日産の自動運転戦略(2024年最新版) プロパイロット2.0の搭載車種は?

「技術の日産」の最新動向を紹介



出典:日産ニュースルーム

日産自動車は、自動運転レベル2(部分運転自動化)の技術を「Pro PILOT(プロパイロット)2.0」として、一部市販車に搭載している。高速道路でのハンズオフ運転を可能にする機能で、2019年9月から搭載がスタートしている。

2022年4月には、クルマが自動で緊急回避操作を行うことが可能な「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)技術」も発表し、自動運転レベル3の技術を市販車に搭載することに向け、着々と技術力を高めている印象だ。


自動運転技術を活用としたサービスとしては、自動運転レベル4(高度運転自動化)相当の無人移動サービス「Easy Ride」を将来的に実現するため、ディー・エヌ・エー(DeNA)などとともに実証実験に取り組んでいる。そして2024年に入り、Easy Rideのサービスを2027年度にローンチする計画を明らかにした。

この記事では最新情報を整理し、「技術の日産」と言われる日産の最新動向を紹介しよう。

<記事の更新情報>
・2024年9月1日:ProPILOT2.0搭載車種の表を作成
・2024年3月6日:Easy Rideに関する取り組みを追記
・2023年9月29日:欧州日産の自動運転に関する取り組みを追記
・2023年8月10日:各技術の搭載車種などについて追記
・2018年9月21日:記事初稿を公開

記事の目次

■日産が開発している技術一覧

日産は「ニッサン・インテリジェント・モビリティ」という取り組み・ブランド戦略のもと、「インテリジェント・ドライビング=自動運転」「インテリジェント・パワー=EV(電気自動車)」、そして「インテリジェント・インテグレーション=コネクテッド」の3つの柱に沿って開発を進めている。


この記事ではこのうちの「自動運転」に焦点を当てて解説していくが、まず大前提として、日産の現在の自動運転技術は「レベル2」に相当し、運転支援技術と理解する方が適切だ。ただ限りなくレベル3に近い技術に進化しつつあり、今後の技術開発が期待される。

こうした前提で、自動運転・運転支援に関連してくる日産の技術を紹介していこう。コネクテッド技術も合わせて紹介する。

ProPILOT 2.0(プロパイロット):高速道路上の同一車線でハンズオフが可能に

日産は2019年5月に「プロパイロット2.0」を発表している。このプロパイロット2.0については、高速道路の複数車線をナビシステムと連動して設定したルートを走行し、運転手が常に前方に注意して道路・交通・自車両の状況に応じ直ちにハンドルを確実に操作できる状態にある限りにおいて、同一車線内でハンズオフが可能となる運転支援システムと説明されている。

車両に設置してある7個のカメラに5個のレーダー、GPS(全地球測位システム)のほか、3D高精度地図データ(HDマップ)などを活用して自車位置の把握を行いながら、周囲の車両の動きをリアルタイムで検知することなどで、ハンズオフでの滑らかな運転が可能になるという。プロパイロット2.0は2019年9月に日本で発売されるスカイラインに搭載された。


2024年9月時点でプロパイロット2.0と通常のプロパイロットの搭載車種としては、以下が公式サイトで紹介されている。

機能搭載車種
ProPILOT2.0日産アリア、セレナ
ProPILOT日産アリア、日産リーフ、日産サクラ、ノート オーラ、ノート、エクストレイル、キックス、セレナ、ルークス、デイズ

▼日産プロパイロット2.0特設ページ
https://www.nissan.co.jp/BRAND/PROPILOT2/

Brain-to-Vehicle:脳波測定による運転支援技術

Brain-to-Vehicleは脳波測定技術を活用し、ドライバーの次の運転操作のタイミングやドライバーが持つ違和感を把握する。リアルタイムにクルマの制御に活用することで思い通りに、よりエキサイティングなドライビングを提供する将来的な技術だ。

ドライバーがヘッドセットを着用して計測した脳波をシステムが解析・判断して自動運転に適用するほか、マニュアル運転時には、ドライバーが操作を開始する0.2〜0.5秒前にクルマが運転操作を開始し、ドライバーはシステムのサポートを意識することなく、スムーズに走行できるという。

