菅義偉元首相らの発言を機に導入に向けた議論が一気に進み始めた有償ライドシェア。急転直下で「日本型ライドシェア」導入に向けた方針が固められ、2024年4月に新制度となる「自家用車活用事業」が開始された。
今後は本格ライドシェア導入に向けた議論が過熱する見込みで、猛反発必至のタクシー業界との攻防がどのような方向に向かっていくのか、大きな注目が集まるところだ。ただ、ドライバーから「時間制限があり働きにくい」「ワーキングプアを強いる制度」といった苦情もあり、不人気さが際だっている。
海外ではすでにライドシェアの普及が著しく、市場規模は年平均20%で拡大していくとする調査レポートもある。日本国内におけるライドシェアは今後どのような道をたどるのか。また、ライドシェア解禁後、業界でトップシェアを勝ち取るのはどの企業になるのか。現時点の法環境や取り組み状況、要人発言などをもとに、その行く末を見通してみよう。
ライドシェアのドライバーとして働くための免許要件にも触れていく。
・2024年10月31日:日本版ライドシェアの免許に関する情報を追記。
・2024年10月25日:日本版ライドシェアの料金体系や働き方について追記。
・2024年8月26日:自家用車活用事業など日本のライドシェア制度についての解説を追記。
・2024年7月12日:全面解禁の議論の棚上げについて追記。newmoの動きも追加
・2024年5月29日:日本における全面解禁に向けた議論の状況をアップデート。関連記事も追加
・2024年4月7日:記事全体を最新情報にアップデート
・2024年2月18日:UberやDiDiの参入表明について追記
・2024年2月1日:部分解禁の現状について追記
・2024年1月21日:日本におけるライドシェアの解禁状況について追記
・2023年12月13日:ライドシェアに関する日本での調査結果について追記
・2023年11月24日:ライドシェア解禁後の業界動向の予測について追記
・2023年10月17日:自動運転タクシー普及によるライドシェアへの影響について追記
・2023年9月13日:ライドシェアに関する要人発言を追記
・2019年4月12日:記事初稿を公開
【参考】関連記事としては「ライドシェアの法律・制度の世界動向(2024年最新版)」も参照。
記事の目次
■ライドシェアとは?
まずはライドシェアの基礎知識から解説していこう。
スマートフォンの登場でマッチングサービスが主流に
「ライドシェア(ride-share)」は、直訳すると「ライド=乗る」を「シェア=共有」することで、一般的には「相乗り」や「配車サービス」を指す。自家用車の所有者と自動車に乗りたい人を結び付ける移動手段だ。
古くは、純粋な相乗りサービスの「カープール型」や、バンを用いて多人数が乗車できる「バンプール型」、ヒッチハイク型の相乗りサービス「カジュアルカープール型」などが主流だったが、スマートフォンの登場でサービス環境が一変した。
ライドシェアの類型 | 概要 |
カープール型 | 純粋な相乗りサービスのことを指す |
バンプール型 | バンを用いて多人数が乗車できる形態を指す |
カジュアルカープール型 | ヒッチハイク型の相乗りサービスを指す |
TNCサービス型 | アプリなどでマッチングする形態のサービスを指す |
スマートフォンアプリを使用することで、マイカーを活用した一般ドライバーと客をリアルタイムでマッチングすることが可能になった。米Uber TechnologiesやLyft、中国Didi Chuxing(滴滴出行)などメジャーなプラットフォーマーの多くが2010年前後にサービスインしているのは、スマートフォンの普及時期と一致する。
現在では、ライドシェアといえばこのスマートフォンを活用したマッチングサービスを指す場合が大半となっている。
また、海外ではライドシェアを「ライドヘイリング(ride-hailing)」と呼ぶこともある。
有償ライドシェアはTNC型とPHV型に大別
現在主流となっている有償ライドシェアサービスは、大きく「TNCサービス型」と「PHVサービス型」に分類することができる。
