「自動運転×日本国の動き」の最新動向は? 政策やプロジェクトまとめ

省庁から独立行政法人の動きまで



自動運転社会の実現に向け、開発競争に拍車をかける民間企業。他社よりも早く、他国よりも早く新技術を確立し、新産業分野におけるいっそうの飛躍を目指している。







そういった開発競争を支えているのが「国」だ。さまざまな法規制で企業活動を縛ることもあれば、積極的に開発を後押しし、新たな社会に向け円滑に移行するため多岐に渡る課題解決を推し進めたりもする。

自動運転に関しては、国策の一部としての位置付けが年々強くなり、内閣をはじめ各省庁、民間が連携して事業を推進しているように感じられる。

自動運転に対する現在の国の考え方や動きはどういったものなのか、調べてみた。

■自動運転に対する日本の取り組み概要

日本政府として、自動運転関連の施策に本格的に力を入れ始めたのは2014年だ。成長戦略の策定や統括などを行い、各省庁の司令塔の役割を担う内閣府は、2013年に日本経済の成長戦略として日本再興戦略を閣議決定し、以後2016年まで毎年改定している。2017年からはその意を引き継いだ未来投資戦略を策定しており、この中で自動運転関連の戦略は年々位置づけが大きくなり具体化が図られている。

2014年には自動運転を重要課題の一つに位置付けた「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」を策定したほか、「官民ITS構想・ロードマップ」、「科学技術イノベーション総合戦略」などを次々と策定しており、自動走行システムの普及に向け本格的なスタートを切る年となった。2018年には政府のIT総合戦略本部が「自動運転に係る制度整備大綱」を発表している。

それぞれの課題に対しては、例えば自動運転の導入や普及支援に資する実証実験の実施や車の安全基準の整備は国土交通省、運転免許制度や事故時の責任関係の整理などは警察庁といったように基本的に役割が分担されているが、ダイナミックマップなど協調領域の技術開発支援などといった横断的な分野では関係府省庁が連携して対応している。

自動運転分野はさまざまな技術や社会インフラ、法規制などが入り混じっているため、民間をはじめ各省庁が連携して対応に当たる場面が多いようだ。

■省庁や独立行政法人などの動き
内閣府①:未来投資戦略でイノベーション加速

日本経済の再生に向け、経済財政諮問会議との連携のもと、必要な経済対策の実施や成長戦略の実現のための司令塔として日本経済再生本部が設置されており、同本部のもと「未来への投資」の拡大に向けた成長戦略と構造改革の加速化について審議する「未来投資会議」により策定されている。

2018年度版の自動運転の項目については、社会実装に向けた取り組みが技術実証の段階からビジネス化を見据える段階に入りつつあり、引き続き技術と事業化の両面で世界最先端を目指すため、これまでの比較的簡単なシーンから始めてきた技術実証・サービス実証をより実際のビジネスモデルに近い形で推進し、技術や社会的受容性をさらに昇華させつつ社会実装を加速していくこととしている。

また、2020年の無人走行サービスなどを制度上可能とするべく政府全体の制度整備の方針を取りまとめた「自動運転に係る制度整備大綱」に基づき、国際的な議論においてリーダーシップを発揮しつつ必要な法制度整備を進めていく。また、自動運転のみならずさまざまなモビリティ手段の在り方やこれらを最適に統合するMaaS(Mobility as a Service)について検討を進めることとしている。

内閣府②:国の自動運転プロジェクトの総本山「SIP」

SIPは、「重要政策に関する会議」の一つとして内閣府に設置されている総合科学技術・イノベーション会議が、府省・分野の枠を超えて自ら予算配分し、基礎研究から実用化・事業化までを見据えた取り組みを推進する目的で2014年に策定された。

総合科学技術・イノベーション会議が、社会的に不可欠で日本の経済・産業競争力にとって重要な課題、プログラムディレクター(PD)、予算をトップダウンで決定する。SIP第1期に向けた初年度の2014年度は科学技術イノベーション創造推進費として325億円が予算計上されており、第2期がスタートした2018年度は280億円が計上されている。

5カ年予定の第1期では、社会的課題の解決や産業競争力の強化、経済再生などに資するエネルギー分野、次世代インフラ分野、地域資源分野から11課題が選定され、その中の一つに「自動走行システム」が盛り込まれている。

