自動運転開発ベンチャーとして、ここまで多くのプロダクトとサービスを販売・提供している企業はほかに無い。ZMP社だ。しかも「モノの移動」「人の移動」の両方で自動運転技術の実用化に取り組んでいる。
2019年7月に開催した看板イベント「ZMP World 2019」では「R&Dから量産化へ」をテーマに掲げ、自動運転技術に関連したサービスや物流ロボットについてのさまざまな発表があった。
ZMPを率いる谷口恒社長はいま、会社の未来、そしてモビリティ業界の将来像をどう見据えているのか。自動運転ラボは谷口社長にイベント期間中に直接話を聞いた。
【谷口恒氏プロフィール】2001年にZMPを創業。家庭向け二足歩行ロボットや音楽ロボットの開発・販売を手掛け、2008年から自動車分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両の提供を行う。現在、RoboCar MiniVan、Mini EV BusなどのRoboCarシリーズ、AUTO TAXI(無人走行)、物流支援ロボットCarriRo 、宅配ロボットCarriRo Deli、移動のパートナー Robocar Walkなど、様々な分野へのロボット技術の展開「Robot of Everything」戦略を進めている。2019年3月東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、美術博士取得。
記事の目次
■物流支援ロボットから宅配ロボットへ、大学キャンパスでの実証で手応え
Q 物流分野向けに開発を始めた経緯を教えて下さい。
谷口氏 元々はクルマの自動運転から着手し始めました。ただあるとき、会社のそばで配達員の方が2台の台車を押している姿を目にし、物流ロボットの必要性に気付きました。そして2014年から物流支援ロボットの開発を事業に加え、屋内の倉庫と工場向けの台車型ロボット「CarriRo(キャリロ)」を2016年8月に発売しました。
その後、屋外用の宅配ロボット「CarriRo Deli(キャリロデリ)」の開発をスタートさせました。ただ、屋外用は屋内用に比べて開発のハードルが高いのです。自転車や通行人がいる環境で活用されることや路面状況の悪さや防水性を考慮する必要があるほか、ハードウェアの信頼性も求められるからです。そのため日本郵便やローソン他パートナー企業と実験を繰り返し、改良を重ねました。小型化にも成功し、(人とコミュニケーションを取るための)アイコンタクトや音声などの機能も進化させました。
ちなみにこのCarriRo Deliについて一番分かりやすく市場性が見えたのは、2018年秋から2019年春にかけて慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで実施した実証実験でした。
このキャンパスには敷地の端に生協がありますが、15分間の休み時間に買い物へ行けないという生徒が多くいました。そこで、授業中にアプリを通じて予約注文を受けた品物をCarriRo Deliが一番近い校舎まで運ぶという仕組みを導入してみたのですが、かなり手ごたえがありました。
ちなみに海外でも同様の実証実験などが行われていますが、「遠隔操作」による配達が多いです。その点、我々のCarriRo Deliはほぼ全ての配送を自動運転でこなせるので、運用コストも低く抑えられます。そのことも実証実験で証明されました。
【参考】関連記事としては「【インタビュー】コンビニ実証を成功させたZMPの宅配ロボ「CarriRo Deli」、今後の開発計画は? 自動運転技術も搭載」も参照。
■女性からの期待が大きい「ロボット宅配」
Q フードデリバリー以外ではどのような部分にニーズがありそうですか?
谷口氏 宅配会社の方によると、夜間の再配達に不安を感じている女性は多いそうです。ただ、もしロボットがドアの前まで荷物を運び、到着の知らせをSMSなどで受けた女性がドアを開けてロボットから荷物を取り出す形式なら、安心ですよね。また宅配スタッフの方に化粧をしていない姿を見られたくないという方も多いらしく、ロボット宅配に対しては女性からの期待が大きいというのはありますね。
ほかには病院での活用なども考えています。従来の病院では患者さんと病院スタッフが同じ通路を移動するのが普通ですが、最近では通路幅を広くして患者さんと病院スタッフの通路が分かれている病院もあります。そういった最先端の病院では導入しやすいですよね。
Q 物流ロボットの公道走行も視野に入れられていますか?
谷口氏 中国やシンガポール、アメリカやヨーロッパでは物流ロボットの公道走行は解禁されていますが、日本や韓国では残念ながら今はまだできません。ただ日本でも今年度内に解禁を進める動きがあります。来年は東京オリンピックもありますので、地域を限定するとは思いますが、解禁に向かっていくと期待しています。
■空港制限区域内でのレベル4、確実に事業化
Q 次に「人の移動」についてですが、業界の動きと御社の自動運転に関する取り組みの進捗状況を教えてください。
谷口氏 過去にウーバーやテスラが起こした死亡事故で、世界的に自動運転開発に対してブレーキが踏まれた印象があります。日本でも自動運転レベル4(高度運転自動化)の公道解禁に関しては、まだ時間がかかるかと思います。
ちなみに僕は安倍首相と2015年11月にお会いしたとき、「2020年のオリンピックを目指して自動運転を進めます」と宣言しました。その後も公道でのレベル4は解禁されていませんが、その宣言を実現するために自動運転車を走らせることができる場所を探し、空港の制限区域に行き着きました。
私たちが実験を行った成田空港、中部空港では、空港の運営会社、グランドハンドリング会社はとても協力的で我々が主導して事業化をしやすい状況です。
事前テストには既に合格していて、国土交通省には基本的に計画と結果の報告をすることで実験運用を進めることができるため、今後は空港制限区域内でのレベル3からレベル4の実現にむけて確実に事業化させていきます。
【参考】関連記事としては「ZMPと鴻池運輸、成田空港で自動運転の実証実験 地上支援業務の省力化目指す」も参照。
■Robocar Walk、車椅子の方だけでなく一般の方の需要も
Q CarriRo Deliの荷台を座席に変えた形の「Robocar Walk(ロボカーウォーク)」も発表されましたが、空港での活用も想定していますか?