TNCは「Transportation Network Company」の略で、Uberのような配車プラットフォーマーが基本的に各ドライバーの管理や運行管理を行う。国は関与しないか、あるいは最低限の要件のみをドライバーに課し、その管理をプラットフォーマーに任せるような形だ。ドライバーにとって自由度の高いサービスと言える。
一方、PHVは「Private Hire Vehicle」の略で、個人タクシーの派生形のような形式を指す。ドライバーは多くの場合TNCと同様のプラットフォームを介してサービスを提供するが、各国の規制によりライセンスの取得や登録など、一定の要件を満たさなければならない。プラットフォームに関係なく、各ドライバーに対し規制当局が直接規制をかける形式だ。
こうした有償ライドシェアは、一般的に流し営業やタクシープールの利用などはできず、アプリによる予約・配車要請に応じる形でのみサービスを提供することができる。
▼ライドシェアとは何か?|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2017/65-1.pdf
■ライドシェアのメリット
ライドシェアのメリットとデメリットを、提供者(ドライバー)側と利用者(客)側の立場からそれぞれ整理して説明する。
提供者(ドライバー)側のメリット
ライドシェアの提供者にとっては、「時間と資産の有効活用」という側面がある。すでに購入している資産(車両)を活用して稼ぐことで、車両の維持費などの負担を減らすことができる。空き時間とマイカーの有効活用という観点では、まさにシェアリングエコノミーと言える。
何より、「手軽な働き口」であることが多くのギグワーカーの支持を集めたため、世界的に急発展した経緯がある。ドライバーになるためには一定の審査を受ける必要があるものの、企業などに縛られることなく自分が働きたい時間に好きなだけ働くことができる。
空き時間を活用した副業として、また本業としてライドシェアで働きたい――という需要は思いのほか多いのだろう。
利用者(客)側のメリット
利用者サイドのメリットは、やはり運賃面だろう。一般的にライドシェアはタクシーよりも運賃が2〜3割安いと言われており、移動にかける費用を安く済ませることができるのは大きい。
また、多くの場合ライドシェアのドライバーはアプリ上で利用者から評価されるシステムとなっているため、嫌な思いをするケースも避けやすい。運賃も事前に確定し、キャッシュレス決済するのがスタンダードで、「ぼったくり」に遭うことも基本的にない。
配車アプリの利用が前提となるため、言葉が通じにくい海外でも利用しやすいのもポイントだ。アプリを介することで言語の壁が低くなり、目的地の指定も容易となる。
日本でもタクシー配車アプリが浸透してきたが、地方の繁華街や駅前などではタクシープールや流し営業でタクシーを捕まえるのがまだまだ一般的だ。こうした際、特に外国人観光客にとっては、母国語に対応したアプリで配車できるのは大きなメリットとなる。
■ライドシェアのデメリット
提供者(ドライバー)側のデメリット
ドライバー側のリスクは、ライドシェアのプラットフォーマーがサービスを万が一取りやめた場合、補償がないまま職を失うことだ。ドライバーに対する補償を求める声もあるが、こうした失職のリスクがつきまとうことは覚悟する必要がある。
運賃体系なども基本的にプラットフォーマーに依存することになるため、運賃低下や手数料増額などの影響を受ける恐れもある。
こうしたギグワーカーの待遇をめぐっては、個人事業主による請負扱いではなく労働者として扱うよう各国で議論が活発化しているようだ。
利用者(客)側のデメリット
客による評価システムによってドライバーの質が担保されているとはいえ、ライドシェアをめぐってはまだまだドライバーと客のトラブルが絶えない面もあるようだ。例えばドライバーによる暴行や盗撮だ。こうした点には注意をする必要があると言える。
東南アジアのように、従来のタクシーサービスの質が悪いエリアではライドシェアの方が安全とされることもあるが、日本のように質の高いタクシーサービスが提供されているエリアから見ると、ライドシェアの安全性に疑問を持たれることも多いようだ。
また、ドライバーの多くはプロではないため、本来であれば避けられるレベルの交通事故に巻き込まれる可能性もないとは言えない。
【参考】関連記事としては「ライドシェアの主なトラブル事例・問題・事件まとめ」も参照。
