自動運転の特許総合力、トヨタが世界首位!先行するGoogleは「4位止まり」

Woven Cityとともに大きく動き出す?



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

特許分析を手掛けるパテント・リザルトは2025年1月、自動運転関連技術に関する世界での特許総合力を示す「グローバルスコア」の企業ランキングを集計・発表した。

集計結果によると、有効特許件数が抜きんでているトヨタが総合1位で、新興勢ではGoogle系Waymoの4位が最高となった。


実用化面で先行するWaymoに対し、特許面ではトヨタが大きくリードする格好となっているが、この特許分野での序列は今後どのように業界に影響を及ぼしていくことになるのか。特許面を含め各社の取り組みを追っていこう。

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■パテント・リザルトによる調査結果の概要

特許総合力1位はトヨタ、4位に新興Waymoがランクイン

パテント・リザルトは、自動運転関連技術のグローバルスコアの企業ランキングを、同社の特許分析ツール「Biz Cruncher」を用いて集計した。グローバルスコアは、日本、米国、欧州特許庁、中国の主要4国・地域の出願分についてパテントスコア(特許の注目度を偏差値化した指標)を合算し、世界での技術競争力を評価したものという。

その結果、特許総合力で1位トヨタ、2位フォード、3位ホンダ、4位Waymo、5位日産――の順となった。日本勢の健闘が際立っている。6位以下はGM、ボッシュなどがランクインしているという。

出典:パテント・リザルト公式サイト(※クリックorタップすると拡大できます)

パテント・リザルトによると、トヨタの有効特許数は1万5件で個別力(最高スコア)93.0、総合力は3万4,822と評価された。日本、米国、中国特許の寄与が大きく、注目度の高い特許として、「電気自動車の充電計画を時間帯別に最適化し、高効率配車を実現する充電効率管理付き配車システム」や「障害物を避けるための回避経路設定と効率的な車線変更制御を行う自動運転支援システム」などを挙げている。


出典:パテント・リザルト公式サイト(※クリックorタップすると拡大できます)

フォードは有効特許数3,843件、個別力98.2、総合力2万7,233と評価された。米国、中国特許の寄与が大きく、中国特許におけるランキングでは1位となっている。注目度の高い特許には、「車両の車線位置を検知し、運転者または自動運転システムに通知するための車両両側のカメラ映像を用いたニューラルネットワーク技術」や「車載センサーデータと周辺車両からの情報を活用してリスク評価を行い、リスク低減アクションを自動的に実行する車両用の運転支援システム」が挙げられている。

3位のホンダは有効特許数4,428件、個別力93.0、総合力1万7,766と評価された。日本、中国、米国特許の寄与が大きく、注目度の高い特許として「運転乗合アプリケーションのための効率的な配車運用を実現するライドシェア管理装置」や「異常検知に基づき車両の制御内容を変更する車両制御装置」が挙げられている。

4位にランクインした新興勢のWaymoは、有効特許数1,760件、個別力97.0、総合力1万5,514で、「自律走行車が円滑に乗客をピックアップするための方法を提供する技術」など、5位の日産は有効特許数2,369件、個別力93.9、総合力1万4,087で、「駐車スペースの存在をディスプレイ上に表示することで運転手に知らせる車両用の駐車支援システム」が注目度の高い特許として挙げられている。

出典:パテント・リザルト公式サイト(※クリックorタップすると拡大できます)

特許は研究開発活動の成果を示す?

日本勢の健闘が目立つが、意外と近い将来の自動車市場のシェアに反映されていくのかもしれない。レベル3レベル4が珍しい存在ではなくなるだろう10年後、フォルクスワーゲングループが落ち込み、フォードが躍進する――といった感じだ。


特許の内容によるが、総体として先端技術の開発に力を入れている証左と見れば、これら研究の成果が将来生きてくるのは間違いない。知的財産におけるランキングが、近い将来の業界地図にどのように反映されていくか必見だ。

■各社の取り組み

トヨタ:Woven City始動で自動運転開発が本格化?

トヨタが発表したWoven City計画=出典:トヨタプレスリリース

統合報告書2023によると、トヨタは国内外で年間約1万4,000件の特許を出願しており、約1万1,000件の特許を登録しているという。世界の自動車メーカーの中で最多の数字を誇る。

その多くはエンジンやボディなどに係る車両技術だが、自動運転をはじめとするCASE関連技術が占める割合も徐々に増している状況だ。

自家用車市場においては、普及型予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」を中心にADAS機能の標準搭載化を推進している。

また、一部車種においては、高度運転支援技術「Toyota Teammate/Lexus Teammate」の新機能として「Advanced Drive」を搭載し、ハンズオフ運転を可能にしている。

自動運転関連では、2018年に発表したモビリティサービス専用の自動運転EV「e-Palette」が目玉となっている。東京五輪の選手村で導入されるなど実証事例はあるものの、発表からの7年間のスパンで見ると、その活用は積極的とは言えない。

ただ、2025年に自動運転の実証都市「Woven City」が稼働開始予定で、これを節目に取り組みが大きく加速し始める可能性が高い。2020年代後半に向け、トヨタがどのように動き出すか要注目だ。