Invisible-to-Visible(I2V):ドライバーに見えないものを可視化

Invisible-to-Visible(I2V)は、建物の裏やカーブの先など、通常見ることができない場所をドライバーの視野に投影する技術だ。リアルとバーチャルの世界を融合した3Dインターフェースを通じ、車内外のセンサーが集めた情報とクラウド上のデータを融合する形で実現する。

SAM:事故などの道路情報を蓄積し、全てのクルマと共有

シームレス・オートノーマス・モビリティ(SAM)は、NASAと共同開発を進めているコネクテッド技術だ。

このシステムについて日産は、「すべての無人運転車両が、事故・路上の障害など不測の事態に直面した際に、人が介入し遠隔でコントロールするとともに、クラウドに情報を集め全てのクルマをつなぐことにより、クルマを安全に誘導し、無人運転車両が効率的に移動することのできるモビリティを実現します」と説明している。

緊急操舵回避支援システム:緊急時、障害物がない方向へ自動でハンドルを操作

緊急操舵回避支援システムは急ブレーキでは事故を回避できないと判断した際にドライバーの操作を補い、「衝突を回避しよう」という意思を支援する将来技術だ。

衝突しそうな対象物を見つけた際はECU(車載コンピュータ)が対応を判断するが、時間的に余裕がある場合には警告音とライトで警告を出し、ドライバーの操作が不十分であると判断すると、緊急ブレーキが作動して衝突回避操作を支援する。

それでも衝突が避けられない場合にはハンドルを切って避ける必要があるが、その際車線区分や周囲の車の位置や速度、歩行者の有無などを瞬時に識別し、適切な回避を試みる。

インテリジェント・ライドコントロール:揺れを抑えて自然な乗り心地を向上

路面の凹凸に対し、エンジンとブレーキを制御してクルマの不快な動きを抑制し、快適な乗り心地を提供するシステム。

ドライバーが感じない程度の微弱なブレーキを自動的にかけることで衝撃緩衝効果を生み出し、揺れを抑える。

プロパイロット・パーキング:駐車時に必要なすべての操作を自動制御

日産が開発している「プロパイロットパーキング」技術は、スイッチ操作をするだけで、システム側が駐車時に必要なすべての操作を自動制御してくれる技術だ。

高解像度カメラを使ったリアルタイム画像処理技術と車両周囲の12個のソナー情報を組み合わせて、自動制御を実現する。以下がこの技術で使用されるカメラとソナーだ。

出典:日産公式サイト

プロパイロットパーキングでは具体的には、「ステアリング」「アクセル」「ブレーキ」「シフト」「パーキングブレーキ」が自動制御の対象となる。並列・縦列などの駐車シーンや何度も切り返しが必要な難しい場所でも対応可能としている。

2023年8月時点における同機能の搭載車種としては、日産アリア、日産リーフ、日産桜、エクストレイル、セレナが公式サイトで紹介されている。

グラウンド・トゥルース・パーセプション

日産は2022年4月、「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)技術」を開発していることを発表した。

この技術は、LiDARとカメラ、レーダーからのセンシング情報から車両周囲の状況をリアルタイムに把握し、緊急時に自動で回避操作を行うことを可能とするものだ。

走行中の車両から遠方の渋滞や障害物などを検知して自動で車線変更したり、ホテルの玄関前まで自動運転で走行したりすることも可能になるという。

この技術は現在開発途中の段階で、2020年半ばまでに開発を完了させ、2030年までにほぼすべての新型車に搭載することを予定しているという。

■日産はいつ自動運転を実現する?

市販車における取り組み

一般的に「自動運転車」と呼ばれるようになるのは、自動運転レベル3以上の技術を搭載した車両からだ。日産は2021年7月現在、レベル3の技術を搭載した車両は発売していない。一方、ホンダはレベル3の搭載車をすでに発売しており、日産がいつレベル3搭載車を発売開始するのか、気になるところだ。

こうした点について、いまのところは公式な発表はない。ただし、日産がこれまでに掲載した求人情報から、2025年に向けて次世代AD(自動運転)の開発を進める計画があることが判明している。詳しくは、自動運転ラボの以下の記事を参考にしてほしい。

ちなみに自動運転レベル3の機能を展開する場合は「ProPILOT 3.0」と呼ばれるようになるのかも、きになるところだ。

Easy Rideの取り組み

日産はディー・エヌ・エー(DeNA)とともに、新しい交通サービスとして「Easy Ride(イージーライド)」の開発や実証実験に取り組んできた。いわゆる「自動運転タクシー」を商用サービスとして展開しようという試みだ。