■海外おけるライドシェア
ライドシェアの位置づけで各国が頭を悩ます
ウーバーを筆頭とする企業がライドシェアサービスを自国に持ち込んだ際、多くの国がその位置づけで頭を悩ませたようだ。ライドシェアに法的根拠はないため、これを黙認すべきか厳格に禁止すべきか、あるいは新たな制度を設計するか……といった具合だ。
半ば黙認の形をとった国ではTNC型、新制度を設計した国ではPHV型に落ち着く例が多い。
海外においてTNC型のサービスが認められているのは、北米や中国、ブラジル、メキシコ、オーストラリア、東南アジアなど一部に限られており、意外と少ない印象だ。
一方、PHV型はドイツや英国、ポルトガル、ニュージーランドなどが採用しており、フランスやスペインなどでは類似するVTC(運転手付き観光ハイヤー)制度が敷かれている。
オランダやスウェーデン、オーストリア、フィンランドなどのように、タクシーライセンスが必要なものの自家用車を使用することが可能な制度を設けている国もある。
これまでの日本のように、ライドシェアを認めずタクシーサービスに限定している国としては、韓国やギリシャ、イスラエル、トルコなどが挙げられる。
【参考】各国のライドシェア制度については「ライドシェア制度、OECD諸国の34%が今も未整備 日本を含む13カ国」も参照。
■海外のライドシェア展開企業
Uber Technologies
2009年設立のウーバーは、2010年に米カリフォルニア州サンフランシスコで配車サービスを開始したのが始まりだ。世界進出を積極展開し、各国でライドシェア議論を巻き起こした存在でもある。
現在では、世界70カ国でライドシェアをはじめとするさまざまなマッチングサービスを提供している。派生形マッチングサービスとしては、フードデリバリーのUber Eatsをはじめ、荷主とトラックドライバーをつなぐUber Freightなどさまざまなビジネスモデルを追求している。
2023年通期では、ウーバーイーツなど含む配車総数は前年比24%増の94億回となり、2019年の上場後初の黒字化を達成した。
自動運転サービスの導入にも意欲的で、他社との提携のもとカリフォルニア州やアリゾナ州などで自動運転タクシーの配車や自動配送ロボットによる配達サービスなども開始している。
日本でもタクシー配車やウーバーイーツを積極展開しており、京都府京丹後市と石川県加賀市で自家用有償旅客運送に基づくサービスを提供している。
【参考】Uber Technologiesについては「Uberが株価50%急騰!自動運転タクシーの展開発表が起点 最高値更新へ」も参照。
Lyft
2012年設立の米Lyftは、カリフォルニア州を拠点に米国・カナダの約300都市でサービスを提供している。ライドシェア企業の中では、いち早く株式上場を果たした(2019年3月)。
北米でUberと競合する一方、他国を主体とするDiDiやGrubなどとは提携を結んでおり、それぞれのアプリの連携を図っているようだ。
2023年通期では、総予約額が前年比14%増の138億ドル(約2億900億円)、乗車数は同18%増の7億900万回で、過去最高を記録している。
【参考】Lyftについては「Uberのライバル企業「人の代わりに自動運転車」示唆」も参照。
Didi Chuxing(滴滴出行)
中国配車サービス最大手のDiDiは前身となる小桔科技が2012年に設立されて以来、瞬く間に中国市場を席捲した。現在は世界15カ国で配車サービスを展開しているようだ。
2023年通期の中国モビリティ部門の売上高は前期比39%増の1,750億元(約3兆6,600億円)で、乗車数は同39.8%増の108億900万件となっている。国際部門は売上高78億元で、乗車数は26億6,000万回となっている。
世界最大の中国市場を席巻しているため、配車回数はUberをしのぐ規模だ。日本でもソフトバンクと合弁を設立し、2018年にタクシー配車サービスを提供している。
【参考】DiDiについては「【最新版】中国のDiDi Chuxing(滴滴出行)完全解説 ライドシェア・配車事業、日本での展開は?」も参照。
Grab
2012年設立で、シンガポールに本拠を構えている。カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの東南アジア8カ国の500都市以上でサービスを展開している。
