博報堂が「日本版ライドシェア」!Uberはダメなのになぜ?

「ノッカル」サービス、2カ所目の展開



出典:博報堂プレスリリース

富山県高岡市で、マイカーを活用した乗り合い公共交通サービス「ノッカル中田」の実証が始まった。博報堂の協力のもとMaaSシステムを導入し、住民の移動課題を解決する取り組みで、事業者協力型自家用有償旅客運送に即した有償ライドシェア事業と言える。

国内ではUberがアメリカで展開しているような営利目的のライドシェアは禁じられているが、条件付きで有償ライドシェアは認められている。この記事では、同事業の概要とともに日本のライドシェア事情に迫っていく。


■ノッカル中田の概要
出典:博報堂プレスリリース

ノッカル中田は、高岡市内の中田地区を行き来するドライバーの車に、移動したい乗客が乗り合うサービスだ。利用者は、ドライバーの走行予定を見て、前日までに電話またはLINEで予約を行い、ドライバーの車に同乗させてもらう。

ドライバーは、2種免許保有者か国土交通大臣認定講習を受講した地区住民が担う。運賃は片道500円だ。博報堂はサービス設計サポートとシステム提供を行い、高岡市は運行をサポートする。中田地区コミュニティ協議会が運行主体となり、ドライバーや利用者の募集や管理を行うほか、タクシー事業者の高岡交通が運行管理に協力する。

博報堂は、高岡市に先立って2020年に富山県朝日町で「ノッカルあさひまち」の実証を行っている。同サービスは2021年10月に本格運行を開始しており、高岡市の取り組みもこれを応用した格好だ。朝日町では、1人での利用の場合は町内を運行するあさひまちバスの回数券(11枚つづり2,000円)3枚で利用できる仕組みだ。

博報堂はこのほか、持続可能なまちづくりに関する連携協定を結ぶ静岡県浜松市においても共助型の自家用有償旅客サービスの導入を計画しているようだ。


公共交通網が不足する地方では、住民自らが交通サービスの提供に一役買う取り組みはまだまだ広がりそうだ。

出典:博報堂プレスリリース
■日本国内におけるライドシェア事情
自家用有償旅客運送=ライドシェア?

こうした自家用有償旅客運送は、自家用車を活用して乗りたい人と移動したい人をマッチングするという意味で、米国などで人気のライドシェアと仕組みが似ている。

海外で展開されているライドシェアの多くは、米Uber Technologiesなどの配車サービスプラットフォーマーを介して一般ドライバーと乗客をマッチングするものが一般的だ。一般ドライバーはマイカーと空き時間を活用し、小遣い稼ぎや副業、本業のような形で利用者を目的地まで送迎する。

ドライバーには運転免許以外特に求められる資格がないことが多い。実質的に一般人によるタクシーサービスとなっている。


一方、日本では道路運送法の規定により自家用車を有償で運送の用に供することは一部例外を除いて禁止されている。タクシーサービスには二種免許や事業登録などを要し、車両の点検などにも厳格な基準が設けられている。

つまり、日本では一般ドライバーが空き時間などを利用し、自家用車を用いて利益を上げる行為は「白タク」とみなされ、禁止されているのだ。

ライドシェアと自家用有償旅客運送は中身が異なる

ただし、公共交通の衰退などを背景に、日本でも2006年に自家用旅客有償運送が制度化されている。市町村や非営利団体などが公共交通空白地をまかなうサービスや福祉用途などにおいては、自家用車を利用して有償サービスを提供することができるのだ。

ドライバーは二種免許保持者をはじめ、大臣認定講習を受講することで通常の一種免許保持者も担うことができる。有償の範囲は、実費の範囲内であると認められることや、営利目的と認められない妥当な範囲内であることなどが求められている。

つまり、ライドシェアと自家用有償旅客運送は、仕組みそのものに大きな差異はないものの、営利サービスとしての可否やドライバー・事業に求められる要件など中身が異なるのだ。

■自家用有償旅客運送の実例
自動運転車を導入する動きも

国土交通省が2020年3月に作成・発表した「自家用有償旅客運送事例集」には、全国各地で同事業を運営する80団体が紹介されている。

▼自家用有償旅客運送事例集
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001338160.pdf

各取り組みは、自家用有償旅客運送導入により対象エリアにおける運行収支が改善した「収支改善モデル」、交通事業者などと地域事業者が役割分担やすみ分けを行っている「事業者との役割分担モデル」、観光客など地域特有の需要にあわせて運行する「観光需要等に対する補完モデル」、地域における運行維持・拡大や利便性の向上につながる「移動手段の拡充モデル」、住民が運行そのものや運行内容の検討や決定に関与する「住民主導モデル」、地域人材の活用やマイカー・スクールバス・送迎バスなどの有効活用に取り組んでいる「地域資源活用モデル」に分類されている。

料金形態としては、1キロあたり50円や8キロ以内800円といった距離制をはじめ、1区間300円などの区間制、定額運賃制、時間制、年会費制などさまざまだ。別途待機料金などを設定しているケースもある。

バスロケーションシステムの導入や経路検索アプリへの対応を行った山形県酒田市や、グリーンスローモビリティを導入した東京都町田市(社会福祉法人悠々会)のように、先端技術の活用や環境配慮を行う取り組みもある。

秋田県上小阿仁村(NPO法人上小阿仁村移送サービス協会)では、自家用車による運送に加え2019年から一部ルートに自動運転車を導入している。

【参考】上小阿仁村の取り組みについては「道の駅と集落結ぶ自動運転サービス、商用化が決定!まず秋田で」も参照。

■【まとめ】条件付きであれば営利目的でも・・・

日本においては、恐らく営利目的のライドシェアが大々的に解禁されることはなさそうだが、公共交通空白地で一定の許可要件を満たすなど、条件付きであれば営利目的も可能になる日が訪れるかもしれない。

なぜならば、公共交通空白地における運送サービスにはビジネス性がないためだ。そうした地域であれば、一定の安全要件さえ担保できれば営利目的を排除する理由はなくなる。

また、自動運転バスなどの導入を検討する地域も今後増加し、既存の自家用有償旅客運送と併用、あるいは切り替える自治体なども出てきそうだ。

移動の利便性、効率性を求めていく取り組みが今後どのような動きを見せるのか、要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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