【参考】トヨタの特許については「トヨタの自動運転特許、10年で3%→5%の微増にとどまる」も参照。

【参考】トヨタの自動運転戦略については「トヨタの自動運転戦略 車種や機能の名前は?レベル2・レベル3は可能?」も参照。

フォード:現在はレベル2+とレベル3に注力

フォードは、自家用車市場においてはハンズオフ機能「BlueCruise」を5車種で展開している。北米13万マイル(約21万キロ)に及ぶ高速道路を網羅しており、ハンズオフ状態による車線変更も可能としている。

自動運転関連では、フォルクスワーゲンとともにスタートアップArgo AIに巨額出資し、レベル4サービス実現に向けた取り組みを進めていたが、計画が遅れていることなどを理由に2022年に投資を引き上げた。

フォードはもともとレベル3開発に消極的で、レベル4開発に注力する戦略を採用していたが、Argo AIから手を引いた際、「レベル4の将来については楽観的だが、収益性の高い完全自動運転車を大規模に開発するのはまだ先のことであり、自分たちがその技術を作り出すとは限らない」としている。

レベル4の実現には多大な時間とコストが必要であることを再認識したようで、現在は「レベル2+とレベル3アプリケーションの開発が必要不可欠」と自家用車市場重視の姿勢を打ち出している。

なお、Argo AIのエンジニアの多くを自社の開発部門に吸収しており、自社に新しい風を取り入れたことで特許に結びつく先端技術開発が加速している可能性もありそうだ。

【参考】フォードの戦略については「自動運転業界、誰も予想してなかった「Argo AI閉鎖」の背景」も参照。

ホンダ:GM・Cruise勢撤退で自動運転タクシー計画が宙ぶらりに?

ホンダが発売したレベル3乗用車「新型LEGEND」=出典:ホンダプレスリリース

ホンダは自家用車において、世界初となるレベル3技術「Traffic Jam Pilot」を2021年に実用化した。限定リース販売した新型レジェンドへの搭載に留まったが、高速道路渋滞時における条件付き自動運転を世界に先駆けて実現した功績は大きい。

レベル4に向けては、GM、Cruise勢と手を組み、2026年初頭に東京都内で自動運転タクシーを実用化する計画を発表している。

ただ、Cruiseの自動運転タクシーがサンフランシスコで人身事故を起こし、2023年後半から米国での事業は事実上ストップしている。資金繰りの問題も積み重なってGMは2024年12月、同事業からの撤退を正式表明した。

この影響を受け、ホンダはどのような道をたどるのか。単独で自動運転タクシー事業を進めていくのか、あるいは新たなパートナーと新たな展開を目指すのか、それとも諦めるのか……。今後の動向に要注目だ。

Waymo:自動運転業界のリーディングランナー

Google系Waymoが展開している自動運転タクシー=出典:Waymo公式ブログ

自動運転開発競争の火付け役であるグーグル。その開発プロジェクトを引き継ぐ形で誕生したのがWaymoだ。

2018年に世界で初めてアリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーサービスを開始し、現在カリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルスの3市で事業を展開している。

2025年初頭にはテキサス州オースティンとジョージア州アトランタ、2026年にフロリダ州マイアミへの拡大も計画しているほか、日本交通・GOと手を組み、2025年中に日本国内での実証も開始する。Waymo初の海外事業は日本となる可能性が高い。

同社の「WaymoDriver」は、LiDARをはじめとした各種センサーや高精度3次元地図を用いた王道タイプの自動運転システムで、一定エリア内における無人走行を実現している。週10万回を超える配車を提供しており、実績も図抜けている。

台数、走行エリアの拡大とともにトラブル事案も増加傾向にあるが、未だ死亡事故はなく、大事故を引き起こしたという報告も特に耳にしない。

今後、世界展開などサービス拡大をどのような戦略で推し進めていくのか。自動運転タクシー以外の事業展開含め、引き続き世界の注目を集めることになりそうだ。

日産:ホンダとの経営統合議論がまず先か

出典:日産プレスリリース

日産は、ProPILOT2.0の実装で国内メーカーの中でいち早くハンズオフ機能を実現した。レベル4に関する取り組みも、次世代交通サービスを意識した「イージーライド(Easy Ride)」で早くから取り組んでいた。

最新の計画では、2027年度を目途に地方を含む3~4市町村で車両数十台規模のサービス提供開始を目指す方針を発表している。

ただ、経営上の問題から現在ホンダと経営統合に向けた協議が進められている。三菱自動車を含め3社はすでにSDV領域などで協業の準備を進めているが、経営統合でどのような相乗効果を発揮することができるかは不透明な状況だ。

しかし、業界におけるインパクトは非常に大きなものとなる。仮に統合が実現した場合、各社が進めてきた自動運転関連の取り組みはどうなるのか。引き続き各ブランド個別の取り組みとなるのか、こうした面でも統合を図っていくことになるのか。業界の動向に要注目だ。

■【まとめ】Woven Cityとともにトヨタの飛躍に期待

自動運転実用化で大きく先行するWaymoを特許総合力ではトヨタが抑えた感じだ。知的財産に対する意識の違いもあるだろうが、10年後にこうした研究開発の成果が大きな花を咲かせるかもしれない。

Woven City始動とともにトヨタの自動運転戦略は大きく動き出すことになるのか。各社の動向に引き続き注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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