自動運転車、「三重苦」で急成長!日本でも”狭い道×人混み×違反者あり”で実証を

過酷な環境下にこそ活路あり



アマゾン傘下の自動運転開発企業Zooxが、数週間以内にサンフランシスコとラスベガス、フォスターシティでオリジナル設計の自動運転車数十台の導入を開始すると発表した。Waymoの独壇場となりつつある米自動運転タクシー市場に新風を巻き起こすか、注目が集まるところだ。


ここでピックアップしたいのが、同社創業者でCTOを務めるジェシー・レビンソン氏の発言だ。レビンソン氏は、「自社の自動運転車は一日のうち最も忙しい16時間に運行する。午前4時は退屈であまり学習できない」としている。

AIが学習すべき要素が豊富な方が、その後の展開につながる――といった趣旨を含んでいる印象だ。過酷な環境こそが自動運転システムを成長させ、先行勢への猛追につながっていくということかもしれない。こうした観点は、開発を進める多くの日本勢にとって耳が痛いところではないか。

日本の道路交通環境は整備が行き届いているものの、中には狭い道や人混みで走行しづらい場所もある。これに交通違反者も加えた「三重苦」を乗り越えることで、日本勢の猛追も可能になるのではないだろうか。

自動運転開発に適した環境について考察してみよう。


編集部おすすめサービス<PR>
車業界への転職はパソナで!(転職エージェント)
転職後の平均年収837〜1,015万円!今すぐ無料登録を
タクシーアプリなら「GO」(配車アプリ)
クーポン超充実!「実質無料」のチャンスも!
新車が月5,500円〜!ニコノリ(車のカーリース)
維持費コミコミ!頭金は0円でOK!
自動車保険 スクエアbang!(一括見積もり)
「最も安い」自動車保険を選べる!見直すなら今!
編集部おすすめサービス<PR>
パソナキャリア
転職後の平均年収837〜1,015万円
タクシーアプリ GO
クーポンが充実!「乗車無料」のチャンス
ニコノリ
新車が月5,500円〜!頭金0円でOK!
スクエアbang!
「最も安い」自動車保険を提案!

■Zooxの取り組み

2025年初頭にもラスベガスなどでサービスイン予定

Zooxはネバダ州ラスベガスを皮切りに、カリフォルニア州フォスターシティとサンフランシスコに数十台のオリジナル自動運転車を導入するという。当初計画では2025年にラスベガスで早期利用者向けの「Zoox Explorers」プログラムを開始するとしており、その準備をまもなく本格化するものと思われる。今後一年間で走行エリアを大きく拡大し、2026年には車両の量産化にも本格着手する。

ラスベガスでは2023年6月からドライバーレスの公道実証を進めており、走行エリアは、ホテルやカジノ、リゾート施設が立ち並ぶストリップ地域を含み、ラスベガスで最も交通量の多いエリアの一つという。8車線以上で複数の右左折レーンがあり、高速、多くの歩行者交通量、大規模交差点など、複雑な運転シナリオが満載としている。

今回のレビンソン氏の発言「午前4時は退屈であまり学習できない」も踏まえると、Zooxはあえて複雑な環境を好んでいるようにも感じる。

Zooxはあえていばらの道を選択?

自動運転技術の早期実用化を図る場合、一般的にはなるべく安全を確保しやすい環境でスタートする。万が一のトラブルが発生しにくい環境下で経験を重ね、徐々に能力を高めていく手法だ。ハードルを低めに設定することは決して悪いことではない。


しかし、Zooxはあえていばらの道を選ぶようだ。交通量や歩行者が多く、注意しなければならない要素が多い状況こそよりAIを鍛えることができ、その後の拡大・ビジネス化につながると踏んでいるのだろう。

【参考】Zooxの概要については「Amazonの自動運転タクシー、結局「テスラより先」に一般展開へ」も参照。

Amazonの自動運転タクシー、結局「テスラより先」に一般展開へ

■自動運転開発と道路環境

自動運転は高速道路で実現しやすい?

自動運転においては、高速走行よりも低速走行、混在空間よりも専用空間のほうが安全を確保しやすく、実用化しやすいことは言うまでもないだろう。

例えば、高速道路は走行速度の点では難易度が高いものの、歩行者などの他の交通参加者は原則おらず複雑な交差点はない(合流はある)ため、比較的自動運転に向いていると言える。

ホンダなどの自動運転レベル3は、この高速道路において作動速度を下げることで難易度を低くし、自律走行を実現している。

メルセデス・ベンツも当初は作動上限速度を時速37マイル(約60キロ)としていたが、2025年初頭から時速60マイル(約96キロ)に引き上げるという。

日本では、自動運転トラック実現に向けた取り組みが高速道路で進められている。車両が大きく制動距離も長いトラックは、一般道路よりも高速道路の方が自動運転を実現しやすく、かつ長距離輸送の需要に応えられるためだ。

自動運転レベル3でできることは?(2024年最新版)スマホ・飲酒・睡眠は可能?

