ライドシェア解禁に小出し感。「35℃以上予報」で時間外展開を許可

雨天に続き、酷暑やイベント時に対応



日本版ライドシェア(自家用車活用事業)のバージョンアップが続いている。20204年7月に雨天時対応を開始したのに続き、今度は酷暑やイベントにも対応するという。


一般ドライバーにとって、稼働可能時間が少ないことがネックとなっている日本版ライドシェア。こうした緩和は望ましいことだ……が、小出し感と言うか、ちまちましている感が否めない。運営側も、細かな変化に逐一対応するのは大変ではないだろうか。

抜本的な変革が求められる道路輸送分野において、日本版ライドシェアはこの先存在感を示すことができるのか。同事業の行く末に迫ってみよう。

▼日本版ライドシェア等のバージョンアップについて|国土交通省 物流・自動車局
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/001758807.pdf

■日本版ライドシェア・バージョンアップの概要

酷暑やイベントに対応可能に

国土交通省は2024年8月、酷暑が予報される時間帯やイベント開催時における日本版ライドシェアの方策を公表した。気温35度以上の猛暑が予報される時間帯や、イベント開催時のタクシー利用者の増加に対応できるようバージョンアップする内容だ。


同省は7月、バージョンアップ第一弾として雨天時対応を実施したが、酷暑が予想される夏季においても利用者の利便性向上の観点から移動の足の確保が重要となっていることから、雨天時同様使用可能な車両を増やすこととした。

具体的には、前々日の10時時点で気温予報が35度以上となった時間帯の前後1時間を対象に、日本版ライドシェアの車両使用を可能にする。短時間労働に配慮し、使用可能時間が3時間以下となる場合には、前後いずれか 1時間を追加し、4時間までの運行も認める。

対象エリアは大都市部(東京都特別区、横浜市・川崎市、名古屋市、京都市、札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、大阪市、神戸市、広島市、福岡市)で、該当時間がこれまでも使用可能な対象時間帯だった場合、ライドシェア車両の最大2倍まで使用可能にする。

出典:国土交通省公開資料

また、一時的な移動需要の増加が見込まれるイベント開催時に対応するため、イベント開催時におけるタクシー及び日本版ライドシェアの該当エリアにおける供給拡充のための仕組みも導入する。


従来のタクシーに関しては、道路運送法第20条第2号に基づくタクシーの営業区域外旅客運送制度(地域公共交通会議または協議会により協議が整った場合、タクシーが地域や期間を限定した上で区域外旅客運送を可能とする制度)において、イベント対応時も同制度を利用可能とする旨を明確化し利用を促進する。

日本版ライドシェアに関しては、導入済みの地域においてイベント主催者または開催地周辺自治体から要請書 が提出された場合、一時的な需要の増加が見込まれる時間帯や要請書に記載されている不足車両数の範囲内において柔軟な運用を可能にする。

出典:国土交通省公開資料

ダイナミックプライシング導入に向けた議論にも着手

国土交通省はまた、「タクシー及び日本版ライドシェアにおける運賃・料金の多様化に関する検討会」を設置し、タクシーと日本版ライドシェアの運賃料金の多様化に関する議論にも着手している。

関係者や有識者の意見を踏まえながら、新たなダイナミックプライシングなどについて検討を進めるようだ。

出典:国土交通省公開資料

万博対応も協議開始

イベント関連の取り組みとは別に、大阪・関西万博への対応を協議するため国土交通省は大阪府・市とともに「万博開催期間中における日本版ライドシェア勉強会」を立ち上げた。

万博における来場者数の政府目標は2,820万人で、ピーク日来場者は一日あたり22.7万人、タクシー利用者数は7,800人と試算されている。万博期間中に追加で必要となるタクシー台数は約2,300台(再試算後2,660台)、ドライバーは約4,000人(同4,590人)必要という。

直近のタクシードライバーの増加傾向を踏まえても、最大1日当たり約1,880台のタクシーの稼働と約3,250人のドライバー確保が必要としている。

大幅な需要過多が予想されることから、運行区域・時間の弾力化(府域全域・24時間運行)や、タクシー事業者以外の新規参入、ドライバーの業務委託、ダイナミックプライシングの導入などが提案されている。

地域・曜日・時間帯制限の緩和や雇用形態の柔軟化、運賃制度の柔軟化は、恐らく他エリアでも事業者からの要望が多いものと思われる。

万博に対しどのような対応がとられるのか、またそれまでに日本版ライドシェア制度そのものの緩和がどれだけ進むのか、要注目だ。

貨客混載やバス・鉄道事業者の参入可否も議論

このほか、貨客混載・協議運賃制度の導入、新たなセッションベースでのマッチング率試算、5%ルールの適用時間・曜日の拡大、台数制限の緩和、バス、鉄道事業者などの参入促進に向けた許可要件の緩和などについても随時検討を開始し、2024年中に新たな制度開始や案の取りまとめを行う計画だ。

出典:国土交通省公開資料

■日本版ライドシェアの状況

タクシー会社管理下で一般ドライバーがサービス提供

日本版ライドシェアは、タクシー供給の不足を補うため2024年4月にスタートした。配車アプリのマッチング率を活用し公正に算出した不足率をベースに不足が著しい曜日や時間帯を特定し、その時間帯に限って自家用車×一般ドライバーによるタクシーサービスの提供を可能にする制度だ。

一般ドライバーは、対象エリアで同事業に参加するタクシー事業者の運行管理下でなければサービスを提供することができず、多くの場合パートなどの形で雇用契約を結んでいる。事業者が一般車両の運行前点検や一般ドライバーへの教育を行うことで安全性を担保する仕組みで、これが「日本版」の特徴となっている。

【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業まとめ」も参照。

ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業まとめ

大都市部中心に成果は上々?

