GMと子会社クルーズの自動運転戦略を解説&まとめ 実現はいつ?

80年前の構想結実への青写真とは?

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GMのメアリー・バーラCEO(最高経営責任者)=GM社プレスリリース

かつては世界一の自動車メーカーとして栄華を極めた米GM(ゼネラル・モーターズ)。サブプライムローンに端を発する金融危機の影響で経営破綻も経験したが、依然として世界販売台数3〜4位をキープするリーディングカンパニーの一角として市場に影響力を及ぼしている。

特に経営再建後は自動運転分野の開発を加速しており、2016年には自動運転技術を開発するベンチャーの米Cruise Automation(クルーズ・オートメーション)を買収。総額は公表されていないが、複数のメディアが10億ドル(約1100億円)以上と報じており、その本気度がうかがえる。

先ごろにはホンダとの協業も発表され、新たな自動車業界の枠組みが誕生した。酸いも甘いも知り尽くす米国の巨頭は、いったいどのような戦略で次世代に立ち向かうのか。GMと自動運転開発を手掛けるクルーズの2社の動きを探り、その答えに迫りたいと思う。

■GMの企業概要
GMの社史

当時の自動車メーカー・ビュイック(1903年創業)の経営を任されていたウィリアム・C・デュラントが、1908年にミシガン州フリントで持ち株会社として創業したのが始まり。オールズモビル、キャディラック、エルモア、オークランド(後のポンティアック)など次々と買収し、創世期を形作っていった。

1950年代には米国最大の企業にまで成長し、オイルショックや景気の波に揺さぶられながらも世界一の自動車メーカーとして長く栄華を誇った。2000年代に入ると消費者の嗜好がサブコンパクトカーやハイブリッドカーに移ったことなどを背景に徐々に在庫を抱えるようになり、サブプライムローン問題が浮上した際には、世界金融危機の影響で北米での売上が大きく落ち込み、2007年度決算で3兆円もの赤字を生むこととなった。2008年上半期には、約77年間守り続けた販売台数世界一の座をトヨタに明け渡した。

2009年に連邦倒産法の適用を申請。負債総額は製造業としては世界最大となる1728億ドル(約16兆4100億円)にのぼった。米政府介入のもと救済が行われ、一時国有化されたものの2013年に解消。翌2014年には、大手自動車メーカーでは初となる女性CEO(最高経営責任者)としてメアリー・バーラ氏が就任した。2018年にはCFO(最高財務責任者)にディビア・スリヤデバラ氏が就任し、女性2人が企業トップの役職に就いている。

GMのプレスリリースによると、2017年の世界新車販売台数は約890万台で、米国内が300万台超、中国では初めて400万台を突破したという。

【参考】GMの女性CEO・CFOについては「GMの美人過ぎる新CFO、自動運転で功績「仰天の昇進劇」」も参照。

GMの自動運転史

GMの自動運転との関わりは歴史が長い。産業技術総合研究所の津川定之氏の論文「自動運転システムの60年」によると、自動運転の最初の提案者はGMと言われており、1939〜40年にニューヨークで開催された世界博覧会で、20年後の生活を描いた「Futurama(FutureとPanoramaの合成語)」=日本での読み方は「フューチュラマ」=というジオラマを展示し、その中で自動運転の未来を構想していたようだ。

その後、1950年代には米ラジオ会社(RCA)と提携し、無線通信で速度とハンドルを制御することによる高速道路自動運転システムを開発した。その過程で生まれたコンセプトカー「Firebird II」は、道路に埋め込まれた鉄鋼ケーブルと車両に搭載した磁石を使った誘導ケーブル式の自動運転技術を利用していた。GMの自動運転の歴史は、このFirebirdというコンセプトカーから始まったと言われている。

1996年には、サブスクリプションベースのコネクテッドカープラットフォームである「OnStar」のサービスを開始。携帯通信網を利用した常時接続通信とGPS機能を搭載したシステムで、衝突時など車両の異常検出や救出サービスは当時としては革新的なサービスだった。

2007年には、カーネギー・メロン大学と共同で開発した自動運転車「Boss」が、米国防高等研究計画局(DARPA)主催のロボットカーレース「DARPA アーバンチャレンジ」で優勝を果たした。

この研究開発の経験を利用し、自動ブレーキや全車速域対応の定速走行・車間距離制御装置、車線逸脱警告装置などのADAS(先進運転支援システム)機能を開発し、2013年型「Cadillac XTS」に初めて搭載した。