BRTなどの専用道も実現しやすい

鉄道の廃線跡などを活用したBRT(バス・ラピッド・トランジット)路線も有望だ。バス専用道など、基本的に関係者以外の車両が流入することはなく、走行速度は高速道路よりも低い。交差点をまたぐケースもあるが、右左折することはなく自動運転を実現しやすい環境が整っている。

BRTでは、JR東日本らが気仙沼線BRTで取り組む自動運転バスレベル4の認可を受けている。時速60キロで走行する大型バスのレベル4認可は貴重だ。

専用道ではないが、自転車・歩行者専用道路として活用している廃線跡で自動運転車を走行させる取り組みもある。国内初レベル4認可を受けた福井県永平寺町の「ZEN drive」だ。廃線跡の「永平寺参ろーど」の一部区間において、低速無人自動運転を実現している。

自動運転専用道路ほどではないものの、他の交通参加者をある程度制限可能なため、一般車道に比べハードルは低いのだ。

【参考】永平寺町のZEN driveについては「自動運転、日本でのレベル4初認可は「誘導型」 米中勢に遅れ」も参照。

自動運転、日本でのレベル4初認可は「誘導型」 米中勢に遅れ

私有地内も実現しやすい

私有地などの敷地内も実現しやすい環境と言える。広大な工場や複合商業施設、公園など、敷地内に道路が敷設されている場所で自動運転車を走行させるのだ。

他の車両や歩行者などが混在するケースが大半だが、勝手知ったる道路であり、最高速度などの制限を掛けたり、自動運転車優先といったルールも設けたりすることができる。

ティアフォーは、神奈川県相模原市の物流拠点「GLP ALFALINK相模原」で開発・運用していた自動運転システム「AIパイロット」でレベル4認可を取得している。敷地内のみなし公道を走行可能だ。

羽田空港に近い複合商業施設「HANEDA INNOVATION CITY」では、鹿島建設とBOLDLY、羽田みらい開発が取り組んでいる自動運転バスがレベル4認可を受けており、2024年6月には東京都公安委員会から特定自動運行の許可も取得している。

【参考】HANEDA INNOVATION CITYなどでの取り組みについては「電磁誘導線を使わない「自動運転レベル4」、日本で認可!鹿島やBOLDLYが発表」も参照。

電磁誘導線を使わない「自動運転レベル4」、日本で認可!鹿島やBOLDLYが発表

実現しやすい環境に甘んじてはいないか?

これらの取り組みが、日本国内におけるレベル4の先進的取り組みだ。いずれも混在空間である一般車道に比べ、一定の制限が付されている。この制限が設けられることで早期実現を図っているのだ。

こうした取り組みの知見を一般車道における自動運転に生かすことももちろんできるが、その応用範囲は限られる。一般車道・道路では当たり前のように歩行者や自転車が行き交い、路肩に駐停車両が並んでいることも珍しくない。交通量の多い交差点や信号のない交差点もある。

こうした道路を円滑かつ安全に自律走行する技術は、同様の環境、もしくはそれ以上複雑な環境でなければ磨くことができないのだ。

一般車道でのレベル4開発も進展

一般車道においては、BOLDLYらが茨城県境町で先駆的に取り組んでいる自動運転バスが有名だ。道の駅と高速バスターミナル、コミュニティセンターを結ぶ各往復8キロの2路線を運行している。早期レベル4が期待されるところだが、意外にもまだレベル2を脱していない。

しかし、同社が北海道上士幌町で取り組む自動運転バスは2024年5月にレベル4認可を受けた。同町内での経験値に加え、境町など他地域での知見も生かされているものと思われる。

ティアフォーも2024年10月、長野県塩尻市の一般道で取り組む自動運転バスの自動運行装置「AIパイロット」がレベル4認可を取得した。

BOLDLY、ティアフォーに共通しているのは、一般公道実証が豊富な点だ。各地で積み重ねてきたさまざまな経験が実を結び、局所的ながらもレベル4への道を開き始めているのだ。サービス化に必要な特定自動運行許可も間近に迫っているものと思われる。

【参考】ティアフォーの取り組みについては「自動運転バス、肌感覚では「手動運転とほぼ同等」に!長野県塩尻市で無事故運行」も参照。

自動運転バス、肌感覚では「手動運転とほぼ同等」に!長野県塩尻市で無事故運行

過酷な環境こそが自動運転を成長させる?