日本版ライドシェアは現在、全17地域で運行が行われており、さらに44地域において導入が検討されている。マッチング率も昨年度の参考数値と比較して概ね改善するなど、順調に取り組みが進んでいるという。

▼営業区域ごとの実施状況|7月28日時点|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001759268.pdf

順調に事業拡大が図られているが、現時点で重視すべきはドライバーの推移だ。東京エリアは7月の4週間で292人増加し、登録ドライバー数は1,909人となった。7月だけで約18%増加している。一方、神奈川(京浜)エリアは約10%増で計363人、愛知エリアは約20%増の計47人、京都エリアは9%増の304人となっている。大都市圏は概ね10~20%ほど伸びているようだ。

出典:国土交通省公開資料

一方、6月スタートの富山エリアでは11人の登録に留まり、1台1時間あたりの運行回数も約0.3回(参考:一般タクシーは0.7回)と低調な地域もある。石川エリアは28人で同約0.4回、静岡エリアは2人で約0.2回、埼玉(県南東部)エリアは8人で約0.5回、7月第4週に始まったばかりの三重エリアは12人で約0.1回となっている。

全体では登録ドライバーは計3,745人で同0.8回の状況だ。登録ドライバー数は伸びており、1台1時間あたりの運行回数も平均すると一般タクシーを上回っており、上場の成果と言える。ただ、都市部と地方部の運用に格差が見られるのも事実だ。

都市部に比べ地方は稼働可能な時間帯・曜日が少ない傾向にある。こうした時間帯の少なさは、一般ドライバーの働きやすさ・自由度を低下させるため、ドライバーが集まりにくい要因となる。

その意味では、雨天や酷暑、イベント時などに対応できるよう規制を緩めていくバージョンアップは望ましいものと言えるだろう。

ドライバーの就労しやすさが課題

ただ、これら天候やイベントへの対応は不確実性が高く、また一過性のものでもある。安定した就労時間の確保には繋がりにくい。

細かな改善・緩和そのものはプラスであるものの、事業継続には一般ドライバーの過不足ない参加が欠かせない。国が同事業のゴールをどこに見据えているかにもよるが、全国展開を目指すのであれば、こうした小手先の改善では到底目標を達成できない。

そもそも、地方に行けば行くほど配車アプリの整備率・利用率は低くなり、マッチング率をベースにした需給判断は難しくなる。現行の仕組みは大都市部や一大観光地向けであることは明白で、このベースのままでは全国展開はまず不可能だ。地方は自家用有償旅客運送制度を利用すべき――となる。

日本版ライドシェアに発展形はない?

一般ドライバーにタクシーサービスへの門戸を開き、不足するドライバーを補充する意味で日本版ライドシェアには一定の効果が認められるのは確かだ。

ただ、小出しのバージョンアップを繰り返したとしても、この制度設計のまま5年、10年後も同事業が継続されているか?――と考えると、正直疑問を拭えないのではないか。都度運用ルールが変わるのも実施主体にとって負担となる。

大都市部に限れば「パート型タクシードライバー制度」として定着可能かもしれないが、それ以上の発展形はなくなるだろう。

ひと思いに本格版ライドシェア導入もあり?

であれば、ひと思いに「いつでもどこでも誰でも」サービス提供可能な本格版ライドシェアを解禁してしまった方が効果的ではないか。

プラットフォーマーが定めた最低限の要件を満たせば登録可能なTNC型とまでは行かずとも、国がドライバーに対し一定要件のもと登録や車両・運行管理を義務付けるPHV型であれば、一定の安全性を担保できる。

新たな日本型として、第二種運転免許に変わる簡易資格を新設するのも手だ。二種免許者に優位が生じるよう、月当りの稼働時間や運行方法、手数料割合などに制限を設け、しっかり区別を図るのだ。現行の普通免許×タクシー事業者管理下が可能であるならば、こうした手法も導入できるはずだ。

運行管理は本人とプラットフォーマーが責任を持つことになるが、しっかりと罰則を課すことで悪質なドライバーやいい加減なドライバーは淘汰できる。

タクシー業界からの反発は必至だが、業界の大幅な規制緩和も当然実行し、ビジネス性の増強を図りながら全体として交通イノベーションを図っていくべきではないだろうか。

現行ルールでは地方は交通ビジネスが成り立たず、都市部は需給均衡を図りづらい。小出しの規制緩和で緩やかに改革を進めていては、地方を中心に取り返しのつかない事態に陥りかねない。

今、このタイミングで本格版ライドシェア解禁を逃せば、未来永劫日本では禁止されることになる可能性が高い。

もちろん、明快かつ効果的な対案があるならばライドシェアは禁止でもいい。ともかく、判断をずるずる先延ばしにせず、英断できるリーダーシップを国に求めたいところだ。

【参考】日本版ライドシェアドライバーの声については「ライドシェア、運転手から悲鳴!「ワーキングプアを強要」「売上の3~5割が手数料」」も参照。

■【まとめ】抜本的改革なくして未来の交通社会は見通せない

タクシー事業者のもとパートドライバーを増やす日本型ライドシェアに大きな発展性はない。業界に配慮しつつ一般ドライバーを活用する策としては妙案だが、大都市部のみで通用する仕組みであることは明白であり、全国の交通課題解決には至らない。

であれば、取得要件がライトな新たな免許を創設し、「女性専用車」などさまざまな安全策を講じながら全国一律の新制度を設けたほうが建設的ではないか。

抜本的なアイデアなくして、交通課題の根本解決はなしえない。本格版ライドシェア解禁にしろ非解禁にしろ、未来を見通せるような施策を望みたいところだ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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