最先端技術が次々と登場し、大きな脚光を浴びる自動運転業界。新型コロナウイルスの感染防止でも自動運転ソリューションが有用なことが広く認識され、実用化への機運は高まるばかりだ。
そんな自動運転業界では、最新技術やアイデアを武器に第一線に躍り出てくるスタートアップは数知れず、業界全体の技術レベルを引き上げている。そしてこうしたスタートアップの多くに共通するのが、エンジニア系創業者の存在だ。
専門知識を学ぶ大学在学中に創業するケースや、開発企業で経験を積んだ後独立する形で起業するエンジニアが後を絶たない。代表自らがメカトロニクスやロボティクスなどの開発現場で陣頭指揮を執っているケースもあるのだ。
今回は、エンジニア系経営者がいる企業を紹介していこう。
記事の目次
- ■Tesla/イーロン・マスク氏(CEO)
- ■NVIDIA/ジェン・スン・ファン氏(創業者兼CEO)
- ■Luminar Technologies/オースティン・ラッセル氏(創業者兼CEO)
- ■DeepMind/デミス・ハサビス氏(創業者・現副社長)
- ■AutoX/肖健雄氏(創業者兼CEO)
- ■Pony.ai/ジェームス・ペン氏(創業者兼CEO)
- ■Aurora Innovation/クリス・アームソン氏(創業者兼CEO)
- ■Velodyne LiDAR/デビッド・ホール氏(創業者兼会長)
- ■Mobileye/アムノン・シャシュア氏(創業者兼CEO)
- ■Cruise/カイル・ヴォグト(創業者・現社長兼CTO)
- ■ティアフォー/加藤真平氏(会長兼CTO)
- ■Preferred Networks/西川徹氏(創業者兼代表取締役CEO)
- ■【まとめ】エンジニアが時代の先端を切り開く
■Tesla/イーロン・マスク氏(CEO)
創業間もないテスラに投資し、共同設立者に名を連ねるとともに長らく会長を務めてきたイーロン・マスク氏は、エンジニア系起業家の代表格と言えるだろう。
10歳の時にコンピュータを購入し、独学でプログラミング技術を磨いたマスク氏は、カナダのクイーンズ大学、米ペンシルベニア大学、スタンフォード大学大学院(中途退学)を経て、オンラインコンテンツを提供するZip2やオンライン金融サービスなどを提供するX.com、ロケット開発を手掛けるスペースXなど次々と創業した。
AI開発にも熱心で、AIを研究する非営利団体OpenAIへの参加をはじめ、神経科学技術を開発するスタートアップNeuralink(ニューラリンク)への投資も行っている。
SNS投稿を機にテスラの会長職を辞任したものの、変わらずCEOとして辣腕を振るっており、マイカーを呼び寄せるスマート・サモン機能の試験実装やロボタクシー構想など、時代の先端を走る技術やアイデアを次々と発表している。
【参考】イーロン・マスク氏については「イーロン・マスク氏のAI戦略 EV自動運転向け、いやいずれ脳にも? テスラが自社開発」も参照。
■NVIDIA/ジェン・スン・ファン氏(創業者兼CEO)
半導体大手の米NVIDIA創業者・ジェン・スン・ファン氏も電気工学系のエンジニアとして知られる。オレゴン州立大学、スタンフォード大学でそれぞれ電気工学を学び、電子機器製造企業などで開発経験を重ねた後、NVIDIAを共同設立した。
オレゴン州立大学から名誉博士号を授与されているほか、スタンフォード大学に3000万ドルを拠出し、自身の名を冠したエンジニアリング・センターを建設している。
同社の自動運転プラットフォームは自動車メーカーからスタートアップまで幅広く採用されており、自動運転業界における地位を年々高めている印象だ。
【参考】NVIDIAについては「自動運転技術@CES 2020、ことごとくNVIDIAの技術が関わっていた」も参照。
■Luminar Technologies/オースティン・ラッセル氏(創業者兼CEO)
LiDAR開発を手掛けるスタートアップのルミナー・テクノロジーズの若き創業者、オースティン・ラッセル氏も現役バリバリのエンジニアだ。16歳の若さでスタンフォード大学で物理学を学び、LiDARの可能性に注目。中退し、研究奨学金制度を活用して17歳の時に同社を立ち上げたという。
同社のLiDARは、2017年にトヨタグループのTRIが新型実験車「Platform 3.0」のシステムに採用するなど業界の注目の的となっており、これまでに2.5億ドル(約270億円)超の資金調達を成功している。
現在、20202年を目途に低コスト製品「Iris」の量産化に向けた取り組みを進めている。最大500メートル先まで観測可能で、車両のルーフラインに統合しやすいスリムなデザインとなるようだ。