2023年通期の売上高は前年比67%増の23億5,900万ドル(約3,600億円)で、第4四半期には黒字化を達成している。配車回数は決算資料で公開されていないが、東南アジア市場では絶大な支持を受けているようだ。2021年に米ナスダックに上場を果たしている。
【参考】Grabについては「トヨタ出資のライドシェア大手Grab、2021年中に米国で上場か」も参照。
その他の企業
このほか、有力な配車プラットフォーマーとしてはインドのOla、インドネシアのGojek、エストニアのBolt、スペインのCabify、イスラエルのMoovitなどが挙げられる。
エストニアを拠点とするBoltは、欧州を中心にラテンアメリカやアフリカなどにも進出し、配車サービスを展開している。一部の国ではライドシェアにも対応している。
2020年に米インテル傘下となったMoovitは、世界112カ国以上、1,000を超える都市に対応している。
■日本のライドシェア制度①:自家用有償旅客運送制度
元祖は自家用有償旅客運送制度
日本における白ナンバーの自家用自動車を活用した移動サービスの元祖は「自家用有償旅客運送」だ。さらに言えば、通称「旧80条バス」にさかのぼる。
80条バスは、交通事業者のいない過疎地などにおいて、公共の福祉を目的に地方公共団体自らがバスなどを所有し、白ナンバーで輸送サービスを行うものだ。道路運送法の旧80条に規定されていたことからこの通称が用いられている。
つまり、自治体による自家用自動車(バス)を活用したサービスだが、交通事業者ではない自治体が継続的に有償運行を行うことの是非がたびたび議論の的になっていたという。
こうした問題を解決しつつ、公共移動サービスの穴を埋めるべく誕生したのが自家用有償旅客運送だ。2006年施行の改正道路運送法第78条~79条に盛り込まれた。
78条には、事業用自動車以外の自家用自動車を有償運送の用に供することが可能なものとして、以下が定められている(その後の改正内容を含む)。
- ①災害のため緊急を要するとき
- ②市町村、特定非営利活動法人その他国土交通省令で定める者が、国土交通大臣の許可のもと地域住民または観光旅客その他地域を来訪する者の運送を行うとき
- ③公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受け地域または期間を限定して運送の用に供するとき
このうちの②が自家用有償旅客運送だ。2018年に国家戦略特別区域法の一部を改正する法律が施行され、道路運送法の特例として観光客の運送も可能となった。
2020年には、運行管理や車両の整備管理について、バスやタクシー事業者など一般旅客自動車運送事業者が協力する「事業者協力型自家用有償旅客運送制度」も創設されるなど、少しずつ制度改正が進められている。
▼自家用有償旅客運送ハンドブック|国土交通省自動車局旅客課
https://www.mlit.go.jp/common/001374819.pdf
▼自家用有償旅客運送についてよくあるご質問
https://www.mlit.go.jp/common/001374818.pdf
交通空白地有償運送の導入率は33%
同制度では現在、交通空白地有償運送と福祉有償運送が認められており、国土交通省によると、2022年末時点で交通空白地有償運送に670団体4,304車両、福祉有償運送に2470団体1万4,456車両が登録されている。交通空白地有償運送は全国1,741市区町村中572市区町村で導入されており、導入率は33%に上る。
民間ではUberがライドシェア実証するも直ちに指導
制度として全国に普及した自家用有償旅客運送だが、基本的には過疎地を中心とした地方向けの制度設計であり、あくまで地方公共団体を中心とした公共の制度だ。民間の一存で導入・実施できる制度ではない。
一方、民間主体のライドシェアに関しても、2010年代に動きがあった。海外で破竹の勢いで勢力を伸ばす米Uber Technologiesが2012年に日本法人を設立し、国内におけるマッチングサービスに着手したのだ。
