
国内でも自動運転レベル4によるバス運行がぽつぽつと出始めてきた。実用化しやすい小型・低速モデルが中心だが、早くも高性能モデルへの転換が進み始めているようだ。
ティアフォーに代表される国内開発勢の進化も著しいが、近年は有力海外勢の日本進出計画も出始めている。中国勢も存在感を増す可能性が高そうだ。ベース車両として着実に実績を上げ、さらには自動運転バスそのものが輸入され始めている。
開発競争の激化が止まらない自動運転分野の最新動向に迫る。
記事の目次
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■国内自動運転バスの動向
国内9カ所でレベル4実装
国土交通省の発表によると、2025年12月時点で北海道上士幌町、茨城県日立市、東京都大田区(羽田)、福井県永平寺町、長野県塩尻市、三重県多気町、大阪府大阪市(万博)、愛媛県松山市、千葉県柏市の9カ所でレベル4自動運転が実装されているという。
▼自動運転の普及・拡大に向けた取組みについて|国土交通省
https://www.soumu.go.jp/main_content/001043470.pdf

このほか、GLP ALFALINK相模原敷地内通路(2023年10月、ティアフォー×タジマ製「GSM8」)、石川県小松市(2025年3月、ティアフォー×BYD製「Minibus」)などもレベル4認可を受けている。
以下、上記レベル4それぞれの「運行エリア/レベル4認可取得年月/特定自動運行許可年月/自動運転システム開発者/使用車両/運行ルート」――についてまとめてみた。
- 福井県永平寺町/2023年3月/2023年5月/産業技術総合研究所など/ヤマハ発動機電動ゴルフカーベース/参ろーどの一部区間2キロ(非車道)
- 東京都大田区(羽田)/2023年10月/2024年6月/NAVYA/ARMA/羽田イノベーションシティ内の全周約 800メートル
- GLP ALFALINK相模原/2023年10月/不明/ティアフォー/タジマ製「GSM8」ベース/GLP ALFALINK相模原敷地内の全周約 1.3キロ
- 北海道上士幌町/2024年5月/2024年10月/NAVYA/ARMA/町内の町道約630メートル
- 三重県多気町VISON/2024年10月/2024年11月/AuveTech/MiCa/VISON 構内の自動運転専用レーン内と一般道路往復約 4.2 キロメートル
- 長野県塩尻市/2024年10月/2025年1月/ティアフォー/Minibus(BYD製バスがベース)/市内ルート全長1.2キロ
- 茨城県日立市/2024年11月/2024年12月/先進モビリティ/いすゞ「エルガミオ」ベース/ひたちBRT専用道路区間約6.2キロ
- 愛媛県松山市/2024年12月/2024年12月/BOLDLY/EVモーターズ・ジャパン「e-City L6」(アルファバスベース)/市内往復約1.6キロ
- 大阪府大阪市(万博)/2025年2月/2025年4月/先進モビリティ/EVモーターズ・ジャパン/舞洲駐車場から夢洲第1交通ターミナル間の一部区間
- 石川県小松市/2025年3月/不明/ティアフォー/Minibus(BYD製バスがベース)/市内全長約7.5キロ
- 千葉県柏市/2025年8月/2025年11月/先進モビリティ/いすゞ「エルガミオ」ベース/市内全長約 700メートル
このほか、伊予鉄グループが2025年10月、新たに2路線でレベル4運行を開始すると発表した。2026年1月から松山環状線、2月から道後・松山城線でレベル4運行を開始する計画で、許認可については不明だが、導入する車両はBOLDLYが調達した中国WeRide製のRobobusとされている。
実用化初期はゴルフカーベースやARMAが主流だった
国内で公道における自動運転実証が始まった初期は、ヤマハ発動機のゴルフカーベースのモデルや、BOLDLYやマクニカが導入した仏NAVYA(現Navya Mobility)製ARMAが主流だった。
ゴルフカーベースモデルは小型・低速で価格が安く、実用化しやすいのが利点だ。ARMAは2010年代当時としては非常に完成度が高く、BOLDLYやマクニカが国内導入に力を入れたことで主力モデルとなった。それぞれ黎明期を支えたモデルであり、今なお現役だ。
