人の移動や物の移動にイノベーションを起こすと言われる自動運転技術。新たな技術の導入が世界各地で始まり、道路交通に変化を及ぼし始めている。
こうした最先端技術の開発や社会実装に付きものなのが「世界初」の称号だ。この5年、10年で大きく開発や実用化が進んだ自動運転分野では、自称を含め世界初があふれている。
この記事では最新情報をもとに、自動運転分野における「世界初」をいくつかピックアップし、紹介していく。なお「世界初」かどうかに関しては、各社のプレスリリースやさまざまなメディアの報道を参考にした。
<記事の更新情報>
・2024年5月15日:自動運転タクシーに関する情報を更新
・2023年10月25日:無人タクシーやレベル3商用車の展開状況などをアップデート
・2022年8月3日:記事初稿を公開
記事の目次
■世界初の自動運転タクシー商用サービス
グーグル系Waymoは2018年12月、世界初となる自動運転タクシーの商用サービス「WaymoOne」を米アリゾナ州で開始した。当初はセーフティドライバーが同乗する形で展開されていたが、すでに完全無人でのサービスも展開し始めている。自動運転タクシーのドライバーレス運行も世界初だ。
Waymoは2021年、米カリフォルニア州でもパイロットプログラムに着手し、サービスエリアの拡大に乗り出した。自動運転タクシーのパイオニアとして、今後の動向に要注目だ。
ちなみにWaymoに続いて、アメリカではGM傘下のCruiseが自動運転タクシーサービスを展開し始めている。ただし、トラブルや事故によって米当局から一部エリアで運行停止命令を受け、一時サービスをアメリカ全土で中止する事態に陥った。
【参考】Waymo Oneについては「Waymo Oneとは?世界初の自動運転タクシーサービス」も参照。
■世界初の自動配送ロボットは?
現在実用化に向けた開発が加速している自動配送ロボット。商用化に向けた世界初の実証は諸説ある。ドミノ・ピザが2016年、オーストラリアのスタートアップMarathon Targetsと商業用無人自動運転宅配ロボの宅配実証を行っているほか、米Starship Technologiesも同年、米国・英国でそれぞれパイロットサービスに着手している。
本格的なサービスインとしては、Starship Technologiesに軍配が上がりそうだ。同社は2017年もサービス実証を拡大し、2018年4月に英国のミルトン・キーンズで商用配送サービスを正式にスタートした。
同社のサービスはその後、米国やドイツ、デンマーク、フィンランド、エストニアで展開されており、累計350万回の配送を達成している。名実ともに自動配送ロボットのリードオフマンとして活躍している印象だ。
自動配送ロボットの有力企業としては、米Nuroなどの名前も挙げられる。日本国内ではZMPやHakobot、川崎重工などが開発に取り組んでいる。
【参考】Starship Technologiesについては「自動運転導入は大学キャンパスから!?米で100大学導入計画」も参照。
■世界初の自動運転バスは?
世界初の自動運転バスについては、正確な情報がつかめない。公共交通としての自動運転バスの公道実証は、メルセデス・ベンツが2016年に実施したものが世界初と言われている。ステアリングなどを備えない自動運転バスで、オランダ・アムステルダムのBRTルートの一部を活用し、スキポール空港とハーレムを結ぶ約20キロの区間で公共運行に着手したという。
自動運転シャトルバスでは、仏NavyaとEasy Mileがそれぞれ2015年までにARMA(Navya)やEZ10(Easy Mile)を製品化し、各地で実証を開始している。
一部メディアによると、中国では2015年に宇通客車(Yutong)が世界初となる自動運転大型バスを開発し、河南省鄭州市と開封市を結ぶルートで自動運転走行に成功したという。
公道や専用区間といった道路の種別をはじめ、車両タイプなどでも細かに「世界初」が自称される点や、継続的なサービス開始を告げる明確な情報があいまいなため、現時点で「世界初の自動運転バス」を特定するのは困難なようだ。
ちなみに日本国内では、自動運転レベル2(部分運転自動化)の水準ではあるが、茨城県境町でNavya製の自動運転バス「ARMA」が稼働するなどしている。自動運転バス車両の開発としては、トヨタもe-Paletteの名称で商用化に向けて取り組んでいる。
【参考】自動運転バスについては「自動運転バス・シャトルの車種一覧」も参照。
■世界初の自動バレーパーキング(AVP)システムは?