また、GMはイスラエルのテクノロジーカンパニー・Mobileye(モービルアイ)とも深いつながりがあるようだ。クラウドで収集したリアルタイムのOnStarのデータを使い、モービルアイの先端マッピング技術を改良して自動運転に使う地図を継続的に更新することで、地図の誤差を約10センチ程度にまで縮められるという。両社の協力関係は2007年ごろから続いており、現在もGMのカメラにはモービルアイのソフトウェアが搭載されている。

【参考】GMの近代自動運転構想については「米GM、80年前に自動運転構想 消えたケーブル敷設案」も参照。

クルーズの企業概要

クルーズは、エンジニアで起業家のKyle Vogt(カイル・ヴォグト)氏らがカリフォルニア州サンフランシスコで2013年に設立した。カイル氏はマサチューセッツ工科大学在学時にDARPA主催のロボットカーレース「DARPA グランドチャレンジ」に参加し、フォード車をドライブバイワイヤー能力とセンサーで改造したチームを共同で率いるなど、すでに頭角を現していた。

クルーズ創業当初は、自動ブレーキや車線維持などのオートパイロット機能を自動車に後付けするキットを開発していたが、無人運転の未来のビジョンを拡大するためGMと手を結び、完全自動運転車の開発に本腰を入れ始めた。

2018年5月には、ソフトバンクグループの投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」がクルーズに総額22億5000万ドル(約2400億円)の出資を行うことが発表され、自動運転技術を大規模に商業化する計画が現実味を帯びてきている。

2018年10月には、GMとクルーズの自動運転開発にホンダが加わることが発表された。クルーズ向けの無人ライドシェアサービス専用車の共同開発を行い、無人ライドシェアサービス事業のグローバル展開の可能性も視野に入れる。クルーズへ7億5000万ドル(約850億円)出資するほか、今後12年に渡る事業資金約20億ドル(約2240億円)を支出する予定という。

【参考】ソフトバンクからの投資については「自動運転部門でソフトバンク巨額利益か 出資先GMクルーズ上場も」も参照。

■両社の自動運転戦略
GMはADASの開発・導入を促進

GMが現在商用化を進めているのは、レーダーや超音波センサー、カメラ、GPS地図データを活用し、自動ブレーキ、全車速域対応の定速走行・車間距離制御装置、車線維持システムといった複数の運転支援技術を統合した全方位衝突防止を備える「Super Cruise(スーパークルーズ)」。現行の法整備状況から自動運転レベル2(部分運転自動化)扱いとなっているが、実質的な機能は自動運転レベル3(条件付き運転自動化)に相当すると言われている。

スーパークルーズは新型「Cadillac CT 6」に搭載されたほか、2019年には中国の合弁会社「SAIC General Motors Corporation (上汽通用汽車)」を通じて現地でも導入される計画という。

また、2017年にはV2V(車車間通信)コミュニケーション技術を「Cadillac CTSセダン」に標準装備しており、互換性のあるV2Vシステムを搭載する別の車両との通信を可能にした。

ADASをはじめとした自動運転開発や実用化にあたっては、2017年にLiDAR(ライダー)を開発する米スタートアップのStrobe(ストロベ)社を買収している。また、2016年には米ライドシェア大手のLyft(リフト)と戦略的提携を結び、最大5億ドル(約550億円)の出資を行うことを発表。自動運転機能付きEV(電気自動車)を利用したライドシェア・サービスの実験を開始することとした。

クルーズが開発を進める自動運転EVの実用化の場としてライドシェアやタクシー市場に主眼を置いており、2019年にも無人の自動運転タクシー事業を開始することとしている。

クルーズは完全自動運転車の開発・量産へ

クルーズはGM買収前の2015年からカリフォルニア州の公道で自動運転車の走行試験を行っており、買収後にはミシガン州の公道でも走行試験を開始している。自前のソフトウェアをGMのEV「Chevrolet Bolt」と統合させたり、ドライバー不要のロボタクシーサービスを導入することを目的としてLyftの配車システムと統合させるなど、GMの自動運転車戦略の全面的な実現に取り組んでいる。

2017年には、クルーズがサンフランシスコに新設する研究施設の建設費としてGMが1400万ドル(約15億4000万円)を投資することを発表。クルーズは5年間でエンジニアら1100人以上を新規雇用することとし、開発を加速化している。