タクシー配車サービスが軸だが、2015年に福岡県福岡市でライドシェアの検証プログラム「みんなのUber」を開始した。移動ニーズに関するスマートデータの蓄積などを目的としていたが、間もなく国土交通省から「白ナンバーの自家用車による移動サービスは道路運送法に抵触する」と指導が入り、中止を余儀なくされた。
国はライドシェアを原則認めず
明確にライドシェアを否定された瞬間とも言える。国会でも、例えば2016年の第190回国会において、国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案に対する附帯決議として「ライドシェアの導入は認めない」ことが明記された。
2020年の第201回国会においても、持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取組を推進するための地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議として「ライドシェアは引き続き導入を認めない」ことが記されている。
基本スタンスとして、国は白ナンバーによる営利目的のライドシェアを「白タク行為」として、原則認めない姿勢を貫いてきたのだ。
■日本のライドシェア制度②:自家用車活用事業
タクシー供給不足を背景にライドシェア議論が急浮上
しかし、2023年に入って潮目が変わってきた。コロナ明けのインバウンド回復などを背景にタクシー需要が急増し、都市部や観光地などにおけるタクシー不足が一気に顕在化したのだ。
与党系有力議員がライドシェア解禁の是非について発言したことなども相まって議論が急加速し、規制緩和の在り方をめぐる議論が正式にスタートした。
暫定的に自家用車活用事業がスタート
その成果として2024年4月に制度化されたのが「自家用車活用事業」だ。日本版ライドシェアとも言われている。
一般ドライバーが自家用車を用いて旅客運送サービスを提供できる点では一般的なライドシェアと同じだが、サービス提供主体はタクシー事業者に限定されているため、一般ドライバーはタクシー事業者にパートなどの形で所属し、事業者の運行管理のもとサービスを提供しなければならない。この点が日本版たる所以だ。
また、サービス提供可能なエリアや時間帯なども限られている。配車アプリで客観的にタクシーの需給バランスが崩れているエリアや時間帯、曜日などを事前に特定し、その時のみ稼働可能としている。
【参考】ライドシェア議論の再燃については「内閣改造、河野&菅氏のダブル入閣で「自動運転&ライドシェア」推進加速か」も参照。
対象エリアは拡大傾向、地方は苦戦?
対象エリア第1弾は①東京(特別区・武三)②神奈川(京浜)③名古屋④京都市域――の4地域で、例えば名古屋では、金曜日の16~19時台に90台、土曜日の0~3時台に190台といった具合にサービス提供可能な時間と台数が定められている。
あらかじめ事業参加を申請したタクシー事業者が一般ドライバーを募集・雇用し、パート形式でサービスを提供する形が一般的となっている。
対象エリアはその後、札幌市エリア、仙台市エリア、埼玉県南中央エリア、千葉市エリア、大阪市エリア、神戸市エリア、広島市エリア、福岡市エリア、軽井沢エリア、富山エリア、石川エリア、岐阜(大垣)エリア、岐阜(岐阜)エリア、岐阜(東濃西部)エリア、岐阜(美濃・可児)エリア、沖縄(石垣)エリア、茨城エリア、三重エリア、静岡エリア、埼玉(県南東部)エリア、埼玉(県南西部)エリア、青森エリア、東京(南多摩交通圏)エリア、東京(北多摩交通圏)エリア、北海道(伊達)エリアに拡大している(2024年8月時点)。
このほか、雨天時や酷暑、イベント時にも対応できるよう随時バージョンアップが図られている。大都市部を中心にマッチング率は改善傾向にあるようで、一定の成果が出ていると言える。
一方、地方ではドライバーが集まりにくく、かつ稼働可能な時間が少ないため、現行制度のままでは成果を上げにくい可能性がある。
【参考】自家用車活用事業のバージョンアップについては「ライドシェア解禁に小出し感。「35℃以上予報」で時間外展開を許可」も参照。
日本版ライドシェアの料金体系は?
日本版ライドシェアの料金体系は、原則的にタクシーと同一だが、新たなにダイナミックプライシングなど運賃料金の多様化に向け、国土交通省が委員会で検討を進めている。
日本版ライドシェアのやり方・始め方は?免許は必要?