【参考】Luminar Technologiesについては「トヨタも愛した23歳の神童CEOの正体 自動運転の目「LiDAR」と米ルミナー」も参照。
■DeepMind/デミス・ハサビス氏(創業者・現副社長)
英国のAI研究者、脳科学者で、ロンドンを拠点とする汎用学習アルゴリズムの構築に特化した機械学習スタートアップ「DeepMind」を2010年に設立したことで知られる。同社は2014年にグーグルに買収されたが、現在もエンジニアリング担当副社長を務めている。
10代の頃にゲーム会社で開発を経験し、ケンブリッジ大学でコンピュータサイエンスなどの学位取得後、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで認知神経科学を学び、マサチューセッツ工科大学やハーバード大学の客員科学者としてAIなどの研究に没頭した。
グーグル(Alphabet)傘下となったDeepMindは2015年、開発したAlphaGoプログラムが囲碁チャンピオンを倒し、大きな脚光を浴びている。
自動運転領域では、Waymoと共同でAI研究などを行っているようだ。
■AutoX/肖健雄氏(創業者兼CEO)
自動運転タクシーの開発を手掛ける中国スタートアップ・AutoX創業者のJianxiong Xiao(肖健雄)氏は、香港理工大学でコンピュータサイエンスの博士号を取得後、マサチューセッツ工科大学でAIなどの研究を深め、プリンストン大学では教授を務めた。コンピュータビジョンの分野で数々の受賞歴があるようだ。
2016年に設立したAutoXは、自動運転タクシーの実用化に向け着々と準備を進めており、米カリフォルニア州や上海など中国三大都市で運用許可を取得している。
【参考】AutoXについては「中国、もう自動運転実証の動き復活?AutoXが無人無料タクシー 新型コロナ終息気配で」も参照。
■Pony.ai/ジェームス・ペン氏(創業者兼CEO)
米カリフォルニア州と中国に拠点を置くスタートアップ・Pony.ai(小馬智行、ポニー・エーアイ)共同設立者のジェームス・ペン氏は、北京の清華大学、ニューヨーク州立大学、スタンフォード大学を経て、グーグルで7年、百度で4年間にわたりエンジニアとして活躍し、2016年に同社を設立した。
中国の広州汽車(GAC)や韓国のヒュンダイ、トヨタなどと提携を結び、2020年の資金調達Bラウンドではトヨタを主体に約4億6200万ドル(約510億円)を調達したことを発表している。
米カリフォルニア州と中国で自動運転タクシーの実用実証を進めており、カリフォルニア州では新型コロナウイルス対策として自動運転タクシーを活用した無人配送サービスにも取り組み始めている。
【参考】Pony.aiについては「自動運転車で配送!トヨタ出資のPony.ai、米カリフォルニア州で導入 新型コロナ対策」も参照。
■Aurora Innovation/クリス・アームソン氏(創業者兼CEO)
自動運転スタートアップのオーロラ・イノベーションを設立したクリス・アームソン氏は、カナダのマニトバ大学で博士号取得後、米カーネギーメロン大学で自動運転技術の研究を深めた。2007年のDARPAアーバンチャレンジ優勝時は、チームのテクノロジーディレクターを務めた。
その後、グーグルの自動運転開発プロジェクトに参加し、CTO(最高技術責任者)まで上り詰めたが、2016年に辞任しオーロラを立ち上げた。
2019年2月にアマゾンを中心に5億3000万ドル(約600億円)超の資金調達を発表しているほか、同年6月には、FCAとパートナシップ契約を交わし、自動運転分野における商用車の開発で協業することを発表している。
【参考】Aurora Innovationについては「FCA、商用車開発で自動運転スタートアップの米オーロラと協業」も参照。
■Velodyne LiDAR/デビッド・ホール氏(創業者兼会長)
オーディオ機器開発メーカーのベロダイン創業者で、2016年にLiDAR開発部門を分社化しベロダインライダーを設立したデビッド・ホール氏は、生粋のエンジニアだ。60歳を軽く超えた今なお自ら開発や発明に余念がないという。
米国防総省高等研究計画局(DARPA)が実施するロボットカーレース「DARPAグランド・チャレンジ」への参加を契機にLiDAR開発を本格化し、2005年に3DLiDARを発明した。今日の自動運転分野におけるLiDAR開発競争の火付け役と言える存在だ。
LiDAR以外にも、発明家として30を超える特許を有しているという。2020年に同社CEOを退いたが、ライフワークとなった開発や発明の手はまだまだ緩みそうもない。