自動走行システムでは、トヨタ自動車先進技術開発カンパニー常務理事の葛巻清吾氏がPDを務め、技術的目標として2020年までに自動運転レベル3 (条件付運転自動化)に向けたステップとなるハイエンドなシステム(自動運転レベル2)の実現や、2020年を目途に自動運転レベル3、2025年を目途に自動運転レベル4の市場化がそれぞれ可能となるよう、協調領域に係る研究開発を進めることとしている。

また、社会的目標として交通事故低減や交通渋滞の緩和などを掲げ、①自動走行システムの開発・実証②交通事故死者低減・渋滞低減のための基盤技術の整備③国際連携の構築④次世代都市交通への展開⑤大規模実証実験―について研究を進めることとしている。

このほか、出口戦略として東京オリンピック・パラリンピックを一里塚に日本の自動走行に係るイノベーションを発信することも掲げている。

1年前倒しでスタートした第2期では、「システムとサービスの拡張」を主題とし、自動運転の実用化を高速道路から一般道へ拡張するとともに、自動運転技術を活用した物流・移動サービスを実用化することで、交通事故低減、交通渋滞の削減、過疎地などでの移動手段の確保や物流業界におけるドライバー不足などの社会的課題解決への貢献を目指す。

また、実用化に必要なステークホルダー参加型の研究開発により、出口でのスムーズな事業化を目指すこととし、具体的には①2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の活用②事業者・地方自治体関係者の事業企画に基づいた実証実験―などにより、民間からの投資や事業化計画を促進していくこととしている。

内閣府③:進むべき方向性を示す官民ITS構想・ロードマップ

「世界一のITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)を構築・維持し、日本・世界に貢献する」ことを目標に、「安全運転支援システム・自動走行システム」と「交通データ利活用」の2つの項目を対象として、民間及び関係省庁が一体となって取り組むべき方向とその具体的なロードマップを策定したもの。2014年度に初めて策定された後、毎年改定版を発表している。前述のSIPは基本的にこのロードマップに沿う形で実現時期や達成年度を定めて実証実験などを進めている。

2018年6月に発表された最新のロードマップでは、自家用車は2020年までに自動運転レベル2、2020年を目途に自動運転レベル3の市場化が可能となるような環境整備、2025年を目途に高速道路における自動運転レベル自動運転レベル4の実現が掲げられている。

また、物流サービスにおいては、2021年までに自動運転レベル2以上での高速道路におけるトラックの後続車有人隊列走行、2022年以降に同無人隊列走行、2025年以降に自動運転レベル4の同完全自動運転を目指す。

移動サービスにおいては、2020年までに自動運転レベル4による限定地域での無人自動運転移動サービス、2022年以降に自動運転レベル2以上による高速道路でのバスの自動運転を目指すこととしている。

実現に向け、制度面では自動運転と道路交通に関する条約との整合性などに関する国際的議論の推移やその整合性を図るための措置、自動運転に関する技術開発の進展などを踏まえることを前提に、2020年を目途に高度自動運転システム(自動運転レベル3)に係る走行環境の整備を図ることとしている。

内閣府④:新産業創出を促進する科学技術イノベーション総合戦略

科学技術イノベーション政策の全体像を含む長期ビジョンや短期行動プログラムを定めた戦略で、2014~2017年に毎年発表されている。自動運転分野では高度道路交通システムの進化を目標に掲げており、国として、協調領域に位置付けられる要素技術や実用化技術の開発、事業化・標準化の推進、新産業創出に向けた取り組みを重点的に推進する。

具体的には、SIPを中心に①自動走行システムに必要なダイナミックマップの開発、管理・配信技術の確立②自動運転レベル2及び3のシステムに必要なHMIやドライバーモニターの開発のほか、レベル4及び5のシステムにおけるHMIの在り方の検討、ガイドラインを作成③通信で外部とつながる車両システムなどのセキュリティの確保、評価環境の構築④歩行者事故低減、交通制約者支援などに向けた高度な歩車間・歩路間システムの開発⑤大会に向けた次世代都市交通システム(ART)の開発―に重点的に取り組むとともに、革新的な認識技術やデータベース構築技術、電子制御系の故障時などの安全確保システムなど、実用化に必要な研究開発に取り組むこととしている。