日本版ライドシェアのドライバーとして働くやり方は、タクシー会社などが出している求人をチェックするのが第一歩だ。タクシーとは異なり、普通免許を持っていれば始めることができ、自家用車を持っていなくてもタクシー会社が貸与してくれるケースもある。
ドライバーに関する条件としては、詳しく言えば「第一種運転免許(初心運転者期間にあるものを除く。)又は第二種運転免許を保有し、自家用車活用事業に従事する日前2年間において無事故(自動車の転覆、転落など、事故報告規則第2条に定める「事故」をいう。)であり、かつ、運転免許の停止処分を受けていないこと」と定義されている。
こうした情報については以下のページが参考になるので、参照してほしい。国土交通省北海道運輸局がまとめている資料だ。
▼自家用車活用事業制度説明会|国土交通省北海道運輸局
https://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido/content/000327034.pdf
■日本のライドシェア本格解禁に向けた動き
推進派と反対派が水面下で攻防
日本版ライドシェアとして動き出した自家用車活用事業だが、水面下では本格版ライドシェア解禁に向けた推進派と反対派の攻防が続いているようだ。
当初計画では、自家用車活用事業の実施状況を踏まえつつ、プラットフォーマーらタクシー事業者以外が運行主体となるライドシェア事業に係る法制度について、2024年6月に一定の取りまとめを行う予定だった。
しかし、さすがに事業開始からの期間が短すぎたためか、岸田文雄首相から「自家用車活用事業などについて、モニタリングと検証を進めていく。その検証の間、タクシー事業者以外の者が行うライドシェア事業について、法制度を含め事業の在り方の議論を進める。これらについて、特定の期限は現時点では設けない」という方針が示された。ゴールを設定せず、継続議論を進めていく方針だ。
推進派「年末までに結論を」
こうした動きに対し、超党派ライドシェア勉強会設立メンバーの小泉進次郎氏は「期限を設けないのはやらないのと同じ」とし、法整備に向けた検討を進め、年末に結論を出すことを進言した。
ライドシェア議論を進めている規制改革推進会議においても、委員を務めるLINE ヤフー代表取締役会長の川邊健太郎氏が「既存事業者への配慮が過ぎる現行の仕組みとモニタリングの状況を見る限り、日本版ライドシェアだけでは問題解決が成されるとは思えない。暫定制度のモニタリングと新たな法制度の具体化、これはぜひ年内で終了されることを改めて提案する」と述べている。
反対派はマッチング率改善に注力
一方、本格版ライドシェア反対派筆頭のタクシー業界は、自家用車活用事業の成果を上げるのに躍起となっているようだ。同事業に参加する事業者はこぞってドライバー募集に力を入れ、マッチング率向上を目指している。
この秋には自民党総裁選、場合によっては衆院選が行われる可能性もあるため状況は読みにくいが、おそらく年末までに議論がどんどん過熱し、合わせて世論が形成されていくものと思われる。
【参考】ライドシェア推進派については「ライドシェア推進派の政治家一覧」も参照。
【参考】ライドシェア反対派については「ライドシェア解禁、「反対勢力」一覧」も参照。
■日本のライドシェア展開企業
博報堂:「ノッカル」サービス展開
博報堂は、地域の移動課題解決に向けたMaaSソリューションとして、マイカー乗り合い交通「ノッカル」サービスを展開している。
自家用有償旅客運送制度のもと、富山県朝日町や富山県高岡市で導入されているほか、静岡県浜松市で2024年1月に「ノッカル庄内」、2月に同県東伊豆町で「ノッカルひがしいず」、3月に山形県西川町で「ノッカルにしかわ」がそれぞれ運行を開始するなど、広がりを見せている。
【参考】博報堂の取り組みについては「博報堂が「日本版ライドシェア」!Uberはダメなのになぜ?」も参照。
パブリックテクノロジーズ:過疎地ライドシェアを推進
パブリックテクノロジーズは、活力ある地方を創る首長の会が提言する「自治体ライドシェア i-Chan」のパートナー企業に選定され、石川県小松市の「小松市ライドシェア」実装に携わっている。
同社は自治体向けのスーパーアプリ事業や公共交通事業などを展開しており、有休車両と地域住民の潜在的なドライバーリソースを活用するライドシェアシステムを提供する「いれトク!AI配車」などを製品化しているようだ。
西日本旅客鉄道:自家用有償旅客運送用支援システムを開発
