自動運転開発において重要視されるデータとして真っ先に思いつくのは何だろうか。各種センサーが収集する道路環境全般にわたるデータを頭に浮かべる方が多いと思われるが、では、安全性を確保するために重要なデータと言えば何を浮かべるか。
同様に外部センサー類のデータが多く挙がるものと思われるが、もう一つ重要なデータがある。車内における乗員のリアルタイムデータだ。自動運転の根幹を担う外部情報と、乗客などの状況を逐一データ化した内部情報を合わせることで、自動運転の「安全度」や「安心度」は飛躍的に向上する。
そのために自動運転車が把握すべき乗員のリアルタイムデータにはどのようなものがあるのか、いくつか例を挙げてみよう。
記事の目次
■乗員数や重量を把握して加減速を制御
自動運転バスやタクシーなどにも、当然「定員」が定まっている。定員を上回る乗客が乗ろうとした際、それを見極めてしっかりと制限するシステムは必須の装備となる。
定員数に影響する大人や子どもの種別のほか、総重量なども割り出し、重量によってアクセルやブレーキの制御具合を柔軟に変更するシステムなども安全性を高めるうえで重宝されそうだ。
■乗員が車内で立っているときは加速や減速を和らげる
路線バスなどにおいて、乗車したお年寄りが席に座るのを待ってバスを発車させる光景はよく目にする。混雑する通勤通学時間など立ち乗りを余儀なくされるケースもあるが、急発進や急ブレーキによって乗客の危険性が高まるのは言うまでもないことだろう。
これは自動運転バスにおいても同様で、ドライバーや車掌に代わって乗客の安全を確保する措置を講じなければならない。
こうしたケースで役立つのが車内監視システムで、車内カメラなどの情報をもとにAIが乗客の状態を把握し、立っている客がいる際はより加減速やハンドルワークを和らげるシステムが重宝される。
■乗員の行動を把握して加速や減速を和らげる
自動運転車がより安全な運転を行うのは、乗客が立っているときに限った話ではない。座って食事をとっている場合やノートに書きこんでいる場合など、極力揺れを抑えた運転が求められるケースはいろいろと想定される。
こうした乗客の行動を細かく分析し、行動に合わせてリアルタイムで加減速などを制御するシステムが求められそうだ。
■一定時間動かなかったら声掛けをして応答が無ければ緊急通報
自動運転バスやタクシー、個人所有の自動運転車をはじめ、現行のADAS(先進運転支援システム)においても積極的に導入してもらいたいのが、緊急通報システムだ。
コネクテッドサービスの一つとして緊急通報システムはすでに実用化されているが、これは事故時に対応したもの。独アウディのA8など自動運転レベル3においては、ドライバーの状況を監視し、反応がない場合に車両を自動停止して緊急通報するシステムが搭載されているが、このシステムは基本的にドライバーの居眠りなどに対応したものだ。
完全自動運転においては、車内で睡眠をとることも普通に想定されるが、監視システムが乗客の状態を見極め、睡眠をとっているのか意識を失っているのかを判断する機能があると重宝される。
音声による声掛けをはじめ、体や頭、顔といった表面的な情報、さらには体温や脈拍といったさまざまなデータをもとに判別し、場合によっては緊急通報するシステムや、病院データベースなどから直接受け入れ可能な病院へ連絡し、直送するシステムなどがあると安全性をより高めることが可能になる。
【参考】ドライバーモニタリングシステムについては「自動運転化で需要爆増!PUX、運転手監視ソフトのライセンス提供開始へ」も参照。
■目線を検知して見ている先の店舗の情報を音声で紹介
安全安心とは異なるが、ドライバーモニタリングシステムの応用例として、乗員の目線をもとにその先にある店舗を検知し、その店舗に関する情報を音声などで案内するシステムが誕生すると、自動運転の利便性がぐっと高まりそうだ。
また、例えば「喫茶店」など指定した情報に対し、ヘッドアップディスプレイやAR(拡張現実)技術などを活用して実際の景色の中にその情報を融合させて表示・案内するシステムなども将来登場しそうだ。
■【まとめ】無人化に必須のデータ化 リアルタイムで状況把握
自動運転においては、自動運転システムを構成する外部センサーなどのデータとは別に、乗員の数や状態といったリアルタイムな状況を細かくデータ化し、AIや遠隔監視システムなどによって逐一判断・指示を出す仕組みがあってはじめて安全が担保される。
こうした機能はADASとして徐々に実用化が始まっており、現行車両においても非常に有用な安全システムだが、完全自動運転においては必須となるシステムで、さらなる応用の余地がある成長分野だろう。
その前提として、さまざまな社内情報をデータ化する必要が生じる。刻々と変わる状況において従来人間が担っていたタスクを無人化するためには、可能な限り置かれた状況をリアルタイムでデータ化し、分析することが必須となるのだ。
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