実証実験「e(ええ)やんOSAKA」に参加・協力するなど、活動は着実に進展しているようだ。

■【まとめ】軽自動車規格は初期の自動運転実装の武器に?

安価であることを求められやすい軽自動車において、現状高価な自動運転技術がなじみにくいのは1つの事実だろう。しかし、取り回しやすい軽自動車規格が初期の自動運転実装において武器となるのも事実ではないだろうか。

トヨタをはじめとする他社との協業のもと、効率的かつ効果的に軽自動車のプラットフォームに自動運転システムを搭載できれば、移動サービスやラストマイル物流などで活躍する自動運転モビリティを比較的安価に量産できる可能性もある。自動運転分野における今後の取り組みに期待したい。

■関連FAQ
    スズキは自動運転技術を提供している?

    2022年6月時点では提供していない。ただし、自動運転モビリティコンセプトカーとして「HANARE」を東京モーターショーで発表している。

    スズキはADAS(先進運転支援システム)を提供している?

    提供している。スズキのADASは「SUZUKI Safety Support(スズキ・セーフティ・サポート)」だ。予防安全技術という位置付けで、自動運転レベル1〜2に相当する。自動運転レベルについては「自動運転レベルとは?」も参照。

    SUZUKI Safety Supportの機能は?

    機能は多岐にわたる。代表的な機能としては、衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制機能誤発進抑制機能、車線逸脱抑制機能、車線維持支援機能、標識認識機能などだ。

    スズキはどのように自動運転技術を開発していく?

    トヨタとの長期的な提携関係は、スズキの自動運転機能の将来的な実装につながっていきそうだ。スズキとトヨタは2019年、資本提携に合意しており、自動運転分野を含めた新たなフィールドでの協力を推進していくことを確認した。

    軽自動車に自動運転機能を実装した例は他社メーカーである?

    2022年6月時点ではない。日本国内では、ホンダが2021年3月に発売開始した普通車の「新型LEGEND」が市販車としては唯一の自動運転車(※レベルは「3」)だ。

(初稿公開日:2022年5月24日/最終更新日:2022年6月22日)

【参考】関連記事としては「自動運転、歴史と現状」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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