Chevrolet Boltを用いたドライバー不要の完全自動運転車の量産モデル(第3世代)を発表したほか、ステアリングホイールやアクセル・ブレーキなどのペダルといった手動操作用のスイッチ類を備えない自動運転レベル4(高度運転自動化)相当の無人自動運転車「クルーズAV」を発表。センサーとしてLiDAR5個、ミリ波レーダー21個、カメラ16個を搭載しており、量産を経て2019年には米国の複数都市で自動運転タクシーの事業化を始める方針だ。

事業参入に備え、サンフランシスコの湾岸沿いの駐車施設に18基の急速充電器を設置したほか、独自の配車アプリ・車両管理システム「クルーズ・エニウエア」の試験を行っていると、事情に詳しい複数の関係者が明らかにしている。

また、自動運転試験車両の許認可を出すカリフォルニア州車両管理局(DMV)への登録台数において、2018年9月時点でクルーズの自動運転車両が175台で最多となっている。2位のグーグル系ウェイモが88台ということからも、GM・クルーズの本気度が伝わってくる。

前述したSVFからの出資やホンダとの協業なども考えると、自動運転タクシー事業はGMグループにとって千番に一番の大勝負とも言うべき大一番なのかもしれない。

【参考】クルーズの自動運転タクシーについては「GM系クルーズ、EV自動運転タクシー事業へ充電拠点準備 ライドシェア企業に熱視線」も参照。

■GMとクルーズの自動運転に関するトピックス
Sidecar買収、Lyft提携でライドシェア・カーシェア事業へ本格参入

2016年初頭に米ライドシェア事業者のSidecar(サイドカー)を買収し、カーシェアリングサービス「Maven」を開始。ドイツでもOpelが展開するカーシェアリング「CarUnity」を活用したサービスを展開しているほか、中国でもカーシェアリング企業の株式を取得し,戦略的提携関係を結んでいることが報じられている。可能なものはMavenに統合し、世界的にサービスを拡大していく目論見もありそうだ。

また、Lyftとの提携やタクシー事業への自動運転車投入計画など含め、自動運転技術を活用したMaaS(Mobility as a Service)分野への本格進出の第一歩とも解釈できそうだ。

スーパークルーズ搭載車種拡大へ V2Xも導入

GMは2018年6月、ハンズフリー高速道路運転支援システム「スーパークルーズ」の拡大展開を図っていくことを発表した。2020年初めからキャデラックの全てのモデルに搭載するほか、GM社の他ブランドへ展開していく。

また、2023年までに次世代通信ソリューション「V2X」(vehicle-to-everything)をキャデラックの量産型クロスオーバーに採用し、将来的にはこのテクノロジーをラインアップ全体へ拡大していくこととしている。

GMとホンダ協業へ

ホンダは2018年10月、GM及びクルーズと、自動運転技術を活用したモビリティの変革という共通のゴールに向け協業を行うことで合意したと発表した。

さまざまな使用形態に対応するクルーズ向けの無人ライドシェアサービス専用車の共同開発を行い、無人ライドシェアサービス事業のグローバル展開の可能性も視野に入れる。

本領域の協業に向け、ホンダはクルーズへ合計27.5億ドル(約3000億円)を支出する予定。ソフトバンクによるクルーズへの投資などを含めると、取引実行後のクルーズの企業価値評価額は146億ドル(約1兆8000億円)に上るとみられている。

発表に際し、GMのメアリー・バーラCEOは「ホンダとの協業で世界トップレベルの車両デザイン、開発、生産技術をクルーズに供給することができ、無人ライドシェア事業のリーダーとしてグローバルな事業展開を実現していく」とコメントを発表している。

なお、GMとホンダは2018年6月にも、両社の電気自動車投入を加速するためバッテリーセルやモジュールを含めた次期バッテリーコンポーネントに関する協業に合意している。次期バッテリーコンポーネントは、主に両社が将来北米市場向けに投入する商品に搭載される予定となっている。

■レベル4の幕開けはGMとWaymoの競争か

自動運転開発に長い歴史を有し、以前からADAS技術の開発に力を入れていたGMは、クルーズ買収により完全自動運転の開発を強化し、着実に実装できる自動運転レベルを上げている。

無人の自動運転車の量産体制も整いつつあるようで、まずはタクシー事業への投入を進める構えだが、米Google系Waymoも一足早く2018年内にアリゾナ州で無人の自動運転車による有料配車サービスを開始することを発表しており、2019年にはカリフォルニア州にも拡大する予定と報じられている。

米政府や各州の許認可の問題もあるが、自動運転レベル4は、GMとWaymoの競争によって幕を開けるのかもしれない。

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