自動運転サービスを広域展開するためには、こうした一般車道における取り組みが欠かせない。楽な環境で早期実現しても、楽な環境下でしかサービスを拡大できないのだ。

では、逆に過酷な環境下で実証を繰り返した場合はどうだろうか。わかりやすい例を挙げると、東南アジアだ。多くのドライバーが交通ルールを守らず、ラッシュ時間には数十台の2輪車が群れを成すかのように道路に広がる。場所によっては牛も歩いている。歩行者も走行するクルマの間を縫うようにどこでも横断する。

日本から見ればカオス極まりない状況で、手動運転でも可能な限り敬遠したいと思う人は少なくないはずだ。

難易度は非常に高いが、こうした環境下で自動運転技術を育てることができれば怖いものなしだ。世界のあらゆる地域で通用する自動運転システムを鍛えることができるのではないだろうか。

【参考】東南アジアにおける自動運転については「自動運転とインド」も参照。

自動運転とインド(2023年最新版)

日本では「狭い道・人混み・交通ルールの違反者」が自動運転の天敵

こうした過酷な環境は、日本国内にも置き換えることができる。日本で言えば、住宅街の狭い道や都市部の人込みなどが代表的だ。

古くからある住宅街や歴史の長い城下町などでは、曲がりくねった幅員の狭い車道をみっしりと覆うように住宅が立ち並ぶエリアが多数存在する。歩道は分離されておらず路側帯があれば良いほうで、交差点には信号はなく申し訳なさそうにカーブミラーが設置されているようなエリアだ。

腕のたつ熟練ドライバーや職業ドライバーでも慎重にならざるを得ないようなエリアでは、当然自動運転も苦戦する。徐行をベースに、何かを検知するごとに停止を繰り返す可能性が高い。

特段狭い道ではなくても、歩道が明確に区切られていない場所は注意が必要だが、日本では交通量が多いにも限らず路側帯の白線だけで区切っている場所が結構ある。観光地など人混みができやすい場所では、当たり前のように白線をはみ出して通行していることも珍しくない。

狭い道や人混みは、自動運転の天敵と言ってよい存在だ。

もう一つ、自動運転が苦手なものがある。交通違反者だ。自動運転においてAIが判断を下すためには、判断基準となるルール・指針が必要不可欠で、道路交通法などの規則をもとに設計された判断基準に従うことで安全な走行を担保する。

しかし、このルールに従わないイレギュラーな存在は非常に多い。法定速度を少し超えて走行するドライバーや右左折時のウィンカーが少し遅い程度であればそこまで問題にはならないが、車線変更禁止区間でウィンカーすら出さず急に前方に進入してくるドライバーや、バス停や交差点(5メートル以内)に平気で停車しているドライバーなども少なくない。

その都度自動運転車は急制動や手動介入を余儀なくされる。こうしたイレギュラーな存在は自動運転の天敵なのだ。

天敵をクリアしてこそシステムは成長する

ただ、こうした環境をクリアしてこそ自動運転システムは成長を遂げることができる。過酷な環境こそが自動運転の糧となるのだ。

都内の混雑エリアやスクランブル交差点、狭い住宅街など、「狭い道・人混み・交通ルールの違反者」がいる三重苦を自動運転車が体験できるようなエリアで実証を積み重ねることで、自動運転車を急成長させるためのデータを揃えることができ、その後の横展開もスムーズに行えるようになる。

こうした三重苦の克服こそが、先行する米国・中国に日本勢が追いつき追い越す唯一の道となるのではないだろうか。

■【まとめ】過酷な環境下の実証も推奨していこう

米EV大手テスラは、同社の自動運転システム(ADAS)「FSD」の開発において、基本的にODDを設定していない。あらゆる環境で自律走行できることこそ真の自動運転と位置付けているためだ。それゆえ高いハードルに悩まされているようだが、こうした開発を進めることで応用力のあるシステムを実現することができる。

先行勢を追い抜き、自動運転業界のトップに躍り出るためにはこうした取り組みが欠かせない。それゆえテスラは業界にとって脅威なのだ。

日本の政府は、どのような形であれ自動運転サービスの件数をまず増やす戦略を採用している。わかりやすい実績重視なのだ。磁気マーカーに頼るもよし、専用レーンを設置するもよし、まずは実績を作っていこうという手法だ。

これが悪いわけではないが、将来的な拡大を見越した応用力を養うには、過酷な環境下での開発が欠かせない。こうした観点を踏まえた実証の後押しにも力を入れてほしいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事