JR西日本は、「地方版MaaS」構築に向け島根県邑南町と協定を結んでおり、その過程で「自家用有償旅客運送用支援システム」を開発した。初めて操作する人や高齢者でも分かりやすいUI・UXにこだわったシステムを電脳交通と共同開発した。
GO:いち早く自家用車活用事業への参入を表明
国内タクシー配車サービス最大手のGOは、いち早く自家用車活用事業への参入を表明した。2024年4月中に新制度に対応したマッチングサービスを開始する予定としている。
自家用車活用事業の対象エリアで、実際に該当車両が稼働している場合、既存の「GO」アプリでその車両も案内する。利用者の希望に合わせ、従来のタクシーに限定した配車も可能だ。
Uber Japan:自家用車活用事業対象4エリアで提携タクシー事業者に対応
Uber Japanも自家用車活用事業の導入支援を4月上旬から順次開始する。Uberアプリを東京・神奈川・愛知・京都の約10社の提携タクシー事業者に提供する予定だ。
アプリ上では、タクシー事業者によるライドシェアを「自家用タクシー」と表示するなど、利用者にわかりやすい形で区別を図る。
S.RIDE:東京都内で自家用車活用事業に対応
ソニー系のS.RIDEは、国際自動車と大和自動車交通による自家用車活用事業の運行車両への配車を、東京23区と武蔵野市、三鷹市で4月中に開始し、順次拡大することと発表した。
こちらも配車指定画面にライドシェアの項目を新たに追加し、対象車両を「含む」「含まない」を選択することが可能になるという。
タクシー配車アプリが自家用有償旅客運送も?
旧来の自家用有償旅客運送制度においては、プラットフォーム設計は個別に行われることが多く、高齢者対応などの問題から電話主体の取り組みも珍しくなかった。
しかし、近年はMaaS開発の過程で自家用有償旅客運送制度を対象に汎用性・カスタマイズ性が高いプラットフォーム・アプリの開発が進み始めているようだ。
また、既存のタクシー配車プラットフォームがベースとなる自家用車活用事業の開始により、今後は自家用有償旅客運送制度への配車アプリの導入も進んでいく可能性が考えられる。
すでにウーバーの配車アプリが京丹後市と加賀市の自家用有償旅客運送事業で採用されているが、今後こうした動きが加速するかもしれないのだ。ノッカルをはじめとした専用アプリとのサービス対決が今後本格化しそうだ。
ベンチャー企業newmoへの注目度高まる
ベンチャー企業の動きにも注目だ。新進気鋭のモビリティテクノロジー企業であるnewmo(ニューモ)はタクシー事業、そしてライドシェア事業の展開を見据え、大阪府内のタクシー事業者である未来都を買収した。
newmoに関しては、シリーズAラウンドのファーストクローズにおいて、100億円超の資金調達を実施したことも2024年7月に発表しており、注目を集めている。
【参考】関連記事としては「老舗タクシー会社、「ライドシェアの運営権」狙いで買収標的に?」も参照。
■ライドシェアに関する市場規模調査
右肩上がりで市場は拡大
ライドシェア市場は、Uber Technologiesなどの台頭によりこの10年ほどで一気に開拓された。スタートアップの参入が著しく、一時期は世界を代表するユニコーン企業に各社が名を連ねていた。近年では、Uber TechnologiesやLyft、DiDiといった大手が株式上場を果たしている。
ライドシェアの市場規模は、リサーチステーション合同会社が2019年1月に発表したレポートによると、2018年時点で613億ドル(当時のレートで約7兆円)規模で、2025年には3倍以上に拡大する見込みという。
また、日本で認められているコストシェア型ライドシェアの国内市場も今後拡大が期待されており、調査会社の富士経済によると、カープール型ライドシェアの国内市場(仲介手数料ベース)は、2018年の1億円見込みから2030年には131億円まで拡大すると予測している。
調査会社のReport Oceanは、2021年9月にライドシェアに関する新たなレポートを発行しており、そのレポートによれば、2021年から2027年における世界市場は、CAGR(年平均成長率)が20%になる見込みだという。2020年における市場規模は890億5,000万ドル(当時のレートで約9兆9,000億円)と推測している。
Emergen Researchによると、2022年の世界市場規模は988億ドルで、2032年には4,300億ドル規模まで成長すると予測している。予測期間中のCAGRは15.9%に上る。
【参考】関連記事としては「日本置き去りのライドシェア!世界では年平均20%で爆速成長」も参照。
■ライドシェアに関するアンケート調査
ライドシェアは「乗らず嫌い」が多い?