ただ、ゴルフカーベースモデルは安価な点は魅力的であるもののスペック面での拡張性に乏しく、本格的なレベル4として一般的な路線バスを代替するには課題が残る。
ARMAもベースとなるシステム設計が物足りない印象で、国内初の路線バスの定常運行への自動運転バス導入例となった茨城県境町では、5年経過した今もレベル4を実現できていない。現親会社のマクニカは後継モデルに相当するEVOを、BOLDLYはMiCaなど他社製品の導入を促進している。
近年はティアフォーの技術力が向上し、「Minibus」をソリューション化したことで採用例が増加している。ベース車両は中国BYD製だが、世界的に導入実績の高いモデルだ。中型以上のバスでは、先進モビリティの自動運転システムの採用例が多い。
神奈川県川崎市の取り組みにおいては、A-Driveやアイサンテクノロジーらの参画のもと、ティアフォーのMinibus2.0といすゞのERGAベースの大型自動運転バスが導入されている。
【参考】関連記事「自動運転バスの実用化状況・車種は?【導入コストのデータ付】」も参照。
路線バスへの中国製バス導入が進む
中国製バスに懸念を示す人も少なくないものと思われる。大阪・関西万博で大量導入されたEVモーターズ・ジャパンのバスが大きな問題となったためイメージがガタ落ちしているかもしれないが、その質はピンキリだ。
EVモーターズ・ジャパンは国産EVバスの開発・製造を目指すベンチャーで、「純国産」を期待されて万博を機に大阪メトロに大量採用されたが、ふたを開けてみると事実上中国製だった。計画通り国内製造が間に合わなかったためか理由は定かではないが、日本で採用実績が乏しい製造業者の輸出専用バスが導入された。
その結果トラブルが相次ぎ、EVモーターズ・ジャパンの対応も不誠実と受け取られた。国土交通省が全数点検を実施したところ、全国に納入してきた同社のバス317台中、実に113台で不具合が見つかったという。ブレーキホースの不具合など重大な欠陥もあり、同社は2025年11月にリコールを実施した。
この件は、中国内でも出回らないモデルを輸入したという、ある意味例外的なものだ。中国内における製品認証の有無も定かではないためだ。
一方、ティアフォーがベース車両として採用しているBYDは、中国内はもとより世界各国で高い導入実績を誇る。中国内販売が当然多いが、テスラと張るEVメーカーに成長した実力は伊達ではない。Minibusのベースは、中国モデルを日本仕様に変更したローカライズモデルだ。
いすゞなど日本メーカーと比較すればクオリティは落ちるかもしれないが、自動運転で主力の小型BEVバスに関して言えば国内主要メーカーにラインアップされていない。一時期、日野がBYDから技術提供を受けてOEM販売する計画が持ち上がったが、この話も流れたままだ。
それゆえ、安価で一定のクオリティとサポート体制を有するBYDが抜擢されるのだろう。BYDはもともとバッテリー企業であり、BEVコストの多くを占めるバッテリーに優位性を持っている点は非常に大きい。今後、ベース車両として中国製を選択する動きがさらに強まってもおかしくはなさそうだ。

WeRideの自動運転バスも上陸
そして、最注目したいのがWeRideの日本進出だ。BOLDLYが採用を開始し、前述した松山市のほか、鳥取県米子市で2025年12月に開始予定の自動運転バス実証でも導入される見込みとなっている。
WeRideは中国内外で自動運転タクシーを実用化している世界トップ水準の自動運転開発企業だ。ルノー・日産アライアンスが出資していることでも知られる。
自動運転タクシーは広州、北京、南京、蘇州、モンゴル自治区のオルドス、アラブ首長国連邦のアブダビ、スイスのチューリッヒで導入されている。
サウジアラビアやシンガポールでも公道実証やサービス実証が始まっており、米国・中国以外における自動運転タクシーの展開で世界をリードしている状況だ。
自動運転システム「WeRide One」は、20以上のセンサーと2,000TOPSを誇るAIコンピューティングを搭載し、最高時速120キロを実現するという。
一方、Robobusは最高時速40キロ(一部モデルは60キロ)に抑えられているものの、ステアリングホイールやブレーキペダル、アクセルペダルを搭載しないコックピットフリー設計で広い車内空間を実現している。