【参考】ベロダインライダーについては「ベロダインライダー(Velodyne LiDAR)を徹底解説! 「自動運転の目」で世界大手」も参照。
■Mobileye/アムノン・シャシュア氏(創業者兼CEO)
米インテル傘下でイスラエルのモービルアイ創業者のアムノン・シャシュア氏は、テルアビブ大学で数学とコンピュータサイエンスの修士号を取得。ワイツマン科学研究所を経て、マサチューセッツ工科大学で脳と認知科学の博士号を取得している。
1996年にエルサレムのヘブライ大学の教員となり、1999年のモービルアイ創業後も同大学の教授職に就いているようだ。
アムノン氏は、単眼カメラの開発に向け遠近法原理の活用や独自の画像処理アルゴリズムを利用して安価で高性能なADAS向け車載カメラを製品化し、自動車業界で大きなシェアを獲得した。現在は、高度な自動運転に向けた画像認識チップ「EyeQ」シリーズの開発を進めている。
【参考】アムノン・シャシュア氏については「中東が生んだ天才技術者…モービルアイ成功劇と自動運転 インテルなぜ買収?」も参照。
■Cruise/カイル・ヴォグト(創業者・現社長兼CTO)
米GM子会社となったCruise Automation創業者で、買収後は社長兼CTOを務めている。ロボット好きで、14歳の時にカメラを使用して車線を追跡する自動運転車のプロトタイプを作ったという。
マサチューセッツ工科大学でコンピュータサイエンスと電気工学を学び、DARPAグランドチャレンジチームにも参加している。
2020年1月、満を持してハンドルやペダル類を備えない自動運転車「Origin(オリジン)」を発表しており、今後の量産化や自動運転タクシーサービスなど社会実装に向けた取り組みに注目が集まっている。
【参考】GMクルーズについては「GMが新たに22億ドル投資、”ハンドル無し”自動運転車の量産視野」も参照。
■ティアフォー/加藤真平氏(会長兼CTO)
自動運転スタートアップのティアフォー創業者の加藤真平氏は、慶應義塾大学理工学研究科卒業後、日本学術振興会特別研究員やカーネギーメロン大学研究員、カリフォルニア大学研究員などを経て2012年に名古屋大学の講師に就任。准教授としてオペレーティングシステムなどの研究分野で活躍しているほか、東京大学大学院情報理工学系研究科でも研究を進めている。
名古屋大学で自動運転OS「Autoware」を共同開発し、普及に向けて2015年にティアフォーを立ち上げた。公道実証も豊富で、開発各社にAutowareを導入する動きが広がっている。
2019年8月には、シリーズAラウンドにおける資金調達額が国内最大規模となる120億円を突破したことを発表しており、自動運転プラットフォーマーとしていっそうの飛躍に高い期待が寄せられている。
【参考】ティアフォーについては「ティアフォー、自動運転実証エリアを10倍以上に 113億円の使い道は? 加藤真平会長に聞く」も参照。
■Preferred Networks/西川徹氏(創業者兼代表取締役CEO)
AI開発を手掛けるプリファードネットワークス(PFN)創業者の西川徹氏は、東京大学大学院情報理工学系研究科でコンピュータ科学を専攻。在学中に出場したプログラミングコンテストの世界大会をきっかけに知り合った仲間と共同で設立したのがPFNだ。
物体認識技術や車両情報解析などをトヨタと共同研究するなど、高度で応用力の高いAI技術を武器にさまざまな領域に向けた開発を進めている。
2019年時点における企業価値は20億ドル(約2200億円)とされており、国内自動運転関連のスタートアップで唯一ユニコーン企業に名を連ねている。
【参考】Preferred Networksについては「自動運転技術でも注目!日本唯一のユニコーン「Preferred Networks」に内閣総理大臣賞」も参照。
■【まとめ】エンジニアが時代の先端を切り開く
企業の規模が大きくなるにつれ、自ら開発現場に立つ機会は少なくなるものと思われるが、技術に関する高い知見があるからこそ先を見据えた技術戦略を打ち出し、経営に生かすことができるのだろう。
トヨタグループ創始者の豊田佐吉氏やトヨタ自動車創業者の豊田喜一郎氏らも、機械工学をもとに身を起こしたエンジニアだ。技術が大きく発展し、時代の先端が切り開かれていく場面には、それを主導するエンジニアが必ず存在したのだ。
自動運転の実用化に向け技術開発が加速する現在では、AI開発が大きな潮流となり、既成概念にとらわれない高度なプログラミング能力を有するエンジニアが大きなチャンスをつかむ時代となっているのだろう。
【参考】関連記事としては「自動運転業界マップ「2019年春 最新版」をリリース 全182企業・機関・ファンドを掲載」も参照。