国土交通省:実証実験をはじめ多方面で活動

国土交通省は2016年に「自動運転戦略本部」を設置し、車両の技術基準や事故時の賠償ルール、高齢者事故対策、トラック隊列走行、ラストワンマイル自動運転、中山間地域における道の駅を拠点とした自動運転サービスなどについて、ワーキンググループで検討を重ねている。

自動運転の実現に向けた主な取り組みとしては、環境整備面では、車両に関する安全基準の策定・制度整備に向け、①G7交通大臣会合などの場を活用して国際的な協力を主導する②自動ブレーキの基準やサイバーセキュリティ対策の具体的な要件など、国連において議論を主導し、自動運転に係る車両安全基準の策定に向けた検討を進める③自動運転レベル3以上の自動運転車両が満たすべき安全性についての要件や安全確保のための各種方策について整理し、2018年夏を目途にガイドラインとしてとりまとめ、公表する④自動運転技術に対応する自動車整備・検査の高度化に向け、自動運転技術に対応する新たな検査手法を検討し、2018年夏を目途に中間取りまとめをおこなう―こととしている。

また、自動運転の実現に向けた実証実験・社会実装において、移動サービスの向上に向け、①1人の遠隔監視・操作者が複数車両を担当するラストワンマイル自動運転による移動サービスの自動運転技術の検証や社会受容性の実証評価②中山間地域における道の駅などを拠点とした自動運転サービスについて、13カ所での実験結果を踏まえ、2018年度はビジネスモデル構築に向けた長期間の実験を中心に実施する③都市交通における自動運転技術の活用方策に関し、ニュータウンにおける持続可能な公共交通サービスの実現に向けた自動運転サービスの導入による効果・課題整理を踏まえた実証実験や、ガイドウェイバスや拠点内回遊型バスなど基幹的なバスにおける実証実験準備、情報共有の場の開催④空港における自動運転実証実験―を設定している。

このほか、トラックの隊列走行について2018年度に後続無人隊列システムの実証実験 (後続有人状態)を行うこととしている。

経済産業省:協調領域の特定や国際的なルールづくりに着手

国土交通省とともに、2015年に「自動走行ビジネス検討会」を設置し、一般車両の自動走行(自動運転レベル2~4)などの将来像の明確化や協調領域の特定、国際的なルールづくりに戦略的に対応する体制の整備、産学連携の促進に向けた議論などを行い、「自動走行の実現に向けた取組方針」を2017年に提示している。

競争・協調領域に関しては、地図や通信インフラなど10分野に重点を置き、高精度3次元(3D)地図やダイナミックマップといった地図分野では、迅速な整備を目指すとともに一般道路特定地域の実証を通して方針を決定し、2019年度中に特定地域での仕様検証・評価を終え、2021年までに整備地域の拡大方針を決定することとしている。

通信インフラでは、高度な自動走行の早期実現には自律車両の技術だけでなく通信インフラ技術と連携して安全性向上を目指すことが必要とし、関連団体と連携しながら2018年度に仕様・設計要件を設定し、遅くとも2019年中に特定地域において必要となるインフラ整備を行う方針。

サイバーセキュリティでは、安全確保に向けた開発効率を向上させるため、開発・評価方法の共通化を目指し、最低限満たすべき水準を設定して国際標準提案、業界ガイドラインの策定を2017年度に実施しており、2019年度までに評価環境の実用化を図るとともに、情報共有体制の強化やサイバーセキュリティフレームワークの検討を進めることとしている。

認識技術や判断技術においては、海外動向を鑑み、最低限満たすべき性能基準とその試験方法を順次確立するほか、開発効率を向上させるため、データベース整備、試験設備や評価環境の戦略的協調を目指し、センシング、ドライブレコーダー、運転行動や交通事故データの活用を推進していくこととしている。

また、ソフトウェアを開発する人材に関しては、開発の核となるサイバーセキュリティを含むソフトウェア人材の不足解消に向け、発掘・確保・育成の推進を目指し、ソフトウェアのスキル分類・整理や発掘・確保・育成に係る調査を2017年度に実施。2018年度はスキル標準策定などを進め、人材の必要性や職の魅力を業界協調で発信する取り組みを検討する。