2018年、2019年、2020年にそれぞれ実証実験を実施しており、3度目となる2020年の実証実験では、DeNAのタクシー配車アプリの専用配車端末である「MOV CALL」を通じ、自動運転車を呼び出す方法で実施された。

乗車予約をするとレシートが発行され、Easy Rideが到着すると助手席の顔認証用カメラで乗客が車両に到着したことを認識し、後部座席のドアが自動で開く仕組みだ。

Easy Rideの4度目となる実証実験は2021年9〜10月、横浜のみなとみらいエリアと中華街エリアにおいて実施された。4度目の実証実験ではNTTドコモがパートナーとなり、AIを活用したオンデマンド交通システム「AI運行バス」と組み合わせて移動サービスを提供した。

そして2024年に入り、日産はEasy Rideの事業化に向けたロードマップを発表した。2027年度に地方を含む3~4市町村において、車両数十台規模のサービス提供開始を目指すというもので、2024年度にみなとみらい地区で走行実証に取り組み、2025〜26年度には20台規模のサービス実証を実施する予定だ。

出典:日産プレスリリース

■日産の関連ニュース

完全自動運転コンセプトカー「NISSAN IMx」を世界初公開

2017年10月開幕の第45回東京モーターショー2017で、将来の「ニッサン インテリジェント モビリティ」を具現化したゼロエミッション クロスオーバーコンセプトカー「NISSAN IMx」を初公開した。

乗員全員がリラックスしたまま好きな場所へ移動することが可能な「プロパイロットドライブモード(PDモード)」や、ドライバーの前にステアリングが現れる「マニュアルドライブモード(MDモード)」など、自動運転も手動運転も楽しめるコンセプトだ。

日本初のセルラーV2X実証実験開始

日産とコンチネンタル・オートモーティブ・ジャパン、エリクソン、NTTドコモ、沖電気工業、Qualcomm Technologies(クアルコムテクノロジーズ)が2018年1月、セルラーV2Xの実証実験を開始すると発表した。

セルラーV2Xは車両とあらゆるものをつなぐ通信技術で、5GHz帯を用いたセルラーV2Xの直接通信技術の通信距離、信頼性、低遅延特性を評価するとともに、LTE-Advanced(LTE-A)ネットワークと通信を相互補完する効果を確認する。

DIDI AUTO ALLIANCEに参加 世界最大の車両オペレータープラットフォーム構築へ

ルノー・日産自動車・三菱自動車は2018年4月、中国最大のモバイル交通プラットフォームを手掛ける滴滴出行(ディディチューシン)が設立した「DiDi Auto Alliance」にパートナーの1社として参加することを発表した。

ライドシェアリングに関するアライアンスで、スマートモビリティを促進するとともに、バリューチェーンに沿ったパートナー企業が一体となり、新エネルギーによる自動車産業を推進することでビジネスモデルに革新をもたらし、世界最大の車両オペレータープラットフォームになることを目指す。

Googleと次世代インフォテインメントシステムで提携

ルノー・日産自動車・三菱自動車は2018年9月、同アライアンスの車両にGoogle社のAndroidオペレーティングシステムを搭載し、高度なインフォテインメントやドライバー向けアプリケーションを複数のブランドと車種で展開するため、技術提携を結んだことを発表した。

Googleマップによるターンバイターン表示のナビゲーションや、Google Playストア上の豊富な自動車用アプリケーションのエコシステムの利用、内蔵のGoogle アシスタントを活用した音声による電話・メールへの応対、メディアの操作、情報検索や車両機能の管理が可能となる。搭載は2021年からを予定している。

日産自動車とルノー、グーグル系ウェイモと独占契約を締結

日産自動車とルノーは2019年6月、自動運転開発を手掛けるグーグル系ウェイモ(Waymo)と、無人モビリティサービスに関する独占契約を締結したことを発表した。これは日本において無人運転の乗客・配送向けサービスの提供の可能性を探るためのもので、今後、市場分析や共同調査を進めていくという。

ウェイモは自動運転タクシーの商用サービスを2018年12月からアメリカ国内の一部地域で提供しており、ウェイモと日産の技術を結集した自動運転タクシーが日本国内を走行する日も近いかもしれない。

