自動運転社会の到来で激変する9つの業界

メディア、金融、警察、小売、飲食、自動車修理…





「車社会」と言われるように、生活に非常に密着した存在である自動車。大げさな言い方をすれば、人間のパートナーともいうべき存在だ。この自動車が、将来自動運転車に変わる際、どのような影響や変化が起こるだろうか。







もともとすそ野が広い自動車関連業界だが、自動運転時代の到来により、変化を求められる関連産業をはじめ、そこに新たな価値を見出す業界などその影響は多方面に及ぶものと思われる。

そこで、自動運転により変化が見込まれそうな業界を探り出し、その変化について推測してみた。

■メディア:自宅では味わえない新コンテンツ登場

新聞やテレビ、ラジオ、雑誌、近年ではインターネットメディアの進出が著しいメディア業界。自動運転が実現すると、インターネットメディアの派生型が登場する可能性が高い。

通勤などに自家用車を利用しているドライバーは、一日のうち数時間を車内で過ごす。この数時間が自由な移動時間となるため、ここに目を付けた自動運転向けのメディアが発達するはずだ。

フロントウィンドウ全面を活用した大型ディスプレイをはじめ、防音設備や車内の360度すべてがディスプレイとなる映画館のような特別仕様自動運転車が発売されるかもしれない。位置情報をもとに移動と連動した新たなコンテンツも生み出されるかもしれない。移動するプライベート空間としての特性を生かした新サービスの誕生が待ち遠しい。

現在、タブレットやデジタルサイネージを活用したタクシー向け広告の人気が上昇しており、広告業界やスポンサーからの注目度も高そうだ。スマートフォンのコンテンツのように課金制のサービスも受け入れられ、メディアの中でも一定のシェアを確立する可能性は極めて高い。

■決済(金融業):キャッシュレス決済がより身近に

昨今、LINE PayやPayPay、楽天ペイ、d払いなどさまざまなキャッシュレス決済サービスが各分野に進出しており、自動車関連分野では、タクシー配車など交通料金を中心にキャッシュレス化の波が押し寄せている。

こうした動きと連動するように、トヨタグループも動きを見せている。金融事業を手掛けるトヨタファインナンスは2018年10月、金融サービスプラットフォーマーのOrigamiと提携を結び、2019年度をめどにスマホ決済サービスの導入準備を進めることとしている。

今後、自動運転やコネクテッドサービスが本格化すると、安全性をはじめ快適性、娯楽性を追求するさまざまなサービスやビジネスの展開が予想される。特に、エンターテインメント分野は未知の可能性を持っており、運転から解放されたドライバーらへ音楽や映像、ゲームといったさまざまなコンテンツが高速・大容量通信によって提供されることになるだろう。

スマートフォンやパソコンのコンテンツで多くの決済機会が誕生したのと同様、自動運転車においても決済機会が大幅に増加し、既存のIT系決済サービスをはじめ、トヨタのように自動車メーカー自らがキャッシュレス決済サービスに本格着手する可能性も高そうだ。

また、その頃には銀行を含めた金融業界の形態そのものが大きく変わり始めることも考えられるだろう。

■警察:無人パトロールカーが防犯革命起こす

道路交通法の改正など自動運転を前提とした制度的課題の解決に力を入れる警察庁。しかし、自動運転の波は警察の業務そのものを変える可能性がある。

すでに実証段階に入っているのが、自動運転技術や遠隔運転技術を駆使して犯人を逮捕するオランダ警察の取り組みや、ドバイ警察の移動式交番などだ。オランダ警察の具体的な取り組みは不明だが、トヨタ自動車や独アウディ、米テスラなどの協力のもと実験が進んでいるようだ。一方のドバイ警察は、動く無人交番に交通違反などの罰金の決済機能も搭載される予定で、合わせて16のスマートサービスが提供されるという。

自動運転による無人パトロールカーが実現すれば、交通違反や各種犯罪の抑止力として大きな力を発揮しそうだ。プライバシー云々の問題は残りそうだが、搭載したカメラが「動く防犯カメラ」や「動くオービス」として機能すれば……と考えると、その絶大な効果は想像に難くないだろう。ただ、一般乗用車も多くが自動運転車となれば、そもそも交通違反や交通事故そのものが激減するため、警察内の交通課の役割も変遷していくことになりそうだ。

【参考】オランダ警察の取り組みについては「オランダ警察、自動運転パトカー導入へ実証実験 トヨタやテスラも協力か」も参照。ドバイ警察の取り組みについては「ドバイ警察、AI自動運転技術で街をパトロールする「動く無人交番」をお披露目」も参照。

■小売・飲食:無人店舗と自動運転の相性抜群

自動運転の実現は、さまざまな業種の可能性を広げる。無人コンビニや省人型コンビニなどの取り組みが加速しているが、こういった無人店舗と自動運転車両を組み合わせることで、移動無人店舗を運営することができる。無人化のノウハウと自動運転は相性が良く、さまざまな応用形態が生まれそうだ。

こうした自動運転車の柔軟な活用方法は、トヨタ自動車がCES 2018で発表したe-Palette(イーパレット)に代表されるように各自動車メーカーがコンセプトモデルを発表しており、各社ともこうした需要を見越した研究開発体制を整えているようだ。