民間調査会社のMM総研が2023年に実施した調査によると、全国の15~79歳の男女3,000人のうち、ライドシェアの利用経験がないのは2,780人に上った。日本人のほとんどが利用経験が無いのだ。
ライドシェアに対する賛否は、海外で同サービスを利用した経験がある人の場合賛成84.1%、反対15.9%だったが、未経験者における賛否は賛成35.6%、反対64.4%となっている。
ライドシェアに関しては、日本人の大半が「乗らず嫌い」であることを示唆する調査結果だ。
また、ビースタイルホールディングスの調査機関「しゅふJOB総研」が仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を対象に実施したアンケート調査では、ライドシェアの仕事をしてみたいと回答したのは8.2%にとどまったという。
【参考】関連記事としては「ライドシェア、日本人の大半「乗らず嫌い」 利用経験あると賛成35%→84%に」も参照。
【参考】関連記事については「ライドシェアの仕事、「したい」わずか8.2%!主婦・主夫層向け調査」も参照。
■自動運転タクシー普及でライドシェアは消滅?
ライドシェアに関しては、自動運転タクシー普及までの「つなぎサービス」であるといった視点も持っておきたい。
ライドシェアの利点としては、ドライバー不足の状況でも交通手段を確保できる点などがあるが、無人運行が可能な自動運転タクシーが普及すればこうした課題はクリアできる。しかも、自動運転タクシーの方が人的コストがかからない分、利用運賃も下がると考えられている。
実際、UberやLyft、DiDiといったプラットフォーマー大手は、自社内に自動運転開発部門を設けていた。Uber、Lyftは部門を売却したが、DiDiの開発部門DiDi Autonomous Drivingはまだ残っており、2025年までに量産型ロボタクシーを導入する計画を発表している。
一方、自社開発をあきらめたUberは、米アリゾナ州でWaymoの自動運転タクシーの配車を開始している。Uber Eatsのフードデリバリーも自動配送ロボットを活用していく方針だ。Lyftも旧AptivやMotionalと提携し、サービス実証を続けている。
現状、自動運転タクシーは運行エリアなどが限られているが、徐々にODD(運行設計領域)を拡大し、自律走行技術やサービスの質を上げながらその台数を増加していくことが予想される。
まだまだ先の話ではあるものの、ライドシェアは自動運転タクシー普及までの「つなぎサービス」となりそうだ。
【参考】関連記事としては「Uber、いよいよ「自動運転化」を本格化!ライドシェア&配達で」も参照。
■【まとめ】日本版ライドシェアの最終形は?
世界的にはスタンダードなサービスとなったライドシェア。日本では、自家用車活用事業に留まるのか、あるいは世界標準的なサービスが誕生するのか。今後の動向から目が離せないところだ。
長期視点では、自動運転タクシーの動向も関わってくることになる。高度な自動運転タクシーが実現すれば、ライドシェアも既存タクシー事業者も大きな変革を余儀なくされるためだ。
5年後、10年後のモビリティ社会はどこまで進展しているのか。さまざまな観点からその動向に引き続き注目したい。
(初稿公開日:2019年4月12日/最終更新日:2024年10月31日)
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