中国、シンガポール、UAE、サウジアラビア、カタール、フランス、スイス、スペインなど10カ国に拠点があり、テスト走行含め30都市で導入されているという。
WeRideは世界展開を加速させており、2025年11月時点で中国、フランス、UAE、サウジアラビア、シンガポール、米国、ベルギー、スイスの8カ国で自動運転許可を取得した製品を保有している。
2025年に入って海外展開を加速させており、2025年第3四半期(7~9月)決算では、自動運転タクシーの売上高500万ドル(約7億8,000万円)など収益は前年比144.3%増の2,400万ドル(約37億円)に上る。売上総利益は同1,123.9%増の790万ドル(約1億2,000万円)、純損失は同70.5%減の4,330万ドル(約68億円)の状況だ。
【参考】関連記事「中国WeRide、自動運転の最難関許可を「5カ国」で取得 フランスでも」も参照。
百度も海外進出に着手
中国勢では、同国自動運転開発のリーダー的存在の百度(Baidu)も、2025年に入ってからアブダビやドバイ、スイス、英国などへの進出計画を明らかにしている。米Waymo同様、中国勢も本格拡大期に突入したのかもしれない。
海外展開においては、各国の道路環境や交通ルール、法規制に適合させる必要があるため、基本的にはハードルが高い。しかし、世界トップクラスは応用力を磨く段階に達し、本格的な覇権争いを開始したのかもしれない。
Waymoが日本進出を計画しているように、日本は魅力的な市場の一つだ。今後、海外勢の進出がいっそう進み始める可能性も高く、各社の動向に注目が集まるところだ。
自動運転バスは早くも次のステージへ
2025年12月に開催された総務省所管の「自動運転時代の“次世代のITS通信”研究会」で国土交通省物流・自動車局が示した資料「自動運転の普及・拡大に向けた取組みについて」において、これまでの自動運転移動サービスは「海外製の小型カートや小型バスが中心」「低速で定時定路線型のみ」「走行環境等にあわせてローカライズが必要」とし、高精度3次元地図(HDマップ)作成のデータ収集など準備に長時間を要すとしている。
今後は次のステージとして、「国内自動車メーカー(トヨタ、日産、いすゞ)が参入」「多様な走行環境で、より高速で走行可能」「AI技術も活用することで短期間で走行可能」「2027年度以降に自動運転車の量産化が見込まれ、これにより導入コストの低廉化が図られる」ことが想定されるとしている。自動運転システムがルールベースからE2E(エンドツーエンド)になれば高精度3次元地図が不要となり、汎用性が飛躍的に向上する――と進化の方向性に言及している。
国内ではまだ自動運転による移動サービスが普及段階に達していないが、開発サイドとしては新たなフェーズを迎え、早くも世代交代が行われ始めているようだ。
レベル4として実用化が始まったばかりであるものの、ゴルフカーベースやARMAに代表されるような小型で時速20キロ程度に抑えて走行するモデルは、早々に型落ち・旧型扱いとなり、高性能モデルの導入とともに社会実装が加速していくのかもしれない。
【参考】関連記事としては「自動運転モデル「ルールベース」「E2Eモデル」とは?」も参照。
■【まとめ】本格的な社会実装期到来、国産モデルの登場にも期待
国内におけるレベル4の実装は9カ所に留まるが、継続実証中のエリアは数十カ所に上る。ティアフォーら国内開発勢の進化は著しく、かつ海外の高性能モデルの導入が進むことで、今後実装エリアは年ごとに倍増していく可能性も考えられる。本格的な社会実装期の到来だ。
トヨタのe-Paletteに代表される純国産モデルの登場にも期待したいところだ。e-Paletteはレベル2対応多目的BEVとして2025年9月に発売された。乗車定員はドライバー含め17人で、最高時速80キロを可能としており、地方の路線バス用途としても通用する。
ティアフォーやWaymoの自動運転システムを統合し、自動運転バス化する動きが今後出てくるかもしれず、こうした動向にも注目したい。
【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標・ロードマップ一覧|実用化の現状解説」も参照。