谷口氏 想定しています。最近は空港がますます大きくなり、空港内のセキュリティゲートと搭乗口がかなり離れていることも少なくありません。車椅子の方をサポートする人手も不足しています。オリンピックではたくさんのお客様が来てさらに人手が足りなくなりますから、自動運転レベル4のRobocar Walkを空港で導入して頂くことで、省人化に貢献していきたいと考えています。
そのほか、航空券の情報を基にRobocar Walkが搭乗口まで自動で連れていってくれれば、非常に便利ですよね。外国人の方や空港に慣れていない方も迷いません。最初は車椅子の方を中心にサービスを提供しますが、一般ユーザーからの需要も出てくると思います。
ちなみにRobocar Walkは僕がデザインしました。従来の車椅子は乗っていると病気の人にみられるという意見や、足の部分がノーガードで怖いという意見に配慮しながら、特にシートの設計にこだわりました。ほとんどの車椅子やシニアカーは後ろの背もたれが小さくて窮屈そうでしたので、体を包み込むような卵型のデザインにしました。
走行音も静かです。オフィスなどでモノや人を運ぶときに走行音がうるさいと困ります。ただし静かすぎると危ないという問題も出てきます。そこで音のユニバーサルデザインを担当しているサウンドスケープ・デザイナーの武者圭さんと組み、うるさすぎず、かつ確実に周囲5メートルくらいまで聞こえるような音量設計にしています。
Robocar Walkは電動車椅子の規格に合わせて最高時速が6キロになっていて、乗用車で求められる一般道での時速60キロ、高速道路での時速100キロと比べると自動運転化のハードルは低いです。そうはいっても障害物や通行人を認識する技術などは必要です。10年以上取り組んでいる自動運転タクシーの技術を活かしたことで、今回の発表までこぎつけることができました。
Q Robocar Walkは公道での走行も視野に入れていますか?
谷口氏 まずは私有地からスタートしますが、将来的には公道走行も視野に入れていきます。設計上は公道走行に対応できるよう準備しています。
将来的にはRobocar Walkを鉄道やリムジンバスと連携させ、一つのアプリで予約できるようにしていきたいと思っています。例えば空港から丸の内までをリムジンバスと自動運転タクシーでつなぎ、タクシーを降りた後はRobocar Walkでレストランまで移動するといった具合です。こうなれば「日本版MaaS」とも言えるサービスですね。
またMaaSで交通手段が統合されたとしても、交通手段同士の間には「すき間」が生まれます。Roboca Walkは「バインダー役」として、そのすき間を埋める役割も果たせるのではないかと考えています。
■競合意識はゼロ、「必要だと思うことをやる」
Q 自動車メーカーと御社のような大型ベンチャーは共存の可能性もあるし、競合する部分もあると思います。御社のポジショニング戦略は?
谷口氏 競合意識というのは正直ゼロです。例えば自動運転タクシーは、大手が良いものを作ったら弊社はそこと連携すればいいですし、逆にうちの製品が先行していたらうちのものを採用してもらえばいいと思います。最終的にはユーザーが良いものを選べばいいと考えています。
それよりは、地方の交通網が過疎化により一旦衰退すると、再活性化は難しいので、そこに向けてRobocar Walkを作る、というように、「必要だと思うことをやる」という想いが強いですね。
Q 最後に、自動運転に対する意気込みを教えてください。
谷口氏 自分が自動運転レベル4をオリンピックでやると総理に言った以上、絶対にやるというのが一番の想いですね。できないことを法律のせいにすれば言い訳にはなるかもしれませんが、自分の中では許せないので、絶対に実現します。ただタクシーや公道にこだわり過ぎると2020年までに実現できない可能性が高いですから、私有地から始めて最後に公道を目指すのもアリだと思います。
空港で自動運転バスを実際に運用した実績ができれば、次は路線バスの許可が下り、地方の交通課題解決につながるかもしれません。そこで自動運転の安全性が立証できれば、その次は自動運転タクシーに…という進め方もあると思います。
自動運転ラボ ZMPさんは早くからプロダクトを出されていて、技術的な部分がピックアップされがちですが、社会課題に寄り添っている部分が大きいのですね。
谷口氏 ZMPは世界各国から僕の理念に集まってきている志の高い人の集まりなので、競争意識みたいなものはあまりないです。今後も自分たちでやってみたいものを作って、移動のパートナーとなる製品を生み出していきたいと思います。
■【取材を終えて】執念が生み出す好循環
ZMPは2018年、売上を20%伸ばした。今季は上半期だけで38%増となっており、早期黒字化を目指しているという。社会課題の解決に向けた執念が同社の技術を一層進化させ、売上増という好循環を生み出している。
【参考】関連記事としては「新たな自動運転開発支援サービスを発表!ZMPとデジタルハーツHDの合弁会社ZEG ベンチャーやスタートアップを支援」も参照。
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— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 3, 2019