物流業界における自動運転技術は着実に進歩している。特に、ドライバーを必要としない無人トラックの登場は、労働力不足に悩まされる業界にとっては待望の存在となるだろう。
トラックの無人化は一般乗用車より遅れて実現する見込みだが、並行して研究開発が進められている隊列走行技術にも要注目だ。
今回は、無人トラックや隊列走行の取り組み状況などを中心に、各社の開発進度を調べてみよう。
記事の目次
■無人トラックとは?
自動運転レベル4(高度運転自動化)以上の技術を搭載し、ドライバーなしで走行することが可能な完全自動運転トラックを指す。一般乗用車に比べ重量やサイズが大きいトラックはより高度な自動運転技術が必要なため、実現は乗用車の無人化が確立された後になる見込みだ。
また、トラック独特の無人化技術の開発も進められている。隊列走行による無人化だ。協調型車間距離維持支援システム(CACC)などを活用した無人化技術で、条件は限られるが、トラック単体を自動運転技術によって無人化するのに比べ実用化のハードルは低いものとされている。詳しくは後述する。
■無人トラックの開発企業
UDトラックス:2030年までに完全自動運転トラック量産化目指す
スウェーデンの自動車メーカー・ボルボグループの子会社であるUDトラックスは、2018年4月に発表した次世代技術ロードマップ「Fujin & Raijin(風神雷神)—ビジョン2030」の中で、自動化の取り組みを柱の一つに位置づけ、2020年までには特定用途での実用化を行い、2030年までに完全自動運転トラックと大型フル電動トラックの量産化を目指すこととしている。
2018年12月には、自動運転レベル4の技術を搭載した大型トラックの走行デモンストレーションも実施している。
【参考】UDトラックスの取り組みについては「UDトラックス、自動運転レベル4の走行デモを披露 LiDARなどのコアセンサー搭載」も参照。
三菱ふそうや日野は着実にレベル2車両を開発
自動運転レベル2搭載車両を2019年末にも実用化する三菱ふそうトラック・バスは、レベル3を飛び越しレベル4技術の確立を目指す方針で、親会社の独ダイムラーと協調しながら2025年にも高速道路などに限定した完全自動運転トラックを実用化する構えだ。
レベル2技術を搭載した大型EV(電気自動車)トラック「スーパーグレート」は、2018年9月にドイツで開催された国際モーターショーで発表している。
【参考】三菱ふそうトラック・バスの取り組みについては「三菱ふそうトラック・バス、自動運転レベル2の機能を大型EVトラック「スーパーグレート」に搭載」も参照。
一方、トヨタグループのバス・トラック部門を担う日野は、2018年4月に独フォルクスワーゲン(VW)グループのバス・トラック部門と戦略的協力関係の構築に向けた合意を交わし、自動運転システムなどを含む技術領域で両者の強みを生かせる協力体制の構築を目指すとしている。
海外勢の取り組み:レベル4コンセプトモデル続々発表
米国勢では、自動車大手のフォードの商用車部門が自動運転技術を搭載した電動大型トラックのコンセプト「ビジョン」を2018年9月に発表した。自動運転レベル4の技術を搭載するほか、電動化、コネクテッド化、軽量化などに関して同社の将来像を表したものという。
米国ではスタートアップの開発も盛んで、2016年創業のEmbark Trucks(エンバーク・トラックス)は2018年2月に、西海岸のロサンゼルスから東海岸のジャクソンビルまでの約3900キロを自動運転トラックで移動するアメリカ横断に成功している。また、米ライドシェア大手ウーバーの元技術者らが立ち上げたスタートアップIke(アイク)も2018年10月に自動運転トラックの開発プロジェクトを立ち上げている。
このほか、米EV大手のテスラも自動運転技術「エンハンスト・オートパイロット」を搭載したEVセミトレーラートラックを2019年に生産開始すると発表している。
中国勢も無人トラック開発を加速しており、アポロ計画を推し進める百度(バイドゥ)は、蘇寧物流とレベル4の無人トラック「行竜1号」の試験走行を2018年5月に実施している。
また、京東商城は、2017年に上汽大通や東風汽車と共同開発した無人小型トラックを発表している。スタートアップ勢では、TuSimpleやPony.aiなども開発を進めている。
欧州勢では、独ダイムラーが米ラスベガスで開催されたCES2019のプレビューイベントで、自動運転トラックの実現に向け今後数年間で計5億ユーロ(約620億円)を投資すると発表しており、レベル4以上の技術確立に向け開発を加速していく方針を打ち出している。
スウェーデンのボルボトラックは、自動運転、電化、コネクティビティを組み合わせた運転席のない無人EVトラックのコンセプトカー「Vera(ベラ)」を2018年9月に発表した。また、同国の運送会社Einrideも無人運転が可能なEV トラック「T-Pod」を発表している。
■隊列走行とは?