サイバーセキュリティ技術の確立のための新タッグ

2020年7月、日産・ルノー・三菱の3社連合開発研究施設と、イスラエルのセキュリティ企業Cybellumが戦略的デザイン業務提携を発表した。自動運転の実現にセキュリティ技術の向上は避けて通れない道だ。

Cybellumの車両リスク分析ソリューションは車載ECU(電子制御装置)やほかの車両ソフトウェアの脆弱性を自動で探知できる。車両全体のリスクアセスメントの実施に注力していくという。

日産の2論文に「第71回自動車技術会賞」

第71回の「自動車技術会賞」が2021年5月に発表され、日産からは自動運転とADAS(先進運転支援システム)の分野に関わる論文として、2つの論文が受賞している。

論文賞を受賞したのが牧田光弘氏らの論文「乗員の快適性を向上させる車両運動の探求」、そして技術開発賞を受賞したのが谷口洋平氏らの論文「高速道路複数車線の運転支援システムの開発」だ。

▼第71回 自動車技術会賞
https://www.jsae.or.jp/PR/2021/PR21003/docu/shosai_71.pdf

欧州日産、リーフでイギリス国内を自動運転へ

日産の自動運転関連ニュースとしては、欧州日産の取り組みにも注目したい。欧州日産はイギリス政府などと進める自動運転プロジェクト「evolvAD」に参画しており、住宅街などで日産リーフを自動走行させる計画が進んでいる。

同プロジェクトでは欧州日産を含む5者によるコンソーシアムが組まれ、2023年9月の発表によれば、専用テストコースでの実証実験を経て、イギリス国内の都市部の住宅地や地方の道路で日産リーフの自動運転を試す計画のようだ。

このプロジェクトには欧州日産も資金を拠出しており、同プロジェクトにおいて進化させた自動運転技術を、日産の市販車にも活かしていくものとみられる。

■【まとめ】自動運転戦略に関しては予測しにくい部分も

ルノーや三菱自動車とともに巨大なアライアンスを維持しつつも、独自開発や異業種とのパートナー戦略にも余念がない。プロパイロット2.0搭載車種の拡大が目下の目標となりそうだが、自動運転レベル3をいつ市販車に搭載するのかについても注目が集まる。

■関連FAQ

    日産は自動運転技術を商用化済み?

    2022年3月時点では商用化はまだだ。市販車に搭載しているシステムの自動運転レベルは「2」にとどまっており、ADAS(先進運転支援システム)の域を超えていない。

    日産のプロパイロットの技術レベルは?

    2019年9月から搭載がスタートした「プロパイロット2.0」は、「自動運転レベル2」に相当する。レベル2は日本語では「部分運転自動化」と呼ばれる水準だ。プロパイロット2.0では、高速道路において運転手が常に前方に注意し、道路・交通・自車両の状況に応じて直ちにハンドルを確実に操作できる状態にあるときに、同一車線内でハンズオフが可能となる。

    日本のプロパイロットの対応車種は?

    公式サイトによれば、2022年3月時点では、「プロパイロット」が8車種、「プロパイロット2.0」が2車種に対応している。プロパイロット対応の8車種は「日産リーフ」「オーラ」「ノート」「セレナ」「ルークス」「デイズ」「エクストレイル」「キックス」、プロパイロット2.0対応の2車種は「日産アリア」「スカイライン」だ。

    日産の自動運転タクシーの取り組みは?

    日本の大手自動車メーカーの中で、最も早く自動運転タクシーの取り組みを開始したのは日産だ。DeNAと2018年ごろから「Easy Ride」というプロジェクトをスタートさせ、都心などで実証実験を行っている。

    日産の自動駐車技術は?

    日産は「プロパイロットパーキング」という技術を開発している。公式サイトでは「スイッチ操作だけで、駐車時に必要なすべての操作をシステムが自動で制御し、駐車を支援する技術」と説明されており、後向き駐車・前向き駐車・縦列駐車のいずれにも対応している。ただし、駐車完了までには3ステップのスイッチ操作が必要であるため、いまのところは駐車支援システムと言える。

(初稿公開日:2018年9月21日/最終更新日:2024年9月1日)

【参考】関連記事としては「自動運転とは?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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