駐車場内でレベル4走行を可能にする自動バレーパーキング(AVP)の商用化に向けた動きも加速している。ボッシュとメルセデス・ベンツ、駐車場事業を手掛けるApcoaは2020年10月、AVPサービスの商用提供に向け協働すると発表した。
ボッシュとメルセデス・ベンツは、2019年7月にメルセデス・ベンツ博物館の駐車場で、ドライバーレスで特定の車両を混合交通下において走行させるAVPを運用する特別承認を世界で初めて取得した。メルセデス・ベンツのSクラスはこのAVPに対応した技術を備えた世界初の量産車となっている。
こうした取り組みを拡大すべく、3社は車両要件やインフラ協調、デジタルモビリティプラットフォームへの統合など多方面で開発と実証を進めていく構えのようだ。
【参考】自動バレーパーキングに関する取り組みについては「ボッシュとダイムラーの自動駐車システム、自動運転レベル4でGOサイン」も参照。
■世界初のレベル3搭載量産車は?
自家用車における世界初の自動運転レベル3搭載車の栄冠は、ホンダが手にした。ホンダが2021年3月に限定リース発売した新型レジェンドに搭載された「トラフィックジャムパイロット」が、高速道路渋滞時におけるレベル3走行を可能にしている。
自家用車におけるレベル3は、アウディが2017年に発売した「A8」にレベル3システム「Audi AIトラフィックジャムパイロット」が搭載される予定だったが、法規制の未整備などを理由に実装が見送られた。
その後、日本でレベル3に対応した道路交通法などが2020年4月に施行され、ホンダの世界初につながっていくこととなった。
2022年にはメルセデス・ベンツが追随した。すでにアメリカでもレベル3展開の認可を一部州で得ている。BMWやヒョンデ、ボルボ・カーズなどもレベル3の発売をにおわせており、市場が一気に拡大しそうだ。
【参考】ホンダのレベル3については「ホンダの自動運転戦略」も参照。
■1人が複数台の自動運転車を遠隔運用する世界初の実証
国立研究開発法人「産業技術総合研究所」は2018年11月、ラストマイル自動走行に関する新たな実証として、1人の遠隔ドライバーが2台の自動運転車を運用する世界初の遠隔型自動運転の実証を福井県永平寺町で開始すると発表した。
自動運転による移動・輸送は、サービスの向上とともに複数台の自動運転車両を導入し、フリート化していくケースが多くなるものと思われる。また、レベル4とはいえ、当面は安全性を考慮し適時遠隔監視や場合によっては迅速に遠隔操作できるよう備えておく必要がある。
こうした際、いかに多くの車両を少人数で的確に管理するかが重要となる。労力をできるだけ抑え、安全性を担保しつつもコストパフォーマンスを上げていかなければならないためだ。
そこで要素技術として浮上するのが1人で複数台を管理するシステムだ。米国や中国などではすでにフリート化した自動運転サービスが展開されているが、多くのケースでこうしたシステムが活用されている。
【参考】1人が複数台を管理する遠隔システムについては「産業技術総合研究所、遠隔自動運転の実証実験 世界初、1人で2台を運用」も参照。
■世界初のMaaSプラットフォームとなる「Whim」
フィンランドのMaaS Globalは2016年、世界初のMaaSプラットフォームとなる「Whim」のサービスを開始した。マルチモーダルな交通サービスは以前から存在していたが、「MaaS(Mobility as a Service)」という言葉を生み出し、明確なコンセプトのもと各種交通サービスの統合を図っていく最初の取り組みと言える。
同社はフィンランドの首都ヘルシンキをはじめ、ベルギーのアントワープ、英国ウェストミッドランズ州のバーミンガム、オランダのアムステルダム、シンガポールなどグローバルな展開を進めており、日本でもサービス実証が進められている。
一つのアプリでさまざまなモビリティの予約から決済までを可能にするほか、サブスクリプションサービスとして定額メニューを設定していることが特徴だ。
同社には、あいおいニッセイ同和損害保険やトヨタファイナンシャルサービス、デンソー、三井不動産などが出資しており、日本との馴染みも深い。世界各地で地域性あふれるMaaSが続々と誕生する中、元祖MaaSとしてどのような戦略のもと世界展開を図っていくのか、要注目だ。
【参考】Whimについては「MaaSアプリ「Whim」とは? 仕組みやサービス内容を紹介」も参照。
■世界初の自動運転技術に関する国際業界団体「Autoware Foundaiton」設立
ティアフォーは2018年12月、世界初の自動運転技術に関する国際業界団体「Autoware Foundaiton」の設立を発表した。
国産の自動運転OS「Autoware(オートウェア)」の業界標準を目指す団体で、初期メンバーにはARMやeSOL、Huawei、Intel Labs、LG Electronics、TRI-AD、Velodyne Lidar、名古屋大学などが名を連ねている。
■世界初の自動運転向けLiDARは?