複数台のトラックを車車間通信(V2V)などによって常時通信させ、前方車両の挙動をリアルタイムで後続車両に伝えて自動で一体的に制御し、隊列を形成して道路を走行すること。前走車の加減速情報などをV2Vで受信し、その情報に基づいてADAS(先進運転支援システム)技術によって即座に車両を制御する仕組みだ。後続車両にドライバーが乗車している有人隊列走行と、後続車両に誰も乗車していない無人隊列走行がある。
一体制御により通常時に比べ車間距離を短く保つことができ、空気抵抗の低減などによる省エネ効果をはじめ、後続車両の無人化による省人化、追突事故の抑制や渋滞軽減効果など安全性や運行効率の向上なども図ることができる。トラックのみならず、バスの隊列走行の研究も一部で行われているようだ。
隊列走行の実現に向け、協調型車間距離維持支援システム(CACC)などの技術開発が世界各国で進められており、米国では実用化も始まっているようだ。日本では、未来投資戦略2017で高速道路でのトラック隊列走行を早ければ2022年にも商業化する目標が策定され、実証実験が加速している。
日本では、2021年までにより現実的な後続車有人システムの商業化を目指すほか、無人隊列走行は2022年以降の実現を目指すこととしている。
欧州では、2017年2月に「ENSEMBLE consortium」プロジェクトが開始され、2021年には公道においてさまざまなトラックメーカーの車両が協調する隊列走行システムの公道実証実験実現を目指している。
■隊列走行技術の実験企業
豊田通商:実証実験のとりまとめ役
経済産業省の「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業:トラックの隊列走行の社会実装に向けた実証」を2016年度から2018年度まで受託し、トラック隊列走行に関する研究開発などを進めている。
2019年1月には、新東名高速道路で国内初となる後続車無人システムのトラック隊列走行の公道実証を開始。CACCシステムのほか、GPSトラッキング制御技術やLiDAR(ライダー)トラッキング制御技術によって先頭車または先行車への追従走行や車線維持、車線変更を行う先行車トラッキングシステム、後続車の後側方のカメラ画像やミリ波レーダーによる検知情報を先頭車に表示し、先頭車が車線変更する際のドライバーの視界を支援する先頭車運転支援システムを活用し、万が一に備えて各車両にドライバーが乗車した状態で、最大3台のトラックが時速70キロメートルで車間距離約10メートルという精密車間距離制御のもと車群を組んで走行した。
先進モビリティ:隊列走行技術を総合的に開発 制御装置の2重化など安全対策も
2014年に設立されたベンチャー企業の先進モビリティも無人隊列走行システムの開発を進めている。ミリ波レーダーやLiDARによって車間距離を測り、速度を自動調整するCACC車間距離制御(近接車間距離)やACC車間距離制御(割り込み車)、車線変更支援HMIなどの運転操作支援、区画白線をトレースする車線維持制御や先頭車トラッキング制御といったハンドルの自動制御技術の開発などを行っている。
また、隊列内への一般車割り込み防止のための近接車間距離制御や、先頭車急ブレーキ時の隊列内追突防止制御、さまざまな自然環境下での隊列走行制御、制御システム故障時における安全性の確保を主な課題として挙げ、主要制御装置の2重化・3重化やECUのフェールセーフ化などに取り組んでいる。
【参考】先進モビリティの取り組みについては「トヨタ退職後に起業…先進モビリティと豊田通商の自動運転追従トラックとは?」も参照。
ソフトバンク:5G技術で低遅延通信に成功
ソフトバンクは、第5世代移動通信システム「5G」を利用した隊列走行の実証実験に取り組んでおり、総務省の「高速移動時において1ms(1000分の1秒)の低遅延通信を可能とする第5世代移動通信システムの技術的条件等に関する調査検討の請負」において、トラックの隊列走行や車両の遠隔監視、遠隔操作の実証実験を推進している。
2017年12月からは、SBドライブや先進モビリティ、華為技術日本などとの連携のもと茨城県つくば市で実証実験を開始しており、2019年1月に実施した屋外フィールド通信試験で、無線区間の遅延時間が1ms以下となる低遅延通信に世界で初めて成功している。
【参考】ソフトバンクの取り組みについては「ソフトバンク、超低遅延通信に成功 自動運転導入したトラック隊列走行の実現に寄与」も参照。
実証実験にはトラックメーカー各社が協力
現在国が進める隊列走行の実証実験には、いすゞ自動車や日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスといったトラックメーカー各社が名を連ね、協力して技術の実証にあたっている。
また、トラック隊列走行の商業化実現に係る官民検討会には、メーカー各社のほか佐川急便株式会社や西濃運輸株式会社、日本通運株式会社、福山通運株式会社、ヤマト運輸株式会社、公益社団法人全日本トラック協会なども参加し、商業化に向けた議論を進めているようだ。
海外の取り組み状況
欧州勢では、独フォルクスワーゲングループのトラック・バス部門MANが2018年6月、隊列走行によって実際に積荷を届ける実証実験に着手している。また、独ダイムラーも2018年9月、米国の公道で隊列走行試験を行うことを発表している。
米国では、自動運転ソフトウェアの開発などを手掛けるスタートアップ「Peloton Technology(ペロトンテクノロジー)」が技術開発を進めているほか、米アップルが2019年6月、隊列走行で電力共有できる技術「PELOTON」が国特許商標庁に登録されている。
くしくも同じ「Peloton」名だが、これは自転車競技などで走者の一団を指す言葉のため、そこからトラックの一団である隊列走行に結び付けているのかもしれない。
【参考】アップルの取り組みについては「米アップル、自動運転での隊列走行で電力共有できる技術で特許取得」も参照。
■【まとめ】隊列走行実証は日本もトップクラス 無人トラックが物流改革の要に
無人トラックの開発は米中欧の争いが過熱しているが、スタートアップが続々と参入し、公道実証を行いやすい環境にある米中がややリードしている印象だ。
一方、隊列走行においては、国レベルの実証試験は日本も負けておらず、着実に研究開発が進められている。隊列間への割り込みや渋滞時の合流など、課題は山積している状態だが、隊列走行技術は自動運転技術の応用パターンであり、AI(人工知能)や通信技術などの進展により共に完成度が高まっていくこととなる。
ロボット技術の導入などにより無人化が始まっている物流分野。近い将来、配送需要の伸びを支える必要不可欠な技術として無人トラックが重宝されることは間違いないだろう。
【参考】関連記事としては「自動運転社会の到来で激変する9つの業界」も参照。