警察庁:新たな交通制度策定へ

警察庁は自動走行の制度的課題などに関する調査研究をはじめ、自動運転の段階的実現に向けた調査研究、技術開発の方向性に即した自動運転の段階的実現に向けた調査研究などを順次進めており、2016年に「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」を公表したほか、2017年には「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」を策定・公表している。

自動運転の段階的実現に関しては、運転者にどのようなセカンダリアクティビティ(運転以外の行為)が許容されるかといった論点をはじめ、自動運転システムが規範を遵守するものであることをどのように担保するか、自動運転システムが規範を逸脱した際のペナルティの在り方、自動運転システムの走行中データの保存とその利用をどのように考えるか、他の交通主体との関係などについて検討し、その結果は高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議において決定された「自動運転に係る制度整備大綱」に反映されている。

2018年度は、技術開発の方向性に即した自動運転の実現に向けた調査検討委員会を開催し、高度な自動運転の実用化を念頭に入れた道路交通法の在り方に関する個別具体的な調査・検討を行う「道路交通法の在り方に関する検討ワーキンググループ」、限定地域での無人自動運転移動サービスやトラックの隊列走行の実現に向けた交通関係法規上の課題に関する個別具体的な調査・検討を行う「新技術・新サービスに関する検討ワーキンググループ」を設置し、協議を進めている。

【参考】警察庁の取り組みについては「警察庁、自動運転に関するルール作り着手 道交法の改正視野に」も参照。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):SIPで管理法人、運営支援も

NEDOは、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の管理法人を務めており、第1期SIPでは「自動走行システム/大規模実証実験研究開発」など5項目、第2期SIPでは 「自動運転(システムとサービスの拡張)」など4項目について、進捗管理など各プログラムの運営を支援している。

宇宙航空研究開発機構(JAXA):ソフト品質確保の考え方などで協力

JAXAは2018年3月、一般社団法人日本自動車工業会(JAMA)と「AI(人工知能)時代のソフト品質保証の考え方」に関する連携を開始すると発表している。宇宙開発で培った知見を生かし、AIによる自律化システムの安全のためのソフトウェア品質確保の考え方(手法・守るべき要件)をまとめる活動に協力することとしている。

またJAXAは、経済産業省と国土交通省が合同で設置した「空の移動革命に向けた官民協議会」のメンバーにも名を連ねている。

【参考】空の移動革命に向けた官民協議会については「目指すは”空飛ぶクルマ”実現 官民評議会の全構成員35人は? 自動運転に並ぶイノベーション」も参照。

産業技術総合研究所(AIST):自動運転の社会実装に向けて実証実験

AISTは、経済産業省および国土交通省の「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業:専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」事業を幹事機関として受託し、民間各社とともに端末交通システムの研究開発と実証を進めている。

自動車技術総合機構(NALTEC):運転車や歩行者の目線に立った安全など研究

自動車安全研究部で、自動運転システムなどの高度化・複雑化する新技術に対応した将来安全基準・技術評価手法の開発、運転者や歩行者の視点に立った自動車の安全についての研究などを通じ、自動車交通の安全リスク低減による安全・安心社会の実現に貢献している。

具体的には、将来の自動運転技術の導入を見据え、機能拡大の著しい電子制御装置に係る安全性・信頼性が確保されているか否かについて的確な評価を行うことができるようにするため、不具合検出方法や電磁両立性に 関する評価方法等に関する研究を行うとともに、運転支援技術普及に伴う車両の著しい電子制御化に対応するため、車両に関わる電子情報安全性管理について検討を行い、あらたな試験方法などを検討・提案している。

■当面の目標年度2020年までに大きく前進できるかがカギに

さまざまな戦略が入り混じって混乱しそうだが、進行計画として「官民ITS構想・ロードマップ」があり、計画実現に向けた具体的な取り組みとして「SIP」を通じてさまざまな実証実験が進められている、といったところが現在の進捗状況だ。

東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年が当面の目標年度となっており、それまでに技術面やインフラ面、国際・国内それぞれの法規制などが格段に進展する可能性もある。

特に法律をはじめとするルール作りは民間ではなし得ることができないもの。国際間競争で日本を押し上げるためにも、政府にはもうひと踏ん張り頑張ってもらいたい。







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