今や自動運転に欠かせない主要センサーとなったLiDAR。その歴史は古いが、自動運転向けのLiDAR開発を本格化させたのは米Velodyne Lidar(※現在はOusterと合併)だ。同社のLiDAR製品は、グーグルをはじめ実証期から多くの企業が活用している。
その後、ソリッドステート式の開発など各社がLiDARのポテンシャルを拡大していく。東陽テクニカは2018年、世界初のTrue-Solid-State型マルチビーム方式LiDAR「XenoLidar」の販売を開始した。
2022年2月には、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業の一環で、SteraVisionが可動部が一切ない自動運転用ソリッドステートLiDARを開発したことが発表されている。
海外では、米Aeva Technologiesが2022年2月に4D LiDAR「Aeries II」を発表した。同社によると、4D LiDARの製品化は世界初という。
進化が続くLiDARにおいては、世界初の技術が今後も続々登場しそうだ。
【参考】関連記事としては「LiDARとは?」も参照。
■自動運転で動く世界初の交番を開発
ドバイ警察は2018年、技術系イベントの中で世界初の移動式交番「SPS-AMV」を発表した。自動運転技術で都市内を移動し、各種サービスや取り締まりなどを行うことができるという。
開発は、ドバイ警察と三笠製作所が共同で進めており、2021年のドバイ万博に向け2号機も製作された。自動車などの速度違反や駐車違反を自動かつリアルタイムで取り締まる機能や、ピックアップポイントに呼び出し各種行政サービスを受けることができる機能などを備える。このほかにも、不審者・不審車両の検出や火災判定といった機能拡充も検討されているという。
【参考】移動式交番については「愛知県の三笠製作所、ドバイ警察の移動式交番を共同開発 自動運転技術活用」も参照。
■【まとめ】世界の最先端技術の動向に注目
世界初の自動運転タクシー商用化を果たしたWaymoは有名どころだが、さまざまな観点から世界初は誕生している。
今後も、世界初のレベル4自家用車やLiDARに次ぐ新たなセンサーの開発などをはじめ、続々と世界初が生み出されていくことになる。引き続き、世界の最先端技術の動向に注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転の最新動向(2023年版)レベル別の開発・実装状況は?」も参照。
■関連FAQ
アメリカのGoogle系Waymoだ。2018年12月、自動運転タクシーの商用サービス「WaymoOne」を米アリゾナ州で開始した。2022年8月現在、カリフォルニア州でも展開している。
日本のホンダだ。2021年3月にレベル3の技術を搭載した「新型LEGEND」を発売した。同車種には「トラフィックジャムパイロット」という渋滞時に自動運転が可能な機能が実装された。
ドバイ警察とされている。2018年、技術系イベントにおいて世界初の移動式交番「SPS-AMV」を発表している。開発には日本の三笠製作所が携わっており、すでに2号機も製作されているとのことだ。
2022年8月現在、レベル4の技術を搭載した市販車はどこの企業・メーカーからも発売されていない。そんな中、中国のIT大手である百度(Baidu)が2022年末までにレベル4EVの予約受け付けを開始するとしており、注目を集めている。
公共交通としての実証では、メルセデス・ベンツが2016年に実施した実証が世界初とされているが、商用展開を初めて実現した企業がどこかは、いまのところは正確に比較したデータはない。ただし、フランス企業のNavyaやEasy Mileは2015年ごろまでに自動運転シャトルを製品化していることは知っておきたい。
(初稿公開日:2022年8月3日/最終更新日:2024年5月15日)