Amazonが大失着?自動運転部門の縮小は「未来へのリスク」

将来の競争力低下につながる可能性も



景気低迷が続く中、米Amazonがコスト削減の一環として部門の整理を進めているようだ。情報は錯綜しているものの、一部ではAlexa(アレクサ)関連や自動運転関連といった先端技術の分野も整理の対象と報じられている。


将来の成長分野と目される技術開発の手を止めるのか大きな注目が集まるところだ。この記事では、アマゾンの動向を通じて、将来技術の開発の重要性に触れていく。

■アマゾンの近況
2四半期連続赤字計上、企業価値は半分に

アマゾンは、2022年3月期に38億ドル、6月期に20億ドルの赤字を2期連続で計上した。9月期は増収減益で純利益は約29億ドルの黒字となったが、景気後退の懸念やインフレ、金利、労働市場やグローバルサプライチェーンの制約などの影響は依然払しょくできず、先行きを楽観視できない状況が続いている。

同社の株価は、2021年11月に180ドル台(調整後)を記録していたが、2022年11月時点で100ドルを割り込む日が続いており、企業価値は半減している。

出典:Trading View

米メディアによると、アマゾンはアンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)主導のもと数カ月に渡って不採算部門の精査を進めており、音声認識サービス「Alexa(アレクサ)」を含むデバイス部門なども対象となっているという。なお、同社広報は別の取材で同部門の縮小を否定している。


ただ、2022年10月には自動配送ロボット「Scout(スカウト)」の研究開発を凍結することが報じられている。広報担当によると、3年間にわたるサービス実証の末、顧客ニーズにマッチしていない部分が判明し、実証を中止してプログラムを再構築するという。

このほか、小売事業で進めていた新規採用の凍結を他の部門にも拡大することや、自動運転部門の人員を減らす計画なども一部で報じられているようだ。

【参考】アマゾンのスカウト事業については「実は役立たず?米Amazon、自動配送ロボの公開テスト中止」も参照。

自動運転開発部門の行方は?

情報が錯綜している状況だが、事業の精査・整理を進めていることは間違いない。スカウト事業を停止したことから、将来技術に対しても容赦なくメスを入れる可能性は十分考えられる。自動運転部門への投資の行方にも注目が集まるところだ。

自動運転をはじめとする将来技術は、直ちに収益をもたらすものではないのは確かだ。先行き不透明な中、研究開発費が削られるのは致し方ない面もあるが、こうした分野における事業の縮小・撤退は、将来発揮すべき競争力を失うことにつながる。

特にアマゾンは、EC事業者として自前の物流網を構築し、自動車・自動運転分野でも活躍するクラウドコンピューティングサービス「AWS」もある。

アマゾンにとって、自動運転技術の開発・実用化は将来の自社事業に直結するものと言っても過言ではない。ここでの選択が大きなターニングポイントとなり、将来の成長を左右することは間違いないだろう。

自社開発か、他社との連携か

過去には、配車サービス大手のUber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)やLyft(リフト)が自動運転部門を売却している。ウーバーは米Aurora Innovation、リフトはトヨタグループのウーブン・プラネット・ホールディングスがそれぞれ買収している。

近々では、有力スタートアップのArgo AIに対しフォードとフォルクスワーゲングループが投資を引き上げ、Argo AIは事実上事業を停止した。

フォードとフォルクスワーゲングループは自社開発を行う環境が整っているが、ウーバーやリフトは独自の自動運転開発を諦め、他社との連携に命運を委ねる格好となった。

アマゾンとは事業規模も畑も異なり、また一概にどちらの選択が正しいかを現時点で断ずることはできないが、アマゾンはGAFAMと称されるほどのテック企業の一角である。自動運転分野が企業のさらなる成長にどれだけ貢献可能か、そのポテンシャルをしっかりと見極め、中長期戦略を立てていかなければならないだろう。

傘下のZooxは実用化に向けた取り組みを加速中
出典:Zoox公式サイト

なお、アマゾンは2020年にスタートアップZoox(ズークス)を買収し、自動運転開発を本格化させている。Zooxは同年末にオリジナルのMaaS向け自動運転車両を発表し、2022年には連邦自動車安全基準(FMVSS)に対し、走行に必要とされる安全性能要件を自己認証する取り組みも行っている。

また、移動サービス実現に向けカリフォルニア州当局に公道走行に関する申請を行ったことも報じられている。

成果を上げつつある傘下のZooxに対し、このタイミングで開発規模の縮小や撤退などの消極策を講じるのは場当たり感が強く、過去の買収が間違っていたと認める結果になる。

現時点における経営状況と、巨大テック企業としての将来ビジョンを天秤にはかり、どのような判断を下すのか、要注目だ。

【参考】Zooxについては「Amazon、自動運転タクシー展開へ 傘下企業が試験準備」も参照。

■自動運転の市場予測

矢野経済研究所が2022年8月に発表した自動運転システムの世界市場に関する調査結果によると、ADAS(先進運転支援システム)と自動運転システムの世界搭載台数は2030年に7,915万3,000台に達すると予測している。

2024年にレベル2がレベル1の市場規模を上回り、条件付き自動運転を実現するレベル3も40万台超に達するという。2030年には、レベル3が625万台規模、レベル4を搭載したMaaS向け車両は72万台規模と予測している。

出典:矢野経済研究所プレスリリース(※クリックorタップすると拡大できます)

同じく、2022年8月に富士キメラ総研が発表した「2022 自動運転・AIカー市場の将来展望」によると、レベル3以上の車両は生産台数ベースで2030年に1013万台、2045年には4,898万台に達するという。

2022年時点では中国と米国でレベル4のロボタクシーなどの商用車が先行しており、2025年ごろにドメインコントローラーやビークルコンピューターに搭載される「ビークルOS」の完成を目指している自動車メーカーが多数あることから、2030年以降に本格的に市場が拡大していくと予想している。

MarketsandMarketsが2022年に発表したレポートによると、世界の自動運転車の市場規模は2021年からCAGR(年平均成長率)13.3%で成長し、2030年には6,240万台規模に達すると予測している。

一方、宅配ロボット関連では、Mordor Intelligenceの調査によると、デリバリーロボット市場は2020年の35万ドルCAGR49.01%で成長し、2026年までに382万ドルに達すると予想している。

世界中でECプレーヤーとオムニチャネル小売業者の存在感が高まっており、特にラストマイルを担う自動配送ロボットの需要が促進されているという。また、現時点において小売業者はラストマイル配送のコストの一部を吸収しているため、利益率向上の観点からもロボットへの期待が高まっているようだ。

【参考】関連記事としては「自動運転車の市場調査・レポート一覧(2022年最新版)」も参照。

■【まとめ】競争力を堅持するためにも・・・

単純なECプラットフォーマーの域を超えてロジスティクスを事業化しているアマゾンにとって、自動運転技術は遅かれ早かれ必須のものとなる。開発パートナーとの密な連携で補うことも可能だが、物流面における収益性や発展性に限界が生じる可能性が高い。

また、AWSを進化させるうえでも自社開発力を失うわけにはいかないはずだ。自動車・自動運転分野でシェアを伸ばし続けるには、自前の先端技術や研究が欠かせない。

テック企業として競争力を堅持するためにも、アマゾンにはぜひとも宅配ロボットを含む自動運転開発を継続してほしいところだ。

【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでいる?(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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