また、無人化により大きくシェアを広げそうなのが、デリバリーサービスだ。外食・中食市場情報サービスを提供するエヌピーディー・ジャパンによると、外食産業のデリバリー市場規模は近年急速に伸びており、2016年6月~2017年5月計の市場規模は前年比11%増の4039億円となっている。

車両代などイニシャルコストはかかるが、人件費を大幅に削減できるため、自動運転車を導入する事例が相次ぐものと考えられる。デリバリーシェア事業なども本格化しそうだ。

■ソフトウェア:車製造の中心がソフトウェア開発に

自動運転の普及とともに大きく需要を伸ばすのが、ソフトウェア開発だ。自動運転では、カメラやLiDAR(ライダー)といったセンサー類やAI(人工知能)などが検知、解析、制御を担う。従来、ドライバーが行っていたコントロールをすべてソフトウェアに置き換えるようなもので、車両そのものが電動化・電子化され、ダイナミックマップや通信設備なども含め、使用されるソフトウェアの数は膨大に膨れ上がる。

NEDOが2016年に開催したセミナー資料によると、組み込みソフトウェアに関係する製品の市場規模は第4次産業革命のもと増加傾向が続いており、2014年の世界市場規模は1兆1352億円の状況。これが、2030年には1兆9903億円に達すると予測している。分野別では、車載分野が全体の約40%と最も高く、2014年の4613億円から、2030年予測では8088億円まで伸びると見込んでいる。

自動車産業内においても、ソフトウェアが占めるウェイトは格段に上がる。帝国データバンクが2019年3月に発表した最新の「トヨタ自動車グループ」下請企業調査によると、一次下請け・二次下請けともに非製造業部門の「受託開発ソフトウェア」が初めて業種別企業数で最多となっており、この傾向は今後さらに強まるものと思われる。

■自動車修理:ソフトウェアの比重高まる

車両を構成する重要要素が従来の部品からソフトウェアに移り代わる自動運転。当然、修理の中身も大きく質を変えることになる。

従来のメカニックな整備がなくなるわけではないが、コンピュータを用いたソフトウェア・プログラムの診断・解析のウェイトが高まるなど、整備士に求められる技術が多角化していく。

車検やリコール対応、ロードサービスなど、あらゆる場面でソフトウェアエンジニアが必要になるケースが想定されることになり、自動車整備・修理関連業に求められる人材も少しずつシフトしていくものと思われる。

また、ネット経由でプログラムなどを遠隔修理する技術も発達し、リコール対応やアップデートなどで活躍しそうだ。

【参考】関連記事としては「国土交通省、自動運転車両への対応で車検制度改正へ」も参照。

■自動車保険:事故激減で料金が大きく変わる

自動運転の実現とともに大きく中身が変わるのが、自動車保険だ。ドライバー不在の自動運転では、車両の所有者や自動運転技術開発者らが事故の際の責任を負うことになるケースが多くなりそうだ。

システムの故障やソフトウェアの欠陥、ハッキング被害、所有者の管理状態などさまざまなケースに応じて責任の所在も変わっていくほか、事故そのものの発生件数が低下するものと思われ、料金設定なども大きく変わる可能性がある。

国土交通省は2018年3月に発表した「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」の報告書ににおいて各ケースの検討結果を公表しているほか、保険業界もテレマティクス保険の実用化をはじめ、「CASE」「MaaS」に対応した商品の研究などを進めているようだ。

【参考】三井住友海上の取り組みについては「三井住友海上、CASEやMaaSへの対応強化で2つの新部署」も参照。

■タクシー:ライドシェアとタクシーが統合

自動車を用いた移動サービスの要であるタクシーは、大半が無人車両になるかもしれない。ドライバーによる従来のタクシーは、きめ細やかなサービスを提供するなど差別化を図って生き残る。ライドシェアも無人化されると、タクシーとの違いは車両の所有者が個人か法人かという点に収束する。車両自体も自動運転車ゆえ機能はそれほど変わらないものとなり、実質的にライドシェアとタクシーは統合される可能性が高そうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転タクシーの実現はいつから? 料金やサービスは?」も参照。

■土木・建設:自動運転導入で除排雪の負担大幅軽減

農業同様、土木や建設分野でも自動運転車の開発・採用が進むはずだ。小松製作所などが開発・実用化している自動運転ダンプトラックはもちろん、特殊な作業を担う建設機器も、ロボティクス技術の発達により自動化や遠隔操作するタイプの開発が進むものと思われる。

雪国では、除排雪車の自動化に注目が集まりそうだ。多額の予算と人的労力が重荷となっている除排雪事業だが、自動運転技術によりオペレーターの作業量が激減し、人件費を相当減らすことができる。自治体としても力を入れるべき分野の一つではないだろうか。

■【まとめ】社会を激変させる自動運転、新たなビジネスチャンスに

今回ピックアップした業界・業種以外にも、さまざまな変化が起こるものと思われる。パソコンや携帯電話、スマートフォンの登場・普及によって大きく社会が変化したのと同様、自動運転にはそれだけのポテンシャルが秘められている。むしろ、現在想像もつかないような変化が次々と発生する新たな時代が創造されるレベルだろう。

完全自動運転車の普及はまだまだ先の話だが、今から想像力を目いっぱい膨らませ、新たなビジネスチャンスの種をしっかりと育てておこう。

【参考】関連記事としては「AI自動運転やMaaS、ライドシェアなどの将来市場規模予